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4章 閃影

彼は5回、右手で指鳴らしを行うや、何処からともなく雷鳴が轟き、5回もの雷が降り注いだのである。

その悍ましい落雷は彼女を狙うも、咄嗟に避けた彼女は男が不敵そうな笑みを浮かべているのを悟ると、睨み据えた。

雷が落ちた箇所には一切の痛みは無く、全く跡を残さない。


「…お前、何をした!?」


「見える奴には見える、それだけの攻撃」


男は左手を懐に突っ込んだまま、ただ不穏な空気を醸し出している。明らかに只者では無い事は一目瞭然だ。

彼女は自身の能力を用い、冷え切った氷の剣を作り出す。刀身が光を反射し、煌めいていている。

明らかに自分を敵視している男に対抗すべく、勇気を振り絞っては剣を構えて見せたのだ。

男はただ一笑に付せ、彼女への攻撃を続けた。そこには何処か余裕そうな立ち振る舞いが存在していた。


「…あんた、違う……。…普通の人間じゃない、あんたは…」


先験的ア・プリオリな虚構の話としては、我々は単純な嫌悪の情をもってそれらを見る。…人は其処に居て、居ないに等しいのだ」


彼は頭を左右に何度か揺れて見せ、一瞬の静まりが再び舞い戻った。

男が頭を何度も左右に以て動かす事に不思議さを覚えていたが、嫌な予感は事前に感じ取っていた。

持っていた氷の剣は冷徹な蒼を浮かべており、冷酷さを滲み備えていた。

男の頭の動きが止まった時、マントの中から抜刀された剣で頭の動き通りに左右に斬りかかったのだ。しかし彼女は分かっていた。

動きを理解していた彼女は其れとは反対の方を予測して見せ、見事最後まで避け切って見せたのだ。


「…私の動きを理解出来ていたとは」


「あたいを見縊らないでよ」


彼女は攻撃を遂に仕掛けた。携える死屍のように冷たい剣を差し向けては、一気に斬りかかったのだ。

足早に男へと襲い掛かるも、男は簡単に避け切ってしまう。その避け方は彼女をけんもほろろに、瞬間的に幻影を纏っていたのだ。

彼女の視界には鮮明な男の姿があったが、其れは残影であった。後ろを見返せば、ただ奇奇怪怪な笑みを口元に作っている。

彼女は何処か悪寒を感じたが、この何者でもない男に諦める訳では無かった。


「お前がお前でいる限り、私は倒せまい」


「そんなの、あんたの身勝手じゃん!」


この男は確実に普遍的な存在では無く、其れは悉く彼女も承知していたはずであった。

だが彼は意味深長な御託を並べる事もあって、彼女はますます男を理解出来なかった。

飲み会会場は繰り広げられる闘いに注目され、チルノは一種の主人公になっていた。しかし彼女は全くいい気はせず、寧ろ逃れたい思いであった。

男は彼女の言葉を聞き、さぞ見下しているかのように笑っているだけだった。


「…私の身勝手、で済まされる事象ならば此処に闘いは行われていなかった」


「ただカッコつけるように台詞を言って、注目を浴びたいだけじゃないの!?…変だよ!」


彼女の単刀直入な言葉も、男に取ってすれば笑い話であった。

再び笑みを浮かべると、真直ぐな眼差しを浮かべるチルノを蔑むかのような眼付きで見下ろす。

そんな男を倒すべく、冷気を帯びた剣で彼女は再び一閃した。剣は空中を裂きながら、目の前にいた男に剣戟を浴びせようとする。

その一撃は、再び簡単に躱され、空振りとなってしまう。男がどうやって避けたのかは彼女の頭には無いが、明らかに普通じゃ無い事だけは分かっていた。

また後ろを振り返れば、男はマントを空気に靡かせて突っ立っているだけであった。


「…そういう性分だからな、爛漫なお前には合わないが」


「だったら何であんたは闘いを仕掛けてきたの?…あたいでも苦戦させるなんて、なかなかだねっ」


彼女は自分を強いと思い込んでいるようで、そんな自分に苦戦を強いる彼を称賛した。

男は随分強気な彼女の態度を潔しとして、ただ笑いに更けているだけであった。

彼が一体何を求めて此処に来て、何の為に柱で寝そべり、自分の姿を見つけた彼女に闘うのか。チルノは全く分からなかった。

頭の中に疑問符が只浮かぶだけで、剣は冷酷無慙な感情を秘めていながらも、彼女の戸惑いを帯びていた。


「―――見極める為、だな」


彼は攻撃をとうとう仕掛けてきた。

右手で5回指鳴らしを行うと、彼女の真下から噴火が起こったのである。

しかし真下は畳で、噴火など普遍的に思考してあり得ない事象だ。だが彼女は熱さを感じ、5回も噴き上げるマグマから何とか避け切った。

煮え滾るマグマも、彼女以外に熱さを伴った者はおらず、先程の雷鳴同様に一種の幻影だと彼女は理解した。

同時に男の不意を突き、後ろを振り返らない勢いで一気に攻め、その冷徹な刀身は男の背中を貫き通したのだ。

それこそ血は一切噴き出さずにいたが、氷の秋水は男の身体を貫通させては蹲らせていた。

狼狽えの声を上げるが、決して服には傷つかないと言う事象に、やはり伊達に存在しうるだけの人では無いと瞬間的に彼女は察知した。


「…一発、剣戟を蒙らせるとは」


「隙を見切ったの。あんたの指パッチンの後には隙が生まれてたからね」


剣を刺し抜くや、男は攻撃を蒙った自己の情けさと少女の何処か力強い攻撃に、何かを見出していた。

チルノは地べたで狼狽せしめし男を見下ろすかのように立ち、彼に問いかけた。ずっと気になり続けていた問いを口にしたのだ。

だが男は嗤いを止めず、茫然として下を俯いているだけであった。


「―――じゃあ、聞かせて貰うよ。あんたは何者?」


「…簡単に話すのは勿体無い、そうだろう?

……私はどうやって相手を苦しめるか、次から次へとアイデアが湧いてきて、実行するのが追いつかないほどだった。

……人が人である為に、人が人以下にならない為に。…私以下になりつつある生者への訓誡を行う為に」


男は先程までの戦いを全て流したかのように、有り余る力を使っては立ち上がり、マントの中から剣を構えた右手を広げた。

その瞬間、男の右目が一瞬だけ深紅の閃光に染まり、帯びていた。被っているシルクハットからはみ出す黒髪が靡き、オーラを醸し出している。

男の剣は彼女の冷めた剣とは差異があって、宝飾の為された至極煌びやかなものである。

しかし彼は其れを彼女に剣先を向け、序幕の終焉を宣言した。


「…さぁ、序幕は終わりだ!…第二幕の始まりだ!!」


◆◆◆


男は自己の力を誇示すべく、其の瞬間的なスピードを以てして一気に斬りかかったのだ。

其れは彼女の速度でも決して追いつけるものでは非ず、並大抵の剣使いでは無い事を其の身に教えてくれる。

反撃の構えもさせぬ動きは何をも寄せ付けず、彼女は苦い顔を浮かべていた。

重たそうな黒洞々とした服を羽織りながらも繰り広げる攻撃は竟に彼女の手から剣を毀れさせるまでに至った。


冷たい氷は彼女の手下で破壊され、徐に欠片が落ちていく。

さよならも言わせぬ猛攻に、彼女はすぐさま自身の能力で剣を作り上げては降りかかった男の攻撃を受け止めた。

しかし氷では耐久性に貧弱で、罅が入っていたのは彼女にも目に捉えられるものであった。


彼女はそれでも抗いの色を失わせず、拮抗すべく愈々彼女は剣を囮に自身を回転回避で男の後ろへ回ったのである。

囮の氷の剣は粉々に砕けたが、自身の能力で再び剣を生み出すや、右手で剣を持っては黒い服を纏う男に斬りかからんとする。

だが其れは背中を斬ろうとしたものであったが、簡単に受け止められてしまう。

男の持つ剣と彼女の持つ氷の剣が鍔迫り合いを見せ、迫力さが滲み出ている。


「―――もっと見せて見ろ、お前の持つ力の全てを!」


「……お望みならね!」


チルノは第三の手として、自身の能力である「冷気を操る程度の能力」を用い、極限にまで冷やして生み出した氷を男にぶつけたのだ。

しかし男は彼女の攻撃なぞ読み切っていたかのように嗤い、そして華麗にマントを靡かせながら回転回避で避け切った。

続けざまに彼女は氷を放つが、剣が氷を簡単に斬り払い、取り付く島も与えない。

此処で男は遠距離に集中した彼女を悉く無慈悲に揶揄するかのように、剣の閃光が迸った。


「う、うぅ…っ」


彼女の身体を過った、一筋の剣身。

嘲笑うかのように佇み、黒い影を淡々と靡かせる男は彼女の狼狽を貶すかのような嗤いを口元で示している。

左手で斬られた箇所、自身の右脇腹を押さえながらも、再び彼女は剣を構えては引きの姿勢を見せない。

男はただ嗤いを基として、奄々とする彼女に止めをさすべく、目を光らせた。


「―――これで終わりだ」


彼は第二幕の終焉を告げるべく、指鳴らしを7回行った。

すると彼女の周りに不穏な気配が漏れ始め、何か察知すべく下を見渡すと、其処には魔法陣が描かれていたのだ。

深紅で謎の文字ごと彫られた魔法陣は畳の上に刻まれており、彼女は咄嗟にその場から離れた。

すると魔法陣から雷撃が唐突に迸り、高電圧のものであろうものが7回、爆発するように溢れだしたのだ。


「…なっ!?」


「……第二幕は終わりね!あたいの攻撃を喰らえ!!」


その時、彼女の冷徹な剣は冷気を帯びながらも、閃光を放った。其れは一筋の閃光で、男を無情にも閃耀は駆けていった。

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