55、俺はいつでも本気だ
倒れたルキウス様を急いで医者に診せると、やはり毒による症状だとわかった。
私はずっと、ルキウス様の手を握っていた。
「……リリー、そんな顔をしないでくれ。俺には王族としての耐性もある。それに……知っているだろう?」
そう言うルキウス様の息は荒く、顔色も決して良いとは言えない。
「それでも、目の前で苦しんでいる姿を見て……心配しないわけがありません」
「まあ、リリーがずっとそばで手を握ってくれているのだから、これはこれで悪くないな」
「こんな時に冗談を言わないでください」
「俺はいつでも本気だ」
「もう……とにかく寝てください」
そう言って、そっと彼の頭を撫でる。
すると、安心したようにルキウス様はゆっくりと目を閉じた。
(どうか、何事もありませんように……)
祈るような気持ちで彼を見つめ、そっと手を離す。
その時だった。
部屋の扉の近くで静かに立っていたレオナード殿下が、ようやく口を開いた。
「……驚いたな。二人でいると、そんな感じなんだね」
「意外と……甘えん坊だと思います」
「ふふ」
殿下は小さく笑うと、すぐに表情を引き締めた。
「とにかく、ルキウスが倒れたことは母上の耳にも入るだろう」
「きっと、動きますよね」
「……ああ」
静かに頷く。
「改めて気を引き締めよう。作戦通り、君は明日また王宮へ来てくれ」
「わかりました」
そう答えたものの、胸の奥に残る不安は消えない。
それを察したのか、レオナード殿下はふっと表情を緩めた。
「ルキウスは強い。大丈夫だ」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなる。
……そうね。
これは、私たちの未来のためでもある。
信じなきゃ。
そして――
私も戦うのよ。
***
その夜。
寝台で休んでいる俺の元へ、一人の人物が近づく気配がした。
「まあ……大変。毒で倒れたと聞いたわ。体調は大丈夫なのかしら」
ゆっくりと目を開ける。
(……やはり)
そこに立っていたのは、王妃だった。
言葉だけを聞けば、こちらを気遣う優しい声音。
だが――その表情は、どこか楽しんでいるようにも見えた。
「……それは、本心ですか」
「あら。当然じゃない」
王妃はきょとんとした顔をする。
(……本当に、恐ろしい女だな)
その仕草の一つ一つが、すべて演技のように思える。
「それよりも……ルキウス。あなただったのね。ネズミは」
「なんのことでしょう」
「ふふ……まあ、いいわ」
王妃はくすりと笑った。
「どこまで体力が持つのかしらね」
「かなり強力な毒と聞いたわ」
「……あとは、己の生命力を祈るだけです」
「そうね」
王妃は満足そうに微笑む。
「私も、あなたの無事を祈っているわ」
そう言い残し、王妃は静かに部屋を後にした。
……おそらく、俺の様子を確かめに来たのだろう。
王妃の目にはきっと、毒に侵されて弱っているように見えたはずだ。
だが、少し話しただけでわかった。
あの女は、ただ俺の命を狙っているだけじゃない。
――楽しんでいる。
人の命を弄ぶことを。
歪んでいるな。
……まあいい。
向こうは俺が罠にかかったと思い込んでいる。
(残念だったな、俺に毒は ――)
本当に罠にかかっているのは――
王妃。
あなたの終わりは、もうすぐだ。
お読みいただきありがとうございます!




