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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

異世界的ハロウィン

作者: リック
掲載日:2013/10/31

 一人の男が、人気のない夜道を急いでいた。


「ああ、すっかり遅くなってしまった。昼のうちに隣村まで行けると思っていたが、甘く見すぎていたな。夜中まで歩き続けて足が棒のようだ。この辺りに宿屋なんかは……ないよな」


 この近辺は村や町が少ない。とにかく身体に鞭打って隣町まで行くか、ここで野宿か。見通しの甘かった自分を責め、深々と溜息を吐き出す。


「……ん?」


 ふと遠くを見ると、一つの灯がゆらゆらとしている。


「へぇ……こんなとこにも宿屋があったのか? それとも人家か? どっちでもいい。頼んで休ませてもらおう」


 旅人は灯を目指して真っ直ぐ歩いていく。


「……まだか?」


 不思議な事に、歩いても歩いても近づいてる気がしない。いや、それはきっと真夜中だからだ。疲れているところに出会った灯だから、最初は近く見えたんだろう。とにかく、あの灯まで、灯まで……。



「危ない!」


 旅人の男はその声で立ち止まった。振り向くと、傭兵のような男が慌てた様子で近寄ってきて言った。


「そこら一帯は底なし沼だ! すぐ離れろ!」

「え!? ひええ!!」


 その言葉に疲れも忘れて飛び上がって後ずさる。もしあのまま進んでいたら……。再び振り返って、傭兵風の男に心からお礼を言う。


「あ、ありがとうございます。貴方がいなかったらどうなっていた事か」

「気にするな。それが俺の役目だ。近くの村ではこの日、手の空いている傭兵を集めて見回りをするんだ」

「そうなんですか……。それはやはり、自分のようなうっかり者が多い日だからですかね?」

「いや。今日は……堕ちた英雄が死んだ日だからだ」

「はぁ……?」

「とにかく、あれがうろうろしてるならここは危険だ。離れるぞ」


 旅人は傭兵の男に素直に従った。それにしても、あれとは何だろうか。後ろをそっと見ると、あの灯が微動だにせずこちらを見ているように感じた。


「『ジャックの灯』 だ。この地方に伝わる、怪談……いや魔物といったところか……」


 道すがら、傭兵はあの灯の由来を教えてくれた。



――――ある日、天国からとも、空の彼方からともつかない場所から一人の男がやってきた。名をジャック。


 ジャックは不思議な男だった。何でも知っているし、何でも出来た。彼がやってきた地は他とは文明の差が著しかったという。


 やがてジャックは世界に多大な恩恵をもたらした者として崇められた。この世の全ての言葉で称えられた。


 ジャックはよく言っていた。「俺は神に愛されている。というより、むしろ神すら俺には逆らえまい。何しろここに来たのは、神の間違いが原因なのだから」 ジャックを生神と思っている当時の人間達には、それが何のことか分からなかった。


 そしてジャックは道を誤った。「俺は何をしてもいいんだ」 と言って、自分の気に入った民族だけを選ばれた者と、他を奴隷と宣言した。こうして世界に身分制度が生まれた。


 さらにジャックは「俺に逆らうのは神に逆らうことだ」 と、悪人、反抗した者、果てはただ気に入らないだけの者を次々処刑した。


 最後に、ジャックは年老いた。「残酷に殺されるのと、自殺。どちらがいいか選べ」 信頼していた側近にそう言われて「ちくしょう、自殺が罪と知って……」 と泣き泣きジャックは死んだ。


 ジャックは死んでからやっと罰を受けた。本当の神に、天国の門をくぐることを許されず、永遠に彷徨い続けている。




 旅人を沼地に引きずりこもうとした『ジャックの灯』――――かつてのジャックの魂は、ぼんやりと考えていた。


『お前が死んだのは間違いだった。この詫びとして好きな能力を付与するから、異世界で暮らせ』


 神はそう言った。俺は好きに暮らした。


 本当に好きに暮らした。劣った野蛮人しかいない世界で、知恵を授け技術を提供した。利益を独占して庶民を苦しめるようなやつは惨い方法で追いやった。さすがにこれはいけないかと思ったが、神が何か言ってくる気配は無かった。そうか、俺はやっぱり選ばれた者か。そこからは坂道を転がり落ちるようだった。

 最後に側近に裏切られた時は腹が立った。俺は神に愛されてるんだ。死んでから覚えてろよ。しかし死んで酷い目に合ったのは、何故か俺のほうだった。


『馬鹿者め。最初こそ立派な行為をしていたが、それ以上に負の遺産を残すとは何事だ。何も忠告してこなかった? 当たり前だ。全ての裁きは死んでから行われるのだから。お前は裁かん。いや、裁かれる権利を失った。この世の終わりまで中有(ちゅうう)を彷徨い続けるがいい』


 あれからどれくらい立ったのだろう。なぜ俺はここにいるんだろう。疲れた。つかれた。終わりにしたい……。俺は成仏できなくても、他人は出来るんだよな……。

 なあ、俺も連れて行ってくれよ、なあ……。

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