謎の少年、大貴
事故の2日後の午後、親友の鈴葉のお見舞いを終えて病室を出たところへ、凛の前に一人の少年が現れた。
「あの、もしかして、薩摩凛さんですか?」鈴葉の病室の前で、一人の少年が凛に声をかけて来た。
彼は真面目で大人しそうなごく普通の少年だった。年はだいたい同じくらいで多分彼も高校生だけど、服は地味な私服で、入院患者ではなさそうだ。
「貴方は誰ですか?」唐突だったので、凛はとっさにそう返した。
「あー、ごめんなさい。僕は狩屋大貴と言います。姉を探しにT市から来ました。年は凛さんたちと同じ17です。」T市は隣の市だ。
「どうして私のことを知ってるんですか?」
「新聞記事見たんです。」前日の土曜の朝刊に載っていた事故の記事だ。本来軽傷の凛の名前までは出ないものだが、凛は警察の聴取以外にも、記者の取材に事故の状況を説明し、名前の公表も了承していたのだ。それはこんな内容だった。
『追突した大型トラックの○○運転手は、前方のタクシーの急ブレーキに慌ててブレーキを踏んだが間に合わなかったと話しており、助手席の後ろの席に同乗していて、軽傷を負った薩摩凛さん〈17〉の話によると、突然強く急ブレーキがかけられ、次の瞬間後ろから大きな衝撃があり、何が起こったのか訳が分からなかったと声を震わせていた。警察は重症を負ったタクシーの○○運転手の回復を待って、詳しく事情聞く方針だと語った。』
「そうですか。でも、あの記事とどういう関係があるんですか?お姉さんを探してるって言ってましたね。お姉さんの年は幾つですか?」
「姉は3つ年上です。」
「じゃあ、私たちと関係ないんじゃないですか?あの事故現場にお姉さんがいたとしても、私たちにはどうすることも出来ないじゃないですか。」
「あの、変なこと聞くようですけど、タクシーには3人で乗ったんですよね?」
「どうしてそんなこと聞くんですか?新聞にも3人て書いてあったでしょ。」
「じゃあどうして、角舘さんは前の席に乗ってたんですか?3人でタクシー乗る場合、全員後ろに乗るのが普通じゃないですか。」角舘は鈴葉の名字だ。
「何が言いたいんですか?学校帰りのままだったし、鞄とかの荷物も多かったから、前も開けてもらったんです。それがいけないんですか。」凛は少し頑なになっていた。
「すみません。角舘さんに会って聞いちゃいけませんか?」
「大けがした女の子の病室に、初対面の男子を入れる訳にはいかないわ。鈴葉は今凄いショックを受けてるの。話がそれだけなら、もういいでしょ。」
「分かりました。今日は諦めます。」それだけ言うと彼は凛に背を向け、いつの間にいたのかすぐ近くに来ていた彼のお母さんらしき人のところへ行き、二人で何やら話し始めた。凛はそれを横目でちらっと見ただけで、すぐにその場を立ち去った。
果して、大貴は何を言いたかったのか?又、凛は何かを隠しているのか?次回第6部は、”摩耶の声”です。




