魔物
【冒険者 クルト死亡。】
これで5人とも死んだな。しかし最後のやつの死に方はエグかった。蜘蛛達に噛み付かれ、干からびるまで体液を吸われていた。
「ユウマ!!魔物達やっぱ強いわね!Cランクのパーティーをあそこまで簡単に倒せるなんて思ってなかったわ!」
隣でモニターを見ていたメロロが興奮しながら話しかけてくる。俺たちが見ているモニターには、ダンジョン内の景色が映し出されている。
「そうだな。この感じなら二階層の魔物も期待できそうだ。メロロ、引き続き魔物の管理はしっかりやれ、そしたら今回お前が仕掛けた罠が全く機能しなかったのは見逃してやる。」
「ひどいわね!しっかり機能してたわよ!ただちょっと簡単にしすぎて解除されちゃっただけよ。それにDPいっぱい入ったんだからいいじゃない!」
俺も今はそれなりに気分がいいので、「その簡単に解除される罠にお前はどんだけDPを使ったんだ。」とは言わないでやろう。
「実力はなかったが、一応あいつらで全員Cランクらしいからな。それでDPはいくら入ったんだ?」
モニターにはダンジョン内の魔素料や魔物の数、そして魔物や侵入者のランクも映すことができる。モニターが映すランクは保有魔素量によって算出されているようで、ギルドのランクとはズレることもあるようだが実力はだいたいわかるので問題ない。
「えっとね。クッポって子が1番魔素量が多かったみたいで、その子だけで600DP入ったわ!あとはまちまちって感じで合計2450DPね!」
意外にも最初に死んだやつが1番魔素量が多かったようだ。先に殺すよう魔物に命令したのは正解だったな。
それに初期のDPが10000DPだったことを考えると、2400DPを超えるとはなかなかの収入だ。これでDP不足は当分解消されるだろうし、この調子ならすぐに四階層目も作れそうだ。
「よし。そしたら新しい魔物を増やすのもありだな。メロロ、魔物カタログを映せ。」
「そうね!魔物は安いし、種類が増えるのは嬉しいわ!今すぐモニターに映すわね!」
メロロがモニターに向かって右手をかざすと、モニター一面に魔物のカタログを映し出された。
ここでいい機会なので説明するが、俺は第二階層である実験を行なった。
その実験とは、魔物の発生速度を強制的に促進するというものだ。
なぜそんなことをしているかと言うと、俺は魔族を召喚つもりがなく、その分の戦力を魔物の数で補わなくてはならないからだ。
俺が欲するのは従順で、決して逆心など抱かない戦力だ。だからどんなに優れた能力を持っていても人間の様に傲慢で狡猾、そして俺を裏切る可能性のある魔族を配下にするなどあり得ない。
確かに召喚された魔物と魔族はダンジョンマスターの命令には絶対に従うが、命令下以外では基本的に自由で、大きなルールは少ないのだ。
1、ダンジョンから勝手に出れない。
2、ダンジョンマスターとダンジョンコアに直接危害を加えることはできない。
これだけだ。そうこの2つを守ればいいだけなのだ。なので理性のない魔物はともかく魔族は裏切って侵入者に手を貸し、戦わないどころかマスターとコア以外は好き勝手に殺せるのだ。
こんなヤツらを側に置いておくわけがない。それにもう二度と裏切られ殺されるのはごめんだ。
よって俺は魔物しか召喚しない。
だからその分魔物の量を増やすことが俺にとっては何より重要になってくるのだ。
そこで俺は魔物を産むスポーンをいじることで魔物達の発生速度を上げることはできないかと考えた。
スポーンとは、DP交換なしで特定一種類の魔物のみを継続的に産み出し続ける渦のことで、その魔物を累計100体DPで交換することで設置することができる。
スポーンが魔物一体を産み出すスピードはその魔物ごとに異なり、例えば魔物が大きくなるにつれてスピードは下がる傾向がある。
俺はここに目をつけた。この生産速度の差にヒントがあるような気がしたのだ。
第一に魔物とは魔素で出来た生物であり、捕食や呼吸によって魔素を得ることで生きている。空気中に含まれる魔素は限られたもので、捕食を繰り返さないと魔素量を保てずに死んでしまう。だから魔物は人や他の魔物を襲うのだ。つまり魔素は魔物の何よりも重要な要素なわけだ。
次に各ダンジョンの階層に含まれる空気中の魔素についてだが、どの階層でも外の空気と同じ濃度であり、ダンジョンではそれが一定に保たれているのがわかった。もちろん侵入者が死んだりすると魔素は大幅に増えるが、それはほぼDPに変換されるので空気中の魔素濃度は大して変わらない。だから滅多に魔物は自然発生しないし、呼吸だけでは生きられないのだ。
これらの要素からスポーンは空気中の魔素を地道に取り込み続け、魔物を産み出すのに必要な魔素を蓄えているのではないかと思いった。
なので試しにDPを魔素に還元して第二階層の空気中の魔素濃度を大幅に濃くしてみることにした。
結果から言うとこの実験は成功した。
スポーンはあからさまに生産速度を上げ、当初の10倍近くのスピードで魔物を産み出し続け、第二階層は魔物で溢れかえった。それに加えこの結果は思わぬ副産物を産んだ。
スポーンの生産速度を上げるために空気中の魔素濃度を異常に濃くしたのが原因なのか、魔物達が凶暴化し見境なく殺し合いを始めたのだ。
その光景は地獄などという表現が生易しく聞こえるほどの凄惨なもので、弱いものは次々に淘汰されていき、強いものだけが生き残ることが許される文字通り弱肉強食の世界となった。
殺されたら産まれる、産まれたら殺される。それが幾度となく繰り返されていく。そしてその創造と破壊の連続が続く中で、変化が生じたのだ。
魔物の進化だ。
最初に進化した魔物はどの魔物よりも多く殺し、多く喰らったものだった。
これを皮キレに次々にこの殺戮の中で生き残った魔物達が進化しだしたのだ。
この思わぬ副産物により魔物の数はだいぶ減ったがそれでも当初よりは断然多い。それに他を淘汰し生き残った魔物達の強さは凄まじい。
もちろん殺され過ぎて量が減り過ぎたり、少数の魔物のみが強くなり過ぎないように管理する必要はでてきたが、それでもこの実験は大いに結果を残したと言っていいだろう。
ちなみに第一階層の魔物達は二階層で殺されまくった魔物達だ。ただこいつらは力のない弱者として生き残る術を身につけていたのでエサにはせず第一階層に配置したのだ。
説明が長くなったな。
まぁ実験についてはこんなところだ。
メロロが五月蝿くなるのでそろそろ次の魔物でも決めるとしよう。