第6話 守りたいその笑顔
ごめんなさい、マスコットキャラ家畜は次話に延期です(^^;)
ここ、ロレイルには電気はない。
蝋燭や松明はあるものの、電気のある生活に慣れているユートにとっては、かなり薄暗く感じるものだった。
燃やす木材もタダではない。
なのでロレイルの町の人々は夜更かしをせず、早めに寝る習慣が根づいている。
ユートはずっと引きこもってゲームや読書の生活だったので、夜には強い人間だ。
本来なら消灯が早すぎて、少々不満に思うところかもしれない。
しかし連日のオーバーワークにより、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど眠かった。
なので陽が落ちて間もないが、お風呂に入って寝ることにした。
……お風呂。
そう、この世界にもお風呂があるそうだ。
日本人にとってお風呂は、なくてはならないもの。
ユートはこの世界でもお風呂に入れることに、神に感謝するのだった。
あぁ…ありがとうございます……。
ありがたく使わせていただきます!
フィーナ宅のお風呂は家のはなれにあるらしい。
というわけでダインに替えの衣服をもらい(昔着ていたもので、今は使っていないそうなのでありがたく頂いた)レッツお風呂へゴー!!!
……といいたいところだったが、先にユーリに入ってもらうことにした。
べつにレディーファーストとかを気取っているわけではない。
ロレイルにたどり着くまでずっと守り続けてくれたのは他でもないユーリだ。
そんな彼女を差し置いて自分が先に風呂に入るほど、ユートは図太い性格ではないのだ。
ユーリが風呂から上がるまで、居間でくつろぐことにしたユート。
水差しから少し水をコップに注ぎ、くぃっと飲み干す。
……暇である。
電気がないので、テレビもゲームもおそらくない世界だろう。
はっきりいって、読書しかすることがない。
「あの、ダインさん。この家に本とかはありますか?」
武器の手入れをしているダインに尋ねてみる。
ユートは読書するスピードはかなり遅いので、本を1冊読み終えるのに最低2週間はかかる。
暇つぶしにはもってこいだ。
しかしダインの反応はユートの予想を超えていく。
「お?本?……なんだそれは?」
……ここ、ロレイルには電気どころか本すらないのである。
ロレイルの町にも字は存在する。
しかし製紙技術がないため、紙が存在していないらしい。
”神”は存在しているのに”紙”は存在していない。
なんていうギャクを言っている場合ではない。
ロレイルでは主に木板に字を書く。
商店街の店先の看板や”ギルド”と呼ばれている警護職の人々の集会所などで使われているそうだ。
ロレイル住民の識字率は100%。
子供が6歳くらいになるまでには、読み書きはできるようにするらしい。
「ユートとユーリは異世界から来たらしいが、言葉は通じているし字も読めるんじゃないか?……そうだな…」
ダインはそういいながらテーブルにナイフで傷をつけていく。
「ほら、なんて書いてあるかわかるか?」
………。
果たしてこれは字と言えるのだろうか?
ダインが指さしたのは今つけたテーブルの傷。
どう考えても字とは思えない。
「あ、あの…。それはなんて書いてあるんですか……?」
「え?『ダイン』って書いたんだが……」
どこからどう見ても『ダイン』とは読めない。
言葉は通じるのに字は全く違う。不思議な状態にユートは戸惑う。
「そうか…。まぁ、異世界から来たんだもんな。字が読めないくらい当然だろう。むしろ言葉が通じるってことが奇跡なんだしな。心配するな。俺が教えてやる」
ダインはそういってユートの頭をワシャワシャと撫でる。
本当に優しい、いい男だ。
「ロレイルで生活するなら、字を見る機会も多いだろうしな」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますっ!」
こうしてユートは、ユーリと一緒にダインとフィーナから字を教えてもらうことになったのだった。
しばらくするとユーリが風呂から帰ってきた。
「いや~、お風呂はいいね~」
頬が上気しているユーリはとてもご機嫌だ。
どうやらお風呂に大満足な様子。
よかった。
風呂は風呂でも水風呂でした~っていうオチも考えていたけど、杞憂だったらしい。
やっぱり風呂は熱くなくては。
「おかえり。じゃあ今度は俺がお風呂入ってきます」
「いってらっしゃ~い」
「しっかり温まってこい」
二人に見送られてはなれの風呂場に向かった。
……ちなみにフィーナはもう寝ている。
彼女は朝風呂派なんだそうだ。
フィーナ宅のお風呂はこじんまりとした木組みの小屋の中にある。
最初の部屋は小さな脱衣場。
ここで3日間で汚れきった服を脱ぐ。
洗濯など、手伝えるものがあれば手伝おう。
そんなことを考えながら、脱衣場の奥の木の扉を開けた。
……檜風呂のように木で出来ている大きな浴槽がそこにはあった。
素晴らしい!
足を伸ばして入れるあたりが実に素晴らしい!!
ユートが住んでいたアパートのお風呂はそこまで広くはなかった。
既に気分上々である。
そしてなんとこの世界には石鹸(に似たもの)がある。
さすがにシャンプーやリンスはないので、髪も石鹸で洗っているようだ。
郷に入っては郷に従え。
ユートも石鹸を使って髪をはじめ、身体全体を洗っていく。
「はぁ……風呂はいいね……」
身体を洗い終え、お湯の張られた浴槽に浸かるとついつい呟いてしまった。
それくらい気持ちいいのだ。
3日間も風呂に入っていなかったのだから。
チャプチャプとお湯を肩にかけながらユートはふと思う。
そういえばこのお風呂にユーリが入ってたのか…と。
「……ってぇええ!何考えてんだ!!」
勢いよく頭を振って思考停止。
同年代女子とは会話すらほぼしたことがないとはいえ、免疫がなさすぎるだろうと、ユートは自分がイヤになる、
しかし、ユーリは可愛いし、しっかりしているし、元気で明るい。
もし彼女になってくれたなら……。
そんなことを考えてしまう思春期高校生のユート君であった。
ユートが風呂から帰ってくると、ユーリはもう寝ていた。
寝室のベッドの横に布団が二つ敷いてあり、フィーナは布団のほうで寝ている。
ユーリはベッドだ。
「えっと……俺はベッドで寝ればいいんですか?」
「そうだ」
椅子に座ってくつろぐダインに聞いてみるが、即答された。
それはつまり。
ユーリの隣で寝ろということですか……。
2日間も一緒に野宿をしたというのに、屋根のあるところで何にも怯えることなく寝れるからか、妙に緊張する。
「……本当に俺がベッドなんですか?」
「なんだ、ベッドが苦手なのか?」
「そ、そういうわけではないですが…その」
口ごもるユート。
なんとも、言いづらい。
なんと言えばいいのだろうか…。
「その……思春期の男女が隣同士で寝るのは…ちょっと……」
なんとかそれらしい理由を口にしてみたが、なんかこれではユーリを意識しているみたいでとても恥ずかしい。
対するダインはやれやれといった表情をしていた。
「……なんですか?」
「いやユート、お前とユーリが一緒に寝たところでお前、何もしないだろ。人畜無害オーラがにじみ出てるって。ユーリも全く気にしてなかったし、気にせず寝ろ。大丈夫だ」
そう言ってユートの肩をたたくダイン。
ちょっとグサリときた。
『人畜場』から抜け出せても、『人畜無害』からは抜け出せなかったようだ。
気弱なのがいけないのだろうか。
とほほ。
ユートは肩を落としながらベッドに入った。
ふとユーリのほうを向いてみる。
かすかにユーリの甘い香りがした。
ドキドキする。
そっと頭を撫でてみる。
するとユーリはくすぐったそうに身を捩った。
幸せそうな寝顔。
……うん。
『人畜無害』でいいじゃないか。
俺はこの笑顔を壊したくない。守りたい。
それだけでいいじゃないか。
今日はいい夢が見れそうだ。
次回こそはマスコットキャラ出ますよ~!