初めての危機
ダンジョンマスターになってから数日が経った。
ただ未だに、目的の通過点である人間の殺戮は行えていない。というかまだ一人も殺せていない。
ただ決してこの数日を無駄にしていたわけじゃない。というかダンジョンについてはそれなりの成果がでた。
まず俺のダンジョンは、人間の多く住むマニーリア大陸の東、グルーゼン王国領のはずれにある。まだ戦力的に不安というのもあり、外に出て直接確認したわけではないがメロロ曰く、ダンジョンコアはダンジョンの現在地と周辺の立地等は把握できるようだ。ちなみにダンジョンは森林の中にあり、入り口は洞窟のようになっている。また近くにはマクルックという大きめの街があるそうなので、そのうち見に行こうと思っている。
俺のダンジョンは地下に広がっていくタイプのダンジョンであり、コアルームを含めまだ3階層しかできていない。コアルームは強制的にダンジョン最下層に位置するよう作られているので第3階層、つまりこの部屋に敵が侵入したらほぼゲームオーバーということだ。ちなみに台座には、いつの間にか球体のダンジョンコアが復活している。ただ、この復活した球体のダンジョンコアはダンジョンの核としての役割しかなく、ダンジョン操作等はやはりメロロを通してしかできない。つまりこのコアはただ動かせない弱点でしかなく、メロロも含めダンジョンの心臓が2つになっただけという迷惑この上ないものだった。
他の2つの階層はどうなっているかというと一階層は縦横4mほどの通路が入り組んだ形で出来ていて、上下左右の壁は破壊不可となっている。つまり壁で囲われた正方形型のトンネルである。その通路が分岐や上下を繰り返すアリの巣のような迷宮をつくった。ちなみに俺とメロロはダンジョン内を自由に転移できるのもあり、罠もあるこの階層を通ることはないので入り口に置いた対の松明以外、灯などは一切一階層には用意していない。
次に二階層だが、ここには仕切りも罠も何もない。つまり初期状態の壁と床しかない部屋となんら見た目は変わらない。ただこれにはそれなりに理由がある、というか階層単位で言えば一階層の1.5倍はDPがかかっている。初めから持っていたDPのうちの1/3はここに消えたと言ってもいい。
こんな感じでまだ不安な部分は多々あるが、まぁまぁダンジョンとして形を成してきた。メロロもダンジョンを作っている時は、罠や魔物の配置など細々とした作業がそれなりに多く、騒いでる暇がないようでとても静かだ。なので今日までのここ数日はストレスのない生活が送れていた。
そう今日までは。
一階層で作業を命じてたはずのメロロが転移でこの部屋に戻って来た瞬間、直感で俺は平穏が終わりを告げるのを悟った。
「ユウマ!ユウマ!大変よ!!!いつの間にかDPがほとんどなくなってるわ!このままじゃ二階層を今の状態で維持できないわよ!!」
なぜだ。正直、意味がわからない。こいつにはそういう事態が起こらないようしっかり注意したはずだぞ。
「どういうことだ。俺の計算では、あとひと月近くはDPに困ることはないはずだぞ。おいダンジョンコア、お前なにをした?」
「だから私は名はメロ、、、。いえなんでもないわ。今回は私が悪いのは確かよね。だからちゃんと謝るわ!ごめんなさい!!楽しくなっちゃってユウマの指示よりちょっと多めに罠を作っちゃったの!でもでも、罠自体は自信作だから安心して!きっと驚くわよ!」
呆れてものも言えない。こいつはバカなのか?いや愚問だったな。もちろんこいつは正真正銘のバカだ。そしてそんなことは最初からわかってたはずだ。なのにここ数日、俺の指示通りに作業をしてるからといって少しでもこいつを信頼した俺は更にどうしようもないバカだ。
そうだ。昨日の俺はこいつにDPの使用権を委譲したのだ。残りの作業が単純作業だからといってこいつ一人でも出来るだろうとタカをくくったのが間違いだった。
まだ人っ子ひとりこのダンジョンに来ておらず、来たとしてもダンジョンで稼働してるのは実質一階層のみというこの状況でDPが切れたらどう考えても絶対絶命だろ。不測の事態が起きてもDPなしで対処しなきゃいけないんだぞ?こいつは死にたいのか?
「ねー。なにか言いなさいよ。私だって反省してるのよ。それにDP不足なんて冒険者のパーティの1つでも来たらすぐ解決するわよ!」
冒険者どころか魔物の一匹も未だ侵入してないから焦ってんだろうが!!
怒りに任せて怒鳴ろうとした瞬間だった。
【侵入者が現れました。】
そんな文字とともに、あらかじめDPで交換しておいたスクリーンに5人の冒険者パーティが映し出された。