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第4話「鋭気隆々」

 図書館に通い出す様になって一週間。僕は毎日一条と共に作品を書き続け、文芸作品としての構成、展開、登場人物の心理描写等、とにかく片っ端から学んだ。

 今までこんなに真剣に執筆に取り組んだ事なんか無い。栗山さんの事を思うと、その気が無くてもやる気が沸き立つ。

 そして翌週の土曜日、その栗山さんからメールが届いた。



 第4話「鋭気隆々」



 From:栗山梨穂子

 Subtitle:(non title)

 Text:道の絵画コンクールで賞をとる事ができました。市営ホールで展示されるんだけど、見にきてくれたら嬉しいな。


(! コンクール入賞!?)

 僕は間髪入れずに返事を書いた。


 To:栗山梨穂子

Subtitle:Re:

 Text:本当ですか!? おめでとうございます! 絶対見にいきます!


 From:栗山利穂子

 Subtitle:Re:Re:

 Text:あっ……、忙しかったら無理しないでね?? もし都合が悪かったら、今度写真送るから(汗)


(可愛い……)

 やっぱり、栗山さんの性格は僕にとってドストライクなんだ。僕は思わず携帯を抱きかかえた。


 ――翌日、僕は市営ホールへと足を運ぶ。玄関には“平成二十年度北海道絵画コンクール”という大仰な文字が佇み、このコンクールの規模の程度を僕に感じさせた。

 中には割と人がいるにも関わらず雑音や雑談は殆ど無く、静かな空気だけが流れる。

 一枚一枚、絵とその受賞者の名前を確認しながら奥へと進むと、緊張感ともとれる様なものがほのかに漂ってきた。

 ――更にもう少し進んだ広い壁、二枚の絵画に挟まれ、それはあった。


 金賞『天真爛漫婦人』栗山 梨穂子


 ――写真が飾られているのかと錯覚するかの様な臨場感。艶やかな色遣い、柔らかなタッチ。おおよそ、真っ黒なワンピースには不釣合いな程の満面の笑みが、僕を無理矢理にでも惹き入れる。

 ――――――。

 僕は言葉を失う。

(これが……栗山さんの……)

 本当に、鳥肌が立った。握った右手には自然と力が入り、はからずも笑みが零れた。

(……図書館に行こう)

 心の底から気合いが沸き立ち、僕は出口へと向かう。その途中に並ぶ他の絵になど目もくれず、栗山さんの描いたあの絵だけが頭の中を埋め尽くしていた。


 ――図書館を出ようとすると、長机の上の色々なコンクールのパンフレットやチラシが目に入った。吹奏楽、放送、写真――。僕は文芸コンクールのパンフレットを一部とり、ページを開く。

 中には応募要綱、文芸作品の書き方、過去の受賞者など形式的な内容が並び、僕はなんとなく過去の受賞者のページを開いてみた。


 平成十九年度 入選『光の道』一条 新歩


(一条!!? まさか――!)

 堂々と並ぶ入選者の名前。それは何回確認しても、一条のものだった。

(…………! そんな……)

 驚きと、焦燥感と。不思議な感情が混ざり合い、それは不安として僕を包み込んだ。



 ***



「あ、春原くん!」

 僕が図書館に行くと、一条はもう机に向かってシャーペンを走らせていた。

(…………)

 僕は黙ってその正面に座る。

「今日はちょっと遅かったね。来ないかと思ったよ」

「…………」

 一条の言葉に返事を返す事もなく、僕は考え込んだ。

(一条……。一条も漫画家を目指してるらしいが、こいつは絵を描けるのか……? ――もし、一条も作画を担当してくれる人を探しているなら……。もしも一条が栗山さんに目をつけたら……)

 僕が、一体栗山さんの何だと言うんだ。ただの口約束だけで繋がった、僕の作品を読んでもらった事も無い様な薄い関係。文芸コンクールに入選する様な奴も作画の担当を探しているとなったら、間違いなく栗山さんは一条を選ぶ――。

「春原くん?」

 黙ったままの僕に、一条は不思議な顔をした。

「ごめん……今日は帰るよ」

「えっ……?」

「……次ここに来るのは、文芸コンクールで入選した後だ」

「…………?」

 一条は、戸惑った顔で僕を見ていた。


「一条……。お前には絶対に負けない」

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