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弱気な彼の強制召喚  作者: 奈瑠 なる
1/8

プロローグ 強制召喚

6/15 内容の大幅な書き換えを行いました。


 ぺら…ぺら……。


 ページをめくる音だけに支配された静寂な空間。

 この静けさが心地いい。

 ……ツライことも、悲しいことも忘れられるから…。




 徐々に春めいてきて、期待に胸を膨らませる4月。

 特に小学校や中学校、高校に大学など「新しい環境」に踏み出す者にとってはその想いも一入(ひとしお)だろう

 ここ、県立倉宮高校に進学した山本佑斗もその一人である。



「俺もとうとう高校生かぁ……。なんか大人ってカンジするな~」


 佑斗は穏やかで優しい性格をした男の子だった。


 授業は真面目に受け、成績はそこそこで運動はニガテ。

 休み時間は読書をし、家に帰れば読書かゲームという生活。

 友達といえるほどの存在はおらず、強いて言うなら本が友達ってところだ。


 でもそこに不満はない。

 なぜなら、読書やゲームをしているだけで充分充実していて、友達の必要性を感じなかったのだ。


 倉宮高校を選んだのも、もちろん友達が進学するから、などではない。

 ただ単に、家から近い普通科の高校だったからだ。


 工業や農業といった、就職に即戦力になりそうな専門系の高校はなんだか難しそうで、趣味の時間が削られそうだったからイヤだった。


 距離が近いっていうのも結構大事なことだ。


 通学で1時間もかかかるような高校だと往復だけで2時間、それが毎日である。

 1か月に登校日が20日あるとしても合計40時間。

 丸二日近くをムダに過ごすことになるわけだ。


 要は彼の進学動機はただ、いつものように読書したりゲームしたりして過ごす時間が少しでも多くなるようにしたい。

 ただそれだけであった。



 彼にとって高校とは、中学の延長線だったのである。


 しかし彼は1年も経たないうちに、この進学選択が大きな間違いであったと気づくことになる。





 入学から1か月経ち、クラスに大まかなグループが出来はじめていた5月の中頃。

 不良グループのリーダーである間島が、メンバーを引き連れ、読書をしている佑斗に声をかけた。


「なあ、お前いつも本読んでんな?暇なんだろ?ちょっとジュース買ってきてくんね?」


 読書をしていた佑斗は顔をあげ、意味が分からないといった風に間島を見やる。


「え?いやいや、自分で買ってこればいいんじゃないの?」

「あ!?てめえケンカ売ってんのか?俺が買えっつったら買ってくるもんだろうが!……痛い目見てえのか?」


 間島が佑斗襟首をつかみ、恫喝する。

 それは佑斗にとっては初めての経験で、初めての恐怖であった。




 不良グループとは常に佑斗のような大人しそうで、使えるヤツを欲している。

 そして小、中、高と学年が上がるにつれエスカレートしていくのだ。

 佑斗は幸運なことに小学校でも、中学校でも不良と出くわすことはなかった。

 なので佑斗の周りではイジメ自体がなかった。


 しかしここ、倉宮高校は偏差値の低い高校である。

 少し離れたところに偏差値の高い倉宮東高校があるため、頭のいい子や、まじめに授業を受けるタイプの子はこぞって倉宮東高校を選び、不良やバカが倉宮高校に集まっていた。


 佑斗は授業はまじめに受けるタイプで成績もそこそこ良かったので、倉宮東高校でも余裕で受かる学力はあった。

 しかし先ほど挙げた理由により、倉宮高校というバカ高校に進学してしまったのである。


 なので、不良に対する佑斗の耐性はゼロで、不良にとっては恰好のエサでしかなかった。


「…ッ!」


 恐怖で縮こまりながらも辺りを見回す。

 しかしそんな状況の中、彼を助けてくれるヒーローのような存在など、現実には存在しない。

 皆一様に、関わり合いになりたくないと目を背けるだけ。

 それが、学校のイジメ現場における一般的な在り様であった。




 それからというもの、買い物や雑用などをしょっちゅう命令してくるようになった。

 でもイヤとは言えない。

 友達も仲間もいない孤立無援の状態で刃向かうほどの勇気を彼は持ち合わせていなかった。


 イジメはさらにエスカレートし、ジュースを買った金すら渡さなくなった。


 ……そして、ジュースを買う金が足りなかったある日


「あぁ!?調子こいてんじゃねーぞ!!金は用意しとくもんだろうが!オラッ!」


 ついに暴力を振るわれたのである。




(こんなはずじゃなかった。俺はただ、いつもの平穏な時間が欲しかっただけだったのに……。)


 佑斗は苦悩した。

 最近はジュース代を払わされているため、ロクに本も買えない状態だったのだ。


 周りの生徒は誰も助けてはくれない。

 教師や家族には言えるわけもない。

 だからといって抵抗することも出来ない。

 唯一の趣味である読書に使うためのお金も削られていく、そんな現状。


 彼にはもう、絶望しかなかった。




 暴力を振るわれた週の土日。

 彼はどこにも行かずに、自室でひたすら考えた。

 どうすればこの地獄から抜け出せるのかを。

 読書もゲームもせず、ベッドに潜ってひたすら考えた。


 そして、明くる月曜日。彼は学校を休んだ。


 不登校になったのだ。



 親には申し訳ないと思っているが仕方がないのだ。

 そう、全ては世界が悪い。

 ”普通”というほんのささやかな幸せさえくれない世界が悪い。


 佑斗は自分にそう言い聞かせ、自室の書棚にある本を一冊取り出す。


 佑斗は主にファンタジー系のライトノベルが好きだった。

 剣や魔法がある異世界で主人公が仲間と共に悪いヤツをどんどん倒していく。

 憧れていた。

 自分も物語の勇者のようにバッタバッタと敵を倒せたらどれだけ爽快だろう。

 そんなことを最近、よく考えるようになった。



 ……そんなことを考えていたのがいけなかったのかもしれない。



 急に、なんの前触れもなく、自室の床が紫色に輝きだした。

 驚いたユウトは読んでいた本を取り落とし座っていた椅子から転げ落ちた。


 丸い円の中にびっしりと見たこともない文字が浮かんでいる。

 よく異世界モノで出てくる魔法陣っぽい感じだ。


「は…ハハ…。…やばい……読書疲れで幻覚が見えてるのかな……。ちょ、ちょっと休憩にーー」


 佑斗は気を落ち着かせる。

 だってあり得ないし、魔法とか魔法陣とか、そんなのは空想上のものであって現実で存在しているハズがないじゃないか。

 佑斗は落とした本を拾うために魔法陣の上を通る。


 ズルッ…


「え?」


 佑斗の自室は板張りの洋間である。

 床は柔らかさなどカケラもないただの板。

 そのはずなのに。

 ……足が床の中に沈み込んでいた。


「え、ちょっ……えぇ!?」


 徐々に床にめり込んでいく足。

 ジタバタしようとしても全く足が動かなかった。

 まるで床下から何かに引きずりこまれるような感覚が佑斗を襲う。


「っていやいやいや!ちょっと!これはシャレになってないって!!……夢!?夢だよね!??」


 もう既に下半身は床の中だ。

 ジェルのようなものに覆われているような感触。


「母さんーっ!!ちょっとっ!ちょっときてぇええっ!!」


 叫んでみたものの誰も来る気配はない。

 魔法発動中は周囲(部屋の外)に音が聞こえなくなるという、ありがちなアレかもしれない。


「や!……待ってちょっとまって!!ちょっとタンマぁっ!!」


 もう首から下は飲み込まれてしまっている。


「…ッ!!死ぬ……これはガチで死ぬってまって!ちょっ…あぁあああああっっ!!!」



 ……彼は紫色の魔法陣に飲み込まれてしまった。


 

次回は強制召喚先の話になります。異世界で待ち受けているものはなんなのか!?おたのしみに!

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