6、……君は、本当に身体が弱いのだな
ルキウス殿下の突然の乱入に王妃が、わずかに眉をひそめる。
「招いていませんよ、ルキウス」
「承知しています」
淡々と答え、彼は私の隣まで歩み寄る。
「ですが、婚約者の体調が優れないと聞きまして」
……そんな話、誰もしていない。
でも、王妃はそれを否定しなかった。
「過保護ね。ただの茶会でしょう?」
「彼女にとっては、それだけで十分負担です」
ぴしゃり、と。
柔らかい言葉なのに、拒絶が滲んでいる。
私は、無意識に彼の袖を掴んでいた。
「だ、大丈夫です、殿下……」
そう言うと、彼の視線が私に落ちる。
ほんの一瞬。
誰にも見せない、険しい目。
「……行きましょう、リリアーナ」
それは、命令ではなかった。
けれど――拒否という選択肢も、なかった。
差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。
「……はい」
立ち上がる私たちを、王妃は静かに見送っていた。
その唇に、わずかな笑みが浮かんでいたことに――私たちは、気がついていなかった。
***
ガセボを離れて、しばらく歩いたところで。
「……ずいぶん、楽しそうだったな」
前を歩きながら、ルキウス殿下が呟いた。
その声音は、穏やかで。
――なのに、どこか棘があった。
「誤解です……! ちゃんと、殿下の不利益になるようなことは……」
言い訳しかけた私を、彼は振り返らずに遮る。
「分かっている。相手は王妃だ。断れなかったのだろう」
そして、低く。
「だが、余計なところに近づくな。君は、俺の管轄なんだ」
一瞬、背筋がぞくりとした。
同時に、王妃との対峙から解放されたせいだろうか。気が抜けたからか、その時、眩暈が襲う。
そのわずかな沈黙にルキウス殿下は、振り返る。
「......どうしたんだ、体調が良くないのか」
「い、いえ......少し眩暈がしただけです。いつものことなので、大丈夫です」
そう言いながらも、足元を踏み外してしまった。
ルキウス殿下は、私の身体を支えながら、小さく舌打ちが聞こえてきた気がした。
「......少し、我慢してくれ」
そう言って、私の身体がふわりと持ち上がる。
彼に横抱きにされていると、気がつき顔に一気に熱が集まる。
「で、殿下......!?」
「君は、もう歩けないだろう? だから、大人しくしていてほしい」
否定できないほど、病弱なこの身体が恨めしい。
降ろしてもらったところで、きっともう歩けない。
だから、大人しく従うしかない。
私は彼の首に腕を回した。
その時、わずかに彼の身体がぴくりと動いた気がした。
彼に横抱きにされたまま、運ばれたのは、ひとけのない木陰。
「......ここなら、誰もいないだろう」
そう言って、ゆっくりと地面に座る。
......私を膝に乗せたまま。
「手を貸してくれ」
言われたまま、手を伸ばすと、大きな手に包まれる。
その瞬間、身体にじんわりと暖かな力が、入り込む。
(......あたたかい)
すると、その直後に身体が驚くほど軽くなった。
――これは。
「......ありがとうございます、ルキウス殿下」
「噂には聞いていたが、本当に君は......身体が弱いのだな」
間を少しおいて、殿下は続けた。
「......これまでよく生きてこられたな」
包まれた手に力が、込められたような気がした。
「でも、これからは......一緒にいてくれるのですよね」
殿下の裾を、そっとつまむ。
同情を誘うなんて、私は悪女なのかもしれない。
でもこれは、私の生存を賭けた行動であると同時に、彼にとっても破滅を防ぐ道になるはず。
「......君は」
「殿下が隠してきた力を、私のために使っていただけるなんて......お優しいですね。もっと大好きになりました」
「......これからはもう少し、時間を作るようにする」
「本当ですか......! ありがとうございます......!」
私はルキウス殿下の手を握り返すように力を込めながら、微笑む。
(や、やったわ......!)
これでもう一歩、殿下に近づけた気がする。
今日は王妃とのお茶会で、憂鬱だったけれど、頑張った甲斐があったわ......!
「......」
喜びのあまり、笑顔が溢れる私を、ルキウス殿下がじっと品定めするようにみていたことを――。
この時の私は、気がついていなかった。
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