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僕たちの異世界転生はTV局に仕組まれていました〜最初の犠牲者は最強チート高校生!?〜(著:酒井プロデューサー)をリメイク

『僕たちの異世界転生はTV局に仕組まれていました〜最初の犠牲者は最強チート高校生!?〜 』


酒井プロデューサーさんの小説の1話目をリメイクさせていただきました。


オリジナルはこちらです。

http://ncode.syosetu.com/n5327ef/

□西暦2032年/PPPテレビ


 緑に染まった撮影スタジオ。


 簡素としか言い様のない机と椅子、大きなスクリーンに様々な撮影機材が並んでいる。


 もちろん人もいる。


 これから番組の撮影が始まるのだから当然だろう。

 若い女性アナウンサーと、初老の大学教授が番組の原稿に目を通している。


 プロデューサーがスタジオに入ってきてスタッフ達にあれこれと指示を出す。


 ADがカウントダウンを開始した。


 3、2、1、0。



 ――撮影スタート。



柿本「さあいよいよ始まりました新番組『エセカイ転生TV』。実況を務めさせていただきますのはワタクシ、PPPテレビアナウンサーの柿本です」


柿本「そして今回解説をしていただくのは異世界転生に詳しい専門家、岡崎教授です」


岡崎「岡崎です。よろしくお願いします」


柿本「よろしくお願いします。早速ですがこの番組の趣旨を説明いたしましょう」


柿本「え〜、この番組は近年若者を中心にブームが再燃している『異世界転生』を題材にした、全く新しいドッキリバラエティーとなっております」


柿本「それで岡崎教授、『異世界転生』とはいったいなんのことでしょうか?」


岡崎「異世界転生とは、我々が実際に生活している『現実世界』とは『異なる世界』に『転生』、つまり生まれ変わるということです。元々はWeb小説のジャンルとして流行したものでしたが近年、第二次ブームが来ていますぞ」


柿本「へ〜、そうなんですか。ワタクシが学生だった時は学園異能ラノベが中心でしたので、異世界転生についてはさっぱりなんですよね〜」


岡崎「そうでしたか。ですがこれを機に少しでも興味を持ってみて欲しいですぞ」


柿本「機会があれば少し異世界転生の小説を読んでみようと思います。さて、そんな若者を虜にする『異世界』ですがなんと、当番組が製作に成功しましたっ!」


岡崎「ほう、それは凄いですね。そこにドッキリ被害者を『転生』させる訳ですな」


柿本「そうです。そして彼らがいつエセの異世界、『ヱ世界』だと気づくのか。そこまでのタイムを計っちゃおうというのが今回の企画なのです」


岡崎「……これはなかなか凄い企画ですな。異世界転生をテレビ番組に、とは事前に聞いていましたが、まさかこんな物だとは思ってもみなかったですぞ」


柿本「全く新しいというのがこの番組のウリですからね。詳しくないので、よくわかりませんが……」


柿本「話しは変わりますが教授、この企画にはどのような人が向いていると思いますか?」


岡崎「うむ。異世界転生が好きで、常識力に欠けているが適応能力は優れた男性ですかな。いつまで信じられるかは本人の暗示次第だと思うのですぞ」


柿本「そうですかね? ワタクシはその逆、具体的には主婦の方のほうが、案外上手に非日常を受け入れそうですけれど」


岡崎「ほうほう。まあ実際に見てみない事には……。そこら辺は今後の展開で明らかになっていくでしょうな」


柿本「ですね。それでは第一回目ということで気合を入れていきましょうか!」


 ADが柿本にカンペを手渡す。


 柿本はカンペを確認し、そのまま読み上げる。


柿本「おっと、どうやら『転生者』がドラマスタジオに到着した模様です。早速中継を繋いでみましょう」





□G県某所/ドラマスタジオ


 野外に設置された仮設スタジオ。


 段ボールで作成された大道具が置かれている。


 神殿をかたどったセットの中には、横たわる少年と立派な白髭を蓄えた老人の姿がある。

 複数の隠密ドローンカメラが撮影している。





岡崎「これが『ヱ世界』ですか。ふむ、グリーンバックと段ボール製の大道具が特徴的ですがこれでどうやって『転生者』を欺くのですかな?」


 ADが二人に飴粒大のケースを手渡す。


柿本「実はなんでも、『コレ』が異世界を作り上げる肝みたいですよ」


 岡崎がケースを開けると、その中にはコンタクトレンズが入っていた。


岡崎「これは……使い捨てのコンタクトレンズですな。『コレ』のどこが凄いのですかな?」


柿本「実はこれ、VRコンタクトレンズなんですよ。そして特殊なグリーンバックスクリーンを活用し、ARの技術を組み合わせているそうです。いわばMR、複合現実を再現するらしいですね。あっ、実際の映像がこちら」





 仮設スタジオが大型スクリーンに映し出される。

 段ボールでかたどっただけの神殿は、パルテノン神殿を彷彿とさせる外装とバロック建築風の豪華な内装を持ったセットに様変わりしていた。

 白髪の老人はウール布を巻いた古代ギリシャの格好に変化している。





岡崎「ほう、これはこれは。なかなかの完成度ですな。現実世界の建築様式がごっちゃまぜになっているのも『異世界』感がして良い。これは騙される人は騙されると思いますぞ」


柿本「ですねぇ〜。おっとここで『転生者』、望月トオルくんが目覚めたようです。岡崎教授、彼が一体どのような反応を示すのか気になりますねぇ」


岡崎「うむ、異世界転生が好きな子ならば、このようなシチュエーションを何回も妄想したことでしょう。しかし実際に転生するとテンパりそうですな。ちなみにこういう時の『テンプレート』だと、主人公はなんとか冷静を装い神に気に入られますぞ」


岡崎「そして、異世界転生小説のお決まり、『チート能力』が手に入りますな」


柿本「しかし、なんで世界の管理者たる神が一人の人間に気前よくチート能力を与えるのでしょうか?」


岡崎「柿本さん、この世には触れないほうが良いこともたくさんあるものですぞ。特にこの界隈で長生きしたいならね」


柿本「そうなんですか? なんか怖いですね。おっと今回の転生者、望月トオルくんですが異世界転生小説が大好きな『普通の』男子高校生(17歳)だそうです」


岡崎「彼がどういった行動を取るのか、リアクションが気になるところですな。」


柿本「では早速確かめてみましょう。『転生者』に視点をチェンジッ!」





□G県某所/ドラマスタジオ


 俺はどこにでもいる普通の高校生、望月トオル。


 なぜか分からないが、めちゃくちゃ豪華な装飾が施された場所で目が覚めるという異常な事態に陥っていた。


 確か……。


 土曜日の午前授業が終わったあと、本屋へと一目散に異世界転生小説を買いに行った。

 そこで入荷した新刊に描かれていた『金髪碧眼エルフ』に目も心も奪われていたところで記憶が途切れている。


 うん、よく分からないな。


 けだるい身体を起こしながら周りを見渡すと、近くに人の姿があった。


 立派な髭を蓄えた、白いローブを身にまとった白髪の老人。

 俺と目が合ったことに気づいて喋りだした。


「ほほほ〜、目が覚めたかの? わしはゼウス。全知全能の神なんじゃよ」


 ゼウスとやらが会釈すると同時に後光が差し込み、茨の冠は花をつけ、手に持つグラスの中の水はワインとなった。


 ルネッサーンス!


 ……なんでもない。


 ゲフンゲフン!


 とにかく、こんな奇跡を起こせるゼウスとやらは神様以外の何者でもないと確信した。


「どーも神様。俺は望月トオル、高校生だ」


 挨拶は大事だ。古事記にもそう書かれているから間違いない。


 ゼウスと自己紹介を行い、握手を交わす。


「ほほほ〜、きちんとした挨拶は近頃の若者にしては随分珍しいのう」


「ありがとう。……それでここはどこだ?」


「……天界じゃ。すまんのぉ。お主はわしの手違いで死んでしまったのじゃ」


 ゼウスは頭を下げた。


 手違いで死んでしまうとかあっけない末路だったな、俺。


 しかし、いくら手違いとはいえたかが人間つちにんぎょうを殺したぐらいで謝るのか?


 ………………まさかッ!


 あー、そーゆーことね。完全に理解した。


 これは名推理間違いないわ。


「天界って、要は天国のことなのか?」


「そうじゃ。それでお主の死因じゃが、わしが誤って原初の雷『神成かみなり』を――」


 こいつなに言ってんだ? 神じゃなかったんかよ。


「いや、それは違うだろ。俺の死因は『ラグナレク』に巻き込まれた事だ」


「ひょ? 『ラグナレク』!?」


「さて、『本当の死因』を話してもらおうか。こちらは全部分かってんだ。ラグナレクも、――唯一神位継承権の事もな」


 極めて冷静かつ沈着に『この世の真実』をゼウスに問う。

 痛いところを突かれたのか、苦虫を噛み潰したような顔で押し黙ってしまった。


「……ほほほ〜、お主は頭も回るようじゃの。この世界で生きていたらさぞ大物になれたろうに……すまぬ」


 視線をさまよわせ、ゼウスは事の真相を話し始める。


「『ラグナレク』とは『唯一神位継承権』を巡る大戦争じゃ。」


「やれやれ、神というのはどいつもこいつも傍観主義だと思っていたんだが……」


 まさか世界中の信者から集めた金を使ってそんな下らない事をしていたとはな。


 俺のばーちゃんが聞いたらぶっ倒れてしまうぜ。ブッタだけにな。


「なんとでもいうがよい。それが神々なのじゃ」


「ふん。人間界への不干渉が絶対原則の天界、さらに神魔中立地帯『日本』に住む少年を。そんなミスは許されないんじゃないのか?」


「確かにそうじゃ。もしこのことが他の神にバレてしまえば、いくら全知全能のわしといえど失脚は免れないじゃろうな」


「だが、たかが人間つちにんぎょうの為にそうなりたくない。ゆえに謝罪して事態を隠ぺいしている訳か」


「……大変申し訳ないことをした」


 先程よりも深く頭を下げ、謝罪するゼウス。

 その姿をにらみながら俺はこう告げる。


「このミスはどう埋め合わするんだ?」


「もちろんすぐに蘇生させる。ただ、もとの世界ではなく、『双球世界』に転生という形でじゃがな」


 なんだとっ!?


「それは異世界転生って事かッ!」


「急に食いついたのぉ。……そうじゃ、その世界で『望月トオル』として暮らしてほしいのじゃ」


 まさかそんな神々の動乱に巻き込まれた末に異世界転生してしまうとは思わなかったな……。

 まあグッドニュースであってバットエンドでは無い。


 俺のつまらない17年間をリリースし、生前の夢であった異世界転生をアドバンス召喚したのだ。

 むしろ嬉しくてたまらない。


「そうして俺の存在ごと異世界に送り、帳尻を合わせようって魂胆か」


 そういえば、小説ではお決まりみたいな『アレ』はあるのだろうか? いやいや、あって当然か。

 『不運』にも巻き込まれた青年へのせめてものお詫びぐらいあるだろう。


 スマホアプリですら不祥事を起こせば『侘び石』ぐらいくれるんだから『異能チート』ぐらい与えてくれるよな?。

 ソースは今まで読んできた異世界転生小説だがなにか問題は?


「クソッ、謙虚、誠実をモットーに生きてきたというのに……。いきなり異世界転生だなんて。せめて異世界を生き抜く力がほしい。ゼウス。あんたなら出来るよな」


 ちなみに、前の世界に戻って暮らす気持ちなんてサラサラないからこの言葉は全て出任せだ。

 しかしそう言った方が"異能チート"が獲得出来る気がした。


「そう言って神を脅すか。お主の腹のうちは全て筒抜けじゃ」


「俺は『権利』を主張しているだけだ。これぐらい当然だろう」


「食えん奴よ。仕方ない。お主には『不死身性フェニックス』を与えよう。おいっ、アスクレピオスッ」


 ゼウスがそう呼びかけると、瞬間に大柄な男が現れた。


「どうされましたか、全知全能の神、ゼウス」


 彼はアスクレピオス。ギリシア神話序列4位の『灼熱太陽インフィニティ・サン』アポロンを父に持ち、医術に優れ、死せる者を完全に蘇生させる『完全手術パーフェクトオペレーション』という能力を持った医神だ。


 なぜ俺が彼を知っているのかって?

 それはこの前読んだ異世界転生の小説に登場したからだ。


「ほほほ〜、もし異世界でこのモノが死すことがあれば、アスクレピオス、お前さんの『完全手術』で蘇らせてほしいのじゃ〜」


「はっ、仰せのままに」


「……という訳だ。よろしくな。アスクレピオス様」


「ふん。人間風情が」


「ほほほ〜、これでお主ならばあちらでもやっていけるじゃろう。さあ、行くのじゃ望月トオル。幸運を祈っておるぞ〜」


 ゼウスはそう告げると、どこからか取り出した銀色の鍵を使い『ゲート』を創造した。


「ふっ、言われなくとも。俺は自由にやらせてもらうぞ」


 希望に胸を膨らませつつ、『ゲート』に飛び込んだ。


 これからが俺の、本当の意味での人生の始まりだな。





□放送スタジオ


 トオルが『ゲート』に飛び込んだところでカメラは再びスタジオに戻った。


岡崎「いやはや、まさか本当に『テンプレート』通りの『転生者』でしたな。これはこれですごく面白かったですけど」


柿本「いやぁ〜、なんだか壮大なことが起ころうとしているようでしたね! 岡崎教授」


岡崎「我々は意図せず、『ラグナレク』に巻き込まれてしまいましたな」


 岡崎は苦笑いしている。


柿本「ただね岡崎教授。ワタクシ、時々VR無しで見ていたんですけどこれ、高校生と青年と白髪のおじいさんが変なセットの上で話していただけでした」


岡崎「なんともシュールな光景ですな。それって、テレビ的には大丈夫なんですか?」


柿本「次からの盛り上がりに期待しましょうか」


柿本「それにしても、ものすごい設定の数々でしたね。恥ずかしながら彼の言っていることが全然わからなかったですよ」


岡崎「それが普通の反応ですぞ。いきなり『ギリシア神話』とか言われても「はっ?」ってなりますよ。普通ならね」


柿本「しかし、『唯一神位継承権』とか『ラグナレク』って番組があらかじめ用意していたのでは無いですよね」


岡崎「そんな設定は考えてなかったようですな。手元の台本にも、そんな台詞はありませんし……」


柿本「では、そしたらすごいのは、彼の考えた痛い中二病設定についていったあの神様。すごいですね。だってアレ全部アドリブでしょう?」


酒井「劇団色彩の元団長なんですよ。彼」


 収録を見守っていた『ヱ世界転生TV』プロデューサー、酒井がカメラの裏から説明をいれる。


岡崎「劇団色彩って……。あの国際的な演劇の? よく出演してくれましたね」


柿本「現役の方々もちらほら紛れているみたいですよ。ただ予算はそこに消えたとか」


酒井「そこは、ノーコメントで」


柿本「どうやらワタクシのギャラはスズメの涙ほどのようですね」




柿本「さて、異世界転生した彼は、いつ異世界が本物ではないと気づくのか。そしてその中でどのような爆笑ドラマを生み出していくのか! 異世界転生後の望月トオルくんの運命はいかに! 注目の続きは……」



柿本「CMのあとで」

 

 ディレクターがカットサインを出した。


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