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「えーっと……これは、なに?」


 私の目の前には大きめの中華鍋が2つ。

 油がたっぷりと入っていて火がかけられており、もう少ししたらきっと油の爆ぜる小気味よい音を立て始めるに違いない。


 私はその前に立たされて、なんかよだれかけみたいなのを付けられて、青山君から色々と弄られてしまっている。

 主に髪を。

 というかもみあげを。


「ん? なにってもみ揚げだよ? もみあげは揚げ物が一番だからね」

「やっぱりいいいいいいい!?」


 あっさりと自分の危惧が肯定されて思わず全力で突っ込んだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ! なんで私のもみあげを料理するって話になってるの!?」

「君の御両親が問題にしているのは君のもみあげなんだろう? それも家族の誰もが一度も食べたことがない」

「そ、そんなの当たり前じゃない!」

「じゃあ……わかってもらわないとね。君のこのもみあげの美しさと素晴らしさを、さ」

「はう……っ」


 それは当然食材として言ってくれてるんだろうけれど。

 普通に聞くとなんか、なんか口説かれてるみたいに聞こえちゃうんですけど……?


 あーもう! なに、青山君って天然!?


「で、でもほら、可食部位を調理するには専門の資格がないと……!」

「あればいいんだろ?」


 彼が取りだしたのはプラスチックケースに収められた名詞みたいな紙だった。

 そこには確かに第一級可食部位調理師免許って書いてある。


 ……一級?


「って一級?! え? だって青山君私と同じ14歳で……」

「僕にも色々あるのさ。そんなことより君のもみあげだ」

「い、痛くしない?」

「はは、もみあげに痛覚はないだろう? 何も感じないよ」


 私の太めのもみあげを指先ですくってさらさらと梳かしてゆく。

 あ、なんか気持ちいい……

 髪の毛撫でられるのっていいなあ……


 ……って違う違う! これは調理! 調理なんだから!


「じっとしてて……うん、いいもみだ。手触りといい髪質といい……やっぱり僕の見込んだとおりだ」


 さらさら、するすると私のもみあげを撫で上げる青山君。

 んっ、やだ、んんっ!


 ぴくん、ぴくんって、彼に触られるたびに頬が動いて変な声を上げそうになる。

 嘘つき。何も感じないって言ったのに。



 私、彼にもみあげを触られただけで、こんなに感じちゃってる……っ!



「ふぁ、ん……っ!」

「大丈夫?」

「ん、へい、き……っ」


 平気、平気だけど……

 あンッ、わたし、わたし青山君に下ごしらえされちゃってる……

 美味しく食べられる準備をされちゃってるよぉ……っ!


「さ、用意ができたよ」

「ふぁ……?」


 気がついたら既に準備が整っていたらしい。

 左右のもみあげが少々重い。衣が付けられているようだ。


「卵に焼酎、酢、水のかわりにちょっと地ビールを使ってみた。粉は薄力粉に上新粉、それに片栗粉かな」

「い、意外と普通だね……?」


 本格的と言えば本格的だけれど、全部聞いたことのある材料ばかりである。


「素材がいいからね。君のもみは下手に味を付けるよりそのまま揚げた方が絶対に美味しいはず」

「喜んでいいところなのか微妙なとこだね……」


 さて……そんなわけで私は現在たっぷりと火が通った油の前に立っている。

 立ち上る熱気。

 パチパチという油の音。

 えーっと、揚げ物ってことはつまりこのもみあげを……あれ?


「無理っ! 無理無理無理無理無理無理っ! 絶対火傷する! 火傷しちゃうってば!!」


 普通に揚げ物してても火傷するのに!

 もみあげって耳の横にあるんだよ?!

 顔中火傷しちゃう!

 叫んで鍋をひっくり返しちゃう!

 そしたら私は全身油がかかって……


「あ、油通しになっちゃう……っ!!」

「可食部位以外を調理する趣味はないなあ」


 あ、ないんだ。

 うん、ごめん。ちょっとだけ青山君を誤解してたかもしれない。


「怖がらないで……素材の恐怖は味に悪影響を及ぼす。君は御両親を仲直りさせたい、それだけ考えていてくれ。大丈夫。僕はプロだ。約束する、君の白い肌には火傷一つ追わせない。だから……」

「ひゃうっ!?」


 青山君は……背後からぎゅっと私の左右の肩を掴む。

 強く、だけどとっても優しくって頼もしい手。


「だから、僕を信じて」


 まっ赤になって、わけもわからずただただ幾度も頷く。

 衣をつけたもみあげが大きく触れそうになって、彼が慌てて止めてくれた。



 ……信じよう。彼のことを。



 なりゆきでこんなことになってしまったけれど、彼が私を心配してくれているのはきっと間違いないのだから。

 うん、そうだ。



 たとえどんな結果になるとしても、私は、彼を信じるって決めた……!



 彼に言われるがままに目を閉じて、何か顔に目隠しのようなものをされる。

 そして熱気が襲う鍋の上に顔を落としていって……


 ……そして、何かを揚げる音が聞こえ始めた。


 これが私のもみあげを揚げてる音だろうか。

 なんだろう。不思議と心が高揚する。



 ああ、そうか……

 私、今青山君に美味しく料理されちゃってるんだ……



 再び顔が上がって、ほっと一息つく。

 熱気はだいぶ収まって……彼の言うとおり、確かに火傷はしなかった。


「これで……終わったの?」

「まさか、二度揚げしないとね!」





 ああ、うん。

 そういえば鍋が二つあったよねー……




 


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