ダンジョンコア
「すごいわ!本当にユウマが言った通り魔物達が強くなってるわ!こんなこと良く思いついたわね!ただの性根の腐った根暗じゃなかったのね!」
モニターに写るダンジョンのワンフロアを見ながらダンジョンコアが耳障りな声で騒ぎ立てる。
フロアを所狭しと動き回り、互いに殺しあっている大量の魔物ども。あるものは牙で相手の喉笛を噛みちぎり、またあるものは鎌のような爪で相手の臓物をぶちまけている。それは戦闘などとはとても言えない、ただの殺戮だ。弱いものは強いものに壊される、そんな光景がフロアのあゆるところで繰り広げられている。
こんなの見て喜んでるこのダンジョンコアは俺なんかよりよっぽど異常だ。
「うるさいぞ。ダンジョンコア。お前に任せたのは魔物の量の管理だ。遊んでないでしっかり仕事しろ。」
「あ、遊んでなんかないわよ!言われた通りDPが溜まったら新しい魔物のスポーンを設置してるし、魔物の数だってしっかり把握してるわよ!それにダンジョンコアって呼ばないでって言ってるでしょ!私にはメロロってちゃんとした名前があるの!しっかり呼んでよ!」
ほんとにこのダンジョンコアは騒々しいな。こんな感じで毎日朝から晩まで騒がれてたら、死んだままのが良かったんじゃないかって気分にもなる。
まだ飽きもせず騒ぎたてているダンジョンコアを無視して今の状況について俺はもう一度整理し始めた。
まず俺は五十嵐 優馬だ。そう名前も前世のあれこれもしっかり覚えてる。姿も人間だったときと比べて、多少身長が伸び血色が悪くなった程度でそこまで変わらない。強いて目立つ変化を挙げるとすれば、犬歯が多少伸びて背中に黒い羽が生えていたことぐらいだ。意識すれば羽は消せるので大したことでもないだろう。つまるところ俺はヴァンパイアに転生した。
ヴァンパイアの体は、人間の体よりも動きやすくなったぐらいで感覚的にもそこまで変化はない。まぁまだ違いを感じるほど、活動していないのかもしれないが。
ただ外見も感覚も人間とそれほど変わらないのだ、俺を見た人間がヴァンパイアと見抜くのは至難の技だろう。
あと余談だが、俺の額には弾丸に貫かれた傷跡もなく、今のところ脳みそもしっかり働いている。もし傷なんて残ってたら、その傷を見るたびあいつを思い出し、憎しみで気が狂っていたかもしれないな。
次にさっきから、いや初めて会ったその瞬間からうるさいこいつはダンジョンコアだ。
このダンジョンコアは、10代前半くらいの人間の女の形をしている。髪は白に近い金髪、あれだプラチナブロンドってやつだ。顔はまぁ整ってはいるが特別美人というわけでもないし、胸も申し訳程度しかない。表現が曖昧かもしれないが興味がないんだからしょうがない。ただ何故か不幸とか残念とかそういう印象を抱かせる雰囲気を纏っているとは感じる。
そしてダンジョンコアがなんで喋り出したかだが、それを説明するには異世界に送られた日まで遡る必要がある。
まず俺は、神を名乗る幼稚なエゴイスト野郎と異世界に来る契約を交わした後、今いるこの部屋、コアルームに送られた。なんでもここはダンジョンの中枢であり、ここでダンジョンコアをいじってダンジョンの創造と運営をするのが基本らしい。
部屋のど真ん中には大層な台座があり、その上では水晶のように透明な球体が怪しく光っていた。球体の放つ禍々しく圧倒的なオーラは、この球体こそがダンジョンコアであると俺に理解させるには十分だった。
もちろん、こんないかにも怪しいものなんかには触れたくなかったし、嫌な予感しかしなかった。ただその部屋にはその球体以外目ぼしいものが他にはなく、それに触れるしか選択肢がないのもまた事実だった。
そして諦めて俺が球体に手のひらを乗っけた瞬間、脳に衝撃が走った。その衝撃は、銃弾のような物を貫くようなものではなく、脳を駆け巡り神経の一本一本を焼き焦がすかのようなもので、ヴァンパイアの体とはいえ耐えられるものではなかった。
そうして異世界に来て早々俺は気絶する羽目になった。
ただ気絶する寸前こう誓ったのを覚えてる。
「あのクソ神。次会ったら絶対殺す。」
今思えばヴァンパイアの体のおかげか、脳に耐性ができていたのかは知らないが、あの状況でそんなこと考えられる余裕があったのは自分でも感心する。
しばらくして目覚めると、今度は船酔いにも似た感覚を覚えた。それは今まで知りもしなかった異世界とこのダンジョンに関する知識が強制的に脳に刻み込まれたことによるものだったんだろう。全く見に覚えのない知識が勝手に脳に植え付けられる衝撃とそのあとの感覚は二度と味わいたくない。そう思えるほどには苦痛だった。
その後植え付けられた知識に従いダンジョンを作ろうともう一度球体に触れた。なんとなくわかってはいたことだが一度目とは違い、衝撃に襲われることはなかった。
ただ球体にこんな文字が映し出された。
【只今よりダンジョンコア補助サービスを開始します。】