ギルドの隅のまじない男
はじめまして。見て頂きありがとうございます。
「にいちゃん。ちょいと【おまじない】をかけてやろう。」
今日は入ったら倒すまで出られないボス部屋に挑戦するためにしっかり用意をしてギルドに集合した僕らに、そう声をかけたのは兄と呼べるくらいには若い男だった。
「おまじない?」
僕が首を傾げると男は頷いて剣を固定している剣帯を指差した。
「ああ。革製品に刻印する。料金は100ギル。ダンジョンから無事に帰ったら払ってくれりゃあいい。」
「オイ、アレク!関わんなよー!」
仲間のザックがそう言って男を睨むが
「どんな、まじないなんだ?」
何故か、とても気になった。
「色々あるぞぉ?自分の攻撃が当たりやすくなるまじない、相手の攻撃をかわしやすくなるまじない、ちょっと良い事があるまじない。」
胡散臭い内容にザックは眉を顰める。
「だが、にいちゃんには【悪い事から逃れる】おまじないのが良いかもなあ?」
楽しげに細められていた目がスッと真剣な色を乗せて僕を見た。
「…。じゃあ、それで。」
僕は剣帯を外して彼に差し出す。
「無駄遣いだぞ。アレク?」
仲間のイワンにも苦言を言われた。
「…うん。でも、何か、引っかかるんだ。」
「まあ、アレクが納得してるならいーけど。」
「ほれ、にいちゃん。どの型が良い?」
男は金具を並べて僕に見せる。
葉っぱや文字のような物が並ぶ。
「オススメは?」
「にいちゃんには、コレだなあ。俺の国での魔除けの紋だ。」
「じゃあそれで。」
「あいよ」
男は金具を当てて皮の部分に模様を入れていく。
出来上がったソレは普通に綺麗だった。
「料金は100ギルだったな?」
「ああ。無事に帰って来てくれな!」
他人なのに無事を願われるだけでも、なんだか嬉しく感じる。
「…。分かった。」
「おう、気をつけてな!」
順調な探索だった。だが、ボス部屋前の休憩所に来た時、それは起きた。
いきなり剣帯が切れて剣が落ちたのだ。
「チッ!やっぱあんな奴に触らせなきゃ良かったんだ!」
悪態つくザックの言は、まあ、当然かもしれない。
すぐ後ろにいたグループが「おっさきぃ~!」とニヤニヤしながらボス部屋に入って行くのを、予備の剣帯を留めながら見送る。
なんだろう。胸騒ぎがする。
ボス部屋は入ったらボスが死ぬか壊滅するまで入れなくなる魔法のかかった空間で、入り口には赤色の障壁が張られて入れなくなる。
ここのボスは僕達でも支度をきちんとしていれば倒せるハイオーク、のはずなのに見えた姿は違かった。
「な、なあ、オイ、あれって!」
ハイオークの2倍はあるデカさ。
立派な装備。
「オーク、ジェネラル!?」
「なんで、こんな、所にいるんだよ!?おかしいだろ!?」
「みんな、引き上げてギルドに連絡だ!」
僕たちは急いでギルドに帰り、受付に話す事にした、のだが。
「オイ!てめえ、ふざけんなよ!殺す気だったんだな!」
ザックがまじないの男の胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。
周りも何事か?と聞き耳をたててる
「オイ、ザック、落ち着け」
「はぁ!?ハイオーク部屋にオークジェネラルが出るなんてありえねえだろ!こいつが変な呪いかけたに決まってる!」
ザックの手に触れる者がいた。
まじないの男ではない他者にザックが振り向き、目を見開いた。
そこにいたのは銀ランクの冒険者『剛腕』のシャルナークだった。
「しゃ、シャルナーク、さん!?」
「なあ、坊主。なんでオークジェネラルが出たのにテメーら無事なんだ?」
シャルナークさんの問いにザックは
「アレクの剣帯が、切れて、換えてたら、後ろの奴らがボス部屋に入ったんだ、そしたらオークジェネラルが…」
「ハア…テメーら【巡回】は知らねーのか?たまぁにな?下層のボスが上層に出る事があんだよ、普通は死ぬんだが、テメーらは【運が良かった】なあ。【誰かさん】のおかげでよ。」
チラリとまじない男を一瞥したシャルナークさんの言葉にザックは呆然としながら、ゆっくり顔を動かして手を離した。
「あっ…俺っ、ご、ごめんない!!」
シャルナークさんが知っていると言う事はまじない男の力は本物だと言う事だろう。
つまり、彼は、命の恩人。
「かまわねぇよ。無事で何よりだ。にーちゃん、アンタもな。」
彼はザックの頭を派手に撫でた。
ザックは涙目になっていた。
彼が笑って許してくれた事で周りの雰囲気が変わった。
「しかし、駆け出しがオークジェネラルを見て帰れたとは運が良かったなあ?」
「どいつがヤられたんだ?」
「黒い犬のエンブレムのヤな感じの奴らだった」
「ん?ヘルハウンドか?なら良かった!アイツらルール違反ばっかだからな」
「オレも獲物横取りされた!」
「こないだなんか新人を騙して囮にしやがったんだぜ!?」
ザワザワと聞こえる限りどうやら悪名高いグループだったようだ。
「あのっ」
「ん?」
「料金をお支払いします。たしかに【悪い事から逃れ】ました。ありがとうございます。お礼もさせて下さい。」
僕は硬貨をあるだけ出した。
「料金は100ギルだぜ?」
彼は笑いながら、硬貨を一枚だけつまんだ。
「俺がまじないを打てるのは革製品に一度きりだ。にいちゃんには、もう出来ねえからな。今度は自分で悪いのから逃げろよ?」
「っ!はい!」
*
「おっ!そこの革の眼帯した隻眼のにいさん!まじないをかけてやろう!なぁに、料金はたったの100ギルだ!そうだなあ、にいさんには【見えないものが見える】まじないをやろう!」
(コイツが見た物を信じて助かるか、それ以外が助かるかは――選択次第だからな。)




