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しゅう゛ぇすたーかふぇ  作者:
第二章
6/9

仕返しのつもりが

「はあ、結局僕が怒られる羽目になったじゃないか」

 やはり五限は授業をサボり、鬼軍曹の説教を聞くというループに戻ってしまった。

 あの時は完全に僕が悪いわけではなかったのに……校則は破ってたけど。だけど僕以外にも教師の知らないところで破ってる奴はいっぱいいるよ。休み時間教室は生徒だけの楽園と化すからさ。

「毎度よくやってくれるよな、ナルは」

「ああ、そのおかげで俺は助かったけどな」

 ガハハ笑っているちんちくりんがいつにも増してムカつく。

「それでよ、例のあれはどうなってるんだ? 動画は」

「あっ、完全に忘れてたよ。はい、これ」

 胸ポケットから頭を覗かせていた携帯を取り出し、ムービーの終了ボタンを押した。今まで一時間半くらいずっとつけっぱなしだったので充電もあまりない。

「え、そんなの撮ってたのかよ!」

 盗撮されていることに気づかなかったちんちくりんこと竹内武は目をまん丸にして驚いている。

「ああ、結構いい出来じゃないか。お前も残念だよな、女子全員にフラれて」

 奏太は鬼軍曹が現れる直前までを見て、いつも以上に悲しい目で武を見る。僕もその気持ちはわかるよ。いくらドSな奏太も同情するんだよね、悲しいバカには。

「そうそう、面白いのはこの後だよ。鬼軍曹降臨。その時の顔をよく見ておいて」

「おう。…………ぷっ、なんだよこの顔。天使でも見るような顔だぜ? もう一回…………ふっ、何回見ても面白い。おしこの画像俺に送ってくれ。ホームにしてやる」

 僕と二人の笑い声が放課後の教室に響き渡る。グランドでは陸上部や野球部が部活をしており、よく声が出ていた。反対に校舎内は吹奏楽部の音色が小さく聞こえるだけで、それ以外は何も聞こえない。

「ちょ、それは反則だぜ…………」

「ごめんね、武。でもこれは鬼軍曹を僕に擦り付けた罰だと思ってよ」

 奏太に言われるなりソッコーでスクリーンショットをし、画像を送った。ほどなくして奏太の携帯を開くと鬼軍曹佐々木に笑顔を向ける竹内武が現れた。

「くっそ。憶えてやがれ……」



『日曜日、午前九時四十五分デパートメント有栖に集合』

 デパートメント有栖とは、隣町にある大型ショッピングモールだ。そこには日用品から服、映画館もちょっとした水族館だってある。僕たちの住んでいる街とは違い、隣町はかなり大きな都市だ。小学生の遊びなら街中でも気にならないが、中学生、高校生ともなると羽根を伸ばしたくなる。父さんも、仕事帰りに隣町で買い物して帰ってくることが多い。また出かけるときも隣町に行けばなんでもあると行って行くのだ。

『なんで?』

『ソウのデートを盗撮してやる。任せたぞ、盗撮のプロ』

 その呼び方はやめて欲しい。なんか常習犯みたいではないか。あえて言うが、僕が盗撮をしたのはこないだの一回だけだ。しかも男を盗撮していた。ホモとかゲイといった特殊な性癖を持っていない僕にとって、幼馴染を盗撮しても何も面白くないからな。

『わかった。遅れないでよ?』

『あたぼうよ』



『おい、どこにいるんだよ。もう集合時間過ぎてるよ』

『悪い、寝坊した』

『奏太達もう来てるよ?』

『ナル一人で最初は頼むあとから俺も』

「はあ……」

 こうなることを予想していなかったわけではない。というよりむしろ、武が集合時間に来るとは思っていなかった。十五分早めに着いて奏太を見張るってのはいい案だけど、当事者が遅れるなよ……。

 多くに人が行きかう中で、爽やかな奏太を見つけるのはそんなに苦労はしない。身長がずば抜けて高いわけでもないが、一人だけオーラが違うのだ。一般人にはないオーラを纏っている。

「じゃあ撮りますか」

 あまり気は進まない。誰だって干渉されたくないことはあるだろうし、特にプライベート空間に足を踏み入れるのはどうかと僕も思う。だけどやるよ。もしかしたら面白いネタを掴むかもしれないからね。

 集合時間から三十分、やっと武からメールが来た。

『今どこ?』

『四階の文具屋。見つからずに来てよ』

『了解した』

 奏太達はいきなりフードコートに行ったのでびっくりしたが、昼食を何にするか先に決めていたらしい。そのあとは四階の文具屋にこもっている。確か彼女さんの方が文房具にかなりの愛情を注いでいるとか。

 二人はたくさんの種類がある文房具を全て見て回っている。特殊な形をしたハサミとか、小さな筆箱、しまいには高級万年筆を見る始末だ。一高校生の二人が何万もの代物が買えるわけないのに。

「あ……」

「よ、一人で何やってんの?」

 はあぁぁぁ、ため息が出るよ。簡単に見つかりやがって。僕の努力を返しやがれ。

「それは、その……」

 四階に上がって奏太とばったり鉢合わせしてしまった武は口がパクパク動いているだけで言葉になっていない。

「奏太、ごめん。武の腹いせに付き合ってたんだ」

 そんな光景を見て、三人が交錯するデッドゾーンに突入。

「そんなことか、バカな奴だな」

 僕達がどんなことをしていたかも聞かずに奏太は微笑んだ。隣の彼女さんはポカーンとしているだけで会話に入ってこようとはしない。

「もう見つかっちゃったから終わりだね。武はホントそういうところ、鈍いよね」

「うっせ」

 こうして貴重な日曜日を潰して奏太のデートを盗撮する計画は一時間と持たずにあっけなく幕を下ろしてしまった。僕と武はデートの邪魔をしないことを誓い、デパートメント有栖を後にする。

「これからどうするよ?」

「そんなこと言われたって、昨日の夜にいきなりメールするんだから僕が予定なんて立てているわけないだろ? 今日は一日追いかけまわすと思ってたんだから」

「そうだよなー」

 デパートメント有栖を後にした僕たちは、隣にある大型ゲームセンターでたむろっていた。特にやることもなく、だからと言ってここまで来てすぐ帰るのはもったいない。さてどうするべきか。

「そういえばさ、この街に『しゅゔぇすたーかふぇ』っていう人気店があるらしいんだけど、行かね?」

「何それ?」

「日本でいうメイド喫茶みたいなものだと思うんだが」

「やだよ、恥ずかしいじゃん」

「おし、決定。行くぞ」

 僕の人権はどこに行ったのですか? 僕は何も決定することが出来ないのかな……。奏太と武、こいつらは面白いけど僕の意見が反映されないよ。



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