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静かな町

 遺跡の入口を抜けた瞬間、空気が変わった。

 砂嵐の唸りが背後へ遠ざかり、視界が一気に開ける。

 四メートルほどの石壁に囲まれた小さな町。

 砂に半分埋もれているが、建物は崩れていない。窓枠も、扉も、屋根すら形を保っている。


「……保存状態が異常です」


 アリスー魔導師ーが静かに呟く。 さらに続けた。


「千年経っているなら、内部から腐食するはずです」


 俺ートライセル ステナドー商人ーは地面にしゃがみ、砂を払う。


「砂は外から流れ込んでいます。内部崩壊はほぼないですね。……まるで時間が途中で止まったみたい…」


 フォックー騎士ーが剣の柄に手を置く。


「静かすぎる」


 その一歩を、俺は咄嗟に止めた。


「フォックさん待ってください」


 足元に、小さな金属板。ただの装飾に見える。だが、違う。

 俺は鑑定の魔力を流し込む。視界に淡い文字列が浮かぶ。


 ――侵入者識別型 魔力圧壊式。


「踏めば、壁ごと吹き飛びます」


 フォックが目を見開く。


「……罠か」


「上位魔道具、自動発動型です」


 アリスが驚きを隠さず言う。


俺は周囲を見渡す。この町に違和感がある。石畳の色が微妙に違う。扉の取っ手に魔力の流れ。窓枠の影がわずかに濃い。


「……多すぎる。この町は罠だらけだ。」


 ラジレスー魔導士ーがゆっくりと歩み寄る。


「解析できるか?」


「時間をもらえれば」


「私は強制解除もできるが……確かに時間がかかる。」


穏やかな声で言った。上位魔道具の無理な解除は、周囲の構造を壊す可能性がある。


「任せてください。魔道具を壊さず解除します。」


 自分でも驚くほど自然に言葉が出た。


 アリスが横に並ぶ。


「補助します。」


「……助かります。」


 二人で一つずつ解除していく。

 魔力の流れを読み、発動条件を推測し、封印術式を逆算する。 汗が滲む。だが、嫌な感覚ではない。


「あなた、商人ですよね。」


 作業の合間にアリスが言う。


「一応そうだが鑑定は祖父に鍛えられました。」


「ここまでの鑑定精度は、専門家級です」


「祖父はいつも言っていた商人は“本物”を見抜けなきゃ損をすると」


 本物…少し昔のことを思い出した。

 前の仲間“極ジムハーレ”。戦闘重視で、俺の鑑定はいつも後回しだった。


『急げよ、トライセル。戦いはもう始まってるぞ』


 以前の仲間の戦士“キリアン“の苛立った声。

 罠の確認を飛ばしたせいで、仲間が怪我をしたこともある。俺のせいではない。だが、誰もそうは言わなかった。 あの仲間達は本物だったんだろうか…


「……どうしたんですか。何か考え事ですか。」


 アリスがふと聞く。手は止めない。


「すまない、前の仲間達の事を考えていた。」


「…ここはどうですか。」


「俺の事を認めてもらってすごくやりやすいです。」


「それはよかったです。」


 短い言葉。だが、温度があった。最後の罠を解除する。空気が軽くなる。


 ラジレスが静かに頷いた。


「見事だ。ここまで精密に処理するとは思わなかった」


「時間をかければ、誰でも」


「いや」


 穏やかな目。


「君だからだ」


その評価は、思っていたよりも嬉しかった。その言葉は本物の様な気がした。


 ____________



 町の奥へ進む。

 生活の痕跡は残っている。食器、布、椅子。だが――遺体がない。


「白骨がない……」


 アリスが眉を寄せる。続けて言う。


「疫病や争いなら、処理跡があるはずです」


 俺も頷く。そして言った。

 

「埋葬痕もなければ、燃やした形跡もないですね」


 ラジレスが地面に触れる。ほんの一瞬、空気が張り詰める。


「……骨の残滓すらない」


「自然分解、ですか?」


 アリスがラジレスに問いかける。


 ラジレスはわずかに視線を細める。


「自然ではない」


 それ以上は言わなかった。 だが、その声は確信に近いものがあった。


 町の中央広場が見えてきた。かなり広いようだ。探索は明日になるだろう。

 俺の胸元の遺物の欠片が、かすかに熱を帯びる。


「それ、また反応していますね」


 アリスが静かに言う。


「……この場所の近くまで来たから反応したのではなかろうか」


 ラジレスが柔らかく答える。何故かラジレスの言葉に違和感を覚えた。


 ____________



 その夜。

 フォックが見張りに立ち、アリスは簡易結界を張る。 ひと通り町の中を探索したので俺とアリスは町の構造を書き留めていた。 ラジレスは先に仮眠を取っている。


「あなたとだと、解析が早いですね」


「無駄がないからね。」


 ふっと、彼女が笑う。初めて見た表情だった。…その表情はすぐに消え熟考した後言った。


「それにしてもこの町変なところが多いですね。」


「確かに生活感はあるのに死体がなかったり、罠が異常に多いですが他にありました?」


「この町同じ建物が近くに二つずつあります。市場、役場、ギルドとかこんなに近くに置く必要はなないと思います。」


「そうですか?建物の改修の為に近くに同じ建物を建てたとかでしょうか。…確かにこの道を境に町が分裂しているように見えるが……」


 俺はこの町に縦に入っている大通りをなぞる。この道はこの町を大きく二つに分けていた。なんとなく地図を見ながら建物を指差していた。

 一つ気づいた事があった。俺はこの地図に書かれていない場所を指差しながら言った。


「俺は前の仲間達でこの辺りを探索していたが、この辺りに城跡があった。普通、城は壁の中に作られるはずなのに、城はこの壁の外にある。」


「えっ、城よりこの町の方が重要で…大事な物があったとか…」


「もしかしたら、まだ行っていない町広場に答えがあるかもしれない……」


「ええ、そうですね。」


 考えて仕方ない。だが、会話が途切れてしまった。何か話題がないかと思い今の“ゴトの寵愛“について聞いてみた。


「そういえば3人は仲が良いですね。結成してから長いですか?」


 アリスは答えた。


「いえ、ここに来る前にラジレス様がフォック様と私に声を掛けて結成しました。

フォック様は父と昔から仲が良くて、私もフォック様の事は前から良く知っていましたね。

ラジレス様とはそれまで面識がなかったけど、父と同じ名前で、何故か親子のような親近感がして、“ドゴの加護”に招待された時は、少し嬉しかったですね。」


「そうなんですね。ラジレスさんとアリスさんの父は似ているんですか?」


「確かに似てはいますけど、父は病で3年前に亡くなっていて、それに顔や人相も違います。年齢もあんなに若くないです。」


「それは悪い事を聞いてしまった。すまない。」


「いえ、大丈夫です。その後砂漠の道の事を聞いて………」


その後も談笑が続いた。楽しいひと時だった。いつの間にかラジレスは起きていて俺たちに仮眠をとるように言った。


 ____________

 ____________


 ラジレスはフォックと見張りを交代し、全員が寝静まったのを確認した後、彼は一人広場の端へ歩く。

淡い結界が張られる。空間がわずかに歪み女性が空間に現れる。透けているように見える。


『止戦賢神ラジレス、お疲れ様です。今貴方がいる場所を確認しました。例の場所はかなり近いです。』


 女性の声。

 優しい口調だが威圧感がある。


「これは知り合った商人が持っていた遺物の欠片のレプリカだ。データーの解析を頼む。」


 ラジレスは懐から出した目に見えない何かを女性に渡した。


『これは…どこで見つけたのですか?』


「本人なら何か知っているかもしれないが…本人に黙ってデーターを抽出した時に本物は起動してしまったようだ。指示を頼む。」


 女性は少し考えた後言った。


『では、このままその商人を見張るように。このまま例の捜索をお願いします。何かあった際にはあれの使用を許可します。』


「承知した。」


『……あとあまり言いたくないですが人との関わりは程々にして下さい。貴方が人の時の知り合いを仲間に入れていますね。

我々が神である事をもっと自覚して下さい。』


「畏まりました。以後気を付けます。大異魂導神パトラ様」


 通信が途切れる。結界が消える。ラジレスは小さく息を吐いた。


「……さて」


 

 ____________



 翌朝 広場に進む一行。広場の巨大な壁面を見上げる。

 そこには、何かが描かれている。 アリスが息を呑む。


「……壁画です」


 千年前の記録が、そこにあった。



 三話終了

ここまで読んでいただきありがとうございます。

第三話では「この世界は本当に正常なのか」という違和感を前面に出しました。

私の物語は神が出て来て物語に関わります。神は何をしに来たのかを楽しんで頂ければと思います。

この話は次の物語の背景もあります。この場所が千年間保存状態が良く何かあったかを覚えて頂けれ大丈夫です。

次の話は壁画の内容です。千年前の謎をお楽しみ下さい。


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