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商人追放

 空気が、妙に静かだった。


「……待ってください。」


 俺――商人 トライセル ステナドは、遺跡の入口で足を止めた。

 崩れかけた石柱。苔むした壁。何の変哲もない古代遺跡に見える。だが、肌に触れる魔力の流れが不自然だった。


 俺は薄く、広く。

 自分の魔力を霧のように広げる。

 ――右前方、三歩。


「キリアンさん、右に三歩ずれてください。そこを踏むと沈みます」


「は? 何もないだろ」


「あります。空洞があります。はっ危ない」


 半信半疑で踏み出した次の瞬間。

 ゴゴン、と鈍い音を立てて石床が沈み、槍が飛び出した。

 キリアンは咄嗟に身をひねり、かすり傷で済む。

 

 後ろから盾戦士が盾を構え、魔導師が魔力を練る。


「……助かった」


 ぼそりとキリアンが言う。 だが、その目は笑っていなかった。


「ちっ、たまたまだ」


 短く吐き捨て、彼は先頭に立つ。

 キリアンはリーダーであり戦士でもある。鍛えられた肉体と背丈ほどもある大きい両手剣を持っている。俺の何かが気に入らないのかいつも悪態をつく。


 俺は何も言わず、最後尾に下がった。


 ____________



 探索は順調だった。

 罠の位置を感知し、危険な遺物を見分け、売れる物と売れない物を仕分ける。


「治療師さんそれ、触らない方がいいです」


 彼女は指輪への手を止める。


「その指輪は魔力暴走状態です。触ると怪我しますよ。」


「分かるの?」


「指輪そのものの劣化と付与している刻印のズレで」


 魔導師が感心したように言う。


「やっぱり、鑑定できるトライがいると安定するわね」


  その一言で、空気が一瞬だけ凍った。


  キリアンの視線が、俺に向く。

 笑っているように見える・・だが、冷たい。

 


 ____________



 その日の夜営。


 焚き火を囲み、簡単な食事を取る。

 俺は少し離れた場所で今回の探索の帳簿をつけていた。

 戦利品の価値、売却予想額、分配比率。

 

「……あの」


 魔導師が小声で話しかけてきた。


「報酬の割合、私の取り分少し多くない?」


「気づきましたか」


 俺は淡々と計算結果を見せる。


「今回の探索は罠が多く魔物が少ないです。魔導師さんの活躍を考慮して報酬は多めになっています。罠に魔力を通したり逆に魔力遮断もしているからですね。後は大体、均等に近い形になっています。」


「ありがとう」

 魔導師はお礼を言った。

 …どこからかの視線を感じた。


「やっぱり……」

 少し離れた場所で、キリアンと治療師が話している。先程の怪我に軟膏を塗り、包帯を変えて貰っている。


 …俺は一度も彼女から治療してもらったことはない。

 彼女は、彼に惚れている。 それは誰の目にも明らかだった。


 キリアンがこちらを見る。

 その視線は、“把握”している目だった。俺が何をしているのか。誰と話しているのか。


 全部。


 もうキリアンと結成して2年が経つ。


 チーム名は“極ジムハーレ”


 数年前、世界の脅威から救った英雄ジムハーレから取っている。

 前までは仲が良かったが、最近加入した治療師が入ってから何がおかしくなったようだ。男2人、女性が3人で女性の方が多いのがいけないのか、仲間内で喧嘩が絶えなくなってしまった。特に魔導師と治療師の相性が悪い。

 ただ、先日の砂漠越えは全員であんなに喜んだのに…元の険悪な関係に戻ったようだ。


 ____________

 


 翌朝。


「紹介する」


 キリアンが言った。

 隣に立っていたのは、軽装の女性。

 腰には短剣。鋭い目つき。


「今日から仲間だ。探索者。魔力探知が得意だ。腕っぷしも俺が認めるくらい強い。皆よろしく頼む」


 事前の相談はなかった。

 盾戦士が戸惑う。


「え、急に?」


「人手は多い方がいい」


 そう言って、キリアンは俺を見る。


「探知は探索者に任せる。商人は後ろで荷物管理だ」


 静かに、俺の役割が削られる。誰も探索者が加入する事に意見を言うものはいなかった。


 ____________



 探索者の魔力が静かな波のように広がり、空気そのものが淡く震えはじめる。

 見えぬ光が周囲へ満ちている。


 俺が使えない領域の魔力探知魔法だ。

 俺の魔法より範囲が広くより詳しく罠の場所が分かるようだ。

 確かにキリアンの言っていたことは嘘ではなかった。


 最初は遺跡探索が順調に進んだが、すぐに問題が起きた。


「これ、持って帰れるよね?」


 探索者が拾い上げた石板。


「待って。それは、起動型の制御石です」


「え?」


「刻印が二重構造。魔力を流すと暴走します」


 試しに魔導師が微量の魔力を流すと、石板がひび割れた。


 沈黙。


 探索者は悔しそうに唇を噛む。


 キリアンは何も言わない。 だがその目は、決めていた。


 ____________



 昼休憩が終わり昼からの準備を進めようといている頃。

 キリアンは全員を招集した。


「前から考えていた」


 キリアンが言った。キリアンは俺を指差した。

 全員の視線が俺に集まる。


「トライセル、お前はここまでだ」

 

 静かな声。

 だが、拒否を許さない響きだった。


「理由を聞いても?」


  極めて冷静に俺はキリアンに聞いた。


「女に色目を使う。余計な口を出す。先祖の物かなんか知らないが変な物に固執する」


 探索者が少し目を逸らす。


 魔導師と盾戦士は黙ったまま。口を開く事はなさそだった。


 治療師だけが、キリアンの隣で頷く。


「……帳簿を正しくつけただけです」


「だからだ」


 その一言で、理解した。


 最初から決めていたのだろう。 探索者の代わりに俺を切ることを。役割はキリアンが決めているから何を言っても無駄だろう。


 俺は静かに立ち上がる。

 

「報酬の分配は計算してます。未清算分はない」


 俺は最後まで商人だ。

 誰も引き止めない。昼食の時に使用した焚き火の音だけが響く。


「……じゃあな」


 キリアンが背を向ける。


 俺は振り返らなかった。

 

 ____________


 遺跡の外。

 砂漠の熱気が猛烈に襲う。すぐに体を冷やす薬剤を飲む。少しはマシになった。


 長年、共に戦ってきた仲間。

 悔しくないと言えば嘘になる。


 だが――

 何かに呼ばれているような気がして薄く魔力を広げる。遺跡の奥から、微かな違和感。


 まるで、何かが“待っている”。


「均衡を欠いたものは、いずれ崩れる」


 どこかでそう言うのが聞こえた気がした。

 今は無理だが、また必ず挑戦する。先祖から伝わる遺物の欠片を握る。

 俺は新たな仲間を探すべく。拠点としているキャンプ地を目指した。


 1話終了


ここまで読んで頂きありがとうございます。

初めて物語を書くので至らない点が多々あると思います。よろしくお願い致します。

第1話では、主人公の立場と「追放」という大きな転機を描きました。

王道の展開ではありますが、この物語では“追放された後”を描いていきます。

また「異物の欠片」がどう物語に関わっていくのかを楽しんでいただければ嬉しいです。

最初の構成では街での追放の流れで魔導師(ヒロイン予定)も離脱する予定でした。

ただ遺跡を主な場面になり、現場での人員補充は困難な為、魔導師は離脱せず主人公1人だけの追放に…

次章は新たな出会いを描きます。よろしくお願い致します。

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