死者の国の魔女
この章は本編でもちょくちょく登場している赤羽利子が主人公です
大学を目指す彼女ですが、事件に巻き込まれることで自分のルーツを知ると同時に運命の人に出会う切っ掛けができます
この章は彼女が大学に到着することで終了となります
港湾都市国家「サマサ」
瘴気消滅を見越した世界の2大強国から支援を受け、サマサは急成長を続けていた。海の港だけでなく飛行艦用の空港も拡大し、各国の大都市と航空路が繋がったことで飛行艦発着数は世界有数の規模となる。
発展著しいサマサだが、発展のスピードにインフラ整備が追い付いていないのが現状であり、新しい空港が完成するまでは既存の空港をフル活用せざるを得ず、過密スケジュールの中、24時間体制で飛行艦の発着が行われていた。
貨物専用輸送艦「ノーストロモ号」は5時間遅れでサマサを飛び立ち、スーノルド国行きの航路に入る。
8人の乗員にとって、国境を越えるという行為は特別なものではなく、毎日のように行われる業務である。しかし、積み荷に紛れてスーノルド国を目指す「死者の国の魔女」にとっては特別な意味を持っていた。
「えーと、飛んでから40分経過、あっさり国境越えられちゃった。」
魔獣と魔物の檻が所狭しと置かれている貨物室で、魔女は越境が成功したことを確認したが、あまりにもあっけなかったため実感がわかない。
「到着まで2、3日かかるみたいだけど、暇だな。ご飯はモンスターペレットしか出てこないだろうし、トイレは最悪。はぁ、旅客機の小百合さんとセシリア教授は美味しい物を食べてるんだろうな・・・」
魔女は連れが人間扱いされて旅客機で移動しているのに対し、自分だけ危険生物を輸送する貨物機に貨物として乗っている事に不満を持っていた。「魔族は帰国しか許されない」という法がサマサにある以上、避けては通れない事だと理解していたが、この扱いはあまりにも酷いのではないだろうか?
サマサを出発して1日後
「ん~、限界! 外出たい。」
僅か1日で魔女は檻の中の生活に音を上げる。彼女が入れられた檻がコンテナタイプでなければ少しは持ったかもしれないが、狭い檻に閉じ込められて外と遮断された状態は苦痛でしかなかった。
最高級封魔檻から脱出するために魔女が無駄な努力をしている時、ノーストロモ号の進路上に6機の人機が密かに配備されていた。その人機は全て使い古された機体であり、装備はバラバラで中には腕や頭の無い物やコクピットが完全に剥き出しの機体まである。
「兄弟よ! 待ちに待った時が来た。さぁ、収穫の時だ。」
ならず者達はノーストロモ号の進路上にある山脈で待ち伏せし、獲物が射程に入ると同時に一斉射撃を始める。
「ヒャッハー! 」
バババババババババ・・・
山頂や山腹から光弾が発射され、艦の至る所に命中して破損した魔導回路が爆発を起こす。パイロットは急旋回急上昇で回避行動に移るが、直後にコクピットが被弾してノーストロモ号は操作不能に陥るのだった。
煙を上げて高度を落とす飛行艦を見て、ならず者達は皆笑みを浮かべる。一体、何か月ぶりの真面な獲物だろうか? 先ずは食料と酒、次に積荷、生き残りがいれば身代金も請求できるし、女がいれば何日か楽しめる・・・
「飛行艦食いは止められねぇな。」
ならず者達は勝ち誇ったように雄たけびを上げながら、飛行艦の墜落地点へ我先にと急行するのだった。
死者の国の魔女はパンガイア大陸に上陸して数日で苛烈な洗礼を受けることになる。




