54、ルキウスとレオナード②
私はルキウス様の異能によって、転移させられていた。
身体が引き寄せられるような感覚が収まり――次の瞬間、大きな物音が響いた。
「な、なんだ......!?」
目を開けると、椅子から立ち上がり身構えるレオナード殿下の姿が見えた。
「兄上、ご苦労様です」
「......もう少し、普通に来ることはできないのか」
「これが一番、足跡がつきませんよ」
レオナード殿下は呆れたようにため息をつくが、ルキウス様は平然としている。
……なんだか、いたたまれない。
「あの、レオナード殿下......突然、すみません」
恐る恐る口を開くと、殿下は軽く手を上げて困ったように微笑んだ。
「いや、大方ルキウスに無理やり連れてこられたのだろう」
「兄上、人聞きが悪いですよ」
「......お前な」
二人のやり取りを見て、ふと違和感を覚える。
……あれ?
前より、距離が近いような。
私の表情に出ていたのか、レオナード殿下がこちらをちらりと見て、「……ああ」と小さく声を漏らした。
「リリアーナ嬢には話していなかったね。僕たちは今、協力関係にある」
「大半は、俺がただこき使われているだけだが」
「誤解を招く言い方はやめてくれ。お前の能力を高く買っているんだよ」
軽いやり取りの中で、二人の関係が少しだけ見えてくる。
(ルキウス様には、ちゃんと味方がいる)
今まで孤独だった彼を思うと、胸の奥が少し温かくなった。
すると、レオナード殿下が改めてこちらに向き直る。
「それよりも、二人はちゃんと話せたようだね」
「まあ、僕としてはちょっと悔しいけど」
「......兄上」
ルキウス様が軽く睨む。
すると殿下は肩をすくめた。
「そんな顔をするなよ。こちとら失恋したんだ。もう少し優しくしてくれてもいいだろう」
「それとこれとは話が別です」
「……まあいい。それで、なんの用だ?」
ルキウス様は表情を引き締めた。
「実は、王妃を断罪する証拠を見つけました」
「......ほう?」
私たちは机を囲んで向かい合う。
隣にはルキウス様。
彼が持ってきた書類を机の上に並べた。
「......これは、帳簿だね」
「はい。それに、リリーが重要な証人を見つけました。これだけあれば十分かと」
レオナード殿下の顔が、わずかに歪む。
「......殿下、大丈夫ですか」
「……ああ。これでも僕の母親だからね」
少しだけ目を伏せる。
「でも、見過ごすわけにはいかない。悪は罰しないと」
その時だった。
隣にいたルキウス様が、突然苦しそうに息を詰まらせた。
「……っ」
顔色がみるみる青ざめていく。
胸元を押さえ、激しく咳き込んだ。
「……ごほっ」
次の瞬間、彼の胸元を鮮血が染める。
「ルキウス様......!」
レオナード殿下がすぐに近づき、容態を確認する。
そして低く呟いた。
「……これは毒だ。それも、かなり強力なものだ」
空気が一気に張り詰める。
「急いで医者を呼ぼう」
その時。
ルキウス様が弱々しく、私のドレスの裾を掴んだ。
「……少し、待ってくれ」
「ルキウス様……!」
「俺に……考えがある」
「こんな時に何を言っているのですか……!」
思わず声が強くなる。
けれど彼は、苦しそうに息を吐きながらも言った。
「……お願いだ」
その言葉に、胸が詰まる。
どうしても拒むことができなかった。
ルキウス様は私とレオナード殿下に顔を寄せ、小さく耳打ちした。
(え......!?)
その内容に衝撃が走る。
しばらく沈黙が落ちた。
やがて殿下が低く言った。
「……お前、それは下手をすれば命に関わるぞ」
「そうですよ……!身体を大事にしてください……!」
「いや」
ルキウス様はゆっくり首を振る。
「そうでもしないと勝てない相手だ。確実に仕留める必要がある」
「で、でも……!」
「わかった」
レオナード殿下が静かに言った。
「許可しよう」
「殿下まで……!?」
「リリー」
ルキウス様が、私を見る。
「心配する気持ちはわかる。でも、大丈夫だ」
「信じてくれ」
胸が苦しくなる。
それでも――
「……絶対に、死なないでください」
「当然だ」
ルキウス様はかすかに笑った。
レオナード殿下がため息をつく。
「とりあえず医者には診せるぞ。もう休め」




