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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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52/61

52、王妃宮へ(sideルキウス)

 「......リリー」


 愛しい彼女の名を、そっと呟く。

 それだけで胸の奥が温かくなる。


 やっと――やっと、彼女ときちんと話すことができた。

 ここまで、本当に長かった。


 初めから素直に気持ちを伝えていればよかったのだ。


 もう、間違えない。

 もう二度と。


 彼女は――俺の人生で、唯一欲しいものなのだから。

 手放すわけにはいかない。


 「さて......」


 リリーとの会話を終え、王宮に戻る。


 王妃は現在、会議中らしい。

 ならば今が好機だ。


 殺人事件の濡れ衣のこともあるが、それ以上に――戦地での記憶喪失。

 あの件についても、調べる必要があった。


 戦地で飲まされた水のボトルを、俺は捨てずに保管していた。

 内密に調べさせた結果、それは毒だった。


 命を奪うほど強いものではない。

 だが、意識を混濁させ、記憶を曖昧にする作用があるという。


 ――やはり、仕組まれていたのか。


 ならば必ず、証拠があるはずだ。


 拳に力を込める。


 異能を使い、王妃宮へと忍び込んだ。


 棚、机、書類棚。

 部屋の隅々まで探っていく。


 「......これは」


 机の引き出しに違和感を覚えた。

 よく見ると、構造が二重になっている。


 隠し収納か。


 そっと、その仕掛けを開く。


 ――その瞬間。


 指先に、チクリと鋭い痛みが走った。


 「……?」


 思わず指を見る。


 特に傷は見当たらない。


 「……気のせいか」


 一瞬、違和感が胸をよぎる。

 だが今は立ち止まっている場合ではない。


 引き出しの中の書類を急いで確認する。


 「......見つけた」


 そこにあったのは一冊の帳簿だった。


 そこには毒の購入履歴と思われる記録があった。

 戦地で使われたものとは別に――もう一種類の毒の記録もある。


 やはり王妃が。


 俺は急いで内容を複写した。


 異能を使い、紙に同じ文字を書き写していく。


 現物を持ち出せば、すぐに気づかれる。

 だが、これだけでも十分な証拠になる。


 その時――


 廊下の奥から、声が聞こえた。


 「そろそろ危険か」


 俺は素早く書類を元の位置に戻し、引き出しを閉める。

 そして部屋の痕跡を整え、その場を後にした。



 ***




 会議を終えた王妃、ヴァレリア・アウレリウスは、私室の扉に手をかけた。


 「......あら」


 部屋に足を踏み入れた瞬間、彼女はわずかな違和感を覚える。


 視線をゆっくりと巡らせる。


 やがて、彼女は手袋をはめた。

 そして机の引き出しへと手を伸ばす。


 「ちゃんとあるわね」


 引き出しには一冊の帳簿。

 何もなくなってはいない。


 (だけど......)


 確かに、開けられた形跡があった。


 「……やっぱりね」


 王妃は小さく微笑む。


 「見られたかしら?」


 その直感は、ほぼ確信に近かった。


 「ネズミが忍び込んだようね」


 くすり、と王妃は笑う。


 「まあ、いいわ」


 優雅な仕草で書類を整えながら、彼女は呟いた。


 「罠にかかったのなら――いずれ死ぬもの」


 静かに引き出しを閉める。


 その所作はどこまでも優雅で、気品に満ちていた。


 そして。


 一息つくと、王妃は楽しげに微笑む。


 「この引き出しには――毒が仕込まれていたのだから」


 くすくす、と喉の奥で笑い声が漏れる。


 「……ふふ」


 「さて。ネズミを探さないとね」

あと10話くらいで完結すると思います

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