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弱気な彼の強制召喚  作者: 奈瑠 なる
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第7話 ふれあい畜産所


「……ト……?…きて……」


 誰かが話しかけている。

 優しい声。

 ユートは寝ていたことを思い出す。


「ユート…?もう朝だよ~?」


 うっすらと目を開けると、目の前にはユーリの顔が。

 あまりの至近距離に思わず心臓が高鳴る。


(こ…これは…、思春期男子が必ず憧れるであろうあの…!あのシチュエーションじゃないか……!?)


 俺より早く起きたユーリが、さすがに馬乗りではないが、ベットの傍に立ってゆさゆさとゆすりながら起こしてくれている。

 こんなこと現実で起こっていいのか!?

 ユートはそんな葛藤をしながらも寝たフリを続ける。


 するとユーリが少し照れたような顔をし出した。


「もぅ…悪い子には…イタズラしちゃわないとかな~……?」


 そんなことをいいながらユートの両肩に手を添えるユーリ。


(えっ…?ちょ!?……これって、マジ、え、あ……!??)


 寝たフリを続けながらも動揺しまくるユートをよそに、目を閉じ、徐々に顔を近づけていくユーリ。

 彼女の整った顔立ち。

 少し照れて紅潮した頬。

 柔らかそうな唇。


 二人の距離はスローモーションのように徐々に近づいていき……。



ーーー



「ちょっ!……ま、まだ早いって!!!」


 ユーリを引き離すように、ガバッと身体を起こす。


「……あれ…?」


 しかし、一瞬前まで目の前にあったユーリはおらず、ユートの静止の手は空をきっていた。


「……う~ん…。…どうしたの?ユート…」

「……へ?」


 隣を見ると、ユーリが眠そうな目をこすりながらこちらを見ていた。

 さっきまで外は明るかったハズなのに、まだ日は登っていない。

 つまりこれって……。


「あ…あはは、ちょっとヘンな夢見ちゃって…。ゴメン、起こしちゃったね」

「ううん、いいよ。気にしないで」


 微笑むユーリ。

 こんな優しくて素晴らしい女の子でどんな夢見てんだか…。

 ユーリと…俺が…キ…キ……。


 あり得ない。


「じゃあ、俺はもう少し寝るから!」

「うん、まだ日も登ってないしね。おやすみ~」


 そうして再び床につくユート。


 しかし彼も思春期男子である。

 隣に寝ている女の子のあんな夢を見てしまった後で、眠れるわけがなかった。




 この世界には時間の概念は存在しているため、ちゃんと1から12までの数字が書いてある時計が使われている。


 引きこもり時代は時間なんてほとんど気にしない生活をしていたが、この世界に来て、時計が存在することを知ったとき、なぜかホッとした。

 自覚がないだけで、意外と神経質なのかもしれない。

 血液型はA型だしな。


 時計が朝の6時を指した頃。

 テーブルで水差しの水を飲んでいると、3人が起きてきた。


「さー、飯食ったら出かけるからな~」


 身支度を済ませ、軽い朝食をとる。

 ダインがやたら楽しげだ。

 一体何がそんなに楽しいのだろうか?


 朝食は昨日の夜も食べたパンと干し肉、そして葉モノを中心としたサラダだった。

 米食慣れしているユートにとっては、パンばかりでは飽きてきそうな気もするが、ロレイルの主食はこのパンだけらしいので、慣れていくしかないだろう。

 しかし干し肉の方はいい。

 飽きないおいしさがある。

 不思議な肉だ。




 朝食を食べ終え、家を出る。


「それでダインさん、これから何処へ行くんですか?」

「まずは畜産所に案内するぞ。異世界から来たんならファーを知らないんだろ?かっわいーぞー!」


 超笑顔だ。

 あぁ…なんかわかった。

 ダインは、ファーという動物が大好きなんだ。

 ……かっわいーなー。


「その畜産所に顔を出したら、次は市場(いちば)ね。ここ、西区で取り扱われている食品や日用品は全て市場で揃うのよ」


 西区の商店街のような場所だろうか。

 元引きこもりなユートだが、買い物は結構好きだ。


 元の世界でもスーパーには決して間島たち(元の世界の不良共)は来ないから、母の付き添いで辛うじて行くことが出来ていた。

 母は、その買い物が息子のリハビリになるのでは、と期待していたようだが、最後までスーパーとコンビニ以外に出かけることはなかった。

 しかし、買い物をしている時間は、とても楽しい時間だった。


「後は……魔女の館を案内しておきたいけど、中央区から帰ってきてから行った方がいいわね」

「だな」

「……どうしてですか?」


 ”魔女の館”……なんかRPGっぽい響きだが、一体どんな場所なのだろうか。

 紫色した液体を大きな鍋でグツグツ煮ながら、ローブを着た老婆が


『ヒッヒッヒッ……魔女の館へようこそ……』


 とでも言ってくるんだろうか。


「お前たち二人に魔法を教えるなら、魔女のヨモナさんに頼むのが一番いいからな。案内はその時でいいだろっていうことさ」


 歩きながら笑いかけてくるダイン。


 二人は顔を見合わせる。


「えっ?魔法…教えてくれるんですか?」

「えぇ、そうよ」


 ユーリの問いかけに、にこやかに答えるフィーナ。


「二人には落ち着いたら、俺たちの警護の仕事を手伝ってもらおうと思ってるんだ。

 魔法が使えないと、警護の仕事はキツイからな…。他の仕事をするにしても、魔法は使えるようにしておいた方が、いざって時に便利だぞ?」


 二人にとっては願ってもない話である。

 魔法が使えない大変さは、集落からロレイルまでの道程でいやというほど痛感していた。

 特にユートは、魔法ならユーリを守れるかもしれない、力になってあげれるのかもしれないと思い、魔法を使えるフィーナ達に教えてもらおうかと考えていたところだった。


 願ったり叶ったりというやつだ。


「ありがとうございます!よろしくお願いします!頑張ります!!」

「…私も頑張ります。ありがとうございます!」


 ユートに続いて、ユーリも感謝を伝えた。



 フィーナとダインに出会えてよかった。

 ユートは2人の優しさに触れ、改めてそう感じると共に。

 2人に、いや、3人に。

 出来る限りの恩返しをしよう。

 そう、心に誓うのだった。





 ふぁ~~……。


 雑談をしながら歩く4人の耳に、間延びした鳴き声が聞こえてきた。


「えっと…この鳴き声は……?」

「ファーの鳴き声だ」


 いい笑顔で言われた。


 ふぁ~、と鳴くからファー。

 さすがにそのまんますぎるだろう。

 そんなツッコミを胸にしまいながら、目の前の建物に入っていく。


「よぉ、ダイン君じゃないか、その子達はだれだい?」


 建物の中には気さくなおっさんがいた。

 グレーのサラサラなロングヘアーである。

 年期の入った顔と相まって、インパクトのあるおっさんだ。


「ワケあって、ウチで引き取ることになったんですよ。ユートとユーリです。よろしくお願いしますね」

「おぉ、そうかそうか。大変だな。まぁ頑張れよ!」


 そういっておっさんは建物の奥に引っ込んでいった。


「あの人はなんていう人なんですか?」

「モッスさんだ。彼の一家は先祖代々畜産所を経営してるんだよ」


 この西区には畜産所をはじめ、各施設が一つずつしかない。

 人口が少ないから、たくさん作っても潰しあうだけだからだろう。

 そしてその大半が、一つの家系が先祖代々営んでいるものだそうだ。


 のどかでいい町だ。




 建物から柵が、円を描くように伸びている、簡素な作りになっていた。

 その柵の中で、放牧するような形で飼育されているらしい。

 簡素ではあるものの、広さには圧巻だ。

 フィーナの家の敷地。20個分はあるのではないだろうか。

 とにかく広い。



 ……ぬっこぬっこぬっこ…。



 そしてぽつぽつと見たことのない動物がいた。


 なんというか、馬だ。

 …馬、なのだが……。


 まず足が短い。

 そして太い。

 普通の馬の足の、長さを1/3に、太さを2倍にした感じだ。

 あれでは走ることは出来ないだろう。


 さらに胴が異常に長く、太く、丸い。

 普通の馬の2倍はあるだろうか。

 足の短さも相まって、ちょっと不格好にもみえる。


 顔は丸長で、(たてがみ)らしきものが申し訳程度にチョロンと生えている。



 馬が食肉用に進化したらこうなるのだろうか、といった見た目である。



 …ぬっこぬっこぬっこ…。


 一匹がこちらに近づいてきた。



 ふぁ~~~……。



「……」


 なぜだろう。

 なんか、和むな。


 というか、昨日食べていた干し肉って多分…。

 いや、考えるのはよそう。

 干し肉が食べれなくなりそうだ。



「あぁ~~、ふかふかだなぁぁ~~……」


 ふぁ~……。


 見るとダインはファーに抱きついていた。 

 ファーが嫌そうに身を捩っている。

 思わず苦笑してしまう光景だった。


「わ~、かわいい~!」


 ユーリはフィーナと一緒に別のファーを撫でていた。

 ファーも撫でられて嬉しそうだ。

 こうしてみると、2人は姉妹のように見えるな…。



 ここは楽園か。

 ユートは心から思った。


 どおりでダインが上機嫌なわけだ。

 こんな所だと知っていたなら、誰だって上機嫌になるだろう。



 ……ダインの人の変わりようには、さすがに驚いたが。




 この世界の食用肉は2つ、馬肉と鶏肉だけだ。

 その2種類を一手に飼育しているのが畜産所である。


 食肉用の鳥が飼育されている鶏舎は放牧スペースの奥に建てられている。

 4人は放牧されているファーたちの横を抜け、畜産所の奥へ向かった。



 クルックゥゥゥッッ!



 ……めっちゃ元気なニワトリがいた。


 体毛は白く、足は黄色。

 とさかは鮮やかな緑色で、とさかから後に向かって赤い飾り羽が生えている。


 とさかがイカしたニワトリだった。


 だがこのニワトリ、ただのニワトリではない。


 このニワトリ、めっちゃ飛ぶのだ。


 止まり木から止まり木へ、四方八方に飛び回っている。

 止まり木に密集しているニワトリは、なんともシュールである。


「フィーナさん、この鳥の名前はなんていうんですか?」


 一応聞いてみる。

 ファーの名前から察するに、おそらく…。


「クルックーよ」


 ……デスヨネー。


 もうこの世界の命名センスには期待しない。

次回は市場に行きます!

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