涼太の病気
ギブスをはずし、コルセットに切り替える日が2日後に迫った日、再び大貴が鈴葉の病室に見舞いにやって来た。
「鈴葉、元気?」凛が突然やって来た。器具は持っていなかった。
「あ、凛、今日は来れないみたいに言ってなかったっけ?」
「まあそうなんだけど、今日は久しぶりに彼が来てるんだよ。」
「彼って、誰?」
「大貴君。鈴葉に会いたいんだって。すぐそこまで来てるんだけど、どうする?」
「凛はどうするの?3人で話すの?」
「いやいや、私はどちらにしても、今日はもう、すぐに帰るから。」
「ふーん。じゃあ、いいよ、彼に入ってもらって。正直、今日はもう親も来ないし、寂しいなと思ってたとこだから。」
「分かった。じゃあ私と入れ替わりに、大貴君に入ってもらうね。」
「あ、ちょっと待って。」
「何?」
「成美はまだそのまま?だよね。目、覚ましたら真っ先に言ってくれるもんね。」
「もうすぐ目を覚ますと思うよ。最近、こっちの呼びかけに反応することが多くなって来たから。」
「そうか。んで、摩耶は?」
「摩耶は、私たちと違って、成美の意識の奥に入り込めるみたいなんだ。少しだけど、成美と話せた
って言ってたよ。もうすぐ鈴葉が自由に動けるようになるって言ったら、今度こそ3人で成美を起こそうって・・・」
「摩耶はやっぱり、私たちの友達だね。」鈴葉は笑った。
「そうだよ、友達だよ。」凛も笑った。そして、それ以上何も言わず病室を出て行き、入れ替わりに
大貴が入って来た。
「こんにちは。」ちょっと照れくさそうなあいさつだった。
「こんにちは。今日はどうしたんですか?」
「もうすぐ動けるようになるって聞いたんです。あの、おめでとうございます。」
「ありがとう。やっとって感じですけどね。あ、立ってないで座って下さい。」それに応えて、大貴は
椅子に腰かけながら、
「あ、はい。あの、これよかったら又食べて下さい。」この前とは違う包みだ。
「ありがとう。あ、この前のクッキー凄く美味しかった。ごちそうさまでした。」
「よかった。喜んでもらえて。」そう言いながら、彼は包みをテーブルの上に置いた。
「今日も、お姉さんのことで来たんですか?」
「いえ、姉のことはもういいんです。鈴葉さんや凛さんのこと信じてますから。きっと姉は・・・」彼は言いかけた何かを飲み込んで、伏し目がちに鈴葉を見た。その視線を感じ、鈴葉は言葉に詰まったが、何か言わないと雰囲気が堅かったので、気になってることを言ってみた。
「ユウリンさんにもお世話になって、お礼言いたいんですけど・・・」
「じゃあ、伝えておきます。」
「ユウリンさん、どうしても助けたい人がいるって言ってたけど、その人どうなったんですか?」
「涼太君のことですね。」それを聞いて、鈴葉は、”やっぱり”と思った。
「倉嶋涼太君、ですよね。」
「ユウリンさんに聞いて知ってるんですね。」
「いえ、ユウリンさんは、ただ助けたい人がいるとだけしか言ってません。」
「え、じゃあ、涼太君の知り合いなんですか?」
「いえ、ちょっと訳あって、たまたま知ってるだけです。」それを聞いて、彼は不思議そうな顔をしていた。それを見て、鈴葉は話題を変えなくちゃと思った。思い出すのが怖かったのだ。
「お母さんなのに、ユウリンさんて呼ぶんですね。」
「嘘なんです。義理のお母さんなんて嘘なんです。ほんとは全然知らない人で、頼まれて。」
「どういうことですか?」鈴葉は急に不安になった。
「ユウリンさんと涼太君の関係もよく分からないんです。ただ、ユウリンさんは涼太君の病気を治す為に必死で、その為にどうしても僕の母の名前を貸して欲しいって、引き換えに、姉を探してた僕の為に、鈴葉さんたちに会わせてくれたんです。」
「涼太君て、いくつくらいの人で、一体何の病気なんですか?」
「年は僕たちと同いですが、再生不良性貧血っていう重い病気のせいで、高校には行ってないって言ってました。」
「貧血?」
「骨髄の異常で起こる貧血で、重症の涼太君を救う為には、型の合った骨髄を移植するしかないって、ユウリンさんは僕の母の名前で骨髄バンクに登録したんです。そしたら、この前ぴったり型が合うことが分かって、さっそく骨髄移植しました。」
「どうなったんですか。」
「涼太君の体は、今拒絶反応と戦っています。」
「もし、拒絶反応に負けたらどうなっちゃうんですか?」
「命が危なくなると思います。だから、ユウリンさん、必死になって祈ってます。」
「骨髄の型って、そんなに簡単に合うもんなんですか?」
「僕も疑問に思って、ユウリンさんかなり自信持ってたから、気になってネットで調べてみたら、何十
万分の一の確率みたいです。兄弟じゃない限り。」
「涼太君にはお兄さんがいるんですよね。」
「どうしてそれを知ってるんですか?涼太君は、5つ上のお兄さんが家出していて、連絡がつかないって言ってました。たった一人の兄弟だから、帰って来て欲しいって。」
「涼太君とは会ってるんですか?」
「初めはユウリンさんに頼まれて会ったんですが、今じゃいい友達ですよ。」
「会ってみたいな、涼太君とも。」
「そうですね。成美さんも、涼太君も、みんな元気になって、みんなで会えたらいいですね。」その希望は、もう目前に現実になろうとしていた。
ギブスをはずして、晴れやか気分になった鈴葉が初めに行ったのは、
・・・第15部は、”永遠の友情”です。




