とりあえず、資金調達。
昨日投稿したものの続きです。
ここまでは一日一話ペースですが、普段こんな早くは書けないです。次の投稿は、いつになるかわかりません。
「いや、すまない。ついうまそうな匂いに誘われてな。まさか空腹のあまり倒れるとふぁふぉふぉふぁふ」
「こら。食うかしゃべるかどっちかにしろ」
今、俺の向かいの席で、俺が作ったチャーハンをがつがつ食べているのが、今朝、僕の家の庭に転がっていた女の子だ。
白髪、というよりプラチナブロンドに近いサラサラの髪に、洞窟のように引き込まれそうな黒い瞳、健康的な、でも少し白さの強い肌。
ぞっとするような、人の視線を惹きつけて離さないタイプの美人だ。
だが、口調が男っぽいので、意外と愛嬌を感じさせる雰囲気である。
俺は、そんな女の子に、さっきと同じことを尋ねるため、口を開く。
「ごめんもう一回聞くけど」
「ふぉふ」
「名前は?」
「ふぉ………んぐ、鬼姫」
「ほぉ。どこから来た?」
「大江山だ」
「うん、で、生年月日は?」
「………まぁ千年以上前だろう、この時代の西暦を考えるに」
「ネタもたいがいにしろよ」
呆れて頬杖を突く俺に。
「ネタなどではない、事実だと言っとろうに」
片方の頬だけで、んぐんぐとチャーハンを噛みしめている、自称・鬼姫さんは、ややくぐもった声で答えた。
「じゃあ平安時代の人間が、なんで今生きてんだよ」
俺が反駁すると。
「たいむすりっぷ、してきた」
鬼姫は、自分の存在を嘘くさくする要素を、自分で増やしてきた。
「タイムスリップぅ?」
「私の配下の者が、そういうからくりを開発してな。だいぶ苦戦していたが、なんとか実用までこぎつけたんで、私が実験台になったのだ」
「………まぁ、そういうことにしておいてやろう」
俺は、もう鬼姫にあれこれ疑問をもつことを諦めた。多分、問答するだけ無駄だ。向こうの答えが決まっているのだから。
「で、お前は今から、どうしたいの」
俺は、鬼姫に聞く。
「バイト………いや、働き口って言った方がわかりやすいか。そういうのを探して、金稼ぐか?自分の世話くらい自分でしろよな」
「………お前は、優しいのだな」
唐突に、鬼姫がそう言った。
「俺が?………優しいって?初めて言われたよ」
「ここまでで、お前の庭先に勝手に上がり込んで倒れてた私に、さっさと出ていけともなんとも言わず、飯まで振る舞ってるじゃないか。この時代の治安維持集団に私を引き渡そうと思ったこともあるようだが」
そう言うと、鬼姫は、通信機器を入れているせいで少し膨らんだ、俺のジャージのポケットをちらっと見て、続ける。
「もう、そんなことは考えておらんのだろ。少しでも考えているなら、働け、など言わんはずだ」
鬼姫の言葉をそこまで聞いた俺は、少し、こいつのことが怖くなった。
「なんでそんなことまでわかる」
「人の上に立つ、というのは、そういうものだ。上辺から、少しでもいいから、内側を見抜くこと。それで、どういうやつか、判断すること。それができねば、いつのまにか、足元をすくわれる」
鬼姫は、それだけのことを、やや遠い目をしながら言った。
「………何か、身内に裏切られでもしたのか?」
「いや、そういうわけではない。それよりも」
「ん?」
鬼姫は、自分の手元を指さした。
「続き、食っていいか?」
「………いくらでも食えよ」
思わず苦笑いしながら、僕は答えた。そういえば、ついさっきまで空腹で倒れていた少女だ。
「そういえば、この世界で通用しそうな通貨は無いんだな?手持ちには」
俺の問いに。
「あれば、適当に飯屋でたらふく食えたろうなぁ」
今度は、俺に注意される前に口に入れた飯を飲み込んでから、鬼姫は、答えた。
「それは………ちょっと困ったなぁ」
鬼姫の返答に、俺は、思わずそう言い、椅子の背もたれに上半身を預けた。
「何が困る?働き口があるなら、金くらい自力で稼ぐぞ」
「その金が入ってくるのが、一か月後だろう」
「ふむ。この時代では、そうなのだな」
「でも、今すぐ、金が必要なんだ」
「………なんのために」
俺は上半身を起こした。
「お前の着物だよ」
「え………?ああ」
結構敏い、この鬼姫という少女は、どうやら、それだけで気付いたようだ。
「さすがに、この格好で生活しておる者は、少ないか」
「少ないどころか、ほぼいねぇよ」
鬼姫は、柔らかそうな素材の紫の着物を、なかなか豊かな胸元があらわになりそうなくらいしどけなく着ているが、この現代で、着物で生活してる人間なんて、ごく少数だし、この鬼姫みたいに着崩してるやつなんて、いないと言っていいくらいだろう。
「ならば、衣服を買わねばな」
「だから、今すぐ、金が必要だっつってんだろ。一か月後まで、ここに軟禁するわけにもいかんし」
そう言う俺に。
「………この時代の金がれば、いいんだな?」
鬼姫は、なぜか、覚悟を決めたような表情をして、言った。
俺は、急に心配になって、言う。
「………娼婦になろうとするくらいなら、衣服くらい、無理にでも捻出してやるぞ?」
「そんなことはせん。この時代にも、質屋はあるか?」
「まさか………あんな高額になるとは」
近所の質屋からの帰り道、俺は、一時的に貸している俺のジャージを着た鬼姫に、言った。
「高額なのか?銅製と真鍮製の硬貨以外は全部紙っぺらじゃないか」
「じゃあこの紙と同じ種類のものを数えてみろ」
「いちにいさん………じゅう………三十枚くらいかな」
「それ、この国で一番価値の高い貨幣だからな。それ一枚で米が二斗買える」
「お………おぉ!?そうだったのか………あの質屋の店主め、私のせっかくの着物をえらい買い渋りおってと思うてたのだが………」
「まあ、その合計額の大半は、着物じゃないけどな」
鬼姫が、目を見開いて、俺を見る。
「………まさか、私が偶然持ってた、人里で買い物をするために念のため用意していた硬貨が?」
「その通り」
鬼姫が、自分の着物を質に入れると言い出した時は、着物だけで足りるのかと不安だったが、幸運なことに、平安時代のお金を持っていた。これは、現存するものだけでも貴重で、きっと高値になるだろうと思ったから、それを質に入れるように言ったのだ。
ただ、それが本物だと信じてもらえるかが不安だったが………。
「よかった………なんとか、信じてもらえて」
「まあ、千年の時を経た古さではあるまい」
「そりゃそうだ。お前がつい最近まで、使ってたんだからな」
鬼姫が持っていた硬貨は、平安時代のものにしては、新しすぎたのだ。あまり疑い深い質屋じゃなくてよかった。
「よし、じゃあ生活費も手に入ったことだし、しばらくは俺の家にいていいぞ。明日あたり服を買いに行こう」
「………お前は、本当に優しいな」
鬼姫が、ニヤッと笑い、言った。
「拾いかけた捨て猫だ。最後まで、面倒見てやらぁ」
そう言った俺の顔は、うまく、仏頂面が作れていただろうか。
たのしめましたか。感想、批判、批評など、なんでも意見をいただけると、うれしいです。




