【THE TRANSCEND-MEN 】ー超越せし者達ー(著:タツマゲドン)をリメイク
『【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー』
タツマゲドンさんの小説のプロローグをリメイクさせていただきました。
オリジナルはこちらです。
http://ncode.syosetu.com/N6024EB/
ただがむしゃらに地面を蹴って逃げる。
どこへ逃げたら良いのか、出口はおろかここは何処なのかも分からないけど逃げ続ける。
後ろを見れば追っ手が確認できたが、奴らについて何も知らない。
分からない。分からないことだらけだ。
だが捕まりたくない。ただそれだけ。
だから一心に走り続ける。
白に染まった廊下を駆け抜ける最中、曲がり角で「奴ら」の仲間の1人に遭遇した。
黒い上下の防弾・防刃スーツに包まれた兵士、いや、特殊部隊と思われる格好をした人物がこちらへ駆けてくる。
顔はバイザーヘルメットに覆われて見えない。
拳を構えている。
腰や背中で銃器が揺れていたが、目的は殺傷ではなく、自分を捕える事らしい。
ジャブ、ストレート。
両腕を咄嗟に頭の高さまで持っていきガードする。
相手が腕を引く。その腕を左手で掴み、側頭部へ右拳を打ち付けた。
相手は軽く吹っ飛び、倒れ、起き上がることはなかった。
だが、戦闘はまだ終わらない。
元から追って来た奴によって後ろから羽交い絞めにされた。
奴の仲間が正面から棒状の物体を突き出す。
足を強く踏みつけ、拘束を緩める。
片足を軸に体を回転させ羽交い絞めしていた奴を盾にした。
――――バチィッ!
火花の音が鳴る。棒状の物体はスタンバトンか。
拘束は外れ、ただの重荷となった奴を投げ捨てると、頭を突き刺す様にスタンバトンが出されるとこだった。
バトンを持つ右腕の手首を左手で掴み、更に来る左フックも正面から掴み、一瞬の膠着に持ちこんだ。
繰り出される膝蹴りを右肘で受け止め、掴んだ相手の左手首を一気に折り曲げる事で相手が痛がる素振りを見せる。
背後から足音が聞こえた。
振り向くと後方から来ていた別の仲間3人が同じくスタンバトンを突き刺そうとしている。
……遅い?
突き出されるバトンがゆっくりと見えた。
蹴り飛ばす。
。それぞれの手に握られたバトンが弾き落とされた。
3人は武器を失い、立ち止まる。
抑えていた奴の右腕を両手で掴み、後ろへ投げ飛ばす。
後方に居た1人に当たって倒れた。
残り2人が自分を挟む様に位置取る。
囲まれた。
右からは連続パンチが、左からは前蹴りが飛んでくる。
見事な連携だ。
足を掴み、パンチを逸らすが厳しいものがある。あっという間に左に追いやられてしまった。
渾身のストレート。
咄嗟に左手で掴んでいる足を引っ張り、頭を下げる。ストレートは囲んでいたもう1人の顔面へ命中した。
そこを逃さず、1回転。
パンチを放って隙だらけな奴の膝を左足で蹴り折り、反対側の、ストレートをお見舞いされた顔面へ後ろ蹴りを綺麗に当て、吹き飛ばした。
膝の痛みに負けてひざまずいてる奴には、後ろへやった右足を反動と合わせて曲げ戻し、その勢いを合わせて相手の顎へ膝蹴りを決めた。
相手は後頭部から壁へ叩きつけられ、壁に割れ目を作る。
だらしなく落ち込み、動きを止めた。
空を裂く火薬音。
どうやら息をつく間もないらしい。
肩に何かが突き刺さった。
見ると、針状の物体が血管に刺さっている。直感に従って素早く引き抜いた。
針先からはよく分からない液体が滴り落ちている。恐らく捕獲用の麻酔弾だろう。麻酔が効く前に抜いて正解だった。
振り向くと、銃を構えた大量の人影。
黒く塗られた金属質の表面は一切表情と人の気配を感じさせない。人型兵士ロボットである事は一目見て分かった。
素早く移動し廊下の曲がり角を盾に次々と迫り来る弾丸を防ぐ。こちらへ来る前へ逃げ切らなければ……。
今度は正面に3体のロボットが待ち構えていた。次の分岐路はその丁度後ろ。
少ない方がずっと良い、そう判断し体を前方へ加速させる。当然向こうは銃を構える。
発砲。
妙だな……見えるぞ。
弾道に合わせて体をずらし、ひねる。
銃弾は体ギリギリを掠めて後方へ抜けていく。
横に広くばら撒かれた銃弾に対し、体を起こしながら斜め前方へ跳び上がる。着地時に地面を転がって一気に距離を詰めた。
向けられた銃口に対し、体の正面からの表面積を出来る限り小さくし、スライディング。
遂にロボット達の足元へ辿り着いた。
真ん中のロボットの足元を蹴ってバランスを崩す。
起き上がりながら左の1体へローキックを繰り出して地面へ倒した。
右の1体から銃を向けられている。
次の瞬間、視界が揺らいだ様に思えた。
発砲された銃弾がとても遅く見える。
胸へ刺さろうとしている銃弾を横から指で取り、放り捨てた。
自分でやった事なのに信じられない。
しかし今は状況を打破する方が先だ。
銃を構えたままのロボットへ突進し、駆け込みの勢いを乗せたブローを腹部へ放つ。
手応えと共に堅い物体の破砕音が聞こえた。
改めて見ても金属で出来ている筈のロボットのボディは割れ、内部の機関部が覗き見えた。
不意に足を引っ張られる感触。倒れていたロボットが足を掴んだのだろう。
対処すべく、掴まれた方とは反対側の足を倒れているロボットへと振り下ろした。
金属がひしゃげる音と同時に火花が散り、動かなくなった。
続けて正面のロボットが殴り掛かって来るのを確認し、迫るストレートを頭を傾けて避け、カウンターへもう一回装甲の破れた部分へ拳を叩き入れる。こちらも火花を散らしてがっくりと倒れた。
最後の1体が後ろから銃を構えていた。引き金が引かれ、針状の麻酔弾が発射される。
迫り来る銃弾に対し体を後ろへ逸らした。倒れ際に、銃弾が胸の上を掠めたのを感じた。
後方に倒れながら回転し、丁度あった壁に足を着ける。折り曲げた足を勢い良く伸ばし、突進しながらナックルをロボットの顔面に叩きこむ。
頭を抉られたロボットが動かなくなるのを確認したところで、来た道から足音が聞こえて来た。
これは勝てない。
なぜかそう思い交差点を曲がり逃走を再開する。
人間やロボットが飛び出して来たが大半は振り切り、しつこく追ってきたり掴んだりしたのはやむをえず撃退した。
これなら逃げられるか……?
「お前は逃げられない」
タイミングよく考えを否定する声。
自分にかけられたものだということはすぐに分かった。
何故なら、声の主は正面に堂々と立っていたからだ。
自分よりも頭一個分大きい男性が1人。
その引き締まっているが、大柄な身体は行く手を遮るのに十分過ぎた。横にある筈の通路の隙間が無い様に感じる。
次の瞬間、5メートルは距離があった筈なのに男はいつの間にか目の前に移動しており、ボディブローを放っている最中だった。
なんとか腕を腹の所へ持って行き、どうにか肘付近で受け止めた。
――――強いっ!
威力を抑えられず、受け止めるだけで後ろに吹き飛ばされて背中から着地した。
後ろを見れば他の兵士やロボット達が集まっていたが、あの男に一任している様だ。
余程あの男が強いのか……しかし倒す他にここを突破する手段は無い。
手を着いた反動で起き上がり、次なる攻撃に備えようと身構える。
が、既に男の姿はすぐそばにあった。
男の両腕から繰り出される連続撃を躱し、前蹴りを放つ。
しかし、蹴りは男の手によって阻まれ、足を掴まれた。
勢い良く引っぱられ、出した足の付け根に手刀が入る。
思わずよろめいてしまった。
男が隙を見逃すはずもなく、足ごと持ち上げられ、真横にあった硬く白い壁とお見合いする。
肺から息が吐き出された。
更に前方からパンチの嵐が襲いくる。
腕を必死に動かして防御を試みるが、意味をなさない。
衝突の度に背中で衝撃が起こる。
気付けば背中が壁にめり込んでいた。
負けるわけにはいかない。
己を奮い立たせ、向かってくる拳を受け止めた。
伸びた腕の先にある肩に1発、手刀を当てる。
男は一瞬後退した。
その隙を逃さず、手数を重視した多数の拳を浴びせる。
しかし、男はあらゆる角度から来るそれらを冷静に対応し、払い除けてみせた。
だが相手が防御しようと後退しているのが分かる。それを知り、一気に攻めに転じようとした。
「確かに強いし、技もある」
刹那、相手が何か喋った。
何が言いたいんだ?
「だが……」
男の右腕が今までよりも格段に速く動く。
男の腕が光った様に見えた気がした。
腕をかざして攻撃を防ぐごうとしたが、男はパンチに見せ掛け、自分の腕を掴んでいた。
「お前と俺とでは根本が違う」
男の掌が光り、輝きが自分の身体へ流れ込んだ。
次の瞬間、体が揺さぶられる様な感覚を覚え、力が抜ける。
「アンダーソン、やはり見込み違いか……」
何か呟く男だったが、次第に何も聞こえなくなった。
瞼も重くなり、視界が塞がれた。後は皮膚に張り付く床の感触……やがてそれも消えた。
なんでなんだ……ただ、この世界が嫌なだけなのに……。
『始めようか』
場慣れした通信機越しの声。
「支援ありがとうございます」
「いつもサンキューな、ハン」
前者は恐らく10代ほどの緊張した少女の声。後者は20代後半と思われる落ち着いた男性の声。
『ああ、ただし妨害は30分程度しか持たないから気を付けてくれ』
「はい、分かってます」
少女の張り切った声と、
「土産はあまり期待しないでくれよ。帰ったら一杯やろうや」
男性からの軽口。
『リョウ、安く言わんでくれ。運が逃げるぞ』
通信機越しの声は冗談と分かっていながらも苦みを帯びた返事だった。
それを見かねた男性は――
「じゃあ2杯ならどうだ?」
懲りずに冗談を吐き続けた。
『いや、じゃあどうだ? じゃなくて。数的な問題じゃないぞ』
「リョウさん、任務前だから集中しましょうよ」
しかし、呆れた様に2人から叩かれる始末だった。
「ほら、お前の所為でアンジュちゃんにも怒られたじゃねえか」
『知るか! お前は何で何時も空気を読まないんだ?』
「というかちゃん付け止めて下さいよ!」
「へいへい、集中すれば良いんだろ?」
しつこくジョークを繰り返しても打開策にはならず、重ね重ね2人に叩かれる始末。
なので今は集中する事にしようか、と気を引き締め、左手首の腕時計に右手をやった。
『30分経ったら攻撃するからそれまで脱出しておいてくれ。では、3、2、1……始め!』
「開始です!」
「おう!」
2人は通信の掛け声と同時に腕時計のタイマーを残り30分に設定した。
通信を切り、2つの影は目の前1キロメートル先にある建物へ向かって駆け抜ける。