黒猫の見た景色
その後の話
ガラスの扉が完全に姿を消した後
黒猫…もといワタシは一人でいつもの真っ暗な世界へ戻ってきた。
木製のアンティーク調な机と椅子、机の上には小さなデスクランプが置いてある私の仕事机に着くとワタシの姿は《黒猫》から元の姿へ戻っていた。
ガラスの扉がしまる最後の瞬間に見えた彼女と彼の顔が笑顔だったことが何よりもワタシを満足させてくれた。
「…人間ってやつは不思議な生き物ですねぇ。死にたいってすぐに言うクセに死んだらどうなるかとか考えやしない。死ぬって言っても一人で静かに死ぬ人から全然関係のない人を巻き込んで死ぬ人や自分の気持ちを伝える手段として死を選ぶ人…そんな人に巻き込まれてホントは死にたくないのに死んじゃう人、タダでさえ色んな死因があるのにそれにおまけを沢山つけちゃうんだから。残された人への気持ちってのはいつの時代もどんな国でもわからないものなんですねぇ…。」
業務報告書を作成しながらワタシは彼女との短い旅を思い出した。
エンディングの迎え方は私も思いもしなかったけど彼女にとって最良な終わり方になったと思う。
「閻魔さんもたまには粋なことをしますねぇ」
机の上に無造作に置かれた業務追記を見て思わず呟く
【死者案内人へ閻魔より】
死者・望月沙羅において裁きの必要は無いのではないかという声が天界より有り。よって望月沙羅の地獄行きは却下、天国行きへと変更となり最後の願いが叶い次第こちらより迎えを送る。
また、迎えの者は本人の志願により天界の業務員ではなく望月沙羅にゆかりのある人物を送ることとなった。
あまり無い事例のため戸惑うかもしれないが円滑に業務をする様に。
「コレってメールとか出来ないんですかねぇ〜机に置かれてもワタシ見れないじゃないですか。閻魔さんにケータイの支給要請出してみましょうか。」
了承印を押しながら苦笑いがこぼれる。
彼女・望月沙羅には《この先》というものはないけれど
天国にいる間だけでも彼女が幸せであってくれることをワタシは祈らずにはいられなかった。
「さて…と、そろそろ次のお客様が来る頃ですねぇ〜。えーっと、次の人は…100歳のおばあさん!?案内は車椅子ですか?!?!え?!そんなものありましたっけ??」
黒猫…いや《案内人》は姿を変えながら真っ暗な世界へと消えていった
完結しましたー!!!実は黒猫の人って不思議ですねってセリフを書きたくてこのお話を考えました。この黒猫の言葉は私自身が今の年齢になってよく思うこと。少しでも誰かの心に響くことを願います