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いみじききせき







「おかしいわね、王城の夜会ではなかったかしら」

「……これは。姉姫様方、お久しぶりでございます」


リンドとルイス、ふたりとも特に何をするでもなく大人しく壁際に並んで立っていると、衛士たちに広間の中央に行けと言われる。


仕事の邪魔だし、居るだけで気になる。壁際に来たら中央に押し戻せと陛下から命を受けている、とも衛士は言った。


どちらの壁に行こうとも同じことになる。面倒だからそのまま中央に、と付け加えられる。



諦めて中央に進み、ゆっくりとした曲に合わせて一度だけ踊って、その輪から少し外れた場所に移動した。


ルイスを休ませようと座る場所を探していると、件の姉姫ふたりが近寄ってきた。


「いつから平民が夜会に列席するようになったの?」

「あれの後ろ以外に、お前に居場所があったかしら 」

「……失礼。よろしいですか?」

「なにかしら、どなた?」

「近衛師団、師団長のフォルストリアと申します、お見知り置きを」

「まあ。王陛下の……わたくしたちに何か?」

「私からお願いして夜会にお誘いしたのです。ここにいることの何が悪いと言われるのか。ルイスに対して失礼な言葉は止めていただきたい」

「失礼だったかしら?」

「そうだった? ルイス」

「どうでしょう、いつも通りだと思います」


リンドが腕にかかっているルイスの手をひとなでする。ルイスはその手を見下ろしてからにこりとしてリンドを見上げた。


苦笑いを返して、アウレリア姫の姉姫ふたりには厳しい表情を向けた。


「ルイスに謝罪を」

「わたくしたちが? 失礼なことを言っているのはそちらではないの?」

「いいえ、私の妻になる人です。誰だろうと貶めるのは許さない」

「まあ。怖いわ……国も大きくなると、近衛師団長様も尊大ですこと」


はあとこれ見よがしに息を吐き出し、大きく一歩ルイスは踏み出す。姉姫たちに向かい、こそりと内緒の話をするように口に手を当てた。


「姉姫様方……本当に偉い方ですよ。いつもの調子は控えて下さい」

「なに……なんなのよ」

「この方は王族です。陛下に王子がお出来になるまでは、この方が王位継承第二位の座におられます」

「そ……そんな……こと」

「よくお調べになってから、減らず口を叩いて下さいね……今度があればですけど」


失礼しましたと、忌々しそうな表情を滲ませて、じりじりと後退している姉姫たちに、リンドは待つように声をかける。


「まだ謝罪をいただいていませんが?」

「いえ、いいんです。要りませんよ謝罪なんて」

「貴女は人が良過ぎる。先日のことをもう忘れたのですか? これまでだって幾度も危険に身を晒されてきたのでしょう。私はそれを図った者は許し難く思っています。この件が誰の差し金か分かった時には、謝罪などと生温いことでは終わりません」


言わずとも誰が何をしたのか、この場に向かい合う者たちが知っている。

顔を見合わせて、知っていることを知っていると、お互いが理解している。


緊迫感のある空気の中、ルイスがふと笑った。


「ああ……でもおふたりから嫌味を取ったら何も残りませんからね……」

「ルイス……」

「姉姫様方がどんなに頑張ろうと、残念ながらうちの姫様にはひとつも敵わないですし。私も負ける気はひとつもないので。構いません、いつでもどうぞと思っています」

「……ルイス……抱きしめても良いですか」

「いやです、やめて下さい」


やり取りをしている間に、姉姫ふたりの姿は目の前からなくなっていた。


あれれと軽い調子でルイスは口の端を持ち上げる。


リンドは広間の遠くに目線をやって、不快も露わに、厳つい顔で大きくため息を吐き出した。


隣でまだ笑っている顔を見下ろす。


「本当に、貴女という人は」

「師長こそ、どうしてあんな大口を」

「大口?」

「嘘を吐いてまで」

「嘘? とは?」

「妻とか」

「本気です。大口でも嘘でもありません」

「えぇぇぇ?」

「……お嫌ですか?」

「ぅぅぅぅううん……」

「無理にとは言いませんよ……今はまだ」

「……いやぁぁぁぁ……」

「その調子でもっともっと考えて下さい。私と、それから私たちのことを」


離れていきそうになるルイスの左手を、左手ですくい上げて、右手は腰の後ろに回した。

そのままそっと押して、空いている席までルイスを誘導する。


この間から逃げようとするルイスがかわいく思えて仕様がない。


無理強いする気はさらさらないが、諦める気もさらさらない。


同じ時を過ごすことは今まで何度もあったのに、長い時間 顔を見合わせて話をするのは今夜が初めてだった。


幸福感を味わいながら夜は更けていく。







「てことで、陛下のところに行く羽目になったから」

「……そうですか、では私は控えの間に」

「いいわ、ココとエマを呼ぶから」

「でも……」

「フォルストリア師長」


アウレリアは離れた場所で待っていたリンドを呼ぶ。


「はい」

「ルイをよろしくね?」

「はい……」

「ルイス……あなたを護衛から外します」

「……え……え? なんで……何故ですか」

「今のあなたでは私を充分に守れないでしょう?」

「そんなことはありません……」

「そのケガで? 腕もまともに上がらないのに、どうやって?」

「傷は塞がってます」

「だから?」

「…………盾にくらい」

「いらないわ、ただの盾なんて」


アウレリア姫は言い置いて、王の住まう区画へと歩き去った。


前後に王騎士を従えて。



角を曲がって消えた先を、見えなくなった後ろ姿を、ルイスはいつまでも見つめていた。


動き出す気配もないので、リンドはルイスの目の前に回り込む。

顔を覗き込み、鋭く息を吸い込んだ。


はらはらと雫が落ちる。

それは開かれたままの目から溢れて、次々と下に向かう。


「……ルイス」


リンドはルイスを抱きしめて、絞り出すように大丈夫だと言った。


いつまでもはらはらと、声も無くルイスは泣き続けた。





たまたま似ているからと拾われた。

親も無く下町で浮浪者のような生活をしていた。


名はあったはずだが、忘れてしまったと告げたら、アウレリア姫は、物語に出てくる英雄の名を付けてくれた。


度々危険に晒される姫様の身代わりとして、衣食住を与えられ、教育を受けた。

何度も死ぬ目に遭い、それは姫様も同じく、ぎりぎりで搔い潜ったことも数えきれない。


少しずつ体を鍛え、勉強をし、あらゆる毒に耐性をつけて、姫様をお護りすることだけを考えて生きてきた。


回避するのも、打ち返すのも、国外へ出られたのも、やっと。

やっと思うままこなせるようになってきたところだった。




ぽつりぽつりとされる話を、リンドは静かに聞いていた。


後宮の部屋には誰もいないので、休まるものも休まらないだろうと、自分の部屋にルイスを連れてきた。


「ここは安全だから……もう私は要らない」

「……違う……休んで体を治せと」

「…………師長に私を押し付けた」

「任されたと受け取った……アウレリア姫もそのつもりだと思います」


違うとルイスは首を振る。


「ずっと……来たばかりの時から、姫様は、私に師長のことばかり、言って……」

「……っと。…………それは、多分」

「ここに居れば安全だから、強い人がたくさんいて、守ってくれる人もたくさんいるから、だから、私はもう……」

「違う! ルイス、よく聞いて下さい。……私が姫様に話したんです」

「…………なに?」

「ここに来たばかりの頃、姫様に…………ルイスを好きになったと」

「…………なんで?」

「な? なんで? なんでと言われても、なってしまったものは、なってしまったので」

「なんで姫様にそんなこと」

「ああ……まず、アウレリア姫に許可を頂かないといけなくて」

「いけない?」

「私がルイスを想っていることは、すぐに姫様に見透かされました。『私の護衛に近付きたいなら、まず私が認めてからよ』とおっしゃられて」


好きなの、違うの、とアウレリア姫に詰められて、早々と白状した。


長い一年だったとリンドは笑う。


「最近やっと認めてもらえたような気がします……まだちゃんとした許可はないので、不安ですけどね」


まぁでも、と両方の手のひらでルイスの頬を包むと、優しく涙を拭う。


「これはもう、認められたと考えていいのかとも思えます。ルイス?」

「…………はい」

「そこまで言った姫様が、貴女をそう簡単に捨てるような真似をするだろうか?」


ぎゅう、と目を閉じると、またぽろぽろと水の球が転がった。


「あれくらいきつく言わないと、貴女は休もうとしないと考えたのではないだろうか……私はそう思います」

「…………本当? …………そう思う?」

「姫様の考えはルイスが一番良く解っているんじゃないのかな?」

「…………休む」

「そうしましょう」

「早く、治す」

「力になります」

「……ありがとう」

「う………………かわいい…………すき」

「顔まっかっか…………」







半年後にはアウレリア姫は正妃として、後宮を出る。




その半年後に、宣言通りルイスはリンドの妻として迎えられた。














このお話はこれにて本編は終了でございます。


ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました。






姫様が王妃になる半年の間に、なんやかんやと側室たちをなぎ倒し、さらに面倒な姉たちにざまぁを食らわします。


部外者(男性)が後宮に出入りしていた件を盾に取り、後宮は実質解体、側室たちは放免され、王城から返されます。


さっぱりからの、アウレリア正妃です。


そこからリンドが奮闘し、ルイスがとうとう絆されるまでさらに半年。


因みに突如明かされたれたリンド王位継承二位のことですが、二位は間違いないですが、リンド的には最初から放棄しています。

(三位の人がいけ好かないので、嫌がらせで二位に据えられています、王陛下の命令です)




今さらですが、アウレリアの『ア』は『オ』寄りです。オウレリアでは字面が良くないと思いまして。

英語圏の人っぽく『オゥレィリア』と発音して下さい笑。今さらですが。



なんてこともこれまたさっくり補足して、終わらせて頂きます。



ありがとうございました!!





☆20190609お礼の小話を追加しました☆


どうぞ、この後もご覧ください。



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