ランページ・リュクス
戦争、貧困、格差、世界の至る所で人々は様々なストレスを抱えている。
立場によって愚痴を話すことが出来ない人物は、限られたチャンスを有効活用しながら日頃のストレスを発散するのだが、バーベキューの残り物を漁りながら酒を豪快に飲む2人は、互いの立場とは関係なく腹にため込んだ毒を吐き続けていた。
酒の回ったイビーとリュクスは互いの組織に対して危険な愚痴を言い合う。
「最近の自由同盟は玉無しばかりが名を連ねている。だから、他国から舐められるんだ! 」
「そいつは今に始まった事じゃない、あれは・・・」
その昔
リュクスが城を手に入れた時、帝国議会は帝国中で暴れ回る盗賊騎士に対して最も重い罰を与えることを決定する。その罰とは全ての権限を無効とし、全財産没収という最も重いものだった。
「全会一致とは珍しい。」
「これで、あのエルフも終いじゃ。」
「当然の報いだ。」
「慌てふためく姿が思い浮かぶわい。」
帝国議会議員達は多方面から送られてくる被害と苦情にやっと動いた形であり、リュクスの行いに対するこの処罰は「妥当」な判断である。
決定された処罰はこれ以上の被害拡大を防ぐため、次の日にはリュクスへ伝えられることとなり、使者がリュクスの城に乗り込んできていた。
「・・・全財産は帝国へ返還。また、裁判に出廷するように。」
「分かったと伝えてくれ。」
帝国からの使者を軽くあしらったリュクスは、窓から使者が去っていく姿を見届けていた。
「お頭! 抗議しなくてもいいんですか! 」
「そうですよ! 」
後ろから一部始終を見ていた部下達が声を上げるが、リュクスは全く気にしていなかった。
「辺境の森を荒らした者は見つかったのだろう? 」
「へ? は、はい。ノルン枢機卿の領民と判明しましたが、騎士の権限を剥奪されては・・・」
アーノルド帝国議会
帝国議会は毎日多くの審議が行われており、終わった審議を再度行う事は一部の例外を除いてない。
「次の議題であるが・・・盗賊騎士がまた狼藉を働いていおる。」
議長の手元には、急遽差し替えられた議題があり、事前情報を持たない議員達にどよめきが起きる。
「命令がまだ届いていないのですか? 」
「それが、命令を受けた当日に攻撃を行っている。」
議長は神妙な面持ちで判明している情報を伝えるが、議員達は重要案件そっちのけで対応策を話始めていた。帝国議会の決定を聞いたにもかかわらず行われた蛮行は、議員達の怒りに火をつけたのだ。
議員達が対策を話し合っていると、議長の下へ続報が届けられる。
「何と! 」
報告は被害状況とノルン枢機卿の対応が伝えられたのだが、内容を聞いた議員から驚きの声が上がる。リュクスは自力救済として、ノルン領に通る帝国の大街道に設けられた関所と税関を占拠し、勝手に通行料と関税を徴収し始め、自力でリュクス達を排除出来ないと悟ったノルン枢機卿は、自力救済を認め謝罪と賠償を行ったとのことだった。
帝国議会ではリュクスの権限を剥奪したものの、教会は騎士として扱ってしまったのである。
リュクスが発生させた度重なる甚大な被害に、帝国議会と女神教会は互いの関係を見直して共同で盗賊騎士への対応を行うこととなり、その結果、リュクスは教会から破門を言い渡されるのであった。
「至上主義者のトップ連中は今の地位を手に入れるために権力と力に媚び売ってきたのさ。」
「ノルン・・・物事の対応が早いのは昔からか。それにしても、騎士が破門されたらお終いだが、お前はどうしたんだ? 」
「気にしなかったさ、俺はそもそも女神教なんて信じていない。」
「つまり、騎士として居座った訳か。お前はブレないな。」
イビーは普通の人間が思いつかない考えを本当に実行してしまうリュクスに感心する。ここまで豪快に行動できる人間はそうはいない。しかし、リュクスには大きな後ろ盾があり、十分な勝算があったからこそできた行動である事を、イビーは知ることになる。
帝国議会の騎士剥奪決議、教会からの破門、誰が見ても騎士として終わったと判断するだろう。しかし、ある理由からリュクスは騎士としての身分を行使し続け、城も失わなかった。
ある日、リュクスの城に急な来訪者が訪れる・・・その者達はローブを着た異様な人間達であり、護衛の制止をものともせずリュクスの部屋へ入ってきた。
「久しいな。」
ローブの男はリュクスの前に来るなり声を発し、その声を聞いたリュクスは男の前で膝をつく。
「お久しぶりです、皇帝陛下。」
リュクの言葉に、周囲にいる部下達も慌てて膝をつく。世代交代したとはいえ、主と皇帝の関係を知らない盗賊上がりの者達にとって、今回の皇帝訪問は青天の霹靂だっただろう。
時の皇帝が人目を忍んでリュクスの元へ来たのには深刻な理由があった。
「最近は自由に外出も出来ぬ程、治安が悪化している。国中が不安定になっておるのだ。」
皇帝は独自の調査組織を有しており、帝国中から様々な情報を収集している。それらの情報を分析した結果、1つの結論に行き着いていた。
「内乱を扇動しようとしている者が暗躍している・・・」
リュクスとしては皇帝の考えすぎのように思えたのだが、最近は農民一揆や野盗が増えていたため治安の悪化は自覚していた。
「そこで、お前にはノースガーデンへ行き、現地のエルフ共を調査してほしい。」
ノースガーデンと聞いて頭に思い浮かぶのはエルフの国家である。この世界で最も古い人間であるエルフ族は大陸中に分布していたが、凶暴な種族の出現に伴って生息域を狭めていき、アーノルド帝国領では北東の限られた僻地まで追いやられたことで、多くの部族が合流して国を作り、帝国に参加していた。それがアーノルド帝国唯一のエルフ国家「ノースガーデン」である。
「適材適所と言う事ですね、かしこまりました。直ちに兵をまとめて出発いたします。」
皇帝の依頼に即答したが、はっきり言ってエルフは苦手であり、彼等を良く思ってもいない。そのため、ノースガーデンだけは手を出していないかった。
「参ったな。かなりめんどくさい事になった・・・それと、いい加減「お前」呼ばわりは止めてほしいぜ。」
リュクスは自身に対する皇帝の考えを肌で感じており、種族を問わず働きを評価する現在の皇帝に好感を持っていた。リュクスだけでなく、ノルド人の多くも「この皇帝なら何処までもついていける」と感じることが出来る快傑である。
「半年の期間を与える、それまでに成し遂げよ。それと、1回くらいは裁判に出たらどうだ? 」
皇帝は「エルフの方は任せる」といった感じで城を後にしていった。
「噂には聞いていたが、昔の皇帝は影で命令を出していたのか・・・」
「俺が知る限り歴代の皇帝は何かしら裏で動いていたぞ。」
歴代の皇帝に仕え、現在は首都防衛隊と軍に身分を置いている者が言ってよい発言ではない。
「ところで、エルフを目の敵のように扱っているが、何かあったのか? 」
イビーが疑問に思うのも無理はないが、リュクスにとってエルフ族は人体構造がよく似た種族でありながら文化や風習が全く異なる存在であり、ユグドラシルの人間を崇める厄介者であった。
「あいつらが蔓延っているせいで俺達がエルフ扱いされるんだ。当然だろ。」
リュクスは答えるが、当時の自分がエルフを毛嫌いしている理由は他にもあり、この場でも言えない事である。
「・・・以上がノースガーデンの情報ですが、本当に正面から行くのですか? 」
部下からノースガーデンの調査結果を伝えられたリュクスは、王城へ直接乗り込む作戦を考える。部下からは無謀と言われているが、魔法に依存している原住民に負ける気はない。
リュクスは魔法に関して、それ程得意ではない。フィロスのように大規模場法を扱えるわけではなく、ゼーリブのように多種多様の魔法を使うことも出来ない。だが、ユグドラシルの基礎魔法学を習っていれば、この世界の住人が使う魔法など子供の遊びレベルなのだ。
部下は魔法に長けたエルフへの襲撃に不安を感じているようだが、魔法しか取り柄の無い奴らなど俺にとってはソフトターゲットでしかない。
「城へは少数精鋭で行く、スペルフュージョン! 」
「はっ! 」
リュクスに呼ばれてローブに身を包んだ大男が前に現れる。彼はフリーファイトの息子であり、親譲りの体格と狡猾さを持ち合わせていたが、リュクスの存在が影響したのか魔導士となっていた。獣人で魔導士は種族特性から成り手がほとんどいないのだが、リュクスが暇なときに魔法の指導を行い、少ない保有魔力を装備品で補う事で周辺国でも指折りの実力者となっていた。
「お前は俺についてこい。エルフの狩り方を教えてやる。」
「仰せのままに。」
ノースガーデン王国
帝国北部には多くの鉱山があるものの、極寒の環境のため長い間本格稼働できない状態であった。しかし、ノースガーデンが国として本格的に機能してからは北部の開発拠点として大きな役割を果たし、北方開発躍進の起爆剤となっていた。
王都グリーンカーテンは帝国で北方に位置するにもかかわらず豊富な森林におおわれた緑豊かな土地である。この地は気温が温かく、四季があり、周辺とは異なった環境が人為的に作られていた。
争いを好まないエルフ族はノルド族の広がりに追われる形で辺境に移り住み、これ以上の逃げ場がない状態となってようやく各部族が合流して国を形成し、自らの土地の主張を行った。
強い団結力を見せたエルフ達はアーノルド帝国に強者と認めさせて帝国に迎え入れられる。しかし、建国当時のノースガーデンはエルフにとっても厳しい土地のため、彼等は各部族が秘匿とする高度魔法と大精霊との交渉によって辛うじて国を維持できているに過ぎなかった。
多くの部族が団結したにもかかわらず、国の維持だけでもギリギリだったエルフ達は彼等の伝承にある「始祖エルフ」に助力を乞うべく、大規模な捜索を決定する。始祖エルフとはハイエルフの事であり、強大な魔力と知識によって幾度となくエルフを救った救世主であり、彼等はその強大な力故に狙われることも多く、人間が立ち寄れない地にひっそりと暮らしていた。
多くの者が過酷な捜索を覚悟している中、建国前から辺境に住むエルフ達が国の窮地を救うべく名乗りを上げる。王国は捜索の人手が足りない状況で、この申し出は有難いものだったが、王族と各部族の長が集結した国運を賭けた会議に現れたのは、ハイエルフの集団だった。
ノースガーデンが大きく発展したのは辺境に住んでいたハイエルフの協力があったからである。彼等は見たことも無い高度な魔法技術と魔法具を使用し、精霊とも頻繁に交渉することで王都の気候をエルフが住みやすい環境に造り替えたのだった。そして、数百年の年月が経過することで、広大な森、凍らない泉と川、多くの生命が活気に満ちる溢れる楽園が出来上がっていた。
グリーンカーテン、聖域
王都の広大な森林の奥には聖域と呼ばれる結界に囲まれた空間がある。
「今日も異常なし。」
ティナ・マーシュは日課の点検を終えて聖域から出てくる。彼女は国王の一人娘であり、中々跡取りが出来なかった王がやっと授かった待望の第一子である。
ティナが聖域で行っていたのは王族に与えられた日課の「環境維持装置」の点検であり、始祖エルフが王族のみに点検と維持方法を伝え、聖域への進入許可を与えていた。
「お疲れ様です。」
聖域から出て来たティナを侍従兼護衛のセリスが出迎える。彼女はエルフ族にしては珍しい武家の生まれで、ティナと同年代の幼馴染でもある。
出生率の低いエルフ族において、気の知れた優秀な部下は貴重な存在であり、余程の事が無い限りティナとセリスの関係が変わることはない。
「セリス、今日の夜も護衛をお願いできるかしら? 」
「! またメル様とお会いになるのですか? 」
最近、ティナからよく「お願い」される逢引の護衛に、セリスは困っていた。2人は公認の関係であるものの、こう頻繁に密会されては護衛にとって大きな負担となっていたのだ。
「今日は大事な話があるみたいなの。」
「承知いたしました。」
「早く結婚してしまえばいいのに」と言った心の声をセリスは飲み込んでティナに答える。お願いを聞いてもらえたティナは上機嫌で城まで歩いていくのであった。
グリーンカーテン郊外の森
スノーガーデンの監視網に一切捕捉されることなく、3機の人機と20人余りの装甲歩兵が陣地を構築していた。
「すげぇ、本当に見つからなかった。」
「外は吹雪なのに、ここは別世界だ。」
リュクスの部下達は初めて訪れるエルフの国に緊張しつつも、城主の常識外れな「ステルス魔法」と吹雪の中でも問題なく行動できた「環境操作魔法」に興奮していた。
「城まで行くのは俺とスペルフュージョン、後4人だ。それ以外はここを守れ。俺達から合図があったら突入しろ。」
「おうっ! 」
リュクスの簡単な説明に部下達は気合を入れてそれぞれの準備に取り掛かる。荷台の木箱からクリードマシンガン等の武装を取り出し、人機の肩には光子弾ランチャーを手早く装備していく。
リュクス達は皇帝から反乱扇動の疑いを賭けられたスノーガーデンをギリギリまで調べていたが、潜入調査のプロではないので何の証拠も見つけられなかった。最後に残された調査手段は「自分のやり方」であり「こっちが大きく動いて徹底的にあぶり出す」といった大雑把な作戦であった。
ここに歴史に残る狂宴の幕が上がろうとしていた・・・




