ダンジョン始動
【ダンジョンコア補助サービス構築完了】
その文字が浮かんだと思った瞬間、ダンジョンコアは光に包まれ、いつの間にか形を球体から少女に変えていた。そして俺の目の前に現れた少女は突然大声で喋り出した。彼女の声は、それまで誰も声を発していなかったこの部屋に響き渡る。
「あなたがダンジョンマスターね!私の名前はメロロ・キエスタよ!メロロって呼んでちょうだい!あっ私はあなたをユウマって呼ぶわね!それじゃあユウマこれからよろしくね!」
うるさい。うるさすぎる。
それにこいつは何がそんなに嬉しいのかニコニコしながら、こっちに近ずいてくる。
あぁダメだ。俺はこの手の声がやたらデカくて、元気の塊みたいなやつが大の苦手なんだ。というか嫌いだ。殺意さえ覚える。まだ会って数秒と経ってないが、今すぐ帰って欲しい。できるなら一生関わりたくない。
「あれ?どうしたの??なんで返事しないの??あっ!わかったわ!あなたいきなりダンジョンコアが消えたもんだからビックリして言葉も出ないのね!ふふふ。安心しなさい!ダンジョン運営をスムーズかつスピーディーに行えるよう全力でサポートするダンジョンコアの新たな姿!それが私、そうメロロ・キエスタなのよ!!」
大声に加えて、言葉の節々に大げさにジェスチャーまで挟んできた時には手が出そうになった。ダンジョンコアが壊れれば、自分も死ぬことを思い出せなければやばかったかもしれない。自分でもビックリだが、脳を焼き焦がそうとしてきたあの球体が恋しくなりつつある。
「、、、少し黙れ。ダンジョンコア。というかまず元の球体に戻ってくれ。話はそれからだ。」
「だーかーらー私はダンジョンコアの新しい姿のなの!戻るなんて出来るわけないじゃない!そんなバカなこと言ってないで早くダンジョンを作りましょうよ!私、もう早く作りたくて我慢できないわ!」
ダンジョンコアは子供のように地団駄を踏みだした。
「わかった。もういい。その姿のままでいいし、ダンジョンも作ってやる。だからすこし静かにしてくれ。」
周波数的な問題なのか俺の耳はこいつの声をどうやら全く受け付けないらしい。正直、耐えられない。これ以上大声で喋り続けられたら頭がおかしくなりそうだ。
「わかったわ。そんな大きな声で喋ったつもりはないんだけどね。それじゃあ早速ダンジョンを作り始めましょ!」
最後に声の大きさが戻ったのを聞いて、このダンジョンコアには脳みそが入っていないと確信し、俺は極力問いかけるのをやめ、会話をしないよう心掛けた。
その後も、植え付けらた知識にあるというのに、やれDPの説明だ、やれ早く魔物を召喚しろだの性懲りも無く騒ぎ立ててきやがったので、全て無視してやった。
知識にあると言ったが、知識と言ってもダンジョンを作っていく過程で重要になる要素は2つしかない。
それはDPと召喚だ。
まずDPとは、ダンジョン内で行う全ての源であり、通貨のような役割を果たす。DPはダンジョンの階層や罠などを作るのにも、召喚や食料等との交換にも使うため無くなると死に直結する。また今の段階で分かっているDPの増やし方としては、魔素を集めDPに変換する方法、ダンジョンバトルで奪い取る方法が挙げられる。
魔素とはこの世界に漂う空気のようなもので、魔法やスキルなどを使うのに必要な物質である。魔法やスキルを使えるような者は、魔素を体内に多く蓄積していて、ダンジョン内で殺すとその魔素を奪い取れるようだ。宝を設置し、ダンジョン内に誘い込み、殺すというのが1番効率的だそうだが、魔素を蓄積した者はいるだけである程度魔素を放出してくれるのでダンジョンに居るだけで旨味もある。魔素の蓄積量はそれぞれ異なるが、やはり強いものの方が蓄積量が多く、DPを多く得られるようだ。
もう一つの方法のダンジョンバトルとは、DPやダンジョンコアを懸けてダンジョン同士が争うものだが、当分の間は関係ないだろう。
ちなみにこの世界にダンジョンは100近く存在しているらしいが、その大半はすでに人間にコアを壊され崩壊したらしい。
次に、殺戮と防衛に欠かせない要素である召喚についてだ。召喚はDPを使うことで魔物や魔族を呼び出し、支配下に置けるというものだ。もちろん召喚する者によって必要なDPは異なり、強さや能力に応じて高額になる。
魔物と魔族の違いについてだが、それは理性の有無だ。他にも理性のない魔物は自然発生するのに対し、魔族は繁殖で増えるという違いがある。DP価格的には理性もあり、力も能力も圧倒的に優秀な魔族の方が高額だ。
限られたDPの中で、魔物と魔族それぞれの性質を理解し、数と質のバランスをどう取っていくかがダンジョン運営にはじゅうようなのだろう。
まぁDPと召喚についてはこんなとこだろう。
ただ残念なことにダンジョンの作成にも召喚にもダンジョンコアが必要である。コアを通さない限り、スライム一匹すら召喚できない。
久しぶりにダンジョンコアに目を遣ると、さっきまで騒いでいたのに今度は、部屋の隅っこで壁に体を向け、膝を抱えていじけている。めんどくさい臭いがプンプンする。せっかく静かになったかと思ったらこれだ。心底辟易する。
だがこのままでも仕方ないので、部屋の隅に向かって声をかける。
「おい。ダンジョンコア。俺は今からダンジョンを作る。いじけてないでこっちに来い。」
声に反応したダンジョンコアは顔だけこちらに向けてきた。
おいおい鼻水の垂れた汚い顔をこっちに向けるな。
「グス...い、いやよ。どうせそれが終わったらまた無視するんでしょ!そんなの絶対いや!それにダンジョンコアって呼ばないでよ!私はユウマのパートナーなのよ!名前で呼びなさいよ!」
「しょうがない。俺も別にお前をいじめたいわけじゃない。できる限り無視もしないし、名前だって呼んでやる。ただ勘違いするなよ。俺はお前のことをパートナーなんて思ってもないし、馴れ合うつもりもない。ダンジョンを作るのに必要だからお前といるだけだ。メロロわかったらさっさと来い。」
メロロは名前を呼ばれて一瞬嬉しそうな表情になったが、そのあと直ぐ複雑な表情になり、なにか諦めた様子でトコトコと歩いてきた。
ダンジョンコアに接続するため隣に来たメロロの頭に手を乗っけると、ビクッと震えメロロは涙目になった。
子供をいじめてるようで、すこし負い目を感じたが無視してこう告げる。
「ダンジョンメイク、スタート。」
こうして俺のダンジョン作りの日々が始まった。