鈴葉の切実
花の乙女鈴葉には、人には言い難い切実な苦しみがあった。それは、生きている限り避けることの出来ない問題だった。
「鈴葉、元気?」日増しに元気がなくなって来ている鈴葉に、凛が励ましてやろうと、見舞いで病室に入ってすぐに、わざと明るく声をかけた。
「凛、もう私だめだわ。」
「痛いの?どこが辛いの?」
「うーん、痛みはもうだいぶましなんだ。そうじゃなくってさあ。」
「じゃあ何?何か、最近痩せて来た様な気がするけど、ちゃんと食べてる?」
「それが、食べれないんだよね。」
「食欲不振か。でも頑張ってちゃんと食べないと治り遅いぞ。」
「無理だよ。もうお腹が張って、胃もむかついてくるし、憂鬱マックスだよ。」
「出てないの?便秘?」それに対して、鈴葉は黙って頷いた。
「いつから?」
「事故から1度もしてないよ。」もう1週間以上になる。
「鈴葉、元から便秘体質だっけ?」
「違うよ。普通は学校行く前毎朝してた。便秘になっても3日以上続いたことはなかったのに。」
「駄目だよ。ちゃんと出るものは出さないと。」
「そんなこと言ったって、トイレ行けないんだよ。」
「そりゃ、そんなギブスしてたら行けないのは仕方ないよ。」
「あー、早くギブスはずして欲しい。だいたいこんな不便になるのに、必要なのかな。」
「不便か。ほんと字の通り不便だね。」
「凛、人が死ぬほど苦しんでるのにダジャレはないだろう。」
「あ、ごめんごめん。でもそんなつもりで言ったんじゃないんだ。ね、いつまで、ギブスなの?」
「後1週間くらいこのまま固定して、その後はコルセットなんだって。だいたいうちの親は過保護なん
だよね。腰の骨は1度潰れたら治らないとか言って、『将来障害が残るよりましでしょ。今だけは我慢しなさい。』だって。」
「そりゃ、鈴葉のこと大事なんだから仕方ないよ。」
「でも、この苦しみは分かっていないね。」
「お母さんは、出てないの知ってるの?」
「知ってるよ。いい加減出さないと毒だから、浣腸してやろうかって言うけど、絶対無理。」
「小はしてるんでしょ。オムツ?」
「普段は看護師さんがしてくれるけど、この病院デリカシーないんだよ。いつもの看護師さんが忙しい
からって、1度男の看護師さんが来たんだよ。」
「若い人?」
「20代後半くらいの人。」
「で、したの?」
「いつもの看護師さんが来てくれるまで我慢した。」
「膀胱炎になるよ。」
「だって、いくらなんでもさ。それだったらお母さんの方がまだまし。て言うか、初めの1発目はお母さんだったんだ。」
「じゃあ、大の方もお母さんにとってもらえばいいじゃない。」
「あのさ、人ごとだと思って。凛なら出来るの?」
「それは、そうなってみないと分からないけど、多分覚悟決めてすると思う。」
「へ、そうなんだ。凛て勇気あるね。でも私は絶対無理。」鈴葉がそう言って少し間が空いた後、
「ねえ、鈴葉がそんな状態なのに言いにくいんだけどさ、鈴葉のお見舞いしたいって人いるんだ。」
「誰?クラスの男子とか言うんじゃないよね。男子は絶対無理だからね。」
「男子は無理って言うと思って、それははっきり断ったんだ。」
「クラスの子?」
「それがどっちも見ず知らずの人なんだけど、向こうは私たちのこと知ってるんだよ。特にお母さんの方は、鈴葉や私や成美のことを以前から知ってるって言ってた。狩屋さんて親子だけど知ってる?」
「知らない。なんなの、その人たち?」
「うん、やっぱりそうだよね。でもね、鈴葉ももう感付いてるでしょ?私たちの今置かれてる立場。」
「都市伝説や噂のこと?」
「そう、そしてその人たちも、それにしっかり関わってるらしいの。自分の大切な人の命を守る為に、今どうしても、鈴葉と話したいんだって言うんだよ。しかも、噂の幸福ポイントの為に鈴葉に親切にした
いと言ってるの。人助けにもなって、自分も何か助けてもらって、更に今抱えてる謎も解けるかもしれな
いというメリット。ほんとに信用出来るのかというデメリット。どうする?」
「お母さんてことはおばさんだよね。」
「うん、中年のおばさんだけど。」
「分かった。会ってみるよ。正直このまま滅入ってるより、それと・・・」
「それと?」
「成美、どうしてるかなあ?」その問いに、凛は答えなかった。
次回は鈴葉とユウリンが初対面?第9部”夢の器具”につづきます。




