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夢の器具

鈴葉の見舞いにやってきたユウリンは、誰も見たことのない様な不思議な介護用器具を持参していた。

 「はじめまして、ユウリンと言います。」凛に続いて鈴葉の病室に入って来た彼女が、妙に親しみを

込めて言った。その肩には、何やら不思議な器具が背負われていた。それは折りたたみ式の様で、コンパクトに長細い形で、1メートルくらいあった。下部に金属とキャスターが露出していたが、ほとんどはクッションのいいソファの様な材質感があり、ベルトみたいなものが幾つか付いていた。更に真ん中辺りには、センサーらしき赤いランプが消灯している様だった。それを見て、鈴葉はいきなりそれまでに感じたことのない不思議な期待感に襲われた。

 「あの、鈴葉です。よろしくお願いします。」身動きの不自由な体で、寝たまま首だけをユウリンに

向けて応えた。

 「どう?苦しくない?」ユウリンは何故か微笑んでいた。

 「正直苦しいですね。あの、それは何ですか?」鈴葉がユウリンの背負っているものを指した。

 「何だと思う?」初対面にしては彼女は親しげで、かつ得意気だった。

 「えー分からないです。何か介護器具みたいなものですか?」

 「ピンポーン!そう、秘密の介護器具よ。」

 「どんな風に使うんですか?」

 「口で言うより、実際使ってみるといいわよ。今、どっか行きたいところはないかしら?」

 「おトイレ、行きたいです。」

 「そうね、やっぱりそれが1番切実よね。」

 「もしかして、それ使うと行けるんですか?」

 「えぇ、任せておいて。」そして、ユウリンはさっそく器具を肩から下ろすと、寝ている鈴葉に装着し始めた。それらの言動を、凛はずっと黙って見守っていた。その落ち着いた様子から、すでに前もってユウリンから説明を受けているみたいだった。鈴葉は大きな期待と、少しの不安を抱きながら、ただ黙ってされるがまま応じていた。そして、一通りの装着を済ませたユウリンはポケットから取り出したリモコンのボタンを幾つか続け様に押した。すると、赤いランプが点灯し、とても現実とは思えない不思議なことが起こった。装着されたベルトが自動で適度にしまり、ベッドの上で寝ていた鈴葉の体が、装着した器具に操られる様にその姿勢を変えないまま、静かにゆっくりとベッドの横に立ち上がったのだ。それには、本人の鈴葉はもちろん、そばで見ていた凛も凄く驚いていた。鈴葉が感じたところでは、器具はとても軽く、付けている負担感は全くなかった。にもかかわらず、体をしっかり支えてくれているのだ。

 「少しくらいは自分の足で自由に歩けるかしら。ちょっとだけ出口の方へ歩いてみて。」そのユウリン

の指示で、鈴葉はゆっくりと小さな歩幅でドアの方へ歩いてみた。

 「OK。分かったわ。これだけ自在に歩けるなら、レベル3で充分ね。」と言うとユウリンは又1つボタンを押した。

 「後は自分の力でトイレまで行けるはずよ。トイレまでは凛さんが案内するから付いて行って。ただし、少しでも痛かったり、違和感あったらすぐに言ってね。」そう言われて、鈴葉は凛の後に付いて再び歩き始めたのだが、驚いたことにさっきよりも遥かにスムーズに歩けるのだ。いや、歩けると言うより、歩こうとする力が器具に伝わって自然と体を運んでくれてるという感じなのだ。

 「嘘みたい。歩けるよ。自由に歩ける。」鈴葉はもう嬉しくたまらなくなり、ハイテンションで、凛に

付いて行った。その鈴葉の後をユウリンがリモコンを持って付いて行き、3人はやがて身体障害者用トイレに着いた。そして、まずユウリンが中に入って便座の除菌などの準備をして、

 「これを持って入ってね。ボタンを押しながら話せば、こっちに通じるから。押してない時は、こっち

に一切音は漏れないから安心して。具合の悪いことあれば、これ使って必ず知らせてね。」ユウリンに渡された簡易マイクを持ち、入れ替わって鈴葉は一人個室に入った。

 「こっちからの音声は器具から出る仕掛けなの。びっくりさせてごめんね。便座の前まで行って、パンツ下ろして準備出来たら知らせて。」すると間もなくして、

 「はい、準備出来ました。」

 「じゃあ、行くわよ。この器具は優れもので、貴方の腰の状態を診ながら、ぎりぎりのところまで姿勢

を変えられる機能になってるの。ただし、膝はそれに合わせて自分で動かしてね。それでもし、痛かったり、違和感あったらすぐ止めるから知らせて。速度は1番遅くにするから、じれったいだろうけど腰に無理させない為だから、我慢して。」

 「今やっと止まりました。」1分ほどして、鈴葉が知らせて来た。

 「その体勢で出来そう?」

 「はい、ほとんど便座に付いてますから。」

 「じゃあ、ごゆっくり。終わったら知らせてね。」

 「ユウリンさん、これって凄いハイテクですよね。」凛が聞いた。

 「そうね、先端技術と言っていいわね。」

 「こんなものが出来てたなんて、びっくりです。日本の製品ですか?凄く高いんじゃないですか?」

 「ふふん、それは内緒よ。でも安心して。ちゃんとしたものだし、鈴葉さんの腰は完璧に保護するから。それと、これは私の気持ちだから、何も気にしないで。鈴葉さんにもそう言ってね。」

 「まあそれは、初めの説明から信じてますけど、まさかこんなに凄いとは思わなかった。」凛は、ただ驚くばかりだった。

不思議な器具の裏には、大きな秘密が隠されていた。それは・・・

次回第10部は、”事故の真相”です。

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