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LETISGEAR OVERTECHNOLOGY TOHO FANTASY   作者: PHIOW BJIJ LHJIJ LJIJ
律城世界メタトロン編
33/45

30章 真理性に欠けた真相

錆臭い部屋に、手枷足枷と壁に張り付くように拘束されていたのは、1人の男性であった。

髭が無尽に伸び続け、無精な身体を築いている。下を俯いては、この世の全てを案じては呪っているような重々しい顔を浮かべている。

ふと、部屋に光が差し込んだ。暗かった部屋に入る、一筋の閃光。続いて訪れたのは、幾人もの姿であった。

彼ら彼女らの姿を見ては、静かに一つ、溜息を吐いた。これが彼なりの挨拶でもあった。


「―――誰だ」彼は、何とか声を振り絞って言う彼。「こんな惨めな私を揺さぶりに来たのか?」


「貴方が噂のシエル…!」


甲高い声で反応したのは、アールシュヴァルツであった。彼女は桎梏を背負う彼を一睨しては、その怒りを露わにさせた。

自身が我が子のように育てていた孤児を攫っていた以上、憤りの意を抑えられなかったのだ。

両手に握りこぶしを作っては、力強い眼差しで睨み据える姿は、常日頃温厚な彼女が容易く見せることの無い一面であった。

全身に憤怒の意思が滲みこんでいるかのようで、彼女自身の全霊が狂悖に近い怒りと見て取れる。

猫耳を張るように立てては、壁に磔にされたかのような彼の元に徐に歩いて行く。


彼女の後ろでは、ソワとリルノが彼の姿を見ては怯えている。如何にして恐ろしい存在であったのか、よく分かる。


「勝手にソワとリルノを誘拐したのは貴方と聞いた」


「そうだ。その2人を自分勝手な意思で誘拐し、解条者フォノンの逸材として連れてきたのは私だ。憎いか」


シエルの質問に対し、アールシュヴァルツは身を小刻みに震えさせたのであった。

すると、握りこぶしを作っていた右手を挙げると、一気に彼の頬を手のひらで殴りつけた。彼女は彼にビンタしたのだ。

無論、抵抗する気力さえ無くした彼に、彼女の行為を反駁する元気もなければ、権利も無かった。

殴りつけても尚、その怒りが収まる事を知らない彼女は、早口調で言葉を並べた。


「貴方ね…!……この子たちにどれだけ怖い思いをさせたのか、分かってるの!?」


「―――すまなかった」間を開けて、彼は静かに物を言った。「私の責任だ。今は目が覚めた」


「そして一番の被害者はソワとリルノ。…この子たちに謝罪しなさいよ」


シエルは、奥で振るえている2人の子を見据えては、静かに頭を垂れ下げた。「―――悪かった」


「しかし、彼もまた加害者であって、被害者でもある。よりによってセナトの権利を邪魔だと思った息子、セトが居る」


ザラスシュムは怒りに震えるアールシュヴァルツを右手で制し、静かに彼の桎梏を外し始めたのだ。

博士の行動を見た凛も、手伝いとして加わる。そのまま手枷足枷を外された彼は束縛から解き放たれ、自由の身となったのだ。

白衣を靡かせるザラスシュムは、内ポケットから一本の煙草を取り出すと、微弱な火の魔法で煙草を着火させる。

一つ、深くタバコを吸うザラスシュムは、再びシエルに対して口を開いた。


解条主義フォノニズムと言う、莫迦げたフェティシズムと言うものは困ったものだね…。

しかし、シエルを此処に束縛しておいた理由付けも、全て無くなった。2人をアールシュヴァルツさんが預かってくれる、セトに握られていた弱みは無くなった」


「―――しかし、カームがあのカイアスだったことが未だに心残りだけども」アールシュヴァルツは言葉を続ける。「取り敢えず、ソワとリルノが無事でよかった。この後、私はこの2人を連れて帰るけど、チルノちゃんたちにはやるべきことがまだ残ってる。世界を変革する大仕事だにゃ」


「一先ず此の後、私たちはカイアスを追う。彼の背を追っていれば、何時しか真実に辿り着ける―――私はそう信じてる。私の両親は、その、蒼穹而戦争で死んじゃったから…。

だから、私はあの悲劇を防ぎたい。兄のルーシアが言うように、みんなが手を取り合って暮らせる世界、まあ元来そんなのは無理だと決めつける人もいるけど……やってみなくちゃ、何事も分からないからさ」


「せ、セーラちゃん……」アリスノートは、セーラの過去を聞いては瞠目した。


「最初、アリスノートちゃんと会った時は…ハッキリ言って、凄い嫌悪感を覚えた。

自分の両親を、間接的とはいえ殺害した元凶がすぐそこに居るんだから。しかし、私が貴方をどれだけ憎もうが、父母は帰ってこない。もう二度と会えないんだよ。

だから―――私はひとつ、けじめをつけたんだ。あの惨劇は二度と繰り返さない、って…」


「そ、そうだったんだ……。私も、今は分かっている。私の罪は重いって。だから、それを償わなくちゃいけない。それこそセーラちゃんの両親の為に。贖いの為に、私は果たさなくちゃいけない使命がある。

だから、私も行かせてほしい。セーラちゃんの闘いに、私も加わりたいんだ」


「参加なら大歓迎だよ!ねっ、セーラちゃん!」チルノは元気にそう彼女に聞く。


「…そ、そうだよね。過去は過去、今は今…辟易していたって、何も始まらない。

―――――アリスノートちゃん、一緒に戦おう。世界を守るために」


「―――馴れ馴れしく聞いてすまないが」シエルが申し開くように言葉を発した。


「私にも、出来ることがあれば協力させて貰えないだろうか。我が息子、セトを更迭したいんだ。

私は…もう、解条主義フォノニズムの毒を治したつもりでいる。無論、何も企てるような真似は一切しない。嘘抜きで言わせてくれ、―――奴らの計画をぶっ潰すのを、手伝わせてほしい」


「わ、私もッ」凛も声を上げた。


「姉が連れ去られたのも、全てセトの所為だと考えると…憎くて仕方がない。

それに、一部の者達だけが得して、他の人々が見殺しにされる戦争の画策なんて、もう御免だよ……!

私は神の代理人の1人、でも…そんな肩書、上っ面だけの表象に過ぎないもんね。私も戦う!」


「シエル様やアリスノート様、それに凛がそう言うなら、私も協力させて頂こうかな。

アセンション・アーク現象の研究に没頭していた私も、やっと目が覚めた。目の前だけの事象に囚われていたからな」


その時、チルノとセーラに向けられたのは、全員の断固たる意思であった。

視線で分かった。彼ら彼女らの、不正や不条理に対して戦おうとする意思―――決意が、感じられたのだ。

此の場にいる全員が、戦う意思を見せている。誰も怖がってなんかいない。勇猛果敢にも、強大な悪を打ち破ろうとする正義心を信じたのだ。


「私たちは―――第二次蒼穹而戦争と言う、仕組まれた戦争を中止させるんだ!!」


セーラが最後に放った一言は、とても新鮮で、鮮烈に響き渡った。


◆◆◆


チルノとセーラ、そしてアリスノートの3人はこれから共に行動することとなった。と言うのも、セーラがあれだけ毛嫌いしていたアリスノートと一緒に居ることを潔しと認めたためであった。

アールシュヴァルツは無事にソワとリルノを送り届けるべく、黎明都市へと帰ってしまい、ザラスシュムと凛はそのまま研究所に居ると言う。しかし、シエルは行き先が無かった。

拘束されていた時の汚臭を払拭すべく、風呂に何度か入っては綺麗さっぱりな身のこなしに変貌を遂げた彼は、そんなチルノたち3人の前に現れては、一遍の通り頭を下げたのであった。


―――――どうか、君たちの旅に加わらせて欲しい。意地でも奴を更迭したい。


そんな彼の意思を汲み取った3人は、そんな彼を加えることにした。

どうも彼は律城世界の『元』元老院の第一セナトらしく魔法の技術には長けており、アリスノートも彼の魔力を絶賛する程であった。期待が跳ね上がったのは、言うまでも無い。


アールシュヴァルツが何処からか持ってきた車をそのまま借りては、セーラが運転として、次なる目的を果たす為に白ワゴンを走らせた。4人の次の目的は、カイアス率いる深淵庁の動向を探る事に他ならない。

手慣れた手つきでハンドルを操作するシエルは、そのままアリスノートたち王家の城までかっ飛ばしたのだ。その車内、アリスノートは淡々と重々しい事実を語っていた。


―――実を言うと、私が両親を殺した。それで姉から反感を買ったのは間違いない。だけど、本当の私は殺したくなかった。全てはあの組織の所為だ……。


あの組織、と言う抽象表現の詳細が気になったチルノは問いただすも、彼女は首を横に振るだけであった。

両親殺害の真実を知るだけで一驚なのに、更なる裏が存在することを知ったシエル含む3人は、はけ口の無いモヤモヤした感情を包摂する事と為り、尚更気分が悪くなった。

「吐き気を催すような邪悪」と表現して何ら誤謬が無いような感覚は、彼ら彼女らの心底に溜まる事と為ったのだ。


「お前だったのか、枢機皇様と皇妃様を殺害したのは…」シエルは、口走るようにアリスノートに言った。


「そう。…私の所為なの。私がショットガンで射貫いたんだ。いや、爆裂に近かった」


「ば、爆裂…」セーラは言葉を詰まらせた。「ど、どうしてそんな事を…?実際に血縁関係は無くとも、親のように面倒を見てくれたんでしょ?」


「その時の私が、如何に愚かであったか良く分かるでしょう?あの時の私は、自分の益しか考えなかった人間に他ならなかった。そして、2人の殺害は"命じられて"やったんだ」


彼女の告白に、車内はしんと静まり返った。

静寂の中、アリスノートは言葉を続ける。其れは、この世界で起きている真実に至近した事実そのものであった。枢密機関の存在、其れを彼女が示唆したからだ。


「…此処でその組織の名前は言えない。それに、私はその組織の全貌を明らかにされていないんだ。

しかし、これだけは言える。その組織には、セトが居た。アルファオメガを立ち上げた時に民衆に見せた清らかな顔とは裏腹に、悪意や貪欲を孕んだ顔だった」


「はぁ……」シエルが溜息を吐いた。「私の子が、こんな事を企んでいたとは」


「きっとセトやカイアスの企みは、第二次蒼穹而戦争を引き起こして何かを得ようとしていることです。

律城世界への還元として、第三次世界の機鉱を取り尽くしては第二次世界のハルト・デリートを奪取する目的と表では言っているけど、本当は違う。奴らは…」


セーラは、言葉を一旦溜めた。「三世界を支配しようとしているんですよ」


「うん、その見解が正しいよ」アリスノートが呼応した。「セーラちゃんの言う通り、私も持て囃された頃にセトに誘われた。『三世界に君臨してみないか』って」


「三世界に君臨、かぁ…。あたい、良く分かんないや」


「つまり、三世界を支配下に入れるつもりなんだよ。三世界の住人とはかけ離れた存在、まるで降誕聖書に描かれたイ・ゼルファーのように為るつもりだったんだよ」


「狂気だな」シエルがいった。「毒されてる。そんな戯言に世界が巻き込まれるなんて冗談じゃない」


「だけど、其れが今や事実になろうとしている。2人が既に知っている通り、メテオ計画が実行されたら三世界の秩序は滅茶苦茶になる。第三次世界、言わばして幻想郷の崩落方向が黎明都市に操作されたら、もうカイアスの事ばかりでは無くなるんだよ。だから、私たちはやらなくちゃならないんだ。

――――――セトを止めよう」


◆◆◆


「ブリュンヒルデ率いる経済庁の『排他的諮問機関の責任を伴う決定』の件ですが、防衛庁が律城世界の援護射撃で駄目になっても、リ・レギオンが我々を突き止めたようです。

しかも、大統領がブリュンヒルデの諮決を擁護する弁明を出しているそうで…」


諮決、とは排他的諮問機関の責任を伴う決定、言わばして黎明都市憲法第3条の公約文を略した言い方である。セトと面会が終わり、ただ椅子に座っては思索に更けていたカイアスは、顔を見せた捜索機動隊の一員に物を言われても、ただ仏頂面を浮かべているだけであった。

手元に残っていた、セトにプレゼンしたチルノやアリスノートたち解条者フォノンの件について纏めた報告書であった。それを雑に来ていた彼に手渡すや、徐に足を組んで見せた。


「黎明都市とは、袂を分ったんだ。奴らとは全面抗争で行く。問題は律城世界の支援が今に不安定になっている、ということだ。違うか?」


「は、はい……」カイアスに言われ、彼は肩幅を縮めた。


「しかしアリスノートは何だ?遠くで暴れてるレティスギアとか言う連中を視察する際に捕まった。それに、寄りによって助け出されたのは誰だ?チルノたち黎明都市の輩じゃないか。

調べて見れば、アリスノートが監禁されていたのは、元々彼女が働かされていた闇商売の店だそうで」


「し、しかし何故それをご存知で?」


「先程お話があったんでね」カイアスは静寂の中に声を響かせた。「その店から、経済損失の話があったと、経済産業省のセラーム長官からご連絡を頂いてね。従業員1人の犠牲、そして店の崩壊。それらの責任をどう取ってくれるんだ、と電話があった事を教えてくれたんでね。枢要を聞けば、全て彼女たちの仕業であった、と」


彼は溜息を吐いた。非常につまらなそうな顔だ。「勿論、フィリキアがその店にアリスノートを監禁させたことに原因はある。フィリキアを捕まえた曉に経済損失分をしっかりお支払いします、と伝えたらしい。今やフィリキアは律城世界の敵だ」


「なるほど。無理なクーデターで世論も悪評揃いの事も相俟って良い事ですね」


「問題はフィリキアじゃない」カイアスは、いった。「チルノ達だ」


彼は非常に苛立っており、椅子に座りながらも左手には自然に拳が出来ていた。

チッ、と一つ舌打ちを入れると、左足元に置かれた鞄から一枚の資料を取り出しては、眺めるように一文一文に目を通す。そうしてから、彼は叩きつけるようにして机上に置いた。

鮮烈な音と共に皺だらけの紙っぺら1枚が、机の上でのさばる様に佇んでいる。紙が瀰漫びまんするその様子は、カイアスを更に腹立たせるに容易かった。


「しかし、チルノ達が跳梁跋扈して暴れる様は律城世界の経済産業省や財務管理省も、悪く見ているはずだろう。何せ多額の損失を出す、癌のような存在だからな。彼ら彼女らと手を結んで、何とかして奴らを捕まえなくてはならない。違うか?」


「お、仰る通りです」カイアスの苛立つ声に、彼は立ち竦んでしまっていた。


「今一度、セラームとパラメデスに電話を掛けてみよう。きっと協力してくれるだろう。あの2人は、我々深淵庁とて仲の好みと思ってくれている。毅然として我々に協力をしてくれると思っているさ」


「ですが」彼は気になった事を口にした。「どうしてチルノにあの武器―――ルインタイプライターを渡したんですか?あの武器は捜索機動隊の中でも屈指の性能を誇る剣です。あの武器を譲渡して、今や彼女は我々の敵です。自ら敵を増やして、何かメリットはあるのでしょうか?」


「君の考えもまた、初々しいものだね」カイアスは少し笑みを浮かべては、そんな彼の問いに答える。「私は、解条者フォノンとしての彼女を尊敬していたんだよ」


その言葉を、傍にいた彼は理解出来なかった。

しかしカイアスは、ただ笑みを浮かべるだけで、自分の行動に何ら悔いを見せなかった。この時、彼がルインタイプライターを渡した理由には訳があるのだろう、と直感ながらも彼は憶測を浮かべた。

真っ直ぐを括目して、口元が捻じ曲がっている彼の考えは、何処か現実味を帯びていなかったのかもしれない。


◆◆◆


ハーシュ・フェニックス―――その会社の概要について、リ・レギオン本部に居たレヴィンとアーセは調べていた。他のメンバー、アーシアとブリュンヒルデ、バルトロメイ達は外出していて今は不在中だ。

その3人はヨフュエルが起こしたとされるオプティマス・エデン社襲撃事件の跡を追うため、現場で活動しているのだ。無論、レヴィンとアーセもその話を聞いた。

アルトヴィレン機鉱発電所の忌々しい大事故について、当時調べていた天王洲アイルたる人物に協力を依頼する為にシレイルとオズハルドが出向いた際の襲撃である事を、2人は聞いた。予め準備してあったと考えると用意周到な話だが、襲撃する理由付けとしてやはり裏話があるとしか考えられないのであった。


それらの事は3人に任せるとして、2人はリ・レギオンに残った。

やはりハーシュ・フェニックスと言うものが気になっていたアーセは、パソコンのキーボードを手際よく叩いていく。パソコンの画面には、ハーシュ・フェニックスとシュノファス鐵工所の関係について書かれたニュースなどが幾多も多重化し、どんどん増えていく。

やがてアーセは、1つのホームページに辿り着いた。其れは随分昔に作られたページであり、長い間見られて無かったことがアクセスカウンターの項から窺える。


「見てよ、レヴィン」


横に居たレヴィンに画面を見るよう促すアーセ。彼はそんな彼女の言葉に付き従っては、画面を覗き込むように見た。其処には"静かな告発"が淡々と描かれていたのだ。


「アルトヴィレン機鉱発電所事故とシュノファスの因果関係について―――」


そのページに書かれた事を、レヴィンとアーセは徐に読んでいった。

古臭さが否めないホームページであったが、其処には元々現場で働いていた職員のものと思われる人物の告発が、淡々と書かれていたのだ。知りたがっていた真実が容易く書かれてある事に、2人は身を震わせては続きを読んでいった。



―――当時、業績悪化が著しかったシュノファス鐵工所は、経済庁からの業務改善命令が出された事によって取引先の信用に関わり、更なる業績悪化に繋がった。結果、銀行からの融資を受けられなくなった。

この時のロアトル社長が取った行動が粉飾で、取引先のアクシス・オーバー社からこっそり迂回融資を受けて貰った。

銀行に知られたくない事実を隠す為にアルトヴィレン機鉱発電所の管理会社であったハーシュ・フェニックスを時間外取引と言う手段で奇襲攻撃して半分を買占め、大株主に成り上がる。そして吸収合併した。

業績の比較的良かった会社と合併したシュノファスは、粉飾云々を帳消しして、再び表舞台に立つこととなった。

しかし、シュノファスは迂回融資の話を銀行に告発するとアクシス・オーバー社から威圧を掛けられ、遂に事件は発生した。―――アルトヴィレン機鉱発電所爆発事故。故意に機鉱燃料のデータを改竄し、罪のない発電所関係者や無辜の民が犠牲となった。

この際、アクシス・オーバー社出身の関係者が機鉱管理担当だったと告発されると、社長のロアトルが其れを嘘だと発言し、改めて謝罪した。同時に当時の大統領であったヨフュエルが責任を取って辞職する事となった。

あの事故は、アクシス・オーバー社に弱みを握られていたシュノファスの所為であり、真の黒幕はアクシス・オーバー社なのだ。



「……このページの製作者は」アーセが言った。「聞けば何か分かるかもしれない」


しかし、そのページは匿名の人物によるものであった。此処でレヴィンがアバタール・ネットワークを用いたセンサー型キーボードを展開し、ホームページの解析を始めた。

手慣れた手つきでキーボードを軽快に叩く彼は、とある数字に辿り着いた時に手を止め、隣にいた彼女に見せた。それは、僅か数十秒の出来事であった。


「アバタールのIPアドレスが判明した。今から事情を伺いに行こう」


椅子から立ち上がっては、レヴィンは身支度を整えた。

未だ対応に追われる職員たちを後に、彼は簡単な正装を纏っては外出を図る。そんな彼の背中を追うべく、すぐさまアーセも立ち上がっては準備を軽装に済ませた。

不穏な気配を第六感で感じながらも、レヴィンは遠い世界を睥睨していたのだ。

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