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しゅう゛ぇすたーかふぇ  作者:
第二章
5/9

なんでまた?

「俺今週の日曜デートなんだわ、すまんな」

 僕の左頬の腫れが引いてきたある日、日曜日に三人で遊ぼうという話になった。しかし奏太は先約があるらしく、どうしても遊べないという。

「せっかくテストが終わったのに彼女とデートかよ。これだからソウはいけ好かないぜ」

「あはは、そうだね……」

 今回も始まりました、竹内武VS村井奏太。今回も全線全敗の竹内武から喧嘩を吹っ掛けました。今日の試合はどんな結果で終わりを迎えるのでしょう。審判兼実況は私、秋宮成瀬でお送り致します。

「じゃあお前も彼女作って遊べばいいじゃないか」

「そんなこと武が出来るわけ――――」

「やってやるよ!」

 僕の言葉を遮ったのは自信満々に答える武。しかし、考えても見てくれ、いや、そんなに考えずともわかるだろう。こいつがモテることは決してない。特にクラスの女子からはえらい嫌われようだ。バカでアホで変態で大声で喋るちんちくりんと一緒になんていたくないはずだ。僕が女の子だったらそう思う。

「今のところ女子に逃げられまくってるタケが彼女をゲットできるのか?」

 奏太はやけにいやらしく語りかける。その目は十割、百パーセント彼女が出来るわけないと言っているようなものだ。

「日曜まであと二日だな。普通の人間に出来ないことでも、俺に出来ることはあるんだよ!」

 そう言って彼は教室を飛び出していった。

 ドアの近くにいた女の子は「びっくりした」「何なのあいつ」なんて口々に語っている。

「いいの? 何をしでかすかわかんないよ?」

「そうだな。まあ、大したことは出来ねえだろ、あのタケだ」

「そうだけど……」

 含み笑いで涼しげな笑みを浮かべる奏太。彼は本当に悪魔の使い魔かもしくは悪魔かもしれない。しかも毎回よくも飽きないものだ。どうしたらそんなにもいじめっ子を続けられるのだろう。

 結局奏太に頼まれて武をこっそり追いかけることになった。胸ポケットから顔を覗かせているのは携帯のカメラレンズ。携帯の使用は禁じられているこの学校も所持は認めているから見えていても問題ない。問題なのは――――しっかりと撮れているかどうか。

 奏太の案で僕はカメラをムービーにして録画している。簡単に言ったら盗撮だ。女子のスカートの中を撮るなんて真似をしているわけではない。不思議な、アホな行動を取っている竹内武を盗撮しているのだ。

「俺と付き合ってください!」

「キモイ! 死ね!」

「明後日の日曜日予定空いてる?」

「うっさい! 話しかけんな!」

「あのー俺と――――」

「黙れハゲ!」

「そんなに構ってほしいのだったら私が相手をしてやらんこともないぞ?」

「えっ、本当…………嫌だ、俺は悪くない。今日はまだ何もしてないんだよぉ!」

「まだしてないかもしれないな。だがこの一年と半年でお前たちの負債はもう抱えきれないほど溜まってるだ! 待て!」

 これはこれは良いムービーが撮れてるな。タケは道行く知らない女生徒に声をかけてはフラれ、声をかけてはフラれ、そして声をかける前に黙らされる。さらに面白いことに、鬼軍曹に一瞬でも微笑んだ貴重映像が撮れた。これは全校生徒の前で放送したら爆笑間違いないね。さらにさらに、鬼軍曹に引くずられて保健室に連れて行かれるこの動画を奏太に渡したらこれこそ史上最高に面白いことが起きるかもしれない。

 武は必死に抵抗しているが、鬼軍曹佐々木の前では一高校生の頑張りは無力になる。お世話様です。僕はにっこり笑って廊下の陰から姿を消そうとした。

「あっ、そこに秋宮成瀬がいますよっ! あの笑顔きっと先生を馬鹿にしているに違いありません! 先生、あいつを見逃していいのですか!」

 必死の形相で叫ぶ武。男なら腹をくくれ。そして僕と同じ苦しみを味わいな。

「何? おお、なんでそんなに笑顔なのかな? 秋宮よ」

 くるりと振り返って僕と二つの視線がぶつかりあう。

「え、え? なんのことやら…………ぷっ」

 後ろで何やってるんだよ、武。そんな変顔されて笑わない奴なんていないだろ――――

「ほう、いい度胸だ。三秒で捕まえてやる」

 なんてこった……。右手に掴んでいた武を離して僕に猛然とダッシュしてくる鬼軍曹佐々木。佐々木先生、廊下は走っちゃだめですよ……。

 ああ、もちろん僕も素早いターンを決め、廊下に溢れている生徒の波を上手く避けながら進んでいる。右に左に大きく身体を揺さぶる。幸いなことに、佐々木先生は身体が大きいから細い間を抜けるのに僕以上に時間を要する。今回は完全に僕の勝ち――――

「きゃっ!」

 何か柔らかな物体に当たった僕の視界には、綺麗な艶の髪をまとわせる久世美咲が尻もちをついている光景が映った。

「ご、ごめん!」

 うかつだった。人の陰から急に現れた彼女に僕は反応できなかった。その大きくも小さくもない胸のおかげで正面衝突の大事故を起こさずに済んだけど、これは申し訳ないことをしたな……。

「大丈夫?」

「はい……何ともありませんよ。でも廊下は走っちゃダメですよ」

 僕が差し伸ばした手を取って立ち上がると、彼女は軽く僕の頭を叩いた。

「ごめん、なさい……」

「これからは気を付けて下さいね?」

「う、うん……」

 こんなに話したかった彼女が今僕の目の前で――――

「秋宮ぁ! 待てぇ!」

「あ、やば。僕鬼軍曹に追われてるんだ、ごめん、あとでしっかりとお詫びするから、また後で」

 僕は再び生徒の波に乗ろうとする、が、なぜか手を握ったまま離してくれない。

「手を離して――――」

 本当はいつまでも握っていて欲しいんだけど、状況が状況だからな。逃げないわけにはいかない。

「ダメですよ、しっかりと罰は受けないと」

「え……」

 この場の空気が一気に冷え固まった気がするよ。おかしいな、あんなにも憧れてた久世さんと話しているのに、足の先まで冷えて来るようだ。

「こ、今回は無実だ! 僕は何もやってないよ!」

 今回もなんだけどね……。少しは非を認めるけどさ、今日という今日は本当に無実なんだよ……。あ、携帯の使用という校則を破ってるけど。

「離しませんよ。君のことは嫌いじゃないけど、悪いことは許しません」

「はい……」

 この時僕は暗い闇に呑まれてしまった。彼女が持つ二つの瞳に吸い込まれてしまったのだ。身体が思ったように動かず、結局佐々木先生もと言い鬼軍曹に捕まってしまった。

 僕の身体が動かなかったのは目の前に彼女がいたからか? それとも心のどこかで逃げることを諦めてしまっていたのか? 否、僕は無実なんだから胸を張っていればいいじゃないか。ただ武の行動を隠れて見ていました、と。真実は一つも隠さず打ち明けよう、そうすればわかってくれるはずだ。バレてはいけないことを胸ポケットに秘め。



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