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第二十二章 最終決戦!! 絶望に立ち向かう絆

 翌朝。日の光はいつものように登り、優しく山々や家々を照らします。今日が人々の命運を分ける1日となることが嘘だと思えるような平穏な始まりでありました。

 ぐっすり寝た者も、眠れぬ夜を過ごした者も、それぞれゆっくりと身を起こします。

 ジャスト城下町の広場。人々の中心に、ジャスト王、ドレード、ファラーといった指導者クラスの人物が一段高い噴水ステージに集っていました。皆、固唾かたずを呑んで王の言葉を待ちます。


「…いよいよ、魔神バルバトスが復活する。魔神が我々を滅ぼすか、我々が生き残るか。この戦いで決することになるだろう」


 王の重々しい言葉に、民たちは真剣な面持ちです。噴水の先にある、巨大な繭を前にして、それが誇張でも冗談でもないことは誰の目にも明らかでした。


「20年前、英雄スタッドによって魔神バルバトスは封印された。しかし、今回はもはや封印では対処できぬだろう。…世界を救うには、魔神バルバトスを倒す以外にない」


 ドレードがそう言うと、人々がざわめきだします。誰も魔神の封印の詳しい経緯を知らないのです。今回も封印してなんとかなるのではないだろうかと考えていた人たちはがっくりとうなだれました。


「スタッドは!? 英雄スタッドはどうしたんだ!?」

「そ、そうじゃ! スタッド様だったら、魔神を何とかしてくださろう!!」

「そうよ! 皆でスタッド様にお願いすれば…」


 民衆がその名を連呼しだします。王とドレードは互いに顔を見合わせました。

 スッと民衆をかきわけるようにスタッドが姿を現します。ステージの上に登ると、人々が歓声にも似た声をあげました。スタッドはいつもの笑顔で手を振って応えます。


「魔神バルバトスの力は以前よりも遙かに強くなっている。今の僕では封印はおろか、倒すことも難しいだろう」


 頼りであるはずの英雄スタッドの悲観的な言葉に、誰もが絶望の色を隠せませんでした。


「でも、僕は…いや、僕たちは諦めるつもりはない」


 自分に言い聞かせるようにスタッドが言います。

 そして、ノア、メル、レイ、ボーズ太郎、バーボン、ミャオ、オ・パイがステージに上がりました。皆、戦う準備万端です。誰の目にも力が宿っていました。この絶望的な状況に置いても強く輝きを放っています。


「い、いったい誰だ?」

「なんで、ボーズ星人が?」

「レイ王子に…オ・パイ大臣じゃないか!」

「ねえ。バーボン先生もいるわ…」


 民衆の顔に大きな疑問符が浮かんでいました。それはそうです。ノアたちの活躍を知っている人なんて殆どいないのですからね。


「…まず言っておく。アタシは…世界を救うとか、そういうたいそうな事は考えちゃいないよ」


 いきなり語り出したノアに、ささやいていた人々の注目が注がれます。

 こんな少女が何を言うのかと、興味津々で皆が耳をすませました。ノアはコクリと喉を鳴らし、思い切ったように口を開きました。


「前はスタッドが…みんなのために、その命を削って魔神バルバトスを封じてくれた」


 人々は驚きに目を丸くしました。スタッドが封印に大きな代償を支払ったなんて知らなかったのですから当然です。スタッドは何も言わずに目をわずかに細めました。


「それで平和は与えられた。けれど、そんな本当の事も知らずにアタシたちは平和の中にいたんだ。本当の敵は誰だか解っていたはずだ。そんな事すら忘れて、種族同士がいがみ合ってきたんだよ。無駄に20年もね!」


 ジャスト王が、ドレードが口をきつく閉じます。耳が痛い言葉でした。デムが、メリンが、ファルが…種族同士が互いに顔を見合わせます。


「でも、それはアタシたちには関係ないことだ! 種族が違ってたって、アタシたちはずっと仲間だった。アタシは仲間を…目の前の命を守るためだけに戦う! あんなわけのわからないマッチョな鉄仮面野郎に好きにさせたりはしない!!」


 ノアが腕を組んでそう宣言します。そのあまりにノアらしい振る舞いに、スタッドは口元を緩ませます。バーボンが頭をかき、オ・パイがニヤリとしました。


「ノア…」

「ミャー♪」


 メルやミャオがノアの側に立ちます。そしてコクリと頷き合いました。


「アタシたちは魔神バルバトスをブッ倒す! 文句あるヤツいる!?」


 ノアが凄んでみせるのに、民衆は呆気にとられます。訳もわからず、突然現れた少女に言いたい放題にされたのです。

 しばらくの沈黙。やがてパチパチと拍手の音が少しずつ聞こえ、それが次第に大きくなり、盛大な喝采かっさいとなりました。予想外の反応に、ノアは驚きに目を瞬きます。


「な、なんだよ…。なんで拍手なんて」


 文句の1つでも言われたら、思いっきり言い返してやろうと考えていたノアは肩すかしを喰らったような気分になります。


「ノア。お前ってヤツはどうして…そうなんだ」


 レイが呆れた顔をして、ノアの肩をポンと叩きます。ノアは唇を尖らしました。


「アタシに、『皆の為に命をかけて戦うから応援してくれ』…なんて言えっていうのかよ」

「ハハ…。まさか。そんなわけないよな」


 レイは、ノアがそう言っている姿を想像して首を横に振りました。


「いいぞー! 姉ちゃん! やれるもんなら魔神バルバトスをブッ倒してくれ!!」

「なんだか解らんが、ハッキリ言ってくれるぜ! そんな理由でもいいじゃねぇか!!」

「英雄スタッドや王様が信じる者たちなら、ワシたちも信じるわい!」


 よく見ると、デムの人たちだけではありません。ドレードとディレアスが引き連れてきたファルやメリンたちも手を叩いています。彼らはレムジンでのノアたちの活躍を知っているのです。


「…理由はどうあれ、お前たちに託していいのだな?」


 ドレードが尋ねます。その目は心配そうにミャオを見つめていました。


「うんニャー! あのでっかい悪いのノアたちと倒すニャ♪ そうすれば、みーんな仲良しニャ」


 笑いながらミャオはドレードの腕をつかみます。ドレードは無くなった自分の片腕のほうを見やり、悔しそうにギリッと歯ぎしりしました。年端もいかぬ妹だけを戦地に送らねばならないことが心苦しいのです。


「…僕が命にかえても、彼女たちは守ります」


 スタッドがドレードに約束します。バーボンもオ・パイも頷きました。ドレードは、「頼む」と小さな声で頭を下げます。


「オイ! ノア!」


 人々の間から、一際大きくて野太い声が響きます。ノアはその声に驚いて飛び上がりました。


「親分!?」

「コネミのおじちゃんにステラだニャ!!」

「お母さん!?」


 バッカレスにシュタイナ、ヤグル。そして、コネミやステラ。それにシーラとリッケルが民衆の中に立っていたのです。


「いてもたってもいられずに駆けつけたぜ。俺はここでお前の戦いをみてやる! 中途半端なことやってたら後で拳骨だからな!! ガッハッハ!!」


 バッカレスが力こぶをつくり、歯をむき出しに笑います。いつもと変わらぬバッカレスの姿に、なんだかノアは安堵あんどしたものを感じました。


「ミャオ。もし死んだら骨はルアーと釣り針にしますからね。そうならないよう、せいぜい生きて帰ってくるんですよ」

「おおい! コネミ! そんな励ましあるか!! …ってか、ミャオ! アタイらの分まで暴れてきなよ!」


 コネミの毒舌にドレードの額に青筋が浮かびましたが、ミャオはあっけらかんとして笑っています。


「お母さん…どうして!?」


 メルがステージを降りて、シーラに駆け寄ります。シーラは手を開いてメルを抱きしめました。


「魔神バルバトスが復活したことに気づいて…。このバッカレスさんたちと偶然に会ってここまで連れてきてもらったの。メルメル…あなた…」


 シーラの優しい目が、ステージの上にいるオ・パイに向けられました。


「……シーラ。私は決着を付けねばならぬ」


 オ・パイは表情を変えずにそう言います。シーラは全てを承知していると言わんばかりにコクリと頷きました。


「…メルメル。私はあなたが強力な魔法力を備えて生まれてきた時から、こういう日が来ることを覚悟していたわ。でも、怖くはない?」


 シーラの問いに、メルは心底嬉しそうな顔をしてコクリと頷きます。


「…お父さんと一緒だから。私は…大丈夫。ノアたちと戦うわ。怖くなんてない。お母さん」


 泣きそうな顔で、シーラは愛おしげにメルの頬をなでます。


「…メルメルは巻き込みたくはなかった。しかし、ヤツを倒すためにはなくてはならぬ力なのだ」


 オ・パイが苦しげに言うのに、シーラは静かに首を横に振りました。


「ええ。リッケルや…救いの小屋の子たちを守るために。あなたの暗殺拳、そしてメルメルの魔法はきっとそのために神様から与えられたのでしょう。だから、私はあなたとメルメルを信じます。それが…家族ですから」


 妻の深い理解に、オ・パイは心から感謝して強く頷きます。


「みんな…。アタシは、命を守るために戦うんだ。そして…8人で、絶対に、絶対に戻ってこよう!」


 ノアが戦士たちに向かって言います。皆が声を張り上げて応じました。


『行こう! 魔神バルバトスを倒しに!!!!!』




 ジャスト城跡。そびえ立っていた尖塔は崩れ、堅牢な壁は見るも無惨に砕けています。堀の上も瓦礫に埋もれ、今その代わりにそびえ立つのは、強大な悪意を放つ魔神の繭です。


「…まだ復活するのに時間はかかるのか?」


 レイがスタッドに尋ねます。スタッドはわずかに目を細めました。


「…魔力が集中している。恐らく、もう間近だろうね」

「本当にあれから丸1日だとはな…。律儀というか何と言うか」


 バーボンがタバコの火を消しながら言います。


「変に期間が長引くよりはマシだ」

「ええ。時間があったら、きっと迷うことも多かったでしょうから…」


 オ・パイとメルがそう言いました。


「僕たちの気配には気づいているはずだ。そろそろ…」


 そうスタッドが言い終える前に、魔神の繭がガクンと大きく揺れます。


「ッ!? なんていう…力だボー!?」


 ボーズ太郎は無意識に後ずさりました。

 黒いオーラが繭を包み込んでいます。どうやら繭の一部分が割れ、そこから魔力が漏れだしたようです。


「ミャー! あそこが開いてるニャ!」


 繭の上部が開き、まるで花びらが開くように、四方に繭が割れていきます。

 黒い花から生まれましたと言わんばかりに、サイドトライセップスというポージングを決めて魔神バルバトスがその姿を現します。新たに生まれたそのボディはテカテカとオイルを塗ったように青光りに輝いていました。


『フィイイーーーッシュッ!!!! お待たせしましたーーーーーキュッ!! 俺様、新生!! 完全…・復活☆DA☆ZE☆!!!!』


 見た目的には変わっていませんが、その黒々としたオーラはさらに不気味さを増してます。魔法を扱うメルやボーズ太郎はその力をもろに感じてカタカタと小刻みに震えていました。


「スタッド…。最後の手段があるんだろ?」


 ノアがスタッドの顔を見やります。スタッドはハッとして、それからニコリと笑いました。


「ああ…。そうだね。最後の手段…か」


 なんだか曖昧な返事でしたが、スタッドが皆から一歩先に進み出ていきます。そして魔神バルバトスに対峙しました。


『ホホウ! 真っ先に俺様にブッ殺されるのは、憎い憎いクソ・ガリ・メガネか!! 楽にはイかせてやらねぇぜ!! たまりにたまった恨み辛み…俺様のアングリーを拳に乗せて、パウダーになるまで殴ってやるぜ!!!』


 目を赤黒く輝かせ、魔神バルバトスはブフーッと鼻息を吐きました。そして、スタッドの眼前まで顔を近づけて凄みます。


「…君は人の力を過小しすぎだよ」


 スタッドは魔神バルバトスと向かい合っても笑顔です。その余裕がノアたちを逆にハラハラさせていました。


『あん?』


 魔神バルバトスは不機嫌に鼻を鳴らしますが、スタッドは何も答えずに聖剣エイストを掲げます。

 聖なるオーラがその身を大きく包み、スタッドの瞳が白銀に輝きました!


「『真髄に祈りを捧げる老賢者。頽廃を嘆き、恒久なる隠棲へと入りたり…』」


 その詠唱を耳にした魔神バルバトスが動揺します。


『ンゲ!? そ、その魔法は!!?』


 聖剣エイストの刀身が見えないぐらいに光り輝き出します。


「『智者が滔々と紡ぎ、遺されし文字たちよ。荒ぶり諍いし元凶たる愚かなる者共を鎮め給え。沈黙こそ我が智慧の在り方なり…聖結界エミトン!!!!!!』」


 スタッドの手の平から魔法陣が放たれます。それが魔神バルバトスの巨体を捉え、グルグルと光り輝く魔法陣が展開していきます! 空から黄金に輝く鐘が現れ、ゴーンという深遠な響きを渡らせます!


『ウソォ!? ここにきてまた封印…オンギャアアア!!?』

「さあ! 再び止まった時の中で、自分の愚考をもう一度見つめ直して来なさい!!」


 スタッドが放つ聖結界エミトンに力を込めます!

 揺れ動く鐘の音が早くなり、魔神バルバトスは苦しそうに呻きました。


「聖結界!? でも、エルマドールがもう無い今…本当にできるのか!?」


 スタッドが生み出した結界に、魔神バルバトスは吸い込まれていきそうになりますが…四肢を突っ張って必死に抵抗します。


「一時的でも構わない! 結界によって、魔神の力を弱める!! そうすれば…倒せる可能性が高まる!!!」

『グオオオオオオー!! こ、こんな…こんなアホなことが!!! ……って、んなわけねーべッ!!』


 吸い込まれそうに見えた矢先、魔神バルバトスが結界を叩き潰してしまいます! バキーン! と、甲高い音をたてて鐘が破壊されました。魔法を弾き飛ばされたスタッドはガクッと膝をつきます。


『いくら聖剣の力だろうが、俺様の超絶魔力の前にはチリ・ゴミ・カスみたいなもんよ!! んな同じ手が通用するはずもねーべ!! ギャッハッハッハ!!』


 腰を振りながら、下品に魔神バルバトスは大笑いします。


「は、ハハハ…。弱ったね。仮の封印もできないほど、魔神の力が強まっているなんて…」


 スタッドは荒い息を吐いて立ち直ります。その横に、ノアとレイ、ミャオとオ・パイがスッと進み出てきました。


「最後の手段なんて見え透いた嘘だ…。俺たちを休ませるために作った口実だろ」


 レイが剣を構えながら、スタッドをチラッと見やります。スタッドは軽く舌を出して笑いました。


「フン。貴様は最後の最後まで他人に気ばかりかけるな…。少しは私たちの力を信用するがいい」


 オ・パイも軽く肩をすくめて言います。


「もともと全力でぶつかるだけだしね! いまさら、封印だなんて生温いのはなしだよ!」


 ノアがウインクしました。それを見て、スタッドは頭をかきます。


「…そうだね。余計なお世話だったようだね。なら、もう打算はなしだ。全力で…ぶつかろう!!!」


 スタッドの言葉に、皆が動き出します。まずレイとオ・パイがダッと駆け出しました。


『ディヤーハッハ!! さあ、ぶっ潰してやんよぉーーーー!! かかぁって来いやぁ!!』


 大股を開き、魔神バルバトスが指を立ててクイクイと動かします。


「父王から譲り受けたこの剣! 見せてやろう! これが本当の獅子の牙『レイジングファン!!』」


 レイが金色の光に包まれジャスト・スォードを突き立てます!


「…『連続突!!』」


 オ・パイの見えない連拳攻撃です! それが魔神バルバトスを挟む形でレイジングファンの反対側から放たれます!


『ウオッ!!』


 いきなりの必殺技の連発に、さすがの魔神バルバトスも怯んだかに見えます。

 しかし、攻撃が当たる瞬間にニヤリと笑ったようでした。


「ダメ!! 逃げてぇー!!!」


 メルが何かに気づいて叫びます。


『凍えるほど震えるセクスィーアーチッ!!!』


 魔神バルバトスがのけぞるようにして、股間を強調したポージングをします! その瞬間、魔神の全身から冷気が吹き出しました!


「うわぁッ!!?」

「ぬおッ!!」


 その猛烈な冷気に当てられ、技を出したはずのレイとオ・パイが吹き飛ばされます!


「ボー!! 『ヒートバリア!!』」


 ボーズ太郎が慌てて炎の盾を生み出します。それがレイとオ・パイを守りましたが、盾は冷気に触れてすぐに消滅してしまいます。


「なんてふざけた攻撃だ! くそったれ!」


 バーボンがカバンから治療道具を取り出しながら走ります。


「…あれは『ダイヤモンドダスト』。しかも源泉主たちの力も借りずに、自分の魔力だけで放っている。でも、私やビシュエルのものよりもさらに強い」


 メルは唇を噛んで、即座に魔法を放てるよう詠唱しだします。


『オラオラ!! おねんねにはまだ早いぜーーー!!』


 休む間もなく、魔神バルバトスが3本爪を振り上げました!!


「攻撃の手を休めちゃダメだ!! よっとッ!!」


 高くジャンプしたノアがナイフを放ちます!


「ミャー!! 大きいからって負けないニャー!!」

 

 ミャオが魔神バルバトスの膝を利用して飛び上がります!

 目の前を塞ぐ形になったので、目測を誤って魔神バルバトスの攻撃は空を切りました。トスッ! と、ノアの投げたナイフがその太い腕に刺さります。


『ぬう! 邪魔すんな!! 小娘共!!!!!』


 魔神バルバトスは憤り、角を振り回しますが、ノアもミャオも器用にそれを避けます。


「…いいぞ。戦えている!! ノアたちを援護するんだ! 『セイン・ライトニング!!!』」

「はい! 『スパークプラズマ!!!』」


 スタッドとメルが放った雷の魔法が合わさり、魔神バルバトスを撃ちます!!


『ふぐああーーー! うっとおしいい!!!』


 拳を上空高く掲げ、上空に現れた雷槍を弾きます。小さな無数の槍も、魔神バルバトスのダメージにはなりません!


『雷ってのはこういうもんだ!! 見惚れ痺れるビューティマッスル!!!』


 魔神バルバトスが両腕を脇に差し込み、激しくこすります。その摩擦でパチパチと電撃が生じ、辺りに落雷を巻き起こしました。もちろん、メルが放ったスパークプラズマ以上の威力であります!


「うわあああ!」

「ぐぁあああ!」

「きゃあああ!」

「し、しびびびび…ボー!」

「ミャーギー!」


 雷に打たれ、皆が悲鳴を上げます。焦げ臭い臭いが辺りを漂いました。


「…グッ。くそったれ、治療もままならねぇじゃねぇかッ! よっ!!」


 バーボンが鞄から何かの薬を放ります。緑色の液体が皆に降りかかりました。不思議なことに雷のダメージが和らぎます。


「こ、これは…?」

「シャリオの魔法見ていて思いついたんだ。自己回復力を高める俺の特別調合した薬品だ。ゴッドキュアとまではいかねぇが、致命傷じゃなきゃある程度のダメージは回復する!」


 バーボンがレイの凍傷を治しながら言います。


「それは心強いことだな! 心おきなく攻撃に専念できる!!」


 いち早く凍傷を治療してもらったオ・パイが、魔神のスネを蹴り飛ばします。痛みに魔神バルバトスが拳を固めて振り下ろします。


『ふんがぁッ!!』

「そんな大振りが当たるものか!! チャアアイ!!!」


 魔神バルバトスの鉄拳を避け、その顎を蹴り上げます。たまらず魔神バルバトスはよろめきました。


『うっとおしいんだよ!! ブハアーーーーッ!!』

「ぬぐあッ!!」


 仮面の隙間から冷気が吹き出します。どうやら、魔神バルバトスが口から冷気を吐き出したようです。さらなる追い打ちを狙っていたオ・パイは、その攻撃をモロにくらって落ちました。


「別々に攻撃していても埒があかないよ! みんなで一斉に攻撃するんだ!!」


 ノアが指示を出します。それぞれ魔神バルバトスとの距離に気を付けながら頷きました。


「『エクスプロード!!!』」


 メルの魔法が魔神の頭に炸裂します。


「ニャー!! これでどうニャ!!」


 ミャオの引っかきが、エクスプロードで怯んだ魔神バルバトスの顔を抉りました。


「どりゃあああ!! 『ストライクアタック!!』」


 続けてノアの体当たりです! 仮面の一部分が軽く凹みました。軽い脳震盪のうしんとうを起こしたのか、魔神バルバトスが一瞬だけ天を仰ぎます。


「いまだ!! 大聖激震!! 『セインブレイク!!!!』」

「うおおおお!! 飛来剛刃!! 真・雷神の剣柱、『フォーマル・テンペスト!!!!』」


 力をためていたスタッドとレイの奥義が、隙のできた魔神バルバトスを確実に捉えます!


『…んがァ! んなのが効くか!!!』


 ピタッと一瞬だけ動きを止めた魔神バルバトスでしたが、次の瞬間に黒いオーラを全身から放ちました!

 その強烈な波動に、ボーズ太郎の防御魔法も追いつかずに吹き飛ばされてしまいます。


「…グッ。い、今のが全くダメージになってないのか!?」

「か、完全体の魔神バルバトスは…あの筋肉だけじゃない。あの黒い魔力エネルギー。心臓の魔力のバリアで完全に守られている。あれを突き破らなければ、本体にダメージは与えられない!」


 スタッドが強力な聖魔法を展開しようとしますが、魔神の放つ魔力にさえぎられて上手くいきません。


「ミルミ城と同じだ! いくら攻撃しても効果がない!!」


 オ・パイが魔神バルバトスの攻撃をかいくぐりながらも攻撃の手を休めません。しかし、あのオ・パイの重い1撃ですらほんの少しもこたえてないようです。


「なにか手はないのか! このままじゃ、動き回っている俺たちが先にへばってしまう!」


 凶悪に振り回される爪を避け、スライディングしながらレイが叫びます。


『ムダムダムダ!! テメェらのやってるのは、ただの時間稼ぎにもならねぇ! この世界を滅茶苦茶にするための前座だなぁッ!!』


 魔神バルバトスが魔法を放ちます!

 その詠唱もなしにいきなり放たれる魔法は脅威です。放った瞬間は魔神から離れなければなりませんし、それを防御するのにボーズ太郎とスタッドの双方が防御魔法を放たなければ食い止められません。それを突き抜けて怪我を負った者を、バーボンがすぐさま治療します。いまの魔法で、オ・パイが左腕に大きな怪我を負いました。鮮血が辺りに飛び散ります。


「ちきしょう! こんなんやってたら、やがては手が尽きるぜ!!」


 バーボンがオ・パイと併走へいそうしながら手早く腕の傷口を塞ぎます。まさに神業ですが、常に移動していなければ魔神に薙ぎ払われてしまうので仕方ありません。


「コイツ固すぎニャー!! ゴツゴツの岩のモンスターより固いニャー!!」


 ミャオが悲鳴をあげて自分の爪をペロペロなめます。

 確かに魔神バルバトスの硬度は、ガーゴイルやロックゴーレムなんて目じゃありません。全身がまるで鉄のようなのです。


「…これが魔神の本当の強さかよ!」


 ノアはギリッと歯ぎしりします。握りしめたダガーは、魔神バルバトスを倒すのには頼りないです。しかし、これがノアの最大の活かせる最強武器なのです。

 ノアたちは幾多の戦いを経てきました。オルガノッソ、アルダーク、ビシュエル、スタッド、オ・パイ…勝てないと思ったような輩も倒し、ノアたちは確実にレベルアップしているはずです。ですが、それでも『神』たる存在にはとどかないのだろうかと失望します。歯がゆくても悔しくてもどうしようもありません。相手は破壊神とはいえ、『神』なのでありますから。


『ディーハッハ!! テメェーらミジンコの攻撃なんて効くわけねーべっちょッ!! フンリャアア!!』


 魔神バルバトスがポージングする度に強烈な魔法が放たれます!

 炎、氷、雷…いずれにも属さない、邪悪な魔力の波動です。続けざまに墨をぶちまけたようなドス黒い衝撃波が襲いかかります!


「ボー! ぼ、防御魔法が間に合わないボーッ!!」

「くぅッ! 『アルティメット!!!!!』」


 地獄の炎王、氷の女皇、天界の雷帝…それら源泉主を呼び出すメルが扱える最強魔法が放たれます! 魔力がぶつかりあいました!


『ボーッホッホ! 無駄! 無駄!! 無駄!!! 無駄!!!!』


 メルのアルティメットを押しつぶさんと、魔神バルバトスの黒い魔力が源泉主にまとわりつきました。源泉主たちは苦しそうにもがきます。


「ボーズ太郎! 僕の力に合わせるんだ!! 『聖波動クライク!!』」


 スタッドが補助魔法を放ちます。ボーズ太郎の身体が白く輝きました。


「ボー!! 『災いを退ける天の翼、聖なる羽ばたきを持ちて我らを守り給え…ガーディアン・フェザー!!!』」


 ボーズ太郎の背中に大きな白鳥の翼が生えます! それらが大きく羽ばたき、白い輝きをもって魔神の魔力から皆を守りました!

 大変に神々しい魔法でありましたが、顔はボーズ太郎のままです。メルがこの魔法を使えないのが悔やまれます。


「ありがてぇ! これで治療する時間が稼げるぜ!!」


 バーボンがすかさずに走り出します。前線で戦っているノア、レイ、オ・パイ、ミャオは傷だらけです。的確な判断で治療する順番をバーボンは一瞬で判断しました。ボーズ太郎の魔法が終わるまでには、皆の傷を治せそうです。


『おんやぁ? こんな物で俺様の…激烈無限大魔力が終わりだとでも思いましたぁ? ブワハーーーーッハッハ!!』


 魔神バルバトスが力をためるように両腕を交差させ、そして一気に開き、さらに強い衝撃波を放ちます!!


「ボーーー!!?」

「ば、馬鹿な!! 僕の魔法で強めた…古代魔法、最強の防御が負けるなんて…うぐあッ!!」


 バキーンッ!!


 ガラスが割れるような音を響かせ、ボーズ太郎の翼が砕けます!

 無情な衝撃波に皆がさらわれて吹っ飛びます!!


「うわー!」

「ぬぐう!」

「きゃー!」

「がはー!」

「ミャー!」


 悲鳴をあげ、瓦礫の上を皆がゴロゴロと転げます。それを見て、魔神バルバトスは大笑いしました。


『弱い! 弱すぎる!! なんだ、そんなもんか!』

「…く、くそっ。な、治して…やらねぇ…と」


 倒れているバーボンが起きあがろうとします。皆、重症です。バーボン自身も血だらけでした。それでも、皆を救えるのは自分だけだと必死に立ち上がります。


『あー? 治してどうなる? 俺様を倒せるとでも本気で思っているのか? テメェらの技は何一つ通用しねぇ!! 俺様のハートに直接攻撃してもどうにもならねかったんだ! 完全体となった俺様に勝てる道理があるか? ねえ! そんなの米粒一つほどの可能性もねえ! テメェらゴミ共は、俺様にブン殴られていりゃいいのよ!!』


 地に伏せっていたノアがギロッと魔神バルバトスをにらみ付けます。


「…ふざけんな。アタシたちは…アンタのオモチャじゃない!!」


 魔神バルバトスがノアに目を向けます。仮面の目が赤く不気味に輝きました。


『あん? あんだぁ? ムカツク目だな…。そんな目で俺様を見るな! ゴミが! カスのくせに生意気だぁ!!』

「アタシは…ゴミじゃない! ただ暴れて壊すだけの…アンタの方がゴミだッ! ゲホゲホッ!」


 そう叫んで、ノアは血を吐きながら咳き込みます。


『ゲヒャヒャ! 瀕死のくせに、ピーピーのくせに、なーにを言っちゃってくれてるのだぁ!? ゴミじゃねぇってなら、ゴミじゃねぇって証明してみせろやぁ! おんどりゃああああ!!』


 魔神バルバトスが拳をかため、倒れているノアに思いっきり振り下ろします!!!!


「ノアーッ!!!」「ノアッ!!!」


 倒れているレイとスタッドが悲痛に叫びました。


「……うっ…ん?」


 死を覚悟したノアは、いつまでも衝撃がこないことを不思議に感じます。魔神の拳はノアなんて軽くぺちゃんこにしてしまうはずでした。


『お? おお?? なんじゃこりゃ!?』


 ノアが目を開くと、魔神の拳が、青白い球体の魔法陣に包まれています。魔神バルバトスもキョトンとして、それを払おうと手を振り回しました。


「『…そ、それほど長くはもたん! 早く、逃げよ!!』」


 どこからともなく聞こえる言葉に、ノアは何とか身を起こします。しかし、歩けそうにはありません。腕をついて立ち上がろうと頑張っていると、いつの間にかオ・パイが側に来ていました。そして、ノアの身体を抱えてその場を飛び去ります。


「あ、ありがと…」

「フン。こんなところで、私を倒した女をやらせるわけにはいかん」


 そう言ったオ・パイもかなりの重症でした。それでも動けるのは過酷な修練のおかげなんでしょう。


『おんどりゃーー!!』


 魔神バルバトスが悔しそうに暴れますが、その魔法陣のせいで思うように動きがとれないようでした。


「で、でも…いったい誰がこんなことを?」


 ノアが辺りを見回します。スタッドもボーズ太郎も、メルも魔法を使える状況ではありませんでした。

 瓦礫の山を目で追うと、ひしゃげた王座の後ろでシャリオが立っていました。輝く蒼い瞳で、ブツブツと何か詠唱をくり返しています。

 どうやらシャリオがノアを助けてくれたようです。しかし、魔神の力が強すぎるせいか苦しげに見えました。


「シャリオ! まさか! ど、どうして!?」

「『…そんなことはどうでもよい。今は彼奴を倒すことだけに専念せよ。さあ、私の力も…そうは、もたぬ!』」


 いつものシャリオらしくない口調で、ハキハキとノアに命じます。そしてその言葉通り、魔神バルバトスを抑えていた魔法陣が消えてしまいました。


「『くっ…。これが私が手をかせるラストチャンスだ! ゴットキュア!!!!』」


 シャリオが回復魔法を唱えます。瞬時にノアたちは全快しましたが、シャリオは魔法力を使い果たしてその場で気絶してしまいます。


「シャリオ…。どうやってここまで…。クソ! シャリオだけは戦いに参加させたくなかったのに!」


 ノアは悔しそうにギリッと歯を食いしばります。


「しかし、事実、助けられた…。あのままでは全滅は免れなかった」


 オ・パイが額に浮いた冷や汗をぬぐいながら言います。


『誰じゃー!? どこのどいつじゃー!! 俺様にふざけた魔法かけたアホンダラは!! ブッ飛ばしてやるうぅぅぅぅッ!!』


 魔神バルバトスは、自分に魔法をかけた奴をさがすべく、瓦礫をひっくり返しては怒鳴り散らしています。どうやらシャリオの存在には気づいていないようでした。

 魔神の注意がそれているその隙に、皆もその場を離れ、ノアとオ・パイの側まできました。

 

「…面目ない。俺がやられちゃ、皆を助けてやれねぇ」


 バーボンが拳を握りしめ、自分の額を殴って言います。


「バーボン先生を守るような陣形で戦わなければ…。接近戦は僕とオ・パイ殿が戦い、ミャオちゃんは僕らをサポートしてほしい。

 ノアとレイ王子は中距離からバーボン先生を守り、ボーズ太郎とメルメルちゃんは防御魔法を常に張ってもらいたい。

 魔神の魔法は僕がなんとしてでも食い止める。そうすれば、最悪…1撃死は避けられるだろう」


 スタッドが手早く作戦を指揮します。割れたメガネの奥からは、いつもの余裕は少しも見られません。


「しかし、俺たちのスタミナの問題や、メルやボーズ太郎の魔法力切れの心配もある…。そもそもダメージを与えられないんじゃ…」


 レイが反論しますが、スタッドは首を横に振ります。


「倒すチャンスは…僕が作る。聖剣エイストは、魔神バルバトスに通ずる武器だ」

「しかし、それでも」

「いいや。やるしか…ないんだよ」


 まだ何か言いたげにしたレイでしたが、やがて渋々と頷きました。他に何も手は思いつかなかったのです。

 ノアはそのやりとりをみていて、何か引っかかるものを感じました。何か、とても大事な何かを忘れているような気がします。


「ボー。ボーズ音頭が効けば、アイツをオルガノッソみたいに異次元に送り飛ばしてやれるのにボー!」


 ボーズ太郎が悔しそうに言います。その言葉を聞いて、ノアは目を見開きました。


「そう…。そうだよ。ボーズ太郎!」

「ボ!?」


 ノアがボーズ太郎の両肩をつかんで揺さぶります。あまりのことに、ボーズ太郎は目を白黒させました。


「聖剣エイスト! それにボーズ星人!」


 ノアがそう叫ぶのに、7人は訝しげに首を傾げます。ノアは自分が言いたいことが伝わらないことをもどかしく感じます。


「前にスタッドが言ってたじゃないか! 聖剣エイストとノアの方舟は、魔神バルバトスの暴走を防ぐために古代人…ボーズ太郎の先祖たちが隠したものだって!」


 早口で言うノアに、スタッドはハッとした顔をします。


「…そうか。ノアの方舟の機能…僕たちはまだその全部を知ってはいない。魔神バルバトスを倒すヒントがあるかもしれないということか」


 皆の視線がボーズ太郎に注がれます。注目されて居心地悪そうにしながら、ボーズ太郎は申し訳なさそうにします。


「ざ、残念だけど…あの時は舟の操縦で手一杯で。他のシステムまでは…見てないボー」


 皆ガックリとしますが、スタッドだけは目に輝きを失ってはいません。


「調べてみる価値はある。いや…もう、それに賭ける以外にない。鍵である聖剣エイストが聖結界エミトンを使う力をもっていたぐらいだ。本体であるノアの方舟に、何か魔神を倒す力が眠っていてもおかしくはない」

『…だーーーらぁ! コソコソと! この小ネズミどもが!! 何をやってんのじゃあー!!』


 瓦礫をひっくり返していた魔神バルバトスが、ノアたちの作戦会議に気づいて怒りながらドシンドシンと近づいてきます。


「クソッ! だが、時間がねぇ! ノアの方舟まで戻っている余裕なんてねぇぞ!」


 バーボンが言うとおり、ノアの方舟を停泊させているエルジメン橋まではかなりの距離があります。それまでに通らなければならないジャスト城下町には、ノアたちに運命を託した人々が大勢いるはずです。もし魔神バルバトスが追いかけてきたとしたら大きな被害を被ります。迂闊うかつに今いる場所を離れるわけにいきませんでした。


「パーティを半分に分ける…。いや、無理だ。この8人でようやく渡り合えている状況。1人でも欠けてしまえば…」


 スタッドが色々と思考を巡らせていますが、すぐに良い手だては思いつきません。そうしている間に、黒いオーラを全開で放ちながらも魔神は着々と近づいてきています。


「…どうすれば」


 そうノアが呟いたとき、肩にポンと手が当てられました。


「話は聞いたぜ。その役目なら、俺たちに任せておけ!」


 ノアがハッとして振り返ると、そこにはバッカレスとシュタイナ、ヤグルが立っていました。

 それだけではありません。ドレード、ジャスト王、ファラー、そしてファラーの娘たちとアングリー、コネミにステラ、ウィリアム。そして、デム、ファル、メリンの兵士たちが集っていました。


「なぜ…。戦うのは僕たちだけだと言ったはずなのに」


 武装した人々が崩れた城壁を乗り越えてくるのを見て、スタッドは焦り顔でドレードとファラーに詰め寄ります。


「倒すまではいかないが、時間稼ぎぐらいならばしてみせる。片腕となったが…腕そのものが衰えたわけではない」

「すまないね。目を離した隙にシャリオくんがいなくなってしまって…。しかし、幼子が戦ったというのに、私が何もしなけければ大司教の名折れだよ」


 ドレードとファラーの言葉に強い決意をノアは感じました。

 スタッドの顔から緊張が少し消え、小さく頷きます。そこには感謝が含まれていました。


「父上!」

「このジャスト国を王が守らんでどうする! ワシらも戦うのだ!」


 ジャスト王は甲冑に身を包み、剣を掲げます! それに合わせ兵士たちも武器を同じように掲げて雄叫びを上げました!


「コネミのおじちゃん! ステラ! ウィリアム!」

「やれやれ。またタダ働きですか…」

「文句言うなよ! コネミ!

 ミャオ! アタイらも戦うからな! 世界の命運がかかってんだ! 相手が神だって構うもんか!」


 面倒くさそうにしながらも、すでにムキムキの戦闘態勢なコネミです。

 そしてステラが手綱を引くと、ウィリアムがギチギチと鳴き声を上げます。大きな魔神に負けまいと、ハサミを開いて、身体をそらして、より自分を大きく見せようとしました。


「…こりゃ、ずいぶんと怪我人が増えそうだな。ま、俺の目が黒いうちは絶対に死なせはしねぇけどな」


 バーボンがタバコに火を付けながら、腕まくりしました。どんな怪我人がでても治すつもりなのです。


「私は陛下をお守りせねばならぬ。…それに魔神とまともに戦えるのは私ぐらいなものだろう。私とバーボンはここに残る。お前たちは行くがいい」


 オ・パイがノアに向かって言います。ノアもコクリと頷き、皆を見渡しました。


「すぐに戻ってくるから…。誰も死なないで」

「ガッハッハ! いっちょまえな口をきくな! 俺を誰だと思ってやがる!」


 バッカレスが笑いながら、ノアの額をピンと弾きました。


「んだよー。まだ半人前扱いかよ!」

「そうだな…。あの魔神バルバトスを倒せたら…1人前と認めてやる!!」


 バッカレスがニッと笑い、そして魔神バルバトスに駆け出しました。それを合図に、他の皆も戦いを開始し始めます。


『なんなんだテメェら!! 頭数そろえりゃ、俺様に勝てるとでも思ったか!! おもしれぇ! ボッコボコにしてやんよ!!!』


 集結して攻撃してくる人々を殴り飛ばしながら、魔神バルバトスが小馬鹿にしたように大笑いします。


「みんな…。必ず、必ず…魔神を倒す方法をみつけてくるから」


 ノアは拳を握りしめ、そしてスタッドやボーズ太郎たちと共に駆け出しました。目指すはエルジメン橋にあるノアの方舟です!


 はたして、ノアたちは魔神バルバトスを倒せる手段を無事に見つけることができるのでありましょうか…………。

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