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とある転移国家日本国の決断 外伝  作者:
戦エルフの歴史
29/42

戦エルフ その3

 ノルド人の帝国が誕生して数世紀、アーノルドとスーノルドはいがみ合いながらも国境線が決まり、住み分けが出来るようになっていた。国境付近での大規模衝突は無くなり、互いの帝国が国家の基盤づくりを本格的に始めた頃、俺達3人は集落に呼ばれて密命を受けることとなる。

 その命令とは神竜教団の拠点を調査中に行方不明となった仲間の捜索であり、作戦の危険性から俺達に白羽の矢が立ったというわけだ。


またこの手の夢か・・・


 現地に着いた俺達は拠点の監視をしている仲間と合流して状況を確認する。教団の拠点は山脈にできた広大な洞窟内に設けられており、中は迷路のように入り組んでいるという。


「油断してこのザマか。」


「早く助けに行きましょう、時間が経てば生存率は下がる一方よ。」


「この地の精霊は協力的だけど、捕まった仲間の位置までは良く分からないらしい。でも、できるだけ協力してくれるって。」


 俺、フィロス、ゼーリブは、得られた情報から簡単な作戦を考えて拠点内へ侵入していくが、この時の俺達は戦闘に自信があり、よく考えないで行動することが多くなっていた。この任務は今も忘れることができない任務で、あらゆる事態を想定して慎重になれ、という教訓を俺達にもたらすことになる。


「右側ニ人機1、歩兵4人、迂回路ハ左ヲ進ンデ3ツ目ノ丁字路ヲ右・・・」


「助かります。」


 ゼーリブは協力してくれる精霊に感謝の言葉を伝える。俺達は戦場の情報を精霊や妖精から事細かに得ることができ、場合によっては戦闘で力を貸してもらうことも出来る。その地に住まう精霊の協力を得られれば、天然の要塞ともいえる洞窟拠点などで敵に遭遇することなく最深部へ向かう事も可能だった。

 この時、俺達の馬鹿さ加減は異常だったな。ユグドラシルから文明レベルの低い世界に放り出されて、自分達もそのレベルに落ちていたのかもしれない。俺達は同じことが可能な仲間が何故捕まったか深く考えていなかった。


神竜教団拠点の最深部


 俺達は教団の警備に1度も見つからず最深部へ到達することに成功し、捕まった仲間達を発見する。


「ココガ最深部デス、ヨウコソ我ガ聖地へ! 」


 俺達を案内した精霊は、仲間を幾つものパーツに分解して作成された祭壇の前で両手を広げる。


「ゼーリブ、フィロス、」


「・・・」


「えぇ。」


 精霊が神竜教団の教祖をしているなんて、全くもって盲点だった。ユグドラシルでは精霊や妖精は友人であり、師であり、仲間である。理不尽な暴力が支配するこの世界でも、それは変わらないと思い込んでいた俺達は、強烈な1撃を喰らう事となる。


 危うく神竜の生贄にされるところだった俺達は、何とか精霊を倒すことに成功する。

 精霊にとどめを刺した後、祭壇にされた仲間の血を吸って成長していた木の魔物を焼こうとしてフィロスと口論になったが、彼女の熱意に押し負けて魔物を見逃していた。その魔物は今ではフィロスと同様に超兵器艦の艦長をしているが、俺は現在でも息の根を止めなかったことを後悔している。



現在、スーノルド国、スーノルド帝国大学、立ち入り禁止区域


 帝国大学は国籍、種族を問わず多くの学生や研究員が暮らしており、広大な敷地は都市といっても過言ではない。

 帝大は開かれた大学なのだが、その中心部には一般人の立ち入りが厳しく禁止されている地区がある。この地区こそユグドラシルの住民が住む地区であり、彼等が世界で唯一安心して暮らせる聖域となっていた。

 その立ち入り禁止区域の森で、1人の男がバーベキューの準備を進めていた。その男はノルド人の将校であり、軍を警戒する帝大やユグドラシルの住民からしてみれば、ここにいる事自体あり得ない人物だった。


 イビーは材料の下準備を済ませてリュクスの到着を待っていた。今回の会合はリュクスがイビーにある人物を紹介するために設けたもので、機密性の高い話題が上がる事から、帝大の立ち入り禁止区域が会場となった。

 紹介される相手はかなり有名な人物と言う事で、イビーは自身が用意した食材の再確認を行う。

 牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉、竜肉、問題なし。郷土料理の材料としてベーコンと生卵も準備万全だ。もちろん、エルフ用に野菜の準備も怠っていなかった。

 イビーの故郷に古くから伝わる郷土料理は、巻いたベーコンをフライパンに等間隔で並べていき、空いたスペースに生卵を落として焼きあげるものだが、野菜が必要と判断したイビーは大学の購買で購入したスナック菓子を、焼く前に粉々にして振りかけるアレンジレシピで作ろうと考えていた。この菓子はジャガイモを薄くスライスして油で揚げ、塩コショウで味付けしただけの、定番菓子である。


「ここにサラダ油を加えれば、野菜不足とは言われないだろう。それにしても、相変わらず遅い。」


 開始予定時間から数分後、リュクスが2人の人物を連れて現れる。


「待たせたか? 」


「いや。」


「では紹介しよう、勇者ラーテとラーテリアだ。」


「イビー将軍、お初にお目にかかります。ラーテ家第31代当主のラーテと申します、隣は妹のラーテリアです。」


 最初に兄のラーテが自己紹介し独特な敬礼を行い、兄に紹介されたラーテリアも同じ敬礼を行う。

 今回も大物を連れて来たリュクスにイビーは呆れかえる。


「我々(ケルベロス)が入手した情報によると、ラーテ兄妹は死者の国へ先行投入される。」


「軍にも同じ情報がある。スーノルドの上層部は海中要塞で奇襲を仕掛けて一気に畳みかける作戦を打診してきた。」


 バーベキュー会場で肉を焼きながら、リュクスとイビーは2人の勇者にそれぞれの組織が得た極秘情報を伝える。


「次の戦場は預言にある死者の国ですか、相手にとって不足なし。」


「死者と言えど、動かなくなるまで破壊すればよいだけ・・」


 バーベキューをしながらの会合なので、場所、参加者、会話の内容以外は平和そのものである。


「イビー、ジアゾの新兵器情報を話してくれ。」


「 ? 」


 リュクスは文明が近いジアソの兵器を正確に伝えることで、ラーテ達に敵の輪郭を出来るだけ伝えておきたい考えがあった。


「陸戦主力兵器である戦車のТ8は10㎝以上の砲弾を撃てる主砲を搭載している。こいつは純粋な物理兵器だから魔法防御は意味を持たない。地上兵器としての威力は絶大で、貫通弾なら勇者の鎧も容易く貫通するだろう。次に軍艦だが・・・」


 次にイビーは軍艦の装備について解説し、レーダー連動砲がこちらの自動照準補正装置に近い性能を持っていることを伝える。


「死者の国相手の場合、自動照準補正装置が戦車に搭載されていても不思議ではない。捕捉されたら勇者だろうと即死だ。」


「そのようなモノ、素早く動き続ければ良いだけ・・・」


 ラーテリアは直ぐに対処法を口に出すが、実戦経験の浅い彼女には歴戦の戦士が何を一番警戒しているか分からなかった。そんな彼女を見てリュクスは視線をラーテに移し、無言の合図を送る。


「預言では死者の国は魔法のない世界から転移するとあるが、魔族も存在する矛盾した箇所がある。この点で研究所はまだ答えを出せていないが、魔法文明では理解できない未知の魔法を持っているというのが大方の予想だ。それと、あるお方から未知の敵に対する勇者へ伝言を預かっている。」


 リュクスは最前線へ投入される兄妹に魔法でも注意が必要な事を伝えて警戒を促し、最後にある人物からの伝言を伝えて会合は終了する。



ラーテ兄妹が帰って1時間後


 会合が終わり、リュクスとイビーの2人はバーベキューを続けながら個人的な会話を行っていた。


「流石勇者兄妹だ、1人当たり5キロは食ってる・・・それはそうと、お前がここまで他人を気遣うとは意外だが、これも過去の因縁か? 」


「あぁ、代々付き合いがあるんだ。」


 職場では絶対に見せない、くつろいだ表情でリュクスはラーテ一族との関係を話すのだが、豪快に酒を飲み、肉にかじりつくリュクスを見てイビーの違和感は大きくなる。この違和感こそノルド人至上主義者のイビーがリュクスと協力関係を築く根源となるものだった。

 この違和感は彼と初めて会った時から持ち始め、会うたびに大きくなっていく。至上主義者であるイビーの頭にはエルフの思考、種族としての欠点や欠陥が知識として入っており、実際の経験から使い辛い種族と判断していた。いくら戦エルフやハイエルフと言われようと、所詮エルフはエルフと考えていたイビーはリュクスの行動と考え方、立ち振る舞いを見て、幾度となく彼がエルフであることを忘れていた。


「ん? どうした。」


「立ち振る舞いといい、思想といい、貴様は本当にエルフなのか? 」


 イビーは前々から疑問に思っていたことを問う。世間一般では聞くこと自体愚かなのだが、イビーにはリュクス自身から答えが聞きたかった。


「はぁ? 俺は今まで自分をエルフと思ったことはない。」


 リュクスは呆れた声を出す。当然の反応にイビーは質問の撤回をしようとした瞬間、リュクスの言葉の意味を理解する。


「可笑しなことを言う、エルフではないのなら、貴様は一体何なのだ。」


「俺は人間(ヒト)だ、そんな原住民と一緒にするな。」


 リュクスの言葉は意外なものだったが、その理由をリュクスは愚痴のように話し出す。

 リュクスは転移現象に巻き込まれた世代であり、元居た世界を知る生き字引でもある。元の世界の人種は各浮遊大陸ごとに存在し、その全てはこの世界でいう所のハイエルフのみで構成されていた。

 リュクスの元居た世界にはエルフなどという種族は存在せず、ヒトが1種族存在しているのみだったのだ。それが転移により、ノルド人基準で勝手にリュクス達をエルフと呼んでいるだけだった。

 ジアゾ人が転移して来た時、最初はエルフの亜種として扱われたジアゾ人が、短期間でヒトに分類された事にリュクスは全く納得していないようで、愚痴のトーンを強める。


「基準の意味がわからん。だいたい女神教の・・・」


 その愚痴を聞きながら、イビーは違和感の正体に気付いてしまった。イビーはリュクスという人物にノルド人を見出していたのだった。

リュクスは自分の事をエルフではないと言ってますが、どう見ても変わり者のハイエルフです。


コロナの影響で2年連続BBQが出来ていないので、禁断症状が出始めました。

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