酔っ払いルキ様
「もう、ルキ様……私の気も知らないで……!」
私の目の前では、ルキウス様が寝台の上で、すやすやと寝息を立てて眠っている。
しかも――彼が寝ているのは、私の寝台だ。
そう、ここは公爵家。
リリアーナ・フランヴェールである私の私室。
穏やかな寝顔を見ていると、さっきまでの出来事が嘘のようで。
(さっきまであんな……!)
ぎゅっと拳を握る。
目を覚ましたら……覚悟しててよね。
***
数時間前。
私は寝支度を終え、そろそろ眠ろうと寝台へ向かっていた。
その時だった。
ふわり、と空気が揺れる。
(え……まさか――ルキ様?)
こんな時間に?
何かあったのかしら。
揺れが収まった瞬間、目の前に一人の影が現れる。
やっぱり――ルキウス様だった。
「ルキ様……? こんな時間にどうされたのですか?」
問いかけても、返事はない。
(あれ……?)
よく見ると、頬がほんのり赤く、目もどこかとろんとしている。
(えっ……酔ってる?)
もしかして、お酒を飲んで――無意識にここへ来てしまったの?
「ええっと、ルキ様? もしかして酔っています?」
「んー……リリー……?」
答えになっていない返事が返ってきた。
けれど、ようやく視線が合う。
「あれ……リリー。いつもと格好が違うな。ん……夢か?」
言われて、自分の服を見る。
寝る前なのだから、当然寝巻き姿だ。
普段ルキウス様に会うのは昼間だから、こんな薄着の姿を見せたことはない。
(な、なんだか恥ずかしい……)
顔にじわりと熱が集まる。
すると、ルキウス様がふらりと顔を近づけてきた。
「……かわいい」
ぽつりと呟いたかと思うと、次の瞬間――ぎゅっと抱きしめられる。
「ル、ルキ様……?」
「夢なのに……あったかいな……」
そう言いながら、彼は私の肩に顔を埋め、すりすりと頬を擦り寄せてくる。
(これは完全に酔ってるわ……)
でも――。
……酔っているのに、あまり普段と変わらない気もする。
私は、彼の気が済むまで付き合うことにした。
それに。
(……嫌じゃない)
むしろ、大好きな人にこんなふうに甘えられるなんて。
ちょっと、嬉しいかもしれない。
……もちろん、誰が見ているわけでもないのに、心の中で言い訳する。
すると、背中に回された手がもぞもぞと動き始めた。
するり、と寝巻きの隙間から背中に触れる。
「ひゃっ……」
思わず声が漏れる。
指先が背中を撫でるたび、ぞわぞわとくすぐったい感覚が走る。
「あ、あの……ルキ様? これ以上はまずいです」
「え……俺に触れられるのが嫌なのか……?」
潤んだ瞳で見上げられる。
今にも泣きそうな顔だ。
(まって……酔うとこんな感じなの……?)
そんな顔をされると――ダメだわ。
抗えそうにない。
「で、でも婚前ですし……」
「……えっち」
「……へっ!?」
思わず変な声が出た。
「リリーは、何を想像しているんだ?」
へにゃり、と彼は笑う。
(だ、だって……!)
あんなふうに触れられたら、誤解するでしょう!?
抗議するように彼を睨む。
すると――
「そんな顔さえもかわいいな」
「夢でもリリーは真面目なんだな」
そして彼は、そっと囁く。
「でもこれは夢なんだ。いいだろう?」
ゆっくりと、顔が近づいてくる。
(こ、これ以上は......流石にまずいのでは?)
逃げなきゃいけないのに。
そう思うのに......。
体が動かない。
次の瞬間――
首筋に柔らかな感触が落ちた。
「……ひゃっ」
反応を楽しむように、ルキウス様の口元が少し歪む。
そして顔を上げると、そのまま唇が重なった。
角度を変えて、深く。
さらに、深く。
唇が離れない。
口の中に、温かな感触が触れる。
「……んっ」
思わず声が漏れる。
でも彼は離してくれない。
もう……だめ。
これ以上続いたら、何も考えられなくなる。
そう思った――その時。
ぴたり、と動きが止まった。
(あれ……?)
ルキウス様の体が、私の肩にもたれかかる。
恐る恐る顔を見ると――
すやすやと、気持ちよさそうに眠っていた。
「もう……!」
そんなことだと思ったわ!
もし明日覚えてなかったら――
本当に、承知しないんだから!
そう思いながら、私はルキウス様の髪をそっと撫でた。
「……おやすみなさい、ルキ様」
小さく呟く。
すると――
眠っているはずの彼の腕が、私の腰をぎゅっと抱き寄せた。
「……逃がすわけないだろ」
「えっ!?」
けれど次の瞬間には、もう彼は静かな寝息を立てていた。
(本当に、もう……っ!)
困った人。
そう思いながらも、胸の奥がくすぐったくてたまらない。
――その時。
ルキウス様の唇が――ほんの少しだけ、楽しそうに弧を描いた気がした。
番外編は基本的に甘々で参ります。




