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LETISGEAR OVERTECHNOLOGY TOHO FANTASY   作者: PHIOW BJIJ LHJIJ LJIJ
黎明都市フィッツジェラルド編2
39/45

36章 内奥で揺れる現実性

「今先程、律城世界に本社を構えるサクラメント社から出された、此の雑誌についてですが…大統領は拝読なされましたか」


野党からの答弁で、相手側の席にはルーシアがしかめっ面を浮かべながら立っている。

質問をする野党側陣営の議員の片手には、先程刊行された週刊新流潮が皺くちゃながらも存在し、如何にも其れが此の答弁の重大性を物語ってさえ思える。

大統領は自分の口にマイクを充てては、徐に言葉を並べた。


「はい。…新流潮に関しましては、私も読ませて頂きました」


「ならば大統領もご存知のハズです…アルトヴィレン事故のスクープ記事」野党側議員は不気味な笑いを浮かべながら言った。「しかも、告発者はかのカイアス。其れについて、何か申し開きはありますか?」


「…13年前の事故で多くの民を亡くした、忌まわしき事故だ」ルーシアはゆっくりと言葉を並べて行く。「あの事故の事について赤裸々に書いてあった」


「ですよね。しかも、あれの真実は当時機鉱発電所の管轄会社であったハーシュ・フェニックスだったが、あの会社をこっそり買収合併したシュノファスが根回しして出来た事だったらしいです。しかも、そのシュノファスは弱みを握られていた―――アクシス・オーバー社によって。此れは明らかな律城世界の攻撃なのでは?

しかも此の告発者が律城世界に身を売ったとされていたカイアスです、今回律城世界を裏切る形で発刊された新流潮の記事の信憑性は極めて高い。…大統領、まだ、ご決断なされないんですか」


「―――戦争は、起こしてはならない」大統領は、意地でも信念を曲げなかった。「私は黎明暦の設定の立役者となったノヴァの子孫である以上、戦争は決して起こしてはならない…そう考えています」


「でしたら、向こう側が無防備な此の世界を攻撃された時、アルトヴィレン事故よりも更なる被害者を出す事になりませんか!?」


議員席からは、野党側議員の意見を肯定する野次が沢山飛ばされている。

しかし、ルーシアは黙って頷くわけには行かなかった。自分の先祖が書いた、戦争への畏怖…飽くまで平和としての意義を為す為に大統領が居るのなら、和平に持ち込んでこそ自分の存在価値がある、そう思っていたのだ。

与党側議員からは、野党側議員の野次を非難する野次が飛ぶ。其れが相俟って、対立する二極はお互いを攻撃する形で非難し合う。徐々に議場が騒がしくなってはヒートアップしていく中、大統領が大声を以て議場を制した。


「五月蠅い!!」


何時もは穏便な彼が、声を荒げることは滅多に存在しなかった。

生中継で撮影しているテレビ局職員も、彼の怒号には大層驚いたようで、腰を抜かしている。

相手側議員も驚いたようで、沈黙を制した彼は徐に言葉を羅列した。


「―――確かに、世論は暴走に近い動きを見せています。特に13年前の事故の被害者には、今回の記事は切っても切れないものだ…そう確信しております。遺族、被害者の悲しい思いは分かります、ですが…復讐の為に戦争を動かす事は、世界規模でのアルトヴィレン事故に他ならないんですよ!?

―――もし戦争法案を可決したら、次に死ぬのは貴方かもしれない…今野次を飛ばしていた貴方たち、いや、もしかしたら貴方たちの家族、大切な人かも知れないんですよ!?…誰が死ぬか分からない。だからこそ、私は最善の選択を施したい、そう思っているだけなんです」


ルーシアは、怒りに似た悲しみを議場に訴えた。

彼の悲痛な思いは、先程まで申し開きをしていた野党側議員の顔を垂れさせた。


「……私の妹は、13年前のその事故で友人を失い、彼女本人もサーカムフレックス体になるしかありませんでした。ですが、彼女は…私が知り得る限りの彼女は、決して戦争に賛同していません。

確かに律城世界を憎むことだってあるでしょう…しかし、憎んで同じことをやり返すのは、相手と同じ土俵に立つ事なんです。

其れに―――先程、向こう側世界の暫定国王であるフィリキアさんからお話を伺いました。第二次蒼穹而戦争の真意、其れは深淵庁捜索機動隊を率いている仮定的主任、そして告発者のカイアスが引き起こそうとしている述を。…失礼を承知して申し上げます、貴方がたの動きは…カイアスの思惑通りだったんです」


◆◆◆


「―――メールが入ったので、一旦失礼します」


総務省の応接室で、刊行された新流潮のスクープ記事について話していたシレイルたちであったが、此処でシレイルのアバタール・ネットワーク充てに一通のメールが届いたのであった。

応接室から一旦抜け、そのメール内容を確認する彼女。送り主はセーラであったが、内容は散々たるものであった。其れは第三次世界に遠征中であったブリュンヒルデにも同じ文面のものであった。

すぐさま応接室に入っては、慌てて彼らにその内容の事を急いで伝えた。


「大変だ、カイアス率いる捜索機動隊が…反蒼穹而対策機構リ・レギオンの連中を拘束したらしい。その中には…私の妹も入っているらしい」彼女は怖ろしくなりつつも徐に言った。


「……捜索機動隊が!?」アイルは素っ頓狂な声を上げた。


「―――どういう魂魄かは分からないですけど、恐らくは…全面抗争に踏み切りましたね」ゼロは憶測を立てて述べるが、その考えが最もなものであった。「意地でも戦争を起こすと」


「しかし、其処までして戦争を引き起こしたい意義が理解出来ないじゃな…」イオは悩むように言うと、此処でアイルが口を開いた。「恐らく、引き裂かれるような血の滲む思いをしてまで果たしたい裏付けがあるとか考えられないです」


「恨みってところかな…」オズハルドは呑気そうに発言した。「そうとしか考えられない」


「取り敢えず、私たちに起こった事実因果だけお話しておくと…カイアスは新流潮にネタ流しする為、同じネタを模索していた私たちを、弱みを握ったヨフュエルを利用して妨害した。無事刊行された新流潮に、私たちの探っていた意味は全て水の泡となった。…つまり」


「無意識的にカイアスの敵に為っていた、と言う訳か…」シレイルの言葉に続くようにゼロが言った。


「…しかし、弱みを結局バラされたヨフュエルは決して良い気分では無いはずです。彼からカイアスに対しての証言を取れば、彼の目論見を世に広められる。すれば第二次蒼穹而戦争は防げるのでは?」


アイルの提案に、シレイルは指鳴らしをしては称賛した。

しかし、セーラから届いた文通の事も含め、やる事が出来てしまった以上、カイアスと敵対するのは既定路線だろう―――そう腹を括った彼女は、リ・レギオン救出とヨフュエルの証言の入手と言う二極を、この5人で分けてやるしかないと考えたのだ。

シレイルの此の提案に、応接室に居た全員が賛同を示した。しかし、救出の件は決して「はいどうぞ」と言った生半可な筋立てでは行かないのが目に付く。此処でシレイルは、戦闘経験の深い自分とオズハルド、ゼロを救出路線に、アイルとイオを証言入手路線と分けることを考え、言ったが、其れも全員が了承した。


「―――私たちはリ・レギオンを救出しに行く。だから、アイルとイオはヨフュエルを何としてでも見つけ出して欲しい。もしかしたらサクラメント社に行けば…手掛かりが掴めるかもしれない。宜しく頼む」


◆◆◆


ブリュンヒルデの言葉を受け、急いでリ・レギオン救出へと向かうチルノたち。

急いでアバタール・ネットワーク世界を駆け抜け、黎明都市へ渡る。降り立った場所は決壊したフェニックスダム前で、霊験視ベールをハッキングして何とか降り立った。

しかし、第三次世界に行く前までは騒然としていた場も閑静になっており、寧ろ違和感の方を感じさせる。


「―――捜索機動隊の行方が掴めない。一体何処に連れ去ったのだろうか」


此処でブリュンヒルデのスマホが反応した。

何かと思えばスマホの契約会社が直々に伝えるニュース速報で、其れがたった今入ったためにバイブルが鳴ったのだ。其れを確認する彼女であったが、今度のニュースも又、悲惨な事柄であった。

顔を硬直させ、身をがたがた物を言わせては、チルノに語った。


「…たった今、速報が入った。捜索機動隊が防衛庁地下のハルト・デリートを占拠したらしい」


「だったら尚更だよ!きっと捜索機動隊が其処に居るなら、バルトロメイ達も居るはずだよ!行かなくちゃ!!」


無論、チルノの意見は全うなものであった。

ブリュンヒルデも静かに頷くや、スマホでタクシー会社に電話をかけ、すぐさまタクシーを呼んだ。

すぐに来たタクシーに乗り込んでは、防衛庁と行き先を運転手に伝え、急いで向かう。

轍鮒の急が幾度も差し迫ると困窮するもので、チルノもブリュンヒルデも、車内で苦い顔を浮かべていた。

やがて防衛庁前に着くや、急いで金を払い、そのまま降り立った。しかし防衛庁の周囲は野次馬が取り囲んでおり、しかも捜索機動隊の正装である黒服を纏った者達が門番役として立たされている。


「恐らく、バルトロメイに場所を吐かせたのだろう。しかし厄介だ」


「―――でも、やるからに潜入するしか無いよ…?」彼女は怖くも、そう発言した。


「もう後戻りは出来ない…。……チルノ、お前に覚悟は出来てるか?」


「…うん!もう、何も怖くない。世界を平和にしなければいけない、其れが私とて解条者フォノンの役目だもん!」


彼女は元気よく、そう答えたのであった。

其れに対してブリュンヒルデは微笑みで返した。すぐさま戦闘状態に入るや、近くで営業していた店で食料品などの予備道具を少量買い、2人で分け合った。其れは長期戦になるだろう戦闘での備えであった。

備えあれば憂いなし、と言う言葉にそのまま服を着せたようであったが、其れに服を着せる行為としては彼女たちに間違いや繆錯の概念性は存在しなかった。いや、内在性を最初から見抜いていた。

潜在していた本質を見抜く事こそ、本質そのものであったのかもしれない。


「最初から強行突破になるはずだが…2人一緒に行こう。分かれて動けば、数の暴力で叩かれるからな」


「分かった。あたいはブリュンヒルデさんについて行くよ」


◆◆◆


2人は野次馬の海を掻き分け掻き分け、防衛庁前にやって来たのであった。

事件が起きた現場のようにテープが張られ、捜索機動隊が不当に占拠している場では、やはり彼ら彼女らが目を光らせている。此処でブリュンヒルデは、警備をしていた捜索機動隊の1人を拳銃で穿っては、一気に突入を仕掛けたのだ。

放たれた銃声。其れは中に居た捜索機動隊の殆どが耳にした。全員殺す勢いで前へ進んだ2人は、お互いくっつき合いながらも奥へと進んでいったのだ。


しかし、捜索機動隊も指を口に咥えて黙ってみている訳では無い。

入り込んできた部外者を排斥しようと、拳銃や多種多様の武器を以てして襲い掛かってくる。

此処でチルノは自身に秘められた属性を展開した。―――セラフィックモードだ。

彼女の身体が神々しく照らされたと同時、片翼の天使の羽が生え、俊敏化した彼女の剣戟に、立ちはだかる捜索機動隊の面々は虚しくも倒れて行く。


「チルノ、奥へ進め!!」


ブリュンヒルデの言葉を受け、2人は更なる奥へ進んでいく。

かつて襲撃が在った防衛庁は、修復中であったために工事現場のような佇まいを浮かべている。その地下、何処か声が聞こえる階を目指して2人は階段を降りて行ったのだ。

しかし、そんな2人を追いかけるように捜索機動隊は襲い掛かってきたのだ。突然現れた侵入者に勝手に弄ばれては迷惑な黒服の集団は、武器を以てして立ち塞がった。


2人を追いかけるようにして来た捜索機動隊の男は、拳銃を向けた。

階段では一列に並ぶため、2人を射貫く狙いだったのだろうが、此処でブリュンヒルデが手すりに乗りかかっては空中から回転蹴りを顔にお見舞いした。血飛沫が舞う。

ふら付く男にブリュンヒルデは腹部に蹴りを入れ、後ろにいた機動隊もろともをドミノ倒しにしてしまう。此処で落ちていた拳銃を奪取し、止めに一発を打ち込んだ。


其の最中、チルノは階下へと来ていた。

階下には捜索機動隊の本拠地が展開されており、チルノの姿を見た彼らが続々と立ちあがっては立ち塞がった。此処でチルノに最初に襲い掛かった男はナイフ片手に斬りかかったのだ。

しかし彼女は見極め、身を反らして回避したと同時、猶予を掴んではルインタイプライターで回転切りを放ち、背中に横一文字を切り刻んだ。

続いて拳銃で遠距離から攻撃を図ってきたも、チルノはすぐさま剥きだしの鉄骨の壁を伝いながらも、一気に攻撃を仕掛けた。回転蹴りをお見舞いしながら、咄嗟に剣で腹部を突き刺した。


「此方は一時的に片付いた、援護する!」


ブリュンヒルデが階下に降りてきた。

しかし、降りる際の彼女の隙を狙った捜索機動隊の一員が、背後から脳天をバットでかち割らんとした。が、彼女は右手の肘打ちで飛びかかっていた職員の腹部を突き、そして握りこぶしで顎からアッパーを入れ、吹き飛ばしてしまう。都合よく持っていたバットが彼女の目の前に落ちるや、返り血の浴びたバット片手に笑みを浮かべている。


「バイオレンス映画はよく観るぜ」


辛い顔を浮かべる捜索機動隊であったが、諦めることは決してなかった。

余っていた連中は、チルノ目がけて一斉に襲い掛かったのだ。此処で彼女は自身の背丈を利用し、スライディングをしては襲い掛かってきた一職員の股の間を潜っては、背後から回転蹴りを入れた。

同時に振り向いた職員2人をルインタイプライターで串刺し、持っていた拳銃を瞬間的に奪っては剣を差し抜いて、すぐさま拳銃を連射し、取り囲んでいた捜索機動隊を蹴散らした。

血飛沫が返り血として付着していたため、チルノは余りいい気分では無かった。


「…流石のあたいでも、此処まで派手にやった事は無いね」


「でもお前も此処まで派手だと反って好みだろう?面白いからな」


此処でブリュンヒルデは、更に降りてきた捜索機動隊の連中が来たのを括目した。

すると彼女は、奪い取ったバットで一列に並んでいた先頭の職員の腹部を突いては、再びドミノ倒しにしてしまう。此処で背後から短刀で襲い掛かった職員を肘打ちで返り討ちにしては、そのまま短刀が先頭の職員の腹部に飛んで行って刺す。

偶然も味方のうちだ、と言いたげのようにブリュンヒルデは、倒れこんでは腹部に短刀の刺さった職員の腹部、短刀の上を足で勢いよく踏み、吐血を浴びた。次に職員の顔を蹴り上げ、そのまま回転蹴りを決めては人間の塔を作るように階段を封鎖した。


「これじゃ殺戮狂だ」ブリュンヒルデは自分たちがやった血だらけの跡地を見て皮肉った。


突然、まだ威勢の在った職員が油断していたブリュンヒルデに向かってナイフで襲い掛かった。

見極めが遅かった彼女は唖然としたが、此処で人間の塔を崩しては階下を降りる者が居た。その者は、一念発起して襲い掛かった職員を遠くから銃撃し、倒してしまう。


「チルノとブリュンヒルデじゃないか。お前らが先客か…って酷い現場だな」


声を発したのはシレイル当人だった。続いてオズハルド、ゼロと姿を露わにした。

地下一階の現場を見て、随分派手な戦いが繰り広げられた事を察した3人も、血の気を活発化させた。

簡単な自己紹介を済ませたところで、チルノが申し開くように発言した。


「ゼロ、あんた…目を覚ましてくれたんだね」


「まあ。これも全て、貴方のお陰ですから。…其れに格闘ゲームは大好きです」


此処で残党の職員が、無防備なシレイルに向かって剣で襲い掛かった。

しかし、手刀で応戦したオズハルドが顔を殴りつけ、続いて近くに居たゼロが回し蹴りを顔に決め、止めにチルノがルインタイプライターで首の頸動脈を斬りつけた。

壁に靠れるように倒れた職員に、オズハルドは自前の武器である拳銃を取り出しては口を開いた。


「この最奥に奴らが皆を監禁している…なら、捜索機動隊を壊滅に追い込むまで戦う他は無いね」


「フン、なら行くぞ…」


そうブリュンヒルデが言葉を続けたと同時に、5人は階段を駆け下り、地下二階に降り立った。

此処でもまた、捜索機動隊の面子が何人ものさばっている。しかし、彼ら彼女らは聞いた。捕縛されているであろう者の悲痛な叫びを。―――其れはセーラの声であった。

シレイルが咄嗟に反応し、同時にチルノたちは確信した。だが、妨害するように捜索機動隊が波を造成しては立ちはだかっている。であっても、此処で背を見せるような愚を犯す訳には行かない。


「何とか奥へ進め!強行突破だ!!」


そうゼロが大声で言った時、他の4人が返事を以て了承した。

一斉に捜索機動隊の面々が襲い掛かったが、忽ち返り討ちにしていく。其の最中でもチルノに刃を剥いた者は居たが、身長の低さを用いては攻撃を避け、持ち前のルインタイプライターで串刺して行く。

そのまま近くの鉄筋の柱を用い、助走を付けて駆けあがっては、空中から回転蹴りを波にお見舞いしたと同時に足元からルインタイプライターで持ち上げるように斬りつけた。

此処に至って、チルノを背後からナイフで刺そうと企む職員が居たが、オズハルドが得意戦法の手刀で顔面を殴打し、倒れた職員にフィニッシュとして思いっきり顔を踏みつけた。


「手刀戦術じゃないと、やっぱり血が燃えないねェ!!」


すると、チルノの間隙の急襲した職員が落ちていた石で殴りかかろうとした。だが、自身のもう一つの姿であるフォルネウスモードを展開したゼロが剣を投げては職員の脳天を貫いた。

そんなゼロの背後からも職員が詰め寄っていたが、チルノは再び鉄骨の柱を踏み台にしては一気に蹴りかかり、地に伏せさせたと同時に職員の物であろう拳銃を奪っては背中に何発か撃ち込んだ。

弾切れになった拳銃を捨てては、ゼロと背中合わせをしては態勢を見極めた。


「フォルネウスモードは…どうも最近使ってないような気がしてね」


チルノもまた、攻勢に出ることにした。

シレイルに横から襲い掛かろうとしていた職員に背後からストレートの直球パンチを決め、不意に受けて倒れた存在をルインタイプライターで背中を串刺した。此処で更に別の職員が現れ、シレイルに拳銃で射撃しようとするも、剣で顔面に斜め一文字を刻んたと同時に拳銃を奪い、倒れこむ職員に何発か射た。

此処で後ろから他の職員が剣で斬りかかるも、何とか身を反らしては傷さえ免れたものの、自前の服が破られ、露出が出来てしまった。

返り討ちとして、右足で力込めたキックを打ち込み、追撃として脳天を背後から剣で突き刺した。


「借りが出来ちゃったな。何時か、奢りで返させて貰うよ」


この時、職員から蹴られたブリュンヒルデがチルノの元に飛んできた。

入れ替わるようにして、職員に対して攻撃を仕掛ける。しかし、その職員が持っていたのはマシンガンであった。だが、身を屈めては股関節から蹴りを入れては立ち上がり、狼狽える職員の右頬を殴り、マシンガンを奪い取った。此処で反撃に出たブリュンヒルデが後ろから顔を掴み、チルノはマシンガンをその口の中に突っ込んでは連射した。

盛大に吐血しながら倒れる職員に、ブリュンヒルデは礼を言った。


「済まないな。お前に助けられた」


此処で、遠くで戦っていたオズハルドが最後の職員の顔面を手刀で殴りつけては鉄骨の柱に打ち付け、止めに回し蹴りで完封した。5人が薙ぎ倒した職員の遺骸が山のように積み重なっている。

返り血を浴びた5人は、やはり無傷では済まなかったが、全員が存命していた。シレイルは右目上に痣を負い、フォルネウスモードを解除したゼロは打撲を、オズハルドは右手と左脇腹に切り傷と顔に銃弾の掠り傷、ブリュンヒルデは両足太腿に切り傷、背中に痣と言った具合だ。チルノは服が破けただけで済んだが、一種の水着のようになってしまっている。


「―――此処は砂浜じゃあるまいし、倒した捜索機動隊から服を盗んでおけば?」


と言うシレイルの提案を受け、彼女は物陰で服を着替えた。捜索機動隊の正装である黒いスーツ服に黒の外套は確かに見た目の上ではクールであった。

此処でチルノは落ちていた黒の眼帯を付けようか悩んだが、視界の領域が狭まる事を言われ、懐に仕舞った。此れで捜索機動隊の気配は無くなり、ようやくして奥に進むことが出来るようになった。


「これから本題だ。全員を助けに行くぞ」


そうブリュンヒルデが言った時、5人は更なる奥―――深淵である場所に足を踏み入れた。


◆◆◆


防衛庁の最奥は、かつてチルノがゼーアと戦った場所であった。

其処へ足を踏み入れると、其処には多くの武装した捜索機動隊に囲まれたリ・レギオン関係者の姿があった。その中には、幼少であったソワとリルノの姿も存在していた。

卑劣な真似を行っていた捜索機動隊の行為は許し難く、全員を助けんとの心意気で5人は睥睨した。その中、ハルト・デリートの在る部屋から出てきたのは、かのカイアスであった。


「…大変ご無沙汰してるね。君たちは此の連中を助けに来たと言う魂胆だろう?」


「黙れ!」カイアスの言葉を威勢よく制したのはチルノだった。「皆を助けろ!」


「助けろ?…素直に助けてあげよう。もうこんな奴らは用済みだ…解放しろ」


すると彼らは、捕縛していたリ・レギオンの関係者を何事もなかったかのように解放した。

再会を喜び合った5人であったが、どうもチルノは腑に落ちなかった。完璧主義者の彼が易々と人質を解放する訳がない―――そう思ったからだ。

歓喜の中、チルノは思い巡らせた顔を浮かべては質問を投げかけた。刹那的に空間は寡黙に陥る。


「…あんたが、幻想郷の能力を奪い去った張本人なの」


「その質問に対しては、半分イエス、半分ノーだな。何せ私が直接的にやった訳では無い」


「もう一つ聞く。あんたは、何の為に皆を人質にした!?」


「―――第二次世界のハルト・デリートの場所を知る為」カイアスは無表情で話を続ける。「そして乗っ取り、エレミアの嘆きを完成させる」


「エレミアの嘆き…?」チルノは不意に出てきた単語に頭を悩ませた。


「この際だ、教えてあげよう。…『エレミアの嘆き』ってのは零神主義レティスギアズムが目指す、真の世界変革、調和だな。三世界融合を果たし、パーフェクトワールドを築き上げる最善項を果たすため、今私は此のハルト・デリートを乗っ取った。後は第一次世界のハルト・デリートの乗っ取り、そしてアバタール・ネットワーク世界のグランドマスターを乗っ取りさえすれば、使命は果たされる。別に私はもういいんだ…私の復讐は、終わった」


突然に話を切り出した彼は、陰から血だらけの少女をチルノたちに見せつけた。

其れは紛うこと無きアリスノート―――本人だった。彼女は腹部にナイフを刺されたままであり、口からも血を零している。しかし未だ存命しているようで、呼吸の音が聞こえる。

ハッとしたチルノに、カイアスは依然として無表情だ。


「―――世界を踏みにじった者の末路だ。よく目に焼き付けておくんだな」


そんな彼女の姿を見ては、誰もが茫然とした。しかし、チルノは真っ先に口を開いた。


「…其れはカイアス、あんただ!」


咄嗟にルインタイプライターを構えては、一気に斬りかかる。しかし彼は卑怯にも、ボロボロのアリスノートを盾に、チルノを寄せ付けなかった。彼女は口から血を流していたが、助けようとするチルノの意思を汲み取っては、静かに発言した。しっかりと、チルノは聞いていた。


「―――これが私の報い。ごめんね、チルノちゃん。何も贖罪できなくて…」


この瞬間、アリスノートは絶命してしまった。……死んでしまったのだ。

さぞカイアスは上機嫌であり、自分の宿命の敵を自らの手で殺害できたという至福感に襲われ、不意に胸の奥底から笑いが飛び出しそうになった。しかし彼は其れを表に出すという真似は避けた。

対照的に、地に倒れるアリスノートの姿を見て、チルノは湧き出るように涙が出た。そして、アリスノートを殺したカイアスに明確な殺意と言うものが生まれたのであった。


「カイアス……!!」


「今、此処に来るまでに多くの捜索機動隊がいただろう。しかし、きっと君たちは彼らを殺して此処まで強行突破した。彼らもアリスノートも、同じ人間だと言うのに、何故に正義を振りかざそうとしているんだ?

彼らには家族や友人、仲間が居ないとでも思っているのか?…怒りに苦しむのは此方のセリフだ。偽善もいい加減にしてくれ」


彼は両手をポケットに突っ込んでは、そのままチルノたちの横を通り過ぎて行った。

決して追いかけようとは思えなかった。すぐさま全員は絶命したアリスノートの元へ駆け寄り、何とか救済措置を施した。ブリュンヒルデが来る前に買っておいた医薬品、心臓マッサージなどを試したが、為す術全てを以てしても、彼女の命が取り戻る事は決してなかった。


この時、であろうか。

チルノの、心の奥底で生まれた正義感が轟々と燃え上がり、黒外套を羽織った不穏な彼への思いが確固たるものになったのは。其れは、男勝りな彼女の男気そのものであったのかもしれない。同時に、何もしてやれなかった自己への情けなさがどっと溢れ、穴にでも身を韜晦させたい性分であった。

跋扈した感情を必死に押し留め、去り際に黒の背を見せた男を、彼女は凛然且つ毅然として一睨したのであった。


「絶対、何時か仇を取ってやるからな…!!!」


◆◆◆


―――あれから、幾ばかりか時間を経た。


アリスノートの身元は、死後も尚、不明のままであった。

水商売させられていた所を王家に発見されてから彼女の歴史は始まったのであり、其処から暴走を経て今に至っている。そんな彼女の葬式を簡単に済ませ、枢機皇と皇妃の墓の近くに土葬した。

捜索機動隊を壊滅させ、カイアスから助け出したアーシアから、新たなリ・レギオン本部である財務庁の本庁を紹介させられた。

何も役に立てなかったから、せめてもの力で、と言う訳で新たな拠点となった場所は官公庁集う黎明都市の中枢みたいな場所の一角に建つ巨大高層ビルの最上階で、見晴らしは素晴らしい。

此処でチルノと話がしたい、一杯行かないか、と彼女誘ってきたのはゼロとセーラの異色な組み合わせであった。


黎明都市の、中枢街の喧噪から少し離れた裏道。

会社帰りのサラリーマンなどが集う居酒屋が立ち並ぶ場所の一角に、セーラは案内した。其処は古煤けた定食屋であったが、彼女は構わず戸を開けた。中は基調に並べられた椅子や机が存在し、古いランプが一つ、天井に灯っているだけだ。客なんて誰も居ない。店主の初老の男性は、セーラの顔を見ては驚いた。


「…久々だな。今日は、お連れさんもかい?」


「まあ、ちょっとね。此処でお話しようと思って」


セーラに続いて、ゼロとチルノも定食屋に上がった。全てセーラが奢ると言うので、チルノは構わず好きなのを頼んだが、ゼロは自分の物は自分で払うと飽くまで男としてのけじめを払ったつもりでいた。

初老の男性は、3人の注文を聞いてから料理を作り始める。食材が焼ける良い音の中、セーラはチルノとゼロの顔を順番に見ては、徐に口を開いた。懐かしむようにして。


「この店はね…私が幼い頃からお兄ちゃんと良く通ったお店でさ」


彼女は、ゆっくりと話し出した。


「店主のおじちゃんは、昔からの顔馴染みでさ。困った時には飯作ってくれるんだよね。其れを2人にもご馳走したくてさ」


「しかし、雰囲気のある店ですね」ゼロは店全体の概観を見渡した。「私みたいな新参者がつべこべ言える立場じゃありませんが」


「ふふふ、此のお店に新参も古参も無いですよ」セーラは改まって言った。「私は2人に此のお店の事を教えたかったんだ。お世話になったからね。チルノちゃんには言わずもがな、ゼロさんには…あの後も、色んな支援をさせて頂いて貰ってるし」


「いや、私は私として果たす事を果たしたまででして」ゼロは何処か照れているようだ。「一回、貴方に助けられてから、呪縛が解けたんです。お礼としてお手伝いさせて貰わせてます」


此処で店主の男性が、ゼロとセーラの頼んだ料理を丁寧にも運んできた。彼はラーメン、セーラは炒飯とお吸い物だ。太るぞ、とセーラに冗談を言う店主に、彼女は頬を膨らませて否定した。

此処には、長閑な時間が流れている。チルノは料理を待っていながら、そう気づいた。何時しか雑踏の中、本当の我を見失ってしまっていた…そんな気がして、ならなかった。

悠遠な想いは、このような雰囲気詰まった場所でしか味わえないものだ、と彼女は思索に耽っていた。


「―――まあ、2人を此処に誘ったのは他にも話したいことがあってさ」セーラは話を割り出した。「実はさ、今度2人に付き合ってほしい事があってね」


「付き合ってほしい事?」ゼロが聞き返した。


「うん。…まあ、その、言いにくいんだけど…アバタール・ネットワークの件でさ」彼女は徐に話を切り出した。「実は…アバタール・ネットワークで少し検査してたんだけど、どうも調子がおかしくて。何かと思って調べたら、実はグランドマスターが乗っ取られていたんだ」


「グランドマスター…どうして其れが」ゼロは唖然とした声を上げた。


「…グランドマスター、即ち三世界を直接的に結び付けるスーパーコンピュータ。其れを乗っ取ろうなんて魂胆を浮かべるの、今考えられる勢力として一つしかないと思うんだ」


「―――レティスギア、か…」チルノは重たそうな顔を浮かべた。


やがて、チルノの元に冷やし中華が運ばれてきた。美味しそうに彼女は頬張るが、ふと一つの疑問が頭に浮かんだのであった。しかし、彼女の猜疑は直後にゼロが代弁してくれた。


「しかし、何でリ・レギオンの連中には言わないで私たちだけ…?」ゼロは、チルノも気になっていた質問を繰り出した。やがてセーラは重い面を上げ、腹を割って話したのであった。


「実は…そのグランドマスターを乗っ取ったとされてる人のファジー指数が…」彼女は言葉を詰まらせたが、徐に続けた。「…シエル、だったんだ」


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