あなたがいたから(著:ココナッツ)をリメイク
『あなたがいたから〜一章〜』
ココナッツさんの小説のプロローグをリメイクさせていただきました!
オリジナルはこちらです。
http://ncode.syosetu.com/N7471EH/
ずっと昔のこと。
母と一緒に、席が埋まるくらいに混んでる電車に乗っていたとき、とても気分が悪かった。
体の内がむずむずして、とにかく気持ち悪かった。
それは、乗り物酔いをしたときと似ていたと思う。
「お母さん、気持ち悪い。座りたい……」
朦朧とする意識の中、私は求めるように母を見上げた。
綺麗にウェーブのかかったツヤツヤと煌めく黒い髪。
今の私にはない黒い髪を下から見上げた。
その時の私は小綺麗な喪服を着せられていて、父方の祖母の葬式に向かう最中だった。
既にどちらの実家とも繋がりは全くないけど、幼いながらに不思議な心情を抱くことがあったのかもしれない。今となっては思い出すことすら叶わなくなってしまった。
母は憎悪のこもった目で私を見下ろす。
それはとても、とっても怖かった。
普段は私のことなんか見向きもしないのに、その時だけはしっかりと私を捉えた。
あの日から私は、魔法にかけられたかのように人が変わった。
鋭く射抜くようなキツい視線は、私の感情に蓋をかぶせたのだ。
言われたことにぐずらない。
帰ってこなくても泣かなくなった。
家事洗濯を着々とこなす。
そんな、大変聞き分けのいい子どもになった。
母が泥酔して帰ってきた日には汚物の処理だってしてあげた。
なんだか、以前は細かく気にしていたことがどうでもよくなったのだ。
そんな母は今頃、私のことなんて忘れてどこの誰とも知らない男と遊んでいるんだろう。
正直、母のことは殺したいくらいに嫌いだ。
でも感謝はしている。
あなたがいたから、私は手のかからない子に育ちましたよ。