肉球が指す路
最後のお願いを考えます
教室のドアを閉じると目の前に広がるのは見慣れてきた真っ暗な世界。
お母さんの所から帰ってきた時と同じくアンティーク調をライトとソファーの置かれたそこに私は腰掛けると無意識に大きなため息をついていた。
邪魔者だって思われてると思っていたお母さんは私のために泣き続けていて
嫌われたと思っていた夏奈は今でも私のことを思ってくれていた
その事実を知ることになった今、生きていた最期の瞬間の自分がもしこのことを知っていたら
私の目にはもっといろんな世界が見えていたのかもしれないなんて未練がましいことを考えてしまった。
「いやぁ…なんか意外でした。友達さんを前にした時ヤバいココにとどまるって言い出したらどうしようってちょっと心配だったんですよね。でもあのまま何もせずに去る選択をするとは思いもよらなかったです。」
向かいの1人掛けのソファーに腰掛けた黒猫はお爺さんのようなゆっくりとした口調で話した。
「夏奈のこと憎んだままにならなくてよかったって事だけで十分だったから。あれじゃダメだったかな?」
あの時の対応の答えは私には今もわからない。
ただ、夏奈を私の死という呪縛から早く解いてあげたいって思いだけだった。
その為には《死んだ者》のわたしじゃない
今を《生きている者》の同情じゃない感情が必要何じゃないかと思った。
…ただそれだけだった。
「それでは、最後のお願いですが…どうします??この流れだと恋人とかになりそうですが…」
羊皮紙に目を通しながら黒猫は言葉を続けているがその紙を見ているならわかっていると思う
もう
私に関わる人がいないことに
「ねぇ黒猫。お願いってさ、具体的な内容じゃないと無理だったりするの?」
私が顔を上げて黒猫に尋ねると黒猫はよくわからないような顔をした。
「具体的な…とは?」
「どこかに行きたいとか誰かに会いたいとか内容が無いとダメなのかなって。」
黒猫はうーん…と考えた後ローブのポケットから小さな本を取り出して見直していた
「特にそういう規定は無いですが、私は今まで具体的じゃない願いってのに当たったことがないのでどうなるかわからないですね。」
事務的に人間くさく無い案内人の顔になって答えた
「じゃぁさ、私がその《具体的な内容じゃないお願い》の1人目になってもいい?」
黒猫は私の言葉を聞くと目を大きく開いた
今までのびっくりしたような顔ではない
どちらかというと「コイツ正気か?」と聞きたそうな顔だった
「別に構いませんが…どうなるかは保証できないですよ?ついでに1回お願いしちゃったお願いは撤回できないですよ??それでもいいなら…」
まだ何か言いたそうにゴニョゴニョ話す黒猫に私は向き合ってお願いを伝える
「…最後に私が見たいと思う景色が見たい。」
「え?」
意表を突かれた顔というのか意味を理解していない黒猫は何度も首をかしげる
「最後のお願いっていわれてもね、私ももうわからないんだ。だけど、もう現世に行けないのなら私自身が心から最後に見たいと思っている景色を見に行きたいって思って。それが私の三つ目のお願い」
黒猫は納得したようなそれでも少しムズ痒そうな顔をして
「そうですね、最後のお願いですもんね…」
と呟いた
「わかりました。それでは!死者・沙羅さんの三つ目のお願い《最後に見たい景色を見せて》を叶えます!」
と大きな声で発した。
いよいよ次で終わりの予定です…いや、あと2回かな?エンディングはなんとなく頭の中で固まっているので上手く文書にしたいと思います