53、証拠は揃った
ルキウス様は、王妃宮へ向かった。
すべては――共にいられる未来のために。
お兄様とも話して、改めて決意が固まった。
まずは、私にできることをしよう。
その時、兄が口を開く。
「リリー。この後はどうするのか?」
返事をしようとした、その瞬間。
空気が揺れた。
「な、なんだ!?」
兄が咄嗟に私を庇うように前へ出る。
(……これは)
胸に、見慣れた気配がよぎる。
愛しい彼の姿が思い浮かんだ。
私は兄の肩にそっと手を添える。
「お兄様、多分これは――」
言い終えるより先に、目の前に黒い影が落ちた。
「ルキ様……!」
思わず彼に抱きつく。
「無事だったのですね……!」
「……心配をかけたな」
低く優しい声。
ほっと胸が緩む。
「ルキ様が強いことは、わかっています。それでも、待つ方は心配なんですよ」
「……すまない」
ルキウス様は柔らかく微笑み、私の頭をそっと撫でた。
そしてそのまま私を抱き上げ、近くのソファへ腰を下ろす。
「えっと……殿下?」
兄が困惑した声を上げた。
「話をしようと思う」
「……このままで?」
兄の視線につられて、ようやく自分の状況に気づく。
私は――ルキウス様の膝の上に座らされていた。
顔に一気に熱が集まる。
「私も……これは流石に恥ずかしいです」
抗議するように彼を見上げる。
すると、ルキウス様は眉を下げ、弱々しく呟いた。
「……だめなのか?」
抱きしめる腕に、わずかに力がこもる。
縋るような瞳。
思わず言葉に詰まった。
……ずるい。
そんな顔をされたら、抗えない。
「……だめじゃないです」
「ありがとう」
私が答えると、ルキウス様はふわりと微笑み、さらに身体を引き寄せる。
心臓が大きく跳ねた。
「……ルキ様……っ」
その時。
兄が咳払いをした。
「……一応、俺もいるのだが」
私ははっと我に返る。
いくらなんでも、身内に見られるなんて恥ずかしい。
けれど――
ルキウス様はまったく気にしていない様子だった。
「では、本題に入る」
「そのまま続けるのですね」
兄が呆れたように言うが、ルキウス様は意に介さない。
私も観念して、膝の上に収まったまま話を聞くことにした。
「先ほど王妃宮に忍び込んだのだが――こんなものを見つけた」
ルキウス様が書類を広げる。
その内容を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
「これは……帳簿でしょうか」
「ああ。毒の購入履歴だ。王妃の部屋から見つかった」
「でも……二種類ありますね?」
「一つは、俺が戦地で使われたもので間違いない」
「え……?」
「すまない。話していなかったな」
ルキウス様は少しだけ目を伏せた。
「戦地で毒を盛られていたらしい。そのせいで、しばらく記憶が曖昧になっていた」
「……そうだったのですね」
胸がきゅっと痛む。
そんなことを、一人で抱えていたなんて。
再会した時、忘れられていたことが悲しかった。
でも今は――違う。
ルキウス様をそんな目に遭わせた王妃への怒りが、胸の奥で静かに燃え上がっていた。
「それよりも、もう一つの毒だ。何か心当たりはあるか?」
私は少し考えてから口を開いた。
「オスカー様の件ですが……」
「刃物で殺害されたと発表されていましたが、侍女の話では毒殺だったそうです」
ルキウス様の目が細くなる。
「……なるほど」
「証拠は揃ったな」
そしてすぐに決断した。
「よし、リリー。このまま兄上の元へ向かうぞ」
「えっ、今からですか!?」
身体が引っ張られるような感覚に包まれる。
次の瞬間。
ルキウス様と私は、その場から消えていた。
部屋に残された兄がぽつりと呟く。
「……行っちゃったな」
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