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3章 解条者の幻夢

彼女が謎の男に問いかけた時、騒がしかった境内の中は急に静まり返って、彼女の声だけが呼応した。

淋しく木霊した彼女の問いに、男は顔の蝶形骨と頭頂骨の狭間に付いていたボタンを押したと同時、柱から起き上がった。

ボタンは漆黒たる彼をベールから拭うように何かを彼から剥ぎ、その姿がチルノ以外の他の人でも視認出来るようになった。

しかし男はボタンを押す前からも自分の存在に気づける少女を不思議に思い、不敵な笑みを浮かべている。

彼女に問われた問いを返すべく、被っていたシルクハットを更に深くして、その端麗たる美青年の俤は若さを黒に覆い隠している。


「―――私に名など無い。…少女よ、而して可視出来るのは何故だ?」


「あたいは最初から見えてたよ。何もしてないし…あたいわかんない」


彼女は彼に問われた質問に解を導きだせず、下を俯いてしまった。

しかし男は何処か彼女の特別な力を何処か見出し、直向きな元気を醸し出す少女の恐ろしさを肌身で感じていた。

世界変革、時空紆曲、其れを決して潔しとしないでありながら、やるだけの力を受け持つかもしれない、と言う杞憂に近い感情であったが。

男は彼女の未曾有な能力に懐疑しながらも、彼女の言葉に一切の嘘が籠ってないと言う事を見抜くや、男は被っていたシルクハットを少し浅くしてから、徐に口を開いた。


「…然る時には銀の紐は解け金の盞は砕け吊瓶つるべは泉の側にぶれ轆轤くるまいどかたわらにれん、しかしてちりもとごとく土に帰り霊魂たましいはこれをさずけし神にかえるべし。

…少女よ、この世界を支える糸は今にも切れそうだ。私は神の下、その不変たりし事実を伝えに来た遣いだ。…まさか、私が求めた存在に聊かで会えるとはな」


「どういう意味なの?…あんたは誰?あんたは何しに此処へ…」


彼女は新鮮な物を見たかのように目を輝かせている。

男はその、円らで煌めく眼を見ては確信していた。懐からスマホを取り出し、電波も通じない幻想郷にて通話を始めた。

静まり返った中、異風に佇む男は明らかにこの世界には順応しない存在であり、彼は其れを自分自身で潔しとしているのかどうか、亦其れは分からなかった。

シルクハットが丁度かからない右耳にスマホを押し当て、今の状況を彼は語った。


「…ああ、私だ。今の状況、霊験視ベール状態で私の姿を可視出来る者がいた」


「…お前か。ソイツが多分、我々を超越するに至りし解条者フォノンの嗣子じゃないのか。…適当に身悶えとけ」


「まぁ、其れがそうか確認するのが我々の役目、と言うものさ」


通話は切れ、男は乱雑にスマホを仕舞い、ただ佇んでいる少女の顔を再び見返した。

男は再三不敵な笑みを唇で浮かべ、何処となく不穏な空気を醸し出している。

チルノは其れを何処か悍ましいと感じながらも、何か尋常では無い事柄に巻き込まれるかもしれないという好奇心に塗れていた。


「…つまり、だ。お前は此の世界を救える、唯一の存在とやらだ。滑稽譚だと一蹴するな、金瓶梅きんぺいばい程の面白さは無いがな」


彼はそう言うや、マントから左手を広げては彼女を見下していた。

少女に力があるとは到底思えなかったであろう男は、彼女が何者であるかを試そうとしていたのだ。

チルノは不穏な気配が一気に解き放たれ、感情がジレンマの槓杆によって暴発し、息苦しい思いであった。

しかし男はそんな彼女が襲われている心情など全く厭わず、蔑みをしている野卑固陋な心だけが残っていた。


「…あたい、何もしてない……」


「果たして其れはどうかな?…お前がお前である為に、お前はどうしなくてはならないのか。

…私を倒してみろ、解条者フォノンの継承者よ!お前が私を倒して、此の世界を動かせる、徐ながらも事実とする力を見せて見ろ!」


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