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ハジマリ
すみません。ぐだぐだです。
その日の昼下がりは、恐ろしく眠かった。小梅は目をこすりながら、授業などは一寸も耳に入らなかった。不思議な香りがする。この香りのせいか。
「ねぇ、何だか、いい香りがしない?」
隣の席の海ちゃんの羽をつついた。海ちゃんはうつらうつらしている。たまに、可愛らしい嘴を机にぶつけて、はっと目を開ける。
「うん…んっ…?小梅ちゃん、磯の香りじゃないのは確か…。あれっ…?」
「海ちゃん、南極の夢でも見てたの?」
小梅はくすくすと笑った。
「うん…。思えば、あたし、本当にペンギン社会には向いてなかったっ。ここに来られて良かったっ…!…やれやれっ。」
「一体どんな夢だったの?」
「あたしが、ペンギンしてた頃の夢。」
今も、姿はペンギンそのものだけれど。
「ミュゲノート。」
小梅の前の席の桐子さんが、ふっと振り向き、ささやいた。
「え?何て言ったの?」
「なにそれ!何語っ?」
桐子さんは、このクラスでも数少ない人間の一人だ。ツンとしてて、同じ人間だけど、小梅とはあまり話さない。大人っぽい雰囲気で、サラサラの髪に綺麗な顔立ち。小梅はどうも気後れしてしまう。
「スズランの香りのこと。…ミュゲノート。フランス語。」
もう一度、彼女は遠くを見つめながら呟いた。




