僕とアスファルトで踊る君
暑い。死ぬほど暑い。
9月と言えども、今年は残暑が厳しい。
こんな日は、家で本でも読んでいたいものだが、残念なことに、冷蔵庫の食品が切れてしまった。
家族と住んでいれば、別に気にすることはないのだが、
自分、竹澤 優 は、今年の四月から、海の近いマンションで一人暮らしを始めたばかりであった。
食糧がなかったら、家の中でぶっ倒れるしな・・・。
そう思いつつ、冷房の効いた自分の部屋から、のろのろ出てきたのだった。
「大学も遠いし、利点がなんもないところに、住んじまったな・・・」
毎日、外に出るたびに思うことだった。
第一、優は世間でいうインテリ系であったし、大学もトップ校に入学した。
そんな、優がなぜ、こんなところに一人暮らしをしているのかと言うと、母親の過保護体質が原因だった。
本来であれば、父親が転勤となって都心から離れても、優は東京に残って、大学に通えばよかったのだが、それは、心配だから、と大学と転勤先との中間地点に引っ越しをさせられたのだ。
そのせいで、大学に行くのに2時間かかる。
それ以上にかかる人もいるので、あまり気にしていないが、こう暑いと気分は最悪だ。
真夏の太陽に照らされて、陽炎をたてているアスファルトを一人歩いていると、さらにイラついてくる。
実に不快だ。
スーパーに到着して、3日分程度の食料を買占めると、いっそ、もうスーパーから動きたくない、と思う。
しかし、そういうわけには行かないし、第一、何より暇だ。
しょうがないので、両手にビニール袋を持って、スーパーの外へと出る。
自動ドアをくぐった途端に、纏わりついてくるもわっとした熱気は、そう考えても、嫌がらせにしか感じられない。
帰り道、また暑いアスファルトを一人歩いていると、つい何かいいものが落ちてはいないかと思ってしまう。
別に、千円札とかを求めているわけではない。
普段の、灰色した毎日を変えるような出来事がないかと思うのだ。
けれど、そんなものはそうそうないと、頭では思っている。
実際あるのは、命を燃やし尽くした蝉の死骸ぐらいだ。
「はぁ。。。。」
溜め息が零れた。
その時、
パンッ
と、何かが破ける音がした。
後ろを見ると、オレンジが買い物袋から零れ落ちて転がって行っていた。
「え・・・ちょっ!!!」
荷物を、道路に置いて、追いかけに行った先に、白い景色が飛び込んできた。
「袋に詰めすぎですよ」
顔をあげると、そこには白いワンピースに、麦わら帽子を被った女の子が笑っている。
けれど、仕草がどこか親しげなのに、まったく覚えがない。
頭の中で色々考えていると、彼女はオレンジを布の袋に入れて、渡してくれた。
「ビニールよりも布がおすすめですよ。あ、もしかして竹澤君、私のこと知らない?」
思っていたことをいきなり言われたので、動揺してしまった。
「同じ大学の講義を受けている、土藤 海です。席がよく隣なんだけれど・・・」
そう言われて、思い出した。
けれど、声をかける前に彼女は踵を返して行ってしまった。
その後ろ姿を見て、優は微かに不思議な感情を抱いたのが分かった。
白い肌に白いワンピース、長い、艶やかな黒髪、向日葵色のりぼんのついた麦わら帽子。
まぶたの裏に、彼女の笑顔が焼き付いていた。
更新頻度は不明ですが、宜しくお願いします(´・ω・`)
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