表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LETISGEAR OVERTECHNOLOGY TOHO FANTASY   作者: PHIOW BJIJ LHJIJ LJIJ
パーフェクト・ワールド編
42/45

39章 絶対的世界線の行くベクトル

最初に動いたのは、パラメデスであった。

彼は拳銃を以てして、一気にチルノに近づいては至近射撃を試みたのである。しかし彼女は、咄嗟に反応しては背後に回り、彼が狙撃した隙を狙っては回し蹴りを蒙らせた。

回し蹴りによって彼は拳銃を落とすも、すぐさまセラームが援護に入った。彼女も又、同じくして拳銃を持っていたが、蹴りで落としたパラメデスの背中を掴むようにしてはセラームの方へ投げつけたのだ。

これで2人を何とかしたが、此処でセファレーが動いた。彼も拳銃でチルノを制しようとしたが、すぐさまチルノはルインタイプライターで手元を斬りつけ、拳銃を落とした。


この落とした拳銃をチルノは咄嗟に奪取し、態勢を立て直した3人に対して向けたのであった。

3人は彼女がセファレーの拳銃を奪ったことに苦い顔を浮かべていたが、セファレーを隠すようにセラームとパラメデスが立ち塞がった。

面倒臭さを露呈させながらも、彼女は幾度か引き金を引いたのであった。しかしセラームが、自身の魔法を用いては炎を放ち、チルノの手から拳銃を落としたのであった。


すぐさま取りに行くセファレーであったが、チルノは拳銃を遠くに蹴とばした。

その隙を狙ってはルインタイプライターの一撃をセファレーに蒙らせる。刀身を掠らせたセファレーは、咄嗟に持ち歩いているペンを胸ポケットから取り出しては、すぐさま剣の攻撃を防いだ。

つばぜり合いで音が物を言わせるが、ペンだと攻撃を受け止めるに釣り合わない。


「…セラーム!パラメデス!」


彼は咄嗟に救援を呼ぶ声を上げた。

すぐさま背後からセラームが拳銃で狙撃を試みるも、チルノはセファレーから離れてはルインタイプライターでセラームに斬りかかった。

此処でパラメデスが遠くに在った拳銃を回収し、セファレーに投げるように渡した。見事にキャッチした彼はセラームに襲い掛かるチルノを訓戒させるようにして背後を狙い、そして引き金を引いた。


「…読んでるよ!」


だがチルノはセファレーの攻撃を見極めていた。

自身の能力である力を用い、咄嗟に拳銃を凍らせたのだ。氷の塊と化した拳銃をもはや扱う事は出来なくなり、彼は氷の固まりを落とした。

落とされた塊もその頑強さ故に拳銃は取り出せず、何とか自身の魔法で溶かそうとするセファレーに対し、チルノは背後から胸にかけてルインタイプライターで突き刺した。


「な、何故―――」


彼を倒した後、狼狽えた隙を見せたセラームをルインタイプライターで斬りつけた。

咄嗟の攻撃に、セラームもまた、自身の右肩から左脇腹にかけてまで巨大な切り傷を負ってしまう。突然出てきた脱力感に襲われ、セファレー共々地面に倒れこんでしまう。

流れ出る深紅は徐に地面へ放り投げだされる。其れをみたパラメデスは信じがたい感覚に襲われ、目を何度も見開いた。


「…後はあんただけだ。あたいは負けない」彼女は遠くで拳銃を持つ彼に対して言い放った。


「…私は零神主義レティスギアズムを支持する者として言わせて貰います。貴方はただの侵略者です」


「出会い頭に喧嘩を売った末路だよ」チルノは吐き捨てるように言った。


「ですが、此方は仲間を傷付けられたので…。―――貴方を許す訳には、いかない」


その瞬間、彼の身体から眩い閃光が解き放たれたのである。

脱皮する蝶のように、人間の身体と言う蛹から解放された、本質的な何かが彼女の前に露見されるのだ。

恐怖感と興味を交わらせた感情は複雑になっていったが、其れは一つの蟠りとして大きく心底に残った。

チルノが閃光から反射的に目を覆い隠していた手を退けた時、其処にはパラメデスのもう一つの姿があった。

先程の人間の姿より幾倍も大きくなり、様相は何人もの骨が組み合わさった一種の藝術。がしゃ髑髏のように図体は大きい容姿は、不気味ささえ醸し出す。

正しくレイカの言っていたメタモルフォーゼたるものである。


「我が名は縷誣王オルディミス・アキレス―――零神主義レティスギアズムの本質を得た、パーフェクト・ワールドの孤児にして、解放を齎す遣い。我が所以こそ、世界の解放。

全てを尊び、喜ぼう。此の世界は慈愛と歓喜で満ち溢れている!!」


◆◆◆


オルディミスは眼下の彼女に対し、骨を粗削りにして作った矢の雨をゲリラ豪雨のように降らせる。

矢と矢の間に一切の隙を見いだせなかったチルノは、咄嗟に回避するために走った。

すぐさま大きな図体の背後に回った彼女は、後ろから斬りかかった。

だが、骨が組み合わさった身体は極めて堅牢で、ルインタイプライター1つで傷つけることは不可能にさえ思えた。其れは実際に戦闘してみて分かった実践性もそう言っている。


「…クッ、なんて硬さなんだ」


彼女は苦い思いを胸の中に閉じ込めたまま、今度は自身の能力を解放させた。

氷の礫はオルディミスに襲い掛かったが、骨の鎧が簡単に弾き返してしまう。

反射するように骸の山はチルノに圧し掛かった。彼女は狼狽えを見せたものの、すぐさま攻撃を中止してはオルディミスから離れた。

その瞬間、彼女の背後で台風のような重厚感ある風が一気に発生し、彼女自身も飛ばされそうになった。

後ろを垣間見ると、図体を築いていた骨が散乱する図があった。しかし忽ち元の姿に戻ってしまったのだ。


「何てバケモノなの…」


チルノは唖然とした。

しかしオルディミスはそんなチルノを、遅いながらも威圧感を持たせて追いかけて行く。

チルノは追いつかれないように走りながらも、背後の敵に向かって自身の能力を解放させた。だが一切を弾き飛ばしてしまう。

アセンション・アークを展開する彼女でさえ通じない攻撃に、重たい顔を一瞬だけ浮かべた。

だが彼女は名案を思い浮かべたのだ。


すぐさま彼女は行動に移した。

追いかけてくるオルディミスに対し、立ち止まっては自身の能力を溜めこんだのである。

そして彼女は、圧し掛からんとする骸の山に対して、自身の力とも言える能力を最大出力させ、全体を凍らせにかかったのだ。

圧し掛かろうとしたオルディミスは、その能力を至近で受けてしまい、全身が氷の塑像と化しては一切動けない。

その隙に彼女はルインタイプライターで斬りかかるも、全く罅さえ入らない。

此処で彼女は超常的ながらも今までずっと来てくれた運命に身を委ねることにしたのだ。


寡黙の中、彼女は天に祈った。

変革された世界に希望を齎す唯一の存在を、神が見逃す訳が無かった。


―――――神よ、あたいたちに助けを!!


その瞬間、大地が大きく揺れ動き、辺り一帯の地面が突然にして赤を帯びた色の線状が入りこんだ。

チルノの後ろには大きな火口が出来上がっており、大規模な噴火と同時に出てきたのは、気色ばんだ深紅の龍であった。

巨大な翼を広げては火口から天に飛翔し、眼下の凍らされた骸の山を視た。

おどろおどろしい深紅の眼が捉えた獲物に対し、龍は巨大な咆哮を一つ、上げたのであった。咆哮と同時にチルノの周囲では噴火が発生し、マグマが溢れて行く。

チルノは氷の妖精であった為に、その現象は恐ろしくさえ感じた。


竜は、凍らされたオルディミスに向かっては口を開いた。

口の中では光球が作り出され、エネルギーが濃縮されるにつれて徐々に大きさを増していく。

最終的に作られた光球はバスケットボールぐらいの大きさにまで成長したと同時に、竜は真下の氷の彫像に対して解き放った。

その瞬間、炎が中心から外へ放たれるような大爆発が発生し、オルディミスは氷もろとも爆発の高温によって蒸発、爆発四散してしまった。

チルノを包み込むアセンション・アークのウィンドウが、その爆風を吸収したと同時にウィンドウは全て消え、辺りを見渡すと先程の竜の一撃によって3人の姿は消え失せていた。

そのまま天を飛翔していた竜は火口の中に消え、その火口も幻影としてかき消えた。


◆◆◆


戦闘を終えた彼女は、言われたままに真っ直ぐ前を歩いて行く。

何も見えない白紙の世界であったが、何十分か足を進めていくうちに、鋼鉄の扉が1つ見えたのであった。

彼女は何か物を見つけた喜びと達成感が交じりあって、一種の至福を得た様な感覚であった。

すぐさま扉の元へ向かって見せると、扉は開けられるという事実に気が付いた。


扉を開けると、其の先は巨大な水槽のような場所であった。

前面に大きな鏡が設置され、中には誰も居ない。やがて背後の扉が閉まった時、内側から扉は開かなかった。どうも出られないらしい。

どうしようもなくなった彼女は、だだっ広い場所をうろついて見せると、やがて遠くに2人の姿があった。その姿は先程同様に見たことの無い人のようであったが、話を聞いてみることにした。

しかし、程無くしてチルノの姿を見つけた2人が先に話しかけたのであった。


「―――君が解条者フォノンか。下らない」


そう吐き捨てたスーツ服の男性は、幽霊のような佇まいを見せている。不穏で、何処か不気味な。

そんな男性の隣に居た、初老の男性は威厳を持たせた佇まいを見せては、来し方行く末をチルノに言問う。

冴ゆる感触を歯ごたえとして得たチルノは、警戒を怠らない。


「…私の会社は滅茶苦茶になったんだよ。元あった世界に戻そうとする君は、あの世界に何の夢があると言うのか。私には理解出来ない」


「…あんたは」チルノは言問う白眉に聞いた。


「…私の名はロアトル。愚息がお世話になってるよ。此方はネフティス、曾てのハーシュ・フェニックス社長だ」


「―――言う必要もない。こいつは無駄に希望に満ち、世界を案じている。そんなバカな事あるか」


ネフティスの眼は絶望に満ち、底なし沼のように深淵が見えない。

何処までも続く闇の螺旋を描く彼に、ロアトルも同様であった。チルノとは正反対に絶望に打ちひしがれた彼の眼は、屈辱に耽溺し、彼女を恨んでいる様にさえ見えた。

チルノは2人の存在を決して心良く思えなかった。と言うのも、陽と陰と言う二極化された世界で、ただ只管に闇を跋扈跳梁させているのだ。


「…お前は希望と言う疫病に感染している。此の世界に齎す、余計な病だ。しかも厄介で、治すには相当な力を要するらしいな」ネフティスは言った。


「…あたいの邪魔をするなら許さない」チルノは剣を抜刀させた。


「…そうだ。だからこそ、お前を討ち倒して真なる世界を歓迎しよう。チルノ、此処で死ね!!」


その瞬間、2人の姿は見る見るうちに光に覆われ、彼女は目を瞑った。

その眼を開いた時、其処に在ったのは巨大な竜であった。しかし其の龍は腐朽しており、しかも人形の竜で、中に在る線などが所々で垣間見せている。

ぎこちない動きをする竜は左眼だけを狂気に駆らせ、右手は剣と化している。その剣は自身の図体の背丈ほど在り、動かせるのかと見る者を猜疑さえ持たせる。ゾンビのような、片翼だけ付けられた左羽の付け根にはシュノファス鐵工所のロゴが入っている。


「―――私の名はロアトルヘブンス。…解条者フォノンチルノ。世界を視ろ、そして真核を突き止めたところで世界は変わらぬ。新たなる変革を受け入れよ!!」


◆◆◆


ヘブンスはその重たい、手と同一化した剣で眼下のチルノを斬りかかった。

普通の剣とは違い、地面に引き摺る様にしては持ち上げるように斬りつけたのである。

その様はまるで地割れのようで、巨大な地鳴りと共に襲い掛かる大剣は恐怖の沙汰そのものである。

チルノはすぐさま身を躱すも、折り返した剣は再びチルノを轢き殺さんとする。


チルノはルインタイプライターで受け止めるも、圧倒的な力の差は歴然で、時間の問題であった。

咄嗟に彼女は自身の能力を用いては壁を築き上げ、その場しのぎの盾を生み出した。

盾は彼女を回避させる時間を充分に稼げたが、また破滅も早いものであった。轟音を立てて崩壊する氷の壁の終焉を、チルノは視た。

その間隙に、彼女はヘブンスに急襲した。剣と一体化した手の上に乗っては、そのまま手の上を伝っていく。

やがて顔まで来た時に、彼女の耳元でヘブンスの巨大な咆哮が放たれた。耳の鼓膜が破れそうなそれによって、彼女は敢無く地に堕ちてしまう。

この際にヘブンスは剣で斬りかかったのであったが、チルノはルインタイプライターをヘブンスの身体に刺し、自身を安定させては剣と共に遠くへ飛んだのだ。

ぎこちない人形の竜は、そのままチルノの居た場所―――自身に向かって、剣で斬り上げた。その瞬間、竜の身体から綿が漏れ、狼狽の咆哮を上げたのだ。


「…自滅か」


すべからく彼女は追撃を仕掛ける。

セラフィックモードを展開させては、一気に飛翔し、そのルインタイプライターで剣と一体化した腕を斬り落とさんとしたのだ。

その腕は重たく、至極分厚いものであったが、天使と化したチルノにそんなものは敵では無かった。

たった一筋の閃光が走ったと同時に、腕は一瞬にして吹っ切れたように落ちて行ったのである。落ちた時の振動もまた大きく、再び地震が辺りで発生する。

そのままチルノはヘブンスの右肩の上に乗っては、剣を構えた。


「…ごめんな。あたいは先へ行かなくちゃならないんだ」


「―――愚かな。それこそ千々を綯交ぜた世界に最初から希望はあり得なかったのだ」


「…希望はあり得ない?其れは違うね。…だって今のあたいにはまだ、希望があるから!!」


肩の上に乗るチルノに対し、ヘブンスは口から熱線ビームを放った。

其れに対して簡単に避けた彼女は、そのまま肩から飛び降りては再び飛翔し、顔目がけて剣を向けたのだ。

そんな彼女を踏みつぶさんとするが、動きが遅い攻撃はもはや攻撃と呼称する事は出来なかった。

彼女は剣戟を放った。下から上に対して放たれる、巨大な閃耀。全てを斬り裂く閃光に、ヘブンスは為す術を知らなかった。

綿が溢れるように漏れ出し、やがて図体を築き上げていた全てが外へ暴発するように放出されたのだ。


人形の竜は一人の天使によって敢無く敗北を機し、断末魔である巨大な咆哮と共にヘブンスは大爆発を遂げた。

自身の真下で爆発を遂げたヘブンスに、チルノは一つ、溜息を吐いた。

あれだけ大きかった図体の持ち主を倒した征服感と言い達成感と言い、其れは極めて大きいものであったが、未だに蟠りが存在していたのであった。

やがて降り立ったと同時に、辺りには綿が積もり上がっている。其処にロアトルとネフティスの姿は無く、虚無と綿しか残されていなかった。


よくよく見て見ると、先程まで2人が居た場所には鏡の中に穴が開いていた。

チルノは改めて向き直すや、人形の残骸を背に、その場を後にしたのであった。


◆◆◆


鏡の中の穴を通ってみると、其処は誰も居ない新たな水槽のような場所であった。

しかし見返すと、先程まで鏡と割り切っていたはずのものは隣の部屋を透き通らせている。マジックミラーか、と彼女は静かに独り言として呟くと、再び前を向き直した。

やがて前へ足を進めていくうちに、見覚えのある姿に出会った。黒い外套に、黒のシルクハット。其れは第二次蒼穹而戦争を起こそうとした全ての元凶で、チルノに他世界へ案内した人物であった。


「…もう私に戦意など無い」


彼はチルノに、徐に言い放った。重々しい口調であった。

なかんずく彼は疲弊しきったようであったが、それとてチルノも怒涛の二連戦でそうだった。

凛とした佇まいを見せながらも、彼は遠くに視線を放り出している。


「…カイアス。この世界は、ホントに望んでた世界なの」


「―――さあな。零神主義レティスギアズムも、どうやら俺には合わなくてな」


彼は本音を打ち明けた。

チルノはただ重い面を浮かべていただけであったが、カイアスはどうも吹っ切れたようにさえ見えた。

両手を懐に入れては、態勢を改めさせた。どうもしっくり来ないような性分らしく、溜息を一つ吐いた。

そして彼は、目の前の彼女に静かに言問うた。


「…お前は、本当に此の、変わり切った世界を変えるのか?」


「…当たり前だよ」チルノは真剣に答えた。「そうじゃなきゃ、安心出来ないもん」


「…そうか。なら良い事を教えてやる」彼は改めてそう言った。「此の先に、元凶の上崎ユイトが居る。奴はイ・ゼルファーであるオラクル・メアを捕まえてはエネルギーを抽出し、本当の神になろうとしている。そして、グランドマスターが『パーフェクトワールド』として稼働している。

もし世界を取り戻したいなら、ユイトを倒せ。そしてグランドマスターを再起動させ、三世界として再び認識させる必要がある」


「―――やってみせるさ」


チルノは、威勢だけは一丁前であった。

しかしカイアスは、どんな時にも希望を捨てない彼女に好感さえ持てたようであった。

もう此の世界の行く末なぞどうでも良さそうであり、全て行くままに身を委ねると言った、一種の一任であった。カイアスは、自身の復讐を果たせたことで人生の目的を喪失していたのである。


「…ああ、智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」


彼は皮肉って世界を称して見せた。チルノに対してかみしもを脱いでいるようにさえ思える。


「…どうも私は、何も思えないし、考えられないのだ。とうとう狂ったか」


「自分で言ったら駄目だよ」チルノは口元に少し微笑みを浮かべた。


「…そうだな」彼も表情を柔和させた。シルクハットを深く被り直す。「兎にも角にも、お前次第って訳だ、チルノ」


彼は右手だけ懐から出しては、チルノに語り掛けるように喋った。

その様子には、今まで敵対していた彼とはまた違った一面を見ることが出来た様な気がしてならなかった。

初めて肝胆相照らしたようで、チルノも一驚に馳せている。何せポーカーフェイスの彼が、そうしているのだ。


「…世界の行方は、お前とユイトが決めろ」


「―――そうはさせないぞ」


此処で立ちはだかったのは、神泉藍佳であった。

かの神の代理人と称された、凛の姉で且つキルヴェスターの藍佳は、そんな2人の前に現れたのである。

片手には拳銃が在り、談笑していたカイアスとチルノを睥睨している。チルノも睥睨し返したが、カイアスは一切歯牙にもかけないように振る舞った。


「…お前は、カイアス。何故お前が此処に」


「…キルヴェスター加盟の目的は、まさかパーフェクト・ワールドを作るためだったとはな」


「正解」藍佳は徐に言った。「総務省ハルト・デリート係になったのはその為」


「―――あんたもレティスギアの一員なの!?」チルノが問うと、藍佳は嘲笑を浮かべた。


「当たり前よ。ユイト様の邪魔はさせない」


こうなった以上、意地でも突破して世界を変えてやるまでだ。

チルノはルインタイプライターの剣の先を藍佳に向けていたが、同時に黒の外套の中から拳銃を差し向け、同じ藍佳に向けていた人物がいた。並存する彼に、チルノも藍佳も、目を疑った。

カイアスだ。彼が、チルノと同じ意思とて違う意思とて、敵を一緒にしているのだ。


「…カイアス、どうして」


「…どうも、感情が潔しとしないのでな」彼は緩徐を付けて言った。「私はチルノの決心を見た。別に私はどうなろうが構わないが、チルノに手を出されれば、私の"賭け"が出来なくなるのでな」


「賭け、だ?」藍佳は眉を顰めた。「お前にまだ望みでもあるのか?」


「ある」彼は静かに、そして威厳を持たせて言った。「…この世界の歴史の立役者同士、世界の変革を彩る最初にして最期の勝負だ」


「そう。なら…最初から本気、使わせて貰うよ?」


藍佳がそう言った瞬間、彼女は右手の手のひらを天に掲げ、未知なる存在をその場に召喚したのであった。

神々しい光を放ち、眩さを展開させる状況に、チルノは咄嗟に手で目を覆い隠したが、カイアスは茫然として場を直視していた。

やがて藍佳の後ろには、自身が特殊能力を用いて喚び出したものと思われる機械―――其れは二本脚で、幾多もの武器を内蔵し、露骨にもコードや装甲が剥きだしの―――が、音を立てては現れたのだ。


「…ルフェス・メタモルフォーゼの作用ね。…紹介する、実験型黎明アーマー『エンゲルス』。此れが私の使役できる奴さ。自動操縦機能も付いていて、殲滅には長けているんでね」


彼女はエンゲルスと言う後ろ盾を用い、威勢よく言い放った。

チルノはその黎明アーマーの大きさに驚いた。カイアスも深く被ったシルクハットでは収まらない程の大きさであったため、少しシルクハットを持ち上げた。

その全貌は、チルノの背丈の四倍、五倍は存在する。精密機械である事は、剥きだしのコードなどで把握できる。しかし、それ故に高機能性を実現させており、かなりの脅威となっている。


「…チルノ、行くぞ。先ずはエンゲルスを壊し、次に藍佳を狙え」


「分かった、カイアス。でも…」


「でも、なんだ」カイアスは銃を向けながら、静かに言い放った。「…世界を変えろ、英雄」


「―――何が英雄だ、カイアス。見苦しい演劇は終わりだ終わりッ!…ユイト様の世界は誰にも邪魔させない!!」


藍佳が言い放ったその瞬間、カイアスは外套とシルクハットを脱ぎ捨てた。

黒スーツと言う、サラリーマン然とした姿に為った彼は、本格的に戦闘態勢へ入ったのであった。

チルノも負けじと、アセンション・アークを起動させた。左眼が深紅の閃光を走らせ、自身の周囲をウィンドウが囲む。そして、改めて藍佳を視たのであった。


「…行くぞ。私に無くとも、お前には使命があるからな」


「―――ふふ、そうだね。だったら尚更、奴を倒すよカイアス!!」


◆◆◆


エンゲルスは、その巨大な図体にしては動きが俊敏であった。

眼下に居た2人に対し、備え付けられた銃器で殲滅しに掛かったが、咄嗟にカイアスは魔法のバリアを展開させた。

そのバリアによって、地を走るように放たれた銃弾の雨は防がれてしまう。

その虚を衝いたチルノは、すぐさま自身にセラフィックモードを展開させては、大空に舞い上がった。そのままルインタイプライターでエンゲルスを狙うも、黎明アーマーは反射的に剣で受け止めた。

がちがち物を言わせる鍔迫り合いに、一旦離れては再び斬りかかろうとしたのであった。


「甘いッ!!」


そんなチルノに背後から射撃を狙う藍佳であったが、咄嗟にカイアスが剣で斬りかかった。

すぐさま藍佳は拳銃で受け止めたが、そのまま拳銃は弾き飛ばされてしまう。しかし力負けすること無くカイアスの腹部に蹴りを入れる。

剣の柄で蹴りを防ぐカイアスに、彼は藍佳に向かって雷の魔法を放った。天から雷鳴が雨のように迸った。

忽ち彼女はエンゲルスに隠れるようにして逃げに徹する。此処でカイアスはチルノと格闘する黎明アーマーに雷鳴の方向を手向けたのだ。

チルノは気づいたと同時に離れたが、エンゲルスは魔法でバリアを生み出し、回避してしまう。

一旦降り立ったチルノは、隠れていた藍佳に向かって斬りかかったが、エンゲルス咄嗟の銃撃にたじろいでしまい、すぐさまカイアスの元へ降り立った。


「…一気に畳みかける」


カイアスは自身の魔法力を解き放ち、巨大な暴風を生み出した。

その暴風は炎熱をも纏っており、同時に地震が発生し、辺りは攪乱されるほど「破滅」が起こっていた。

其れはチルノも巻き込まれそうになったが、カイアスが飛ばされそうになった彼女の裾を掴んでいた。

やがて魔法は限りを尽くして辺りを破壊し切ったが、其処には藍佳とエンゲルスの元気そうな顔が在った。しかしエンゲルスは電流をバチバチと言わせている。

漏れ出す電流は、エンゲルスの疲労困憊の様子を現していた。


「…こんなものなの、カイアス?」


「さあな。耳朶に触れてるだろう、キルヴェスターのお前ならな」


すぐさまカイアスは、追撃として同じ魔法を解き放たんとした。

しかし、流石の藍佳も其れには驚いたようであり、時を移さずカイアスに向かって拳銃で狙撃を試みた。

だが彼は攻撃を見極めており、魔法詠唱こそは中断されたものの、自前の剣で一気に斬りかからんとした。其れは彼の高速的な速さを露呈させた。

全く姿を見せず、一切の銃弾を見極めた彼は不意を突いて藍佳に斬りかかったのだ。

一発の剣戟、しかし藍佳は意識裡のうちに拳銃で剣を受け止めていた。其処には何処まで続いていそうなカイアスの持つ独特的な深淵があった。

此処でチルノは藍佳に向かってルインタイプライターを向けたが、エンゲルスがロケットミサイルを十発放ったのであった。

だがチルノはルインタイプライターを投げつけては、ミサイルの全てを空中で爆破させた。そのまま剣はエンゲルスの剥きだしのコードに刺さり、蒸気が漏れだした。

その瞬間、エンゲルスの身が炎のように熱くなったと同時に、何処かオーバーヒートを起こしたのだ。


「…あいつ、オーバーヒート起こしてるな」


カイアスが小声で呟いた時、目の前の藍佳に対して炎の魔法を放った。

燃え盛る炎が藍佳の元に放たれた時、彼女は自身の纏う服に着火し、咄嗟に消さんと試みた。

すぐさまカイアスはエンゲルスの方を向いては、再び魔法力を解き放たんとした。だがエンゲルスは半ば暴走状態に陥っていたのも事実であった。

オーバーヒートを起こした機械は、そんなカイアスの方を向いては支離滅裂な攻撃を仕掛けた。

銃撃、火炎放射、爆弾投下、それら諸々の諸般を一気に行ったものであるため、エンゲルスも負担が大きい。

カイアスはバリアを幾重にも貼っては、全てをバリアで防いだ。その最中に、彼はチルノに向かっては頷いて見せた。意思を汲み取ったチルノは、咄嗟にエンゲルスを真下から斬りかかった。

彼女の剣戟は凄まじく、黎明アーマーを構成していた全ての内臓機械が漏れだし、最終的には電流を伴わせて大爆発を遂げたのであった。


「…身代わり戦法で行ったのか」


藍佳は苦い顔を浮かべては、武器を構えては佇む2人の姿を睨みつけた。

曙光を見出してきたチルノに、藍佳は増々複雑そうな顔つきを見せている。カイアスは常に真顔であった。


「…後はお前だけだ、藍佳」


カイアスが徐に言うや、彼女は笑う余裕が無かったのか、はたまた自暴自棄に陥っていたのか、拳銃を乱射させたのである。

しかし、沢山の戦いを繰り返してきた2人にとって其れは何もしていないに等しく、簡単に銃弾を避けてしまう。

その際にカイアスは藍佳の真後ろに回っては、右手に力を溜めこんだ。

すぐさま藍佳がそんな彼を止めようとするが、チルノがそうはさせまいとルインタイプライターで斬りかかった。藍佳は拳銃で受け止めるも、カイアスの声が聞こえた。


「チルノ、離れろ!!」


その瞬間にチルノは上へ飛翔し、時を移さずカイアスが魔法力を解き放った。

熱風が吹き荒れ、大規模な竜巻が辺りを襲った。カイアスはその瞬間にその場から離れ、遠くから見ていた。

藍佳を取り囲むように暴れる熱風に、地面は再び呻りだし、辺りは再三騒然とする。

竜巻が一通り暴れ終わった後、其処には魔法バリアを展開しても効かず、カイアスの魔法によって攻撃を蒙った彼女が居た。

彼女は先程までの威勢を失っており、至極憔悴しきっていた。立っているのがやっとの状況であったのだ。


「…最後はあたいが!!」


上に飛翔しては魔法を避けていたチルノは、降下と同時に藍佳を斬りかかったのだ。

もはや藍佳に其れを受け止められる力は残されておらず、彼女は襲い掛かる天使に目を丸くしていた。

やがて血飛沫が爆弾のように噴き出し、1人の人間は肉塊となって、ルインタイプライターの錆と為ってしまったのであった。

竜巻の魔法によって巻き上がった黒の外套とシルクハットが、カイアスの元に飛んできた。持ち主を見つけたかのように飛んできたものを掴んでは、再び羽織り、被るカイアス。

血塗れたチルノの姿を見ては、口元に微かな笑みを見せていたのだ。


◆◆◆


「…終わったな」


カイアスは再び元の姿に戻っていた。

藍佳の血塗れた肉塊を一掴み、掌の上に乗せては、その柔らかい感覚を味わっている。

不快感を催すものだが、感情を捨てた彼なら何とも思わないのだろう、その肉塊を再び元の場所に置いては、返り血だけのチルノを見た。

そして彼は胸ポケットからハンカチを取り出し、顔や皮膚に付着した血を払拭してあげたのであった。


「…あ、ありがとう」チルノはぎこちない感謝を述べた。


「…お前は其れよりも果たすべき事が在るんだ。此処でへばって貰ったら困る」


「…へへっ、そうだよね」


チルノは改めて服装を直した。

深淵庁の、捜索機動隊の服を借りた彼女であるために、胸には捜索機動隊のバッジがあった。

其れをチルノはカイアスに手渡した。しばし彼女を茫然と見ていた彼であったが、少し時間を置いた後、彼はバッジを受け取っては懐に入れた。

チルノの方では無く、違う方向を静かに見続けていた。思索に耽っているのか、徐に呟いた。


「…遺属性神話のことは聞いたか?」


「聞いた。あたいがどうやら凄い神様の生まれ変わりで、ユイトがその神様と敵対していた人物なんでしょ。複雑な気分だよ」彼女は静かに言った。


「…これも運命かも知れないが、最後に言っておく。衝撃を受けるかも知れないが、幻想郷の能力ジャックと言い、殆どの所業はアイツのしたことだ。向こうの世界では仲良かったらしいからな、再三伝えておく」


「…今更言うなよ」チルノは何処か悲愴を浮かべていた。「…だから、あたいはアイツに回心させたい。助けてあげたいんだ」


「…お姉ちゃん気取りか。世界の命運を分ける最期の戦いがこうなるとは、世界も非情だな」


カイアスは吐き捨てるように言い放った。

チルノは、自身の持つルインタイプライターの柄を、改めて握りしめていたのであった。

何時の間にか、彼への復讐心は無くなっており、彼女自身の姿が彼に投影させられているようにさえ思えた。

だが、水火も辞さない覚悟を持った彼女は、確固たる意思を胸に秘め、ユイトを敵視していなかった。

其れは彼女の温情―――弟のように接していた彼への純粋なる蓋然性―――である。


「…私はお前に賭けている。だから、負けるな。この場に解条主義フォノニズムだの零神主義レティスギアズムだの関係ない」


彼は静かに、そして彼なりの志望性を持って声を発した。「…勝ってこい。お前なりの勝利で、な」


同時に彼は、チルノに向かってコイントスを放った。

忽ちチルノはそのコインを掌の上で受け止めた。銀色の燦然と輝くコインであったが、その面は表を向いていた。

彼女は顔を見上げると、深くシルクハットを被り込んだカイアスがチルノの方をまじまじと見つめていた。

暫くの間、沈黙が存在していたが、最後にカイアスが開口したのであった。


「…世界はコイントスのようなものだ。どちらの面が出ても、その運命に従うまで。しかしイカサマは可能なのさ。…しかし、世界は正々堂々としたコイントスを好むらしいな」


―――彼は最後に、滅多に見せない笑みを見せたのであった。

チルノは、そんな彼の表情を後に、受け取ったコインをカイアスに見せた。カイアスは一度頷き、察知した彼女は懐に其れを入れた。

もう、最終決戦なのかと思うと、彼女は身が縮こまる思いであった。

長かった旅―――思い出せばアクシス・パラダイムと言い、国会襲撃、防衛庁での戦い、アリスノートの救出など、様々な事をしたと思う。

しかし、こうも終わりが近づくと、それらが走馬燈のように流れて行くのだ。不思議なものである。


カイアスの姿も見えなくなると、彼女の前には大きな世界が広がっていた。その世界の真ん中に大きな機械が設置されている。

その世界には、三世界の人々が辺り一面敷き詰められているのだ。

彼女の居る場所は極めて高い場所で、機械の置いてある場所も島のように高くなっている。そして、チルノの元と島には真っ白な橋が架かっている。

彼女は足を踏み入れた。奥には、機械の片翼を生やす少女を機械に縛り付け、両手を広げる少年の姿が在ったのだ―――。


そして、親しみの覚えやすい声が一つ、その空間に響き渡ったのである。


「…やあ、チルノお姉ちゃん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ