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追放のツケ

 遺跡の町区画に到着した時、キリアン アス クライス ー戦士ーは機嫌が良かった。

 恵まれた体格に歴戦を共にした背丈程ある大剣。

 “極ジムハーレ”のリーダー。砂漠に道ができた、とはいえ踏破難易度の高い砂漠を開拓して、無事に砂漠を超えた者達。名声は鰻登り。

 そして周囲には年頃の女性が4人。彼は誰もが羨み妬む存在である。


「見ろ。静かだ。拍子抜けだな」


 四メートルの石壁に囲まれた廃町。

 不自然なほど整った石畳。

 だが彼はそれを「安全」と判断した。


「ほらな? あの商人がいなくても問題ない」


 治療師が頬を染めて微笑む。


「はい……あなたがいれば十分です」


 魔導師と盾戦士は、視線を合わせて何も言わなかった。


 探索者が前に出る。


「罠、調べるね」


 彼女は膝をつき、魔力感知を展開する。

 魔力が静かな波のように広がり、空気そのものが淡く震え始める。見えない光が周囲へ満ちていく。


「……反応なし。たぶん平気」


 “たぶん”。


 その曖昧さを、誰も咎めなかった。


 かつては――

 必ず二重三重に確認する商人がいた。

 だが今は、いない。


  ____________



 最初の罠は簡単だった。

 石畳の圧力板。探索者が器用にそれを解除する。


「ほら、楽勝」


 キリアンが満足げに笑う。


「やはり専門職がいれば違うな」


 その言葉に、魔道士が一瞬だけ目を伏せた。


  ーー以前も専門職はいた。


 だが口には出さない。


 進む。そして。

 カチリ、と音がした。


「……え?」


 探索者が顔を上げた瞬間。


 床下から魔力衝撃波が炸裂。

 遅れて、天井から石塊が落下。


 二重構造罠。


 最初の解除は“誘い”だった。


「ぐああああっ!」


 盾戦士が盾を構えるが遅い、直撃を受ける。

 盾が砕け、右大腿部に石片が刺さる。


 魔導師も衝撃で吹き飛ばされ、肋骨を打つ。


 キリアンが叫ぶ。


「何をした!」


「解除した! ちゃんと!」


 だが二段階目は読めなかった。


 “上位鑑定がなければ”。


 治療師が即座に動く。


「盾戦士、意識は?!」


「……ある、けど……足が……」


 出血多量。

 動脈性出血ではないが、深い裂創。

 治療師はまず患部の石片を抜かない。


「抜いたら大量出血するかもしれない!」


 圧迫止血。清潔布で直接圧迫。


「魔道士、アルコールを!」


「……はい!」


 消毒液を足全体にかける。

 失血は戻らない。


 治療師は素早く判断する。


「ショック兆候あり。顔色蒼白、冷汗、頻脈」


 外傷性ショック初期


「横に寝かせて、足を少し上げる!」


 キリアンは狼狽している。


「治せるんだろ!? お前は治療師だ!」


「私は神じゃない!」


 一瞬、場が凍った。彼女はすぐに言い直す。


「縫合が必要。止血して撤退しないと壊死する!」


 医学的に正しい判断だった。



 ____________



 魔導師が小さく呟く。


「……前の商人は、必ず二重確認を……」


 全員が沈黙する。


 キリアンの目が変わる。


「今それを言う必要があるか?」


「い、いえ……」


 探索者が震え声で言う。


「二重罠なんて普通は……」


 キリアンが怒鳴る。


「言い訳するな!」


 治療師が怒鳴り返す。


「責任の押し付けは後にして! 今は圧迫維持!」


 彼女の手は血で赤い。

 医学的には最善を尽くしている。

 だが――

 彼女は気付いている。

 以前なら。

 罠の構造を事前に解析していた者がいた。


「……撤退を」


 盾戦士が弱く言う。その言葉は彼女の長年の経験から言葉だった。


 キリアンは歯を食いしばる。

 

「まだ行ける」


 誰のための言葉か。 自分のためだった。

 キリアンは先導して1人で進む。探索者の怒号が飛ぶ。


「待って、そっちはまだ調べてない!」


 そして再び罠。今度は小規模。


 だがキリアンの剣に魔力が逆流。

 パキン、と音を立てて刃が欠ける。

 象徴だった。無敵の象徴が、折れた。


 その瞬間、探索者の口から漏れる。


「……前の商人なら」


 キリアンが睨む。彼女は黙る。


 その時、魔導師が声を荒げてキリアンに言った。


「あんたはこういう時、役に立たないのだから余計なことはしないで!」


「うっ」


 彼は怯む。


「ううう、えぐ…」


 魔導師は涙をこぼし静かに泣いた。そして続けた。


「追放した商人。トライはね。こういう時こそ冷静に指示が出せる人なのよ。

 トライがいなかったら、あの砂漠で何回全滅したかわかんないのに…皆忘れたの?」


 誰も答えない。


 “極ジムハーレ”に亀裂が入ってしまった。

 この関係が修復することはないだろう。


 ____________

 ____________



 場面が切り替わる。

 俺ートライセルーとアリス。

 そしてラジレス。フォック。


 揺らぐ映像。 町区画で狼狽する元仲間達。


 アリスー魔導師ーがこちらを心配した様子で小さく言う。


「助けますか?」


 俺は黙る。映像の中で治療師が叫ぶ。


「縫合しないと感染する! 早く安全地帯へ!」


 必死だ。

 彼女は悪ではない。


  だが――


 俺の脳裏に浮かぶ。

 鑑定を急かされて気づいたら置いていかれた事

 夜に戦利品の鑑定をしていたら、キリアンに全部その辺の店で売るから「時間の無駄」と言われ、勝手に売られた挙句、相場より下の値段で損をした事

 報酬の事で治療師と魔導師が言い合いになりキリアンは仲裁せず結局俺が対処した事。


 映像のキリアンの声が響く。


「戻ったら……」


 言いかけて、止まる。


「……いや、何でもない」


 謝罪は、飲み込まれた。


 俺は静かに言う。


「……俺は、もう関係ない」


 ラジレスが横目で見る。


 アリスは何も言わず、ただ隣に立つ。


 その沈黙が、肯定だった。


 ____________

 

 映像が止まった。


 ラジレスー魔導師ーは水晶に色々していたが諦め、そして言った。


「…どうやら何かの拍子に壊れたようだ。これは1個しかないのでもう見る事は出来ない。

 ただ、傷の具合と処置を見る限り、盾戦士は大丈夫だろう。」


「それが壊れる事の確認できて安心致しました。」


 アリスはそう言い、ほっとしたように息をついた。


「アリス。もうこの魔道具は壊れたから、変な揶揄いはよしてくれ。前と同じで頼む。」


 ラジレスがアリスに言った。


「…わかりました。もうしません。ただ、帰ったらその魔道具を詳しく調べてもいいですか。」


「この水晶ならいいぞ。撮影機の方は砂に埋もれて、もう見つからないと思うが…」


「その水晶でいいです。」


 アリスとラジレスが笑っている。元の関係に戻ったようだ。

 ラジレスは俺に話しかけた。


「それにしてもトライセル、鑑定以外にも状況判断も得意なようだな。まだ短い間だが砂漠やこの町の探索の時、高度な戦闘指示が出せていたな。それは才能か…それか誰かに教わったのか?」


「才能ではないです。戦いが苦手だから少しでも役に立ちたくて学校で専攻しました。統率系の資格は持っています。」


「うむ、お前は戦闘は苦手かも知れないが多くの人を救っている。もっと誇りを持つべきだ。」


「…わかりました」


 ラジレスからそう言われて素直に嬉しかった。

 この人から言われる言葉は心に響く。

 今までの苦労が報われたような気がした。


 ラジレスは何かに気付いたような反応をした。そして俺の胸元を指して言った。


「…その胸のやつ光ってないか?」


 その時、胸の遺物の欠片が鼓動した。

 壁画の祭壇の奥。広い家ほどの石室に誘導するよう青い光が微かに指す。

 石室には何があるのか…

 わからないが呼んでいる。


 主人公は目を閉じる。

 先祖代々受け継がれてきた目的地が今そこにある。


 五話終了

読んで頂きありがとうございます。

第5話では、元パーティの視点から“崩壊”を描きました。

このざまあ展開は、次の話に登場する物に必要不可欠で主人公があえて手を下さない形にしています。

小話 “極ジムハーレ“はハーレムじごくのアナグラムです。

次六話では、物語の核を登場させてます。

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