レディアント・ロード(著:hygirl)をリメイク
『レディアント・ロード』
hygirlさんの小説の1話目をリメイクさせていただきました。
オリジナルはこちらです。
http://ncode.syosetu.com/N3093EN/
この世界には、「能力者」と呼ばれる者たちがいる。
彼らは様々な「能力」を行使する存在だ。
炎を吹いたり、氷を作ったり、その能力は千差万別である。
計算能力とか言語能力などでは能力者と呼ばれることはない。
特殊な、人の身ではすることのできない力を使えるようになって初めて能力者と呼ばれるのだ。
話は変わるが、ある存在について説明しておこう。
――――精霊。
霊とつくからには幽霊とか怪奇の類かと思うが、まったくそんなことはない。
「精霊」は人の姿をとり、誰にでも認識できる。
稀に狼や熊など、動物の「精霊」や「付喪神」のようにモノに宿る精霊も存在する。
能力にも精霊にも共通点がある。
それは「魔力」という名のエネルギーを必要としていること。
炎を吹くにしても魔力がなければ何も起きない。
氷を作ろうにも魔力がなければ何も作れない。
魔力がなければ精霊は動くことすらできない。
さて、能力と精霊では魔力の捉え方が少々異なってくる。
精霊は主となる人間と契約して初めて存在を保てる。
つまり、人から魔力を受け取っている。
逆をいえば魔力を受け取れないと精霊は消えてしまう。
契約が解消されるわけではないので消えても魔力が回復すれば次の日にはまた呼べるが。
能力者と精霊に分類されないのが一般的な「人間」。
そんな世界で、ある呼び名により忌み嫌われている者がいる。
――――無能。
それがただ一人、彼が与えられた呼び名。
***
朝七時半頃。
うるさく鳴っていた携帯電話のアラーム音が消えた。
消した手の主、姫神ヒロムはベッドから体を起き上がらせるわけでもなく、ただただ微睡んでいる。
「……」
赤いボサボサの髪、目を開けば可愛らしいピンク色の瞳、他は何の特徴もない。
背丈は学生としては普通より高い程度、体型も普通。
それが姫神ヒロムだ。
「……メンドーだ」
小さな声で一人呟いていると携帯電話にメッセージが入る。
無料通話のアプリによるトーク機能。手軽さ故に今では万人が手放せないアプリ。
ヒロムはこれをムリヤリに使わされている。
とりあえず画面を見た。
「オマエのことだ。まだ眠いとかで寝てただろ? さっさと準備しろ。いつものことだからオレは待っている」
親友からのメッセージ。
こちらを見透かしたかのような文面には慣れている。
「……行くか」
既読して待たせるわけにはいかない。
そんな理由で起き上がったが、テンションは底に落ちている。
***
数分後、ヒロムは制服に着替えて家を出て近くのコンビニに寄った。
寄り道ではなく、親友との待ち合わせの場所だからだ。
店内に入るなり雑誌コーナーに向かう。
ヒロムと同じ制服を着た金髪碧眼の少年がいた。
整った顔立ち、スラっとした背丈、見ただけでモテているであろうことが想像できる。
「待たせたな、ガイ」
声をかけると雨月ガイは読んでいた本を元の場所に戻した。
「いつものことだ。慣れている」
「……へえ」
返事に興味すら示すことなく辺りを見渡す。
誰かを探しているようだ。
「やっと来たか」
レジの方からオレンジ色の髪の少年が歩いてきた。
相馬ソラ。
ガイと同じくヒロムの親友。
制服の下にパーカーを着ているのがチャラく見えるが、本人はただのおしゃれだと主張し、「チャラ男」と同族扱いされるのを嫌がる。
「またコンビニ弁当か?」
「まあな。オマエのも買っておいた」
「そうかよ」
適当な返事をすると先に外に出た。
それに続くようにガイとソラが出てくると、三人は学校に向かって歩き始めた。
「こんなゆっくりで間に合うのか?」
「オマエが言うな。どうせ十分くらい歩くだけだ」
歩く速度に文句を言うヒロムに対してソラが言い返すと、なぜかため息をついた。
「……十分もか」
「十分で文句言うなよ? オレもソラもおまえが起きる二十分前には家を出ていた」
「……よく通う気になるな」
ところで、とヒロムが面倒くさそうにする隣でガイが話題を変えた。
「昨日の部室爆発、能力者の仕業らしいぞ」
「ああ? なんだそれ?」
「……サッカー部の部室が爆発して騒ぎになってただろ? 知らねえのか?」
知るか、とわざわざ説明してくれたソラの言葉に対して冷たく言うと、ヒロムは何食わぬ顔で歩いていく。
そんなヒロムに呆れながらもガイは注意した。
「……少しは興味持てよ。オマエも巻き込まれる可能性があるんだぞ?」
「知ったところでオレは関与しない。オレはそいつを捕まえたいとは思わない」
ガイとソラは理解した。元からヒロムはこんな人間だということを。
正義の味方。
ヒロムが何よりも嫌うこの言葉。
正義という己の価値観の押し付けでしかないと忌み嫌う。
事実、人によって正義の形は異なるから一理ある。
もっとも、ヒロムが関与しないのはそんな理由からではなかったわけだが。
「オマエの場合、面倒くさいって言って終了だしな」
「ああ、そうだ」
ガイの問いに当然のように断言するヒロムに、二人はため息をついた。
「……まあ、万が一巻き込まれたら無事を祈るしかねえよ」
***
都立姫城学園。
都内にある高校では大きな敷地を持つが、学業や部活成績などは一般レベル。
唯一他と違うのは能力者とそうでないものが一緒にいること。
近年増加する能力者に対して能力者育成を目的とした能力者の学校が設立され、徐々に双方が別の場所で学ぶことになりつつある。
しかし、この学校だけは双方の共存を考え、今の形になっている。ともに協力し、より良い関係になれるようにと。
ヒロムら三人は二ヶ月ほど前の春に入学したばかり。つまり、ここの生徒だ。
一年C組、ここがヒロムたちのクラス。
「お、やっと来たか」
教室に入るなり、黒川イクトに出迎えられる。
黒髪に黒い瞳、アイドルと言われてもおかしくないその容姿の少年との関係性は言うまでもない。
ヒロムの親友だ。
「間に合ってるから大丈夫だ」
「ギリギリだろ?」
「……うるせえ」
イクトの挑発にも似た言葉に対してヒロムは軽く舌打ちをしながら睨んだ。
「それより何かあったのか?」
ガイは教室を見渡してイクトに尋ねる。妙に静かだった。
イクトはそれを予想していたのかのように話始める。
「未遂とはいえあんなことがあったからな。夜中に誰かが侵入したらしく、爆発物があったのを発見。朝九時にタイマーのついた爆弾がテニス部の部室から発見したらしい」
「それでこの静けさか……ってタイマーの時間おかしくないか?」
ガイが気付いたタイマーの時間。
爆弾を仕掛けるにしても時間が変だというのはわかる。
わざわざ夜に忍んでまで仕込んだというなら人の多いとき、例えば朝練の時間にしてもおかしくなかった。
ガイとソラが難しそうに考えている横でヒロムは他人事のように自分の席に向かう。
二人はその反応に慣れているとはいえ、このまま無関係に終わるとは思わなかったためヒロムに言う。
「犯人の狙いがわからないからおまえも危ないだろ?」
「それに大事になればさらに厄介だぞ」
「……あのな、偽爆弾は回収されたんだろ?」
「まあ、回収され……え!? なんで、それ知ってんだよ!?」
ヒロムの言葉にイクトは驚き、思わず大きな声を出してしまう。
「言ってたか?」
「初耳だ」
ガイとソラが互いに確認する中、ヒロムはため息をつくとガイたちに説明を始めた。
「ガイが言ってただろ。犯人は能力者だって」
「確かに言った。でもそれと今は……」
「犯人にとってオレらが動揺するのは計画の一部。そのためにフェイクを入れるのは不思議なことではない」
ヒロムの言葉に三人はピンと来ていなかった。
それを察したヒロム続けて説明した。
「……メンドーだな。犯人にとって重要なのは爆発「させる」ことではなく爆発「させた」ことにある」
「させたこと?」
「犯人が無計画なら別にトイレでもどこでもよかった。なのに二件とも部室、それも人がいる時間が限定される場所。つまり、人がいるかいないかはたいしたことではない。オレらがそれを受けてどう反応するかを見たいだけだ」
ヒロムの言葉を聞いた三人はおろか、教室にいた全員唖然としていた。
「……何?」
「オマエ、探偵目指してんの?」
「ああ?」
ガイの言葉を聞いて不快感を露わにしながら威圧的な態度をとるヒロム。
そんな中でソラはヒロムに一つ尋ねた。
「犯人の目的は?」
「知らん」
荷物を机に置いたヒロムは教室の入口へと歩いていく
どこに行くつもりなのか、それが気になったガイはヒロムに確認した。
「どこに行くんだ?」
「トイレ。……覗くなよ?」
「「覗くか!!」」
茶化すようなヒロムの言葉にガイとソラは思わず声を揃えて否定した。
そんな二人を他所に、ヒロムは何か思い出したかのような顔をするとガイたちに告げる。
「あ、そうだ。さっきのだけど、仮にオレなら体育館に本物を仕込む」
「「!!」」
***
HR中にヒロムの話を聞いた生徒が教師にその内容を伝えたことで教師たちは体育館に向かい、結果小さな爆弾を見つけた。
否、爆弾というには単純すぎるものだった。
火薬の入った袋になぜか目覚まし時計が置かれた状態。それが「爆弾」として発見された。
職員室になぜか呼び出されていたヒロムは面倒くさそうに自分を呼び出した教師を見ていた。
「…で、カルラさんよ。オレに何のよう?」
「いやあ、参ったすよ」
滝神カルラ。一年C組の担任教師。黒いマスクで口元を隠し、ダルそうにしていた。
教師に対しての態度ではないが、ヒロムとカルラの間柄では一切問題ない。
「オレは犯人じゃない」
「わかってるよ〜。でも君の考えを聞きたくて。」
カルラの言葉にため息をつき、舌打ちをし、さらにため息をついた。
「そんなにイヤですか〜?」
「考えも何も、体育館以外はでたらめだ」
「……え?」
ヒロムの言葉。それは適当なものだった。
予想外とはこのことだろう。
カルラのマスクで半分見えない表情ですら驚きを窺える。
「でも聞いた話じゃ……」
「確かに場所はどこでもいいと思う。でもオレ犯人じゃないから知らねえもん」
「え……え〜……」
でも、とヒロムはカルラの呆れた顔に向けて言った。
「犯人の数はわかる」
カルラの表情が変わった。
「単独犯じゃないのかい?」
「多分だ。一件目、二件目、三件目(未遂)のやり方が単独犯の場合、攪乱にしては雑すぎるし、三件に共通するのはせめて「運動」に関してってところだ。仮に単独だとして一件目に派手にやるだけやって三件目には材料放置じゃ中途半端すぎる。で、ここまでの話から一件目は一人で二件目はフェイクで一人、三件目はあの材料の量から複数だと思う」
「えっと……つまり?」
「三件目……っていう言い方も変だな。三件目はあそこが目的ではなく、あそこが集合場所だったって話」
「つまり……」
カルラの言葉を遮るようにヒロムの携帯電話が鳴る。
ヒロムは携帯電話を取り出すと――
「アラームだ。ここからは追加料金もらうから」
「お〜い、一応オレ教師だよ〜?」
「まあ、犯人捜しはここまでってことで」
「え、ちょ…」
カルラとの話を一方的に終わらせたヒロムはある場所に向かった。