49、やっと進んだ
拒絶されるかもしれない。
それでも――ルキウス様と向き合う。
そう心に決めた翌朝、私は王宮へ向かう支度を整えていた。
(善は急げ、よね……)
胸の奥に小さな不安と期待が絡み合う。
今度こそ、自分の言葉で想いを伝えるのだと、何度も言い聞かせながら。
その時、控えめなノック音と共に扉が開いた。
「リリー、今いいか?」
兄の声に振り返ると、いつもより硬い表情をしていた。
「ええ、どうしたの?」
兄は一度、言葉を選ぶように息を整えてから告げる。
「……事件について、少し進展があった」
その瞬間、心臓が強く跳ねた。
「本当……?」
思わず立ち上がると、兄は小さく頷いた。
「王妃付きの侍女が、数名突然姿を消していたのは知っているな。そのうちの一人を、ようやく見つけた」
「……!」
息を呑む。
ルキウス様の側近が残した日記にも、王妃付きの侍女の名は記されていた。
不自然な辞職、行方不明。
当時、接触を試みた時にはすでに遅く、手がかりは完全に途切れていたはずだった。
それが、今になって。
「居場所は?」
声が、思ったよりも強く出た。
「郊外だ。だが……怯えている。長く身を隠していたようだ」
嫌な予感が、背中をなぞる。
それでも――。
「お兄様。すぐに向かうわ」
迷いはなかった。
「待て。一人では危険だ」
兄は即座に言い切る。
「俺も一緒に行く」
その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなった。
こうして、止まっていた歯車が、再び動き出す。
本当は――
今すぐにでも、ルキウス様のもとへ向かいたかった。
けれど。
王妃を断罪できれば、
彼はもっと自由に、生きられる。
それは、彼の未来を守るための一歩。
――彼のため。
それが、今の私を動かす原動力だった。
***
郊外の古びた家。
侍女はやつれた顔で、家にいた。
「王妃様の命で、“薬”を用意いたしました」
兄が視線を細める。
「薬とは?」
侍女の喉が震える。
「……毒、でございます」
息が止まる。
表向き、ルキウス様の側近だったオスカー様は、刃物で殺害されていたと発表されていた。
それが、もし毒殺であったとしたら。
薬の入手経路と王妃へと繋がれば......。
かなり道筋は開ける。
しばらく黙り込んでいた兄が、一歩前へ出る。
「それにしても、随分あっさりと情報を明かすね?」
侍女の瞳が揺れた。
「......使い捨てだったのです」
「使い捨て?」
「家族を盾に命じられました……。従わなければ殺すと。ですが……家族は、戻りませんでした」
その声には、怯えよりも深い感情が混じっていた。
目に映るのは、明らかな憎悪だった。
その時、外で砂利を踏む音がした。
兄の手が剣の柄にかかる。
「……囲まれている」
窓の隙間から外を窺い、低く告げた。
「どうやら、つけられていたみたいだ。......心当たりは?」
「......ないわ。敵の狙いは、彼女かしら。それとも......私?」
その時、侍女が言いにくそうに口を開く。
「以前......王妃様が、リリアーナ様のことを監視していると溢しているのを聞いたことがあります」
――え?
どういうこと?
「......それは本当か。まずいことになったな......」
まずは、ここから離れるべきだろう。
でも、どこから......。
――ガチャ、ガチャ。
扉の取っ手が乱暴に揺れる。
時間がない。
「ひとまず、裏から出ましょうか」
そう言いかけた、その時。
空間がわずかに歪んだ。
兄が振り向く。
「誰だ」
現れたのは、漆黒の髪と金の瞳。
ルキウス様だった。
「......ルキウス......様......?」
意外な人物の登場に、動きが固まる。
だけど、外の物音は鳴り止まない。
ルキウス様は私たちに近づき、告げた。
「ひとまず、ここは危険だ。離れよう」
その瞬間、身体が引っ張られる感覚。
(こ、これは......ルキウス様の異能......!)
こうしてその場にいた全員が、跡形もなく消えたのだった。




