戦エルフ
ここから最強エルフが主人公となります
不定期で更新するため、中々話が進みませんが100年戦争終結の裏側まで書く予定です
アーノルド国、ニクセン空軍基地
首都防衛隊兼軍将校のリュクスは「密会」を終えても残り続け、ゼーリブのデスクで書類を作成していた。首都防衛隊や軍への根回し、各組織の協力者への指示や協力要請など、絶対の信頼を置ける秘書がティナしかいないリュクスの仕事量は半端な量ではない。
「まだ残っていたの? 」
密会参加メンバーの1人、フィロスがデスクに入ってくる。
「お前こそ、どうしたんだ。」
「新しい英雄君が可愛くてね、長話しちゃった。彼、堅物だけど貴方の昔の友達にそっくりね・・・まだ気にしているの? 」
考えが分かる彼女の前では嘘を言っても意味はない。
「過去の清算はしなければならない。勿論、お前にもな・・・」
「私は別に気にしてないんだけどな。あれは私が自分の責任でしたことだし、十分良い結果が出たじゃない。」
微笑むフィロスの顔をリュクスは見ることが出来なかった。彼は、彼女に500年経っても癒えない傷を負わせてしまっていた・・・
時は100年戦争末期、アーノルド帝国首都「オースガーデン」
世界を2分する大帝国、その帝都であるオースガーデンは100年戦争末期であっても世界最大の都市として君臨していた。
スーノルド帝国との戦争状態が長年続いてはいたものの、帝都は堅固な防御によって今まで敵国の攻撃を一切寄せ付けていない。これは、主戦場が大陸南部や東部に移っていたからであり、お互いに首都の守りに徹して国境線での大規模な戦闘が発生しづらくなっていたからである。
帝都に住む者達は家族や恋人、知り合いを戦地に送り出すことが日常と化しており、一向に終わる気配のない戦争の情報を、勝利報告しかしない軍や国営放送、新聞の代りに、ありのままの情報を提供する地下メディアに頼るようになっていた。
世界各地の情報源から情報を集め、あらゆる媒体で発信するのが地下メディアである。独自の情報網を駆使することで幾度も摘発を逃れて来た地下メディアだったが、世界を変える一大スクープは彼等ですら掴めていなかった。
その日、帝都の至る所で爆発音が響き、幹線道路は封鎖されるか激しい戦闘が行われていた。
異常事態に気付いた市民達は戦闘が行われている地域から避難するべく、建物から出てシェルターを目指したが、避難中の彼等は大混乱に陥ることになる。幹線道路と帝国の主要施設では、同じ国旗を背負った者同士が戦闘を行っていたのだった。
何も知らない者の目には大規模なクーデターが発生したと映っただろう。だが、この日は世界の命運をかけた戦いがアーノルド、スーノルド両帝国の帝都で行われていた・・・
「皇帝は倒された。繰り返す、皇帝は倒された。」
所々で戦闘の跡が生々しい帝国軍総司令部から世界各地へ皇帝の死亡が伝えられ、全軍に停戦命令が発せられる。
約1時間後、反乱軍に占拠された軍総司令部に、1人の人物が現れる。彼は皇帝の倒される瞬間を目の前で見て、最初に死亡を確認したロイヤルガードであった。
「オースガーデンの要地はガルマンの私兵が押さえた。各地の状況はどうだ? 」
「いざこざが続いていますが、南部戦線と東部戦線の戦闘は止まりました。」
「敵海軍主力、後退を開始。更に雷鳥の群れも進路を変えました。」
皇帝陛下を然るべき場所に移動させたリュクスは、各地の状況報告を通信士から受ける。「破滅的な戦争を回避するための作戦」は皇帝陛下の死亡という最悪の状況で進んでいた。
「スーノルド側も皇帝が倒れ、オドレメジャーを掌握したとの連絡を受けている。軍の状況は? 」
「一部の雷鳥部隊が命令を無視! オドレメジャーへ向かっています。」
「本国艦隊から通信「我等に命令が出来るのは皇帝陛下のみ。反乱軍は武装を解除し投降せよ。我が艦隊到着まで返答なき場合、艦砲にて殲滅す。」とのこと、どういたしますか? 」
「愚か者共め・・・」
リュクスは皇帝を確保し、帝国軍を押さえる重要な役割を担っていた。当初から軍の掌握は困難と予想されていたが、皇帝陛下さえ確保すれば何とかなると考えていたリュクスは、皇帝陛下の死という最悪の展開に、事態収拾へ向けた次の一手を打たなければならなかった。
「雷鳥部隊にもう一度通信だ、どんな脅迫手段を使ってでも帰投させろ! できなければ墜とせ! 」
現在はスーノルド側も混乱しており、戦闘の停止と攻撃命令の撤回を出している最中である。ここでアーノルド側がオドレメジャーに攻撃を加えようものなら、反乱が失敗するだけでなく、戦争が永遠に終わらなくなってしまう。
リュクスの鬼気迫る指示に事情を知っている通信士達は一瞬顔を見合わせるが、意を決して彼等は口を開く。
「命令無視の雷鳥は3機、内1機の機長は神竜教団信者の可能性が濃厚。3機とも思想汚染されている可能性があります。」
「では、撃ち落とせ、直ぐに鳥機を出せる基地はどこだ。」
「無理です、雷鳥の護衛にはスペルアンカーがついています。」
「なん、だと・・・」
驚愕の事態が起きていた。
帝国最強の空戦集団が護衛についているということは、全空軍を投入するか、超兵器を使う以外に彼等を止める術はない。そして、リュクスの数少ない幼馴染の裏切りを意味していた。
「ゼーリブ・・・。通信士、スペルアンカーリーダーと交信したい。できるか? 」
「やってみます、少々お待ちください。」
司令部との通信を遮断している護衛部隊に通信回線を無理やり作るのは容易ではない。間に合わないかもしれないが、リュクスは最後にゼーリブへ言いたいことがあった。
「友軍艦隊から通信! 「我、本国艦隊の説得を試みる。不可能な場合、実力を持って排除する。」」
「あー、あー、リュクス聞こえる? 本国艦隊の事は私に任せて。」
リュクスがゼーリブの件で頭が一杯になっている時に、もう一方の懸案事項に対して、海上に待機していた友軍から報告と個人的な通信が入った。
「リュクスだ。フィロス、俺は無謀な戦いを要求した覚えはない。予定通り本国艦隊は沿岸要塞と連携して潰すんだ。」
「地上軍には、そんな余裕なんて無いでしょ。あなたはゼーリブの面倒を見てやって。」
痛いところを突かれたリュクスは暫し考える。地上軍が要地を押さえたと言っても、人数が限られているため完全確保は程遠い状態である。要塞の攻撃範囲まで艦隊を引き寄せたと言っても、機能するかは未知数だった。それどころか本国艦隊に触発され、押さえている軍が一斉に敵対化する可能性もある。
「絶対に死ぬなよ、俺はあのバカに文句を言ってくる。」
帝都海軍区画、1号桟橋沖
巡洋艦「グレートフューリー」の艦橋でフィロスは自分の艦隊と、賛同して集まった海軍艦艇をまとめて本国艦隊との決戦に挑もうとしていた。
「海軍基地の様子は? 」
「地上軍が押さえています。しかし、本国艦隊に呼応して一斉に動かれた場合は抑えきれないでしょう。」
副官は脚色の無い状況を伝えた。
基地は地上部隊によって押さえ込まれ、桟橋には人機が展開して艦へ乗員が乗らないように警戒している。今はまだ混乱しているが、早く結果を出さなければ押さえ込まれた彼等がどんな行動を起こすか分からない状況にある。
「本国艦隊の詳細戦力は出たの? 」
「出ました。古代兵器艦は巡洋艦11、小型艦30。通常兵器艦は戦艦7、巡洋艦22、小型艦60以上で増加中。旗艦はタイラント級戦艦「タイラント」です。」
「増えてるわね、戻りながら周辺の艦船を根こそぎ吸収してきたか・・・」
3日前、北方海域に突如としてスーノルド帝国海軍の大攻勢が行われ、本国艦隊が対処と報復のために出撃していた。これは圧倒的な海上戦力との戦闘を避けるために仕組まれていたクーデターの前段階「本国艦隊の陽動」である。
計画は順調に進んでいたものの、皇帝陛下が死亡したことで予定が大きく崩れることとなる。手綱を握る者がいなくなった本国艦隊は付近の戦力を吸収しながら手の付けられない怪物となって静海に向かっていた。
「準備出来次第出航、我が艦隊はアーノルド海峡で本国艦隊を迎え撃つ。」
「了解、各艦に通達! 」
フィロスは艦隊に命令を出す。司令部には説得を試みるとは言ったものの、本国艦隊司令を知っている彼女は最初から説得を諦めていた。
「古代兵器艦のみの艦隊と言っても、たったの10隻。彼等の力を借りるしか方法はないわね・・・」
海軍基地を見張る最低限の戦力を除くと、フィロス艦隊の戦力は余りにも微々たるものである。彼女は使いたくはなかった最終手段の準備に取り掛かった。
アーノルド海峡から北方の海域
100隻を遥かに超える大艦隊が静海を目指していた。
「反乱軍に降伏の意思なし。偵察部隊の情報によると、古代兵器艦10隻がアーノルド海峡へ向かっているとのことです。」
「ほぅ、この私と戦う気か。」
本国艦隊司令ネモは、反乱軍の状況報告を受けて自分が戦うに値する相手だと感じた。アーノルド海峡に近づく前に行った作戦会議では、反乱軍は要塞と共に戦うことが予想されていたため大戦力で押しつぶしながら、軍の反撃と反乱軍の離反を誘う作戦がたてられていた。
戦力差があるにもかかわらず打って出て来た反乱軍艦隊は、卑怯な裏切り者ではなく相応の武人が指揮していると判断できた。
「艦識別から反乱軍艦隊はフィロス艦隊と判明。」
「ふふふふふ、やはりそうか。」
反乱軍艦隊は取るに足らない戦力であるものの、戦エルフ率いる艦隊と知ってネモは全力で戦わなければならないと確信する。
「全艦に命令の変更を伝えよ。海峡に突入し反乱軍艦隊を殲滅後、漂流者を全員確保するのだ。帝都の反乱軍は後で構わん。フィロス艦長を見つけた場合、生死を問わずタイラントへ移送するように。」
ネモの命令は不可解な物だったが、本国艦隊全てに伝えられた。
「フィロス艦長・・・生きていようと死んでいようと、心臓を取り出して女神への捧げ物としよう。」
狂信的な女神教信者であるネモにとって、戦エルフの心臓は大きな意味を持つ捧げ物である。現在の状況は千載一遇のチャンスであり、フィロスとの戦闘は運命とさえ感じていた。
艦隊司令の囁きは誰の耳にも入らず、大艦隊はアーノルド海峡へ突入していく・・・
アーノルド海峡の手前でフィロス艦隊は魚鱗陣形で待ち構えていた。
「死ぬなよ、か。そんな気は全くないんだけどね・・・」
リュクスとの通信を終えたフィロスは、ゼーリブの説得が上手くいくように祈り、決戦準備の最終段階を進めていた。
「そうだ! こちらは反乱軍だ。皇帝陛下は亡くなられた。現在はウェロス・ガルマン侯爵が軍の総指揮官だ。」
「・・・」
「どう? 上手くいきそう? 」
「だめです。海峡要塞は中立の立場を崩していません。」
フィロスの問いに通信士が答える。フィロス艦隊は本国艦隊との戦闘に入る前に少しでも優位な立場になろうと、アーノルド海峡要塞へ支援要請を出していた。だが、要塞司令の2人は言い合わせでクーデター側にも本国艦隊にも与さないと宣言し、中立不介入の立場を示す。
「要塞が敵にならないだけでも都合がいいわ。無駄だと思うけど、もう一度本国艦隊へ帰順するように通信を打って。それと、副艦長! 術式の準備は何処まで進んでいるの? 」
艦橋の外で準備の指揮をとっている副艦長は8割完了と報告する。フィロスの秘策は副艦長含めて誰も知らされておらず、乗員達はひたすらに大規模魔法様な何かの準備を進めていた。フィロスのいるCICでも準備が進められており、魔法に詳しく無い者が見たら何をしているのかさっぱり分からないだろうが、フィロスの部下も何を準備しているのか分からなかった。
「各艦に戦術回線を開けるように指示。」
フィロスは戦闘前の最終段階として独自の艦隊運用をとろうとしていた。
古代兵器艦は単なる武器ではない。高度な演算能力を有し、一度命令を下せば自ら考えて行動する一種の使い魔、精霊に近い存在であると長年の調査と研究から判明していた。フィロスは精霊術に特化したユグドラシル人ならば、古代兵器艦の能力を全て引き出せるのではないかと考え、試行錯誤の末に自身のスキルを使って兵器システムとのリンクを実現させる。
フィロスは自身と兵器システムをリンクさせ、更に僚艦ともリンクさせることで艦隊の能力を最大限活かし、戦力差のある海戦を幾度となく勝利に導いてきたのだった。
10分ほどでフィロスは旗艦グレートフューリーを中心に全艦の相互リンクを完成させ、各艦の演算能力と兵装を最大効率で使える準備を終えた。副艦長は艦橋に戻ってきており、大規模魔法の準備も完了、後は然るべき時に使うのみである。
両艦隊が互いの射程圏内に相手をおさめる寸前、本国艦隊からフィロス艦隊へ通信が入った。
「本国艦隊から入電! 「反乱軍は我が艦隊の鉄槌に平伏すだろう。だが、反乱軍艦隊の勇気は評価に値する、今降伏すれば寛大な・・・」」
「それ以上言わなくていい。」
フィロスは通信士の言葉を遮って報告を終わらせる。
「本国艦隊への返信はどういたします? 」
「そんなものは必要ないわ、艦隊、戦闘開始! 」
こうして、後世に「アーノルド海峡の悲劇」と記録される、戦力差13倍以上の海戦が始まるのであった。
戦エルフとガルマン家スゲー、帝国を2つとも潰しやがった。
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んなわけないのです。彼等の後ろには強力な組織がいて駒として動いているだけです。




