第1話 地獄の次は化け物
6/15内容の大幅な書き換えを行いました。
謎の魔方陣に飲み込まれてしまった佑斗。
咄嗟に目を瞑ったが、徐々に目を開き、目を開くことに支障がないことを確認する。
魔法陣の中は見渡す限り紫空間。
上も下も紫一色だった。
入口も出口も見当たらない。
……そして、呼吸が出来なかった。
「…ッッ!!?」
佑斗の心を一気に焦燥感が支配した。
パニックに陥り、肺の酸素をほとんど吐き出してしまう。
全力でもがいてみるも、どこが出口かも分からないのでどうすることも出来ない。
(苦しいっ…!なんでだよ……なんで俺ばっかりこんな目に遭わないといけないんだよ……チクショウッ…!)
絶望感と苦しみに苛まれながら、佑斗はもがき続けた。
どれだけ経ったか分からない。
一瞬だったのかもしれない。
急に全身のジェル感覚が失われる。
それと同時にドチャリ、とどこかに投げ出される感覚。
「…ッ!プハッ…!はぁ……。はぁあああ……。」
息が出来るようになった。
空気がおいしいと生まれて初めて感じた。
何度も深呼吸をして、呼吸を落ち着かせる。
ようやく心に余裕が出来てきたところで、周囲を確認。
暗くてなにも見えない。
どこかに座っている感触はあるが、360°どこを見ても暗闇である。
手のひらには砂の感触。
足元は砂地のようだ。
徐々に目が慣れてくるとどうやら洞窟のような場所であることもわかった。
(……とりあえず、ここから出よう)
二方向に進むことが出来るようだが、光も見えなければ、空気の流れも分からないので運に任せて進むしかない。
ユートは歩き出した。
ザッザッという砂を踏みしめる音以外は何も聞こえない静かな洞窟である。
なんというか足音が反響して大きくなっていっているような不思議な感覚だ。
ちょっとたまにタイミングがズレて、ザザッザザッと聞こえるような不思議な……。
不思議………な……。
「……。」
ユートは立ち止まってみた。
ザッザッザッ…。
なのにまだ足音は響いている。
しかもとても近くに。
暗くて足元がおぼつかないせいか、足元ばかりに気をとられていたことに気づき顔を上げる。
「ヴゥゥ…」
自分より背の高い、人ではない”何か”が目の前にいた。
「ヴァアアア!!」
「う…うあぁあああああ!??」
ユートは逃げた。
目の前にいた”何か”をしっかり見たわけではない。
だからアレが何だったのかは分からない。
しかし感じた。
アレは確実に害意を持っていたと。
ユートは途中で躓いたりしながらも必死に走った。
未知の恐怖で膝がガクガクと震えながらも、必死に走った。
すると洞窟の先に光が見えた。
(た、助かったぁああ!)
転げ出るように洞窟から脱出し、その場にへたり込む。
洞窟の先には森が広がっていた。
人工物などは一切ない、100%自然空間だ。
先ほどエンカウントしてしまった化け物が追ってくる気配はなく、木のざわめきや小鳥のさえずりが聞こえるだけである。
ユートは心を落ち着かせて膝の震えを収めた。
(とりあえず……あんな魔法陣みたいなので転移?させられたんだから、おそらく日本じゃないよな…)
いまだ心臓は早鐘を打っている。
しかしここでのんびりしていると、さっきの”何か”が洞窟から出てくるかもしれない。
佑斗は足早に森の中へ進んでいった。
どうか次に出会う生き物は話の通じる生き物でありますように、と神に祈りながら。
……想像以上に動物に遭わない。
脅威のエンカウント率にユートは戸惑いを隠せない。
先ほどからかなり歩いている気がするのだが、一向に鳥と木以外の物体が現れないのだ。
人間にそう簡単に出会えるとも思っていなかったのだが、せめて獣の一匹ぐらいいてもいいのではないのだろうか?
それともここは、獣のいない世界なのだろうか?
彼の脳裏に先ほどの化け物が浮かぶ。
そういえばアレはかなり口が大きく歯が鋭そうだったなと。
(あの化け物がここら一帯の獣を喰い尽してしまいました。な~んて)
……。
ユートは少し背筋が寒くなるのを感じた。
ひょっとして、さっきの化け物はあの1匹だけではなかったり……とか?
冗談ではない。
あんなのがたくさんいたら、生きて森を抜けることなど不可能だろう。
ユートは頭を振り、思考を強制終了させてさらに先に進もうと
「ヴゥゥ…」
…したのだが。
目の前に現れた黒くて大きい”何か”によって阻まれた。
……落ち着け。こういう時こそ一度落ち着くべきだ。
落ち着いて、目の前の”何か”の特徴を確認してみる。
成人男性ほどの体躯で黒タイツでも着ているかのように全身真っ黒。
さらに黒くて大きいコウモリの羽のようなものを生やしている。
頭からは二本の角が生え、先端は矢印のような形。
目も鼻も耳もなく、顔についているのはやたら大きな口だけだ。
口からは無数の鋭い歯が見えている。
……背恰好、口の特徴から察するに、先ほどの”何か”であり。
どこからどう見ても化け物だった。
「ヒッ…」
ユートは腰を抜かした。
普通の家に生まれ、普通の学校生活を過ごしている現代日本人なら誰だって化け物が目の前に現れたら腰を抜かすだろう。
「ヴァッ!」
化け物が鋭いツメで攻撃してくる。
ユートは咄嗟に右手でガードするがバックリと斬られ、傷口から溢れる血と今までに感じたことない痛みにより気が動転する。
もはやユートには歩くことすら出来なかった。
「痛い…くそぅ…なんで…」
もはや絶望しかなかった。
化け物が両手でガッシリとユート捕まえ、大きな口を開く。
あぁ…喰われる……。
その瞬間だった。
「とぁあっ!」
目の前で化け物が真っ二つになり、粉のようになって霧散する。
「っと。間一髪だったな。大丈夫だったか?少年」
目の前には深緑の髪を後ろで束ねた剣士風の壮年の男が立っていた。
……どうやら、助かったようだ。
ユートは安堵でその場に崩れ落ちる。
「おいおい大丈夫か!?って、腕ケガしてるじゃないか。『ヒール』」
男は右手をケガの部分に向けてそう唱えると、手から水色の光が飛び出した。
ユートのケガの部分に当たると、みるみるうちにケガが治っていく。
魔法。
治癒魔法である。
ユートは少し興奮した。
やはりこの世界には魔法が存在するらしい。
少し歩き、座りやすい倒木に腰を降ろして一度休憩させてもらった。
結構歩いた直後に化け物に襲撃を受けるなんて、不登校な引きこもり高校生にとってはオーバーワーク極まりない。
「山本佑斗といいます。先ほどは助かりました。もう少しで死ぬところでしたよ」
「だろうな…。とにかく間に合ってよかった。
俺はアステラ。ここから少し歩いた所に集落があるんだが、俺はそこの長をしている。……といっても小さい集落だから、大したもんじゃないんだがな」
アステラはそういうと、肩をすくめてみせる。
集落、ということはアステラ以外にも人がいるということで。
アステラが長ということは、しっかり話の通じる、理解のある人たちがいるであろうということで。
助かった、とユートは心から思った。
「ところでユートはどうしてこんなところにいたんだ?」
「えっと…それはですね……」
ユートは自室で魔法陣に飲み込まれてから今に至るまでの経緯をアステラに話した。
どう考えても異世界転移だし、信じてもらえるか不安だったが、アステラはすんなりと信じてくれたようだ。
アステラによると、異世界から転移してくる者は少なからずいるそうだ。
そしてアステラの集落ではそういった異世界転移者を受け入れ、保護しているという。
まさに地獄に仏であった。
「とりあえず集落に案内しよう。それからのことは集落についてから考えればいい。ユートがその気なら、集落でずっと暮らしてもいい。俺は歓迎するぞ」
「はい、ありがとうございますっ!」
家にも学校にも居場所がなかったユートにとっては願ってもない申し出だった。
まだ集落を見てもいないのだが、期待に胸が膨らむばかりである。
「…よし、じゃあそろそろ休憩は終わりにして、集落にいくぞ!」
「了解です!」
そうして二人は集落へ向けて、歩きだした。
※地球→佑斗
異世界→ユート
と書き分けています。
次回はアステラの集落で一波乱!