51、かわいい人
ルキウス様と静かに抱きしめ合っていた。
(やっと、伝えられた……)
彼の鼓動が、すぐ近くで規則正しく響いている。
この先にどんな危険が待っていようと、今だけは恐くなかった。
その時、彼がわずかに身体を離し、小さく呟いた。
「リリーと呼んでもいいか」
「もちろんです......!」
「......なあ、リリー」
耳元に落ちる低い声に、心臓がどくんと跳ねる。
「俺のことも、ルキと呼んでくれないか」
「......ええっと、ル、ルキ様......」
次の瞬間、彼の額が私の肩に触れた。
「ん……」
甘えるように擦り寄られ、息が止まりそうになる。
(え……なに、このかわいい人……!)
普段は近寄りがたい雰囲気なのに。
こんな姿を見せられてしまっては……。
思わず、しどろもどろになる。
「ル、ルキウス様......」
「もう、呼ぶのをやめたのか......?」
縋るような瞳。
抗えそうになかった。
私はそっと彼の髪を撫でる。
「急には恥ずかしいんです。許してください。ね? ルキ様」
彼の瞳がわずかに見開かれ、やがて柔らかく細められる。
安心したように、再び肩へ身を預けてくる。
(……かわいすぎる)
しばらく静かな時間が流れた。
戦いも陰謀も、遠い世界の出来事のようだった。
けれど――
彼が、そっと身じろぎする。
「ずっとこうしていたいが......そろそろ時間だな」
名残惜しさが滲む声。
同じ気持ちなのだと知れて、胸が温かくなる。
「最後に……」
耳元で囁かれた直後、温かな力が身体に流れ込んだ。
ふわりと身体が軽くなる。
「……癒しの力を送っておいた」
「ありがとうございます」
「俺の見ていないところで倒れられては困るからな」
軽く言うが、その指先はわずかに冷たい。
「......ふふ」
応えるように、私は彼を抱きしめる。
その瞬間、彼の身体がぴくりと反応した。
「......君のそれは、煽っているのか?」
「そんなつもりはありませんよ。ルキ様こそ、無自覚じゃないですか?」
「……え?」
「ふふ……かわいい人」
彼の耳が赤く染まる。
視線を逸らし、小さく咳払い。
けれど次の瞬間。
その目に、王子の光が戻る。
「......そろそろ戻る」
「わかりました」
身体がそっと離れる。
温度が消え、残念だけれど、仕方ない。
「俺は、このまま異能で王妃の部屋に忍び込もうと思う。何か見つかれば連絡しよう」
「危険ではありませんか?」
「危険だ」
即答だった。
「だが、今の時間は公務で部屋にいないことは把握している。それに異能もあるから大丈夫だ」
その横顔は、もう甘えた青年ではない。
私は拳を握る。
「……無理はしないでください」
「無理をしなければ、勝てない相手だ」
それでも彼は微笑んだ。
私の髪を一房すくい、そのまま口づける。
金眼が、私をしっかりと捉える。
その自然な仕草に心臓が大きく脈打つ。
「リリーとまたこうして過ごせた。それだけで、十分だ」
「ルキ様……」
「必ず戻る」
その言葉と同時に、彼の姿がふっと消えた。
部屋には、静寂が落ちた。
「......行っちゃったわね」
先ほどまであった温もりが消え、なんだか寂しい。
でもずっとすれ違っていた想いが、やっと重なったみたいで心が暖かくなる。
これからも一緒にいられるように、私も頑張ろう。
ルキウス様も動いている。
彼だけに戦わせない。
まずは大事な証人を保護しながら、毒の入手経路でも探ろうか。
その時、控えめなノックが響く。
兄が入室し、周囲を見回した。
「殿下は?」
「王妃の部屋へ行くと言っていたわ」
「……ずいぶん無茶をするな」
「ええ。でも、止められないわ」
兄は私の顔を見て、ふっと笑った。
「仲直りはできたみたいだな」
「……うん」
「それならいい。だが、浮かれている暇はないぞ」
「わかってる」
私は小さく頷いた。
ずっと一緒にいられる未来のために。
――私も動く。
まずは証人の保護。
そして、毒の入手経路。
王妃の尻尾を必ず掴んでみせる。
やっとタイトル通りの展開に進めそうです笑
次回ルキウス視点!




