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しゅう゛ぇすたーかふぇ  作者:
プロローグ
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プロローグ

 僕秋宮成瀬は、小学生の頃から腐れ縁の竹内武とサッカー部でイケメンの村井奏太と三人でこの前行われた学期初めにある実力テストの回答を見せ合おうという話で図書室に集合することとなっていた。しかし、言い出しっぺの武は「今日彼女とデートだから」と言って授業が終わるとさっさと帰ってしまった。彼女がいるのは奏太の方だっていうのに、武は何がしたいのやら。一方の奏太は、サッカー部の先輩に呼び出されて行けなくなったとメールが来ていた。県内でもなかなか強豪なうちのサッカー部にはいろいろと面倒なことがあるようだ。

 そんなことで僕は結局一人で図書室に来る羽目となってしまった。何ともいい加減な幼馴染のせいで僕は独りぼっちだ。一体どうしてくれるというのだろうか。

 新学期が始まってまだ三日、こんな時期に図書館を利用する人などいないだろうと奏太は予想していたが、実際その通りだ。今図書館には僕以外に図書委員と思われる女の子が一人カウンターに立っているだけだ。図書委員もよく新学期早々やっているものだ。僕が委員会に所属していたら絶対にやりたくない。

 図書館というのはなんでこんなにも眠気が誘われるのか、これは学生の中で一番の謎ではないか? 他には現代文の授業は子守歌が聞こえるし、英語なんて何語を話しているかわからない――もちろん英語なんだけど。僕は入口から一番遠く、右側の窓際に席を陣取っていた。そこで何をするかと言えば、急に集まれなくなった友人の悪口を頭の中で再生するとか、実力テストなんてどうでもいいよなど考えることだけだった。本なんて一切読まない。こんなに眠気を誘われるのだから、少しくらい寝ても良いよね……。


「…………ださい」

 なんて朗らかな夢だろう。僕は学園のマドンナで隣クラスの久世美咲さんと砂浜デートしている。夏が少し過ぎた砂浜には僕達以外には誰もいなく、広大な海を僕と久世さんの二人だけが眺めている。僕の右手を久世さんの左手を包み、波の音だけが聞こえる。ああ、なんて幸せなんだろう。

「…………下さい」

 なんだよ、このいい夢を邪魔するやつは誰だ? 現実で久世さんと話すチャンスなんてないから夢ぐらいいいじゃないか。そんなにこの夢を邪魔したいのか?

「……きて下さい」

 ああ、もう! 一体誰なんだよ! 僕のこの夢を邪魔するのは!

 だんだんと意識が現実に引き戻されていく。ああ、この素晴らしい夢には終わりが訪れるのか……。さみしいかな。

「起きてください」

 そんな声がはっきり聞こえたのは夢から完全に覚めてしまったからだろう。現実では夢とわかっていても一生続いて欲しいと思ってしまう僕は馬鹿なのかな……。

「起きましたか? もう閉校の時間です。図書館も閉めないといけないのでしっかりと起きて下さい」

 甘く、でも甘すぎない。爽やかだけど冷たくはない。そんな声と身体を揺さぶられて目を開ける。

「あれ……、まだ夢の中にいるのかな……?」

 こんなところに久世さんが立っている。確かにさっきまでは砂浜でキャッキャうふふのことをしていたのは事実だけど、夢から起こされてている夢なのかもしれない。でなければ久世美咲がこんなところに立っているはずはないのだ。

「夢じゃありませんよ。さあしっかりと起きて下さい。閉めますよ」

 夕日に照らされて赤く染まった長い髪。しかし、全てを飲み込みそうな漆黒の闇色は赤に染まりきることはない。長く艶のある綺麗な髪は頭の後ろで一つに結ばれている。これは、久世さんがいつもしているポニーテールだ。

「え……、んっと……」

 夢でも寝起きって頭がぼやぼやするらしい。視界がはっきりとしないし、頭も回ってない。久世さんが僕に話しかけている夢を二回も見てしまうなんて、かなり意識しているのかもしれない。確かに一年のあの頃から意識はしているけども……。

「もうしっかりしてくださいよ。はい、これ鞄。私も鍵閉め早く済ませたいからほれ、出た出た」

 久世さんは机の上に置いてあった鞄を持ち、ふらふらと立ち上がった僕の背中を押して出口まで向かう。寝起きで足がふらついてる僕はドアのところでペタッと座り込んでしまった。力が入らないとか、動きたくないとかそういうことではない。学園の誰もが憧れる久世美咲と夢でもこんなことをしているということが意識が昇天しそうなほど嬉しいのだ。

「じゃあ私は窓の確認してから帰るから、秋宮成瀬君はすぐに帰った方がいいよ。下校時間過ぎて学校にいると鬼軍曹が噛みついてくるから。特に君は危ないよね?」

 『鬼軍曹』それはこの学校に通う生徒なら誰もが知っている。保健の先生といったら大体は女性の先生が浮かんでくる。しかし、この学校はなぜか癒しの先生担当が一番怖い顔をしている。しかも男。新入生でも入学初日に知るその怖さ。二年の僕が知らないわけない。

「邪魔して悪かったね、ごめん、ありがとう!」

 いい夢から悪い夢に大逆転だ。しかし、こんなにもリアリティある夢なんて珍しい。いや、今は一秒でも早く学校を出ることが先か。


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